変身できることと、生き残れることは、別の話だ」
彼は、悲壮な目をして店に現れた。
誰かを守れなかった人間の顔だ。
憧れと悔恨と、そして――暴力的なほどの願望を目に宿していた。
「強くなりたい。誰かの盾になれるような……ヒーローに」
私は少し迷ってから、彼に一つのパッケージを差し出した。
仮面ライダーカイザの変身ギア――カイザギア。
黒と黄色のスマートなフォルム。ファイズギアとよく似ているが、根本的に違う。
ファイズは変身できなければ弾かれるだけ。だがカイザは違う。
「これは、“変身できてしまう”タイプの呪いだ」
契約書には、赤字でこう記されている。
【警告】カイザギアは特定の遺伝構造に適合する者の使用を前提として設計されています。
適合していない人間が変身を行った場合、変身解除の瞬間に肉体は急速に崩壊し、“白い灰”となって死に至ります。
「君に適性があるかどうかは、君自身も知らないだろう。
でも、望むなら売ろう。力は売る。資格は売れないがな」
青年は、わずかにためらったあと、サインした。
私はカイザフォンをケースに収め、彼に手渡す。
依頼は、ごく小規模な村落に潜む転生型怪人の駆除だった。
危険度は中程度。だが、彼はその場でギアを装着し、迷わずコードを入力する。
「9-1-3」
「Standing by… Complete」
――変身、成功。
黒と金の装甲が彼の身体を包み、光が走る。
目を見張るような俊敏性と力強い一撃で、怪人を一瞬で吹き飛ばした。
村の人々は歓声を上げた。
彼の目は、誇らしさと安堵に満ちていた。
――だが、それは“最後の自分”だった。
変身解除の瞬間、彼の身体に異常が起こる。
息が止まり、血の気が引いていく。
次の瞬間、皮膚が粉状に崩れ、骨が崩れ、彼はその場に“白い灰”となって散った。
何も言えずに、ただ灰になった。
私はゆっくりと現場に現れ、残されたカイザギアを拾い上げた。
その周囲には、彼が守った人々の声と涙があった。
だが、彼にその声はもう届かない。
「忠告はした。
カイザギアは“変身できる呪い”だと。
その強さは、命と等価だ。
そして君は、力を手にして――命を差し出した」
彼の魂は、契約に基づいて私の管理下に置かれた。
特典購入代金は未納のまま。よって、依頼報酬は無効。
魂は“保留資産”として、いつか別の仕事に使われることになるだろう。
「力はいつだって売ってやれる。
でも、力を振るう資格だけは、どんな金でも買えはしない」
そう言って私は、灰となった足元の地面を一瞥し、そっと目を閉じる。
彼が守ったものは、確かにあった。
だが、彼自身は、二度と戻らない。