学校に着き生徒手帳を貰いクラス分けをされた。
しばらくの間の転入生として夢に見た学校生活をすることになっる。
名前を…と考えた結果、あたしはサミュエルと名乗ることにした。
なぜか戸籍はアメリカ。
アメリカってどこ…?
学校ではかわいい子が来たと盛り上がる声が聞こえる。
あたしってかわいいんだ…?
「転入生は森宮ほど多くはないから騒ぐのも無理はない。
まぁ…その方が学校らしいかもな」と隣を歩く長身の女の人の先生が言った。
あたしの担任になる人らしい。
人というか怪獣みたいな人…。
もしかして妖怪さん?。
みんなにはどう見えているんだろう…?。
けどそれは言わないでおいた。
教室の戸を開けて先生が先に入りあたしも続く。
「おはよう。さて、知っていると思うがしばらく転入生が入る。いつまで滞在するかの期間は未定だが仲良くしてやってくれ。
自己紹介しろ」
しろって…。
本人に悪意は欠片も伝わってこないのが不思議だ。
「えっとサミュエルです。…」
あ、これなんて言えばいいのかな…。
どうする…?焦土…?
考えが纏まらず目が回りそう……。
ピノコニーで穹と演技の審査をした事を思い出した。
あの人ならきっとすらすらいろんな事話せるんだろうなぁ…。
あたし…まだそういうのも考えたことなかったんだ…。
そう考えて無言になってしまった時だった。
「魔法使いーー?」
一人の生徒が手を挙げて聞いてくれた。
あたしはその言葉に顔を上げて言う。
思わず声が大きくなった。
「あ!えっと、はい!魔法使えます!」
勢い任せてサムが持つ剣をその場で見せた。
やってしまった…!
あたしの学校生活もうダメかも…。
お手洗いでごはん食べる運命だったりするのかな…。
そんなあたしの焦りとは裏腹に大きな歓声が挙がる。
「特技はー?」
「…リンゴを片手で握り潰せるよ」
「中身ゴリラか…」
「いや特技かそれは」
そんな感じであたしの学校生活は始まった。
教室の隅を見ると茨が小さく手を挙げてくれた。
知り合いがいる。
安心した。
知り合いがいると少し安心。
これはとても大事だから2回言うよ。
もうすぐ夏休み。
学校はしばらく休みになるんだそうだ。
昼休み。
クラスメートに話しかけられていた。
その中で唯一少し困った人がいた。
あたしは今も思い出す。
「サミュエルかわいいね!めっちゃ綺麗だよ」
「あ、ありがとう?…君は?」
「俺、久我扇、覚えた?」
「あ…うん。久我…くん。よろしくね。あなたも魔法使いなの?」
「そうだ、見たいか?」
「ええ…えっと」
とてもグイグイ来る彼に少し困っていると
「久我さん、彼女困っていますわよ」
茨があたしの近くまで来て助け船を出した。
「なんだ霊峰のお嬢様」
「なんだとはご挨拶ですわね。サミュエルさん行きましょう」
茨が廊下を見ると月夜が顔を覗かせて心配そうな表情をしていた。
小さく手招きする。
その様子を見た久我はようやく退いてくれた。
〜〜〜〜〜〜
「魔法使いの学校なのに魔法使いじゃない人もいるの?」
お昼休みにあたしの疑問を月夜は答えた。
「混校なの。森宮の学校は規模を考えて魔法使いだけ。
でもここ京は違う。一般科と魔法科を分けて組んだんだって」
「まるで実験校のようですわ」
「そう言うでない。妾とて思いはするがな…」
月夜と茨、楠乃葉の話を聞いて
「つまりこの学校は普通の人と魔法使いを混ぜて…それでどう影響を出すかのデータを採取してるってこと?」
「そういうことね」
月夜はあたしの言葉にそう言いごはんを食べる。
大人の決め事というものでこの学校は成り立っているらしい。
「そういえば学校だといつも三人でお昼食べてるの?」
「今日は偶々であるな。何せホタル。
聞きたいことに気になること…他の者に聞かれたくないこともあったであろう」
「……」
あたしは沈黙する。
お昼になると月夜はあたしのクラスに来て茨とあたしをお昼に誘ってくれた。
正直目立っていた。
でもワザとだったのかもしれない。
確かに気をつけることやこの学校のルールをあたしは知らない。
例えば魔法使いと普通の人が起こす影響とか。
あるいは魔法使いと魔法使いが…。
ならこの三人とお昼を食べるのは正解だろう。
「クラスメイトとはまた明日からお昼をすればいいだけですわ。
ですがあの久我さんは少々小五月蠅いですわね」
顔に出ていたのかな…?
茨がそう言ってくれて安心した。
「ありがとう」
茨は頷く。
「それで聞きたいことはあるかえ?」
楠乃葉が言う。
あたしは考えて…聞く。
三人はそれに答えてくれる。
まずこの学校、夜には必ず先生や生徒も下校しなければならないらしい。
お化けの類がいるからだとか。
それで実際、亡くなった生徒がいるんだとか。
魔法科と一般科は別れているが体育は一緒だとか。
教員はみんな強者揃いだとか。
魔法使いには魔法使い同士で戦う授業や戦闘演習があるんだとか。
ソーサリーズバトルと生徒達は呼んでいてこの世界で人気らしい。お金になるんだとか。
時々別の世界から怪物が来て人を襲うらしい。
みんなはそれをグリームって呼んでるらしい。
世界共通の敵と覚えておいてと言われた。
妖怪や神様とは違うそうだ。
思えばこの世界、神様がいるんだ。
星神とどう違うのかと考えたが、この世界の神様も基本的には無干渉だそうだ。
数十年前まではこの世界に魔法なんて無く妖怪や神様なんて存在は概念として語られるものだった。
概念があるということは古い大昔に彼らは存在してたが、力を無くして見えなくなり見える人も消えていった。
でもそれが再び力を得た。
まるで世界を神妖達に返したような世界。
あたしはそう解釈した。
いろいろ話を聞いた上で午後からの授業に臨んだ。
どれも現実では出来ないことばかりで楽しかった。
楽しすぎてあたしはおかしいことに気付いた。
学校が終わると屋上に走りそこで自分の身体に初めて気付いたんだ。
ロストエントロピー症候群を持つあたしの身体はサムになることでその侵攻を抑える役割も果たしている。
あたし…身体の調子がいい。
サムにならなくても大丈夫なのだ。
「どうして…?」
緑と赤の小さな光達があたしの周りにいることに気付いた。
「虫…?」
あたしの周りにはよく虫が出る。
今日の学校でも百足とかゴキブリとかあたしに寄ってきた。
…退治してもらったけど。
この光はちょっと蛍みたいだ。
これはたしか…
「それは精霊だよお嬢さん」
「っ!?」
知ってる声にあたしはサムになった。
『何者ですか』
炎で身を包み守りを固める。
「これは驚いた。まさかお嬢さんにそんな芸当が出来るとは」
『…質問です。あなたは牛頭天王で合っていますか?』
目の前にいるのは骨を被った着物姿の人だ。
「もちろん合っているよ。僕は牛頭天王。
あの時のことを詫びに来たんだ」
『詫び…ですか?
』
「君はあまり良くない病を抱えていることを僕は知らなかったからね」
『……』
「さっきの君の疑問に答えよう。
この世界はね…魔力が濃いんだ。
君の周りにいる赤と緑の光達は君の身体を案じて守っているんだよ。
この世界にいる時だけ君はどんな病からも守られているんだ」
『私の身体を案じる…なるほど。
そうでしたか。
あの時…あなたが立ち去る前に私の身にこの光をくれたのですね。それは感謝をします。
ではこちらから再び質問をします」
『いいよ、何でも聞いて』
調子が狂う。
断られると思っていた。
『…。迷惑行為をしている観光客の健康を食しているのは私自身それは罰としてならいいと私も考えます。
しかし魔法使いの健康を食べる理由は何故ですか?
彼らはあなた方と共存するに値すると考えます』
「その質問か…それはごめんね。言えないんだ」
『ここには魔法使いが大勢いる学校です。
あなたがいるということは魔法使いの健康を食べに来たということで間違いはありませんか』
牛頭天王は無言だ
『沈黙は肯定。それならば私はあなたを止めます』
「…仕方ないね。いいよ…君の力を見せてもらおうかな」
牛頭天王が身体を低くし両手から紫色の霞が零れ出す。
『ファイアフライ…inポジション』
あたしは飛び上がり炎を纏った拳を繰り出す。
牛頭天王はそれを回避する。
『アクション・one』
飛び上がり蹴り込む。
牛頭天王は腕を振り蹴りを霞が壁になり阻まれる。
この霞、貫けない。
まるで同じ個体のファイアフライと戦っているみたいだ。
「思った以上に強い子だねお嬢さん」
『あなたも相当力があるように感じます。ですが…
』
そのままスラスターでブーストし霞を突き破れるまでの力を込め炎の出力が緑まで加速した所で牛王天王の頭骨の角に当たり折れた。
すぐに距離を取り牛王天王は自分の角に触れあたしを見る。
その視線に押し潰されそうになる。
来る…!
そう思ったけど戦闘体勢を解いたように見えた。
「初めて一撃をもらった。
…まさかそれが別の世界のお嬢さんからだとはーーーその鋼の戦士の姿とお嬢さん、覚えたよ。僕に傷を付けた者は忘れない。重そうなのにとても身軽で蝶の舞うように戦う君の姿…とても美しい。芸術を感じるよ」
『褒めても何も出ませんよ』
「でも…ごめんねお嬢さん」
『????』
「ここにいる僕はもう幻だということさ」
『…!?』
あたしは駆け抜けて、すかさず剣を振るう。
牛頭天王の腹部を貫いたが手応えがなかった。
まるで霧を触ったように霞へとほどけていく。
『…霞で作った幻術?』
いつの間にか牛頭天王の姿が消えている。
気配もない。
あたしは状態異常には強い効果抵抗力がある。
それなのに幻術を掛けられるなんて。
いったいどこに…?
スマホからメッセージがあった。
魔法使いが倒れているという話を茨から受けた。
やっぱり健康を食べに来ていたんだ。
〜〜〜〜〜
牛頭天王と戦ったと話すと月夜は言った。
「もしかしたらホタルに会いに来たのかも」って。
牛頭天王は元々優しい神様で人が好きで音楽や芸術的な物が好きなんだという。
同時に身体が弱い鬼でもあり定期的に人間を食べないといけない。
牛頭天王にはそれが出来ない。
だから代わりに健康を食べるようになった。
そういえばサムの姿を褒められた。
「あたしが元気か見に来た…?」
「そのついでに健康も食べに来たなんてことはありそうね」
あたしは考える。
結局どうして魔法使いの健康を食べるのかは教えてもらえなかった。
教えてもらえたのはあたしの今の体調は緑と赤の光達があたしを守ってるからということだ。
どうしようもない病を押さえる程の力をこの光達は持ってる…。
ずっとここにいればあたしはホタルとして生きることが出来るのかもしれない。
でもそれじゃ何の意味もないことをあたしは知ってる。
「ホタル、聞いておるか?」
楠乃葉があたしを呼んだ。
「え…?ごめん。考え事してた」
「どのみちもうすぐ祭りが始まる。ホタルも祭りを見ていくといい」
「うん、ありがとう」
「祇園祭、人も大勢でお祭りが爆発した感じで賑やかですのよ」
「そうなの?それはちょっと気になるかも」
お祭りが爆発って表現は気になるけど…。
あたし達はそうして話しを弾ませた。
夜になるとあたしは眠るけど早く起きる。
どんなに疲れても睡眠時間は短い。
3時か…。
まだ夜中だよね。
楠乃葉や学校で出来た友達と買いに行った私服に着替える。
灰色のパーカーと黒のスカートに着替える。
試着した時みんなから似合うと言われた。
お世辞かもしれないけど。
こういう時カフカに見せると良いとあたしは思ってる。
信頼の差なのかもしれない。
ーーーー
ホタル:カフカいる?
見てほしいの。似合うかな?
写真を送信する。
写真を送信出来ませんでした。
ーーーー
連絡は繋がらない。
残念。
穹にも繋がらなかったからやっぱりここは他の世界とは違うんだ。
あたしとカフカの趣味は実はよく似ている。
というよりカフカがあたしにオシャレを教えてくれたから似るのは当然かもしれない。
ーーーーーーーー
楠乃葉:魔法の世界となった京の都の夜中は少々危ない。外へ出るなら気をつけて行くと良い。
ーーーー
突然メッセージが来て驚いた。
楠乃葉…まだ起きてるんだ。
あたしは分かったとだけ返事をする。
やっぱり彼女は母って感じがした。
外に出ると水の流れる音が聞こえてくる。
石畳の道をゆっくり歩く。
祇園…ここの明るい時間は人が多い場所であり終始観光客で賑わう。でも夜中になるとここは表情を変える。
美しくも妖しい気配を漂わせている空間へと様変わりする。
垂れ桜の新緑の葉が風に揺れる。
風と水の音が心地いい。
あたしは歩く。
橋の真ん中に立ち川を見ると鯉が泳いでいた。
エサをくれると思っているのかな?数匹集まってきた。
一匹の鯉が瞬きをした。
鯉って瞬きをする生き物なんだ…。
一瞬顔を覗かせてちゃぷんと水中へと消えた。
行っちゃった。
あたしも行こう。
神社があった。
ちょっと小さい神社だけど手入れされていて大事にされているのがよく分かる。
あたしは教えてもらった作法でお参りする。
お願いは…生きること。
でもなぜかちょっと楽しい。
〜〜〜〜〜
「ねぇねぇ!なんか音しない?」
「しないけど…どんな音?」
「鈴の音?」
「…お腹でも空いたの?」
「違うって!あ、でもお腹空いたと言えば祇園のお祭り、美味しい屋台もあるんだよ」
「そうなの?あたしこの間近くまで行ったんだ。綺麗だったよ」
「おーサミュエルさん観光してるって感じだね」
「和って感じだったよ」
「そういえばこの学校にも祇園に関係する建物があるんだよ」
「そうなの?どこに?」
「あそこだよあれ」
廊下を移動して止まり友達は窓を指す。
目立たないような場所、古そうな神社が見えた。
でもあたしの感想は「なんかボロいね」だった。
「あそこだけ建て替えが遅れてあんな感じなんだって。
社の中は綺麗なはずだよ」
「でもどうして遅れたの?」
「なんでか建て替えするのを忘れちゃったんだって」
「そんなことあるの」
思わず笑う。
そんな会話をして移動授業の途中。
「サミュエル。祇園行ったのか?」
「え…?ーーーう、うん。行ったよ」
久我だった。
あたしは茨の言葉を思い出す。
『小五月蠅い』
言葉としてはその通りだったし…でも強く邪険にはしたくない。
偏見という言葉もあるから。
「誰かと行ったのか?」
「…え?…ううん?1人だったよ?」
「そうか、良かった。今度俺と行こうか」
この言葉にあたしは少し驚いた。
あたしが何かを言う前に一緒にいた友達は「ないわー」みたいな言葉を次々と返していた。
「サミュエルさん行こ、あれほっといていいから!」
友達はあたしの背中を押して行く。
久我の視線はあたしを追っていた。
少し…怖くなった。