FGO/Irregular symphony   作:十九六

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この小説をご覧いただきまして、ありがとうございます。初めまして、作者です。
こちらの小説は、Fate/Grand Orderの二次創作ストーリーです。
本来の歴史では存在しないキャラクターが主流となります。あらかじめご了承ください。
また、独自設定や独自解釈を多分に含みます。こちらもご了承いただければ幸いです。


第1話「異失帯」

──────2017年某日。

 

ここは人理継続保障機関フィニス・カルデア。

人類史を長く、何より強く存在させるため、読んで字の如く『人理を保障する』為の機関である。

2016年に突如として発生した人理焼却を乗り越え、今は査問委員会の到着を待つ組織であった。

 

基本的にレイシフトというものは、安易には行えない。

しかしそれでも人理に澱みは発生するため、特異点修正は依然として行われていた。

新宿、アガルタ、水着、チェイテピラミッド姫路城……列挙すればキリがない。

そういった特異点発生の予兆をチェックするのは、職員の仕事であった。

 

「とはいっても、あんまり頻発すると慣れちゃいますねぇ」

 

そう独り言(ご)ちりながら、カルデアスを監視する少女が1人。

家守 灯影。元々は時計塔より派遣されたカルデア職員で、マスターですらない。

なのに気づけばサーヴァントとともに活動をするようになった少女である。

レイシフトを行った過去もあるがカルデア職員であることは変わりがないので、いつものように特異点発生の有無を監視していた。まぁ、そう慌てることがない。厄ネタが時折飛び出すことはあれど、結局は何処まで行っても特異点でしかないのだから。

そう肩の力を抜いて、いつものように彼女は監視に従事していた。

 

 

──────そう、いつものような──────筈だった。

 

 

「え? ぁ? 何? ちょっと? え!?」

 

「何──────これ……」

 

彼女の見るモニターに映っているのは、確かにカルデアスだった。

だが様子がおかしい。特異点が地表にぽつんと出現するような異変では、断じてない。

かと言って、かつて人理焼却が起きた時のような紅蓮に燃え盛る光景でもない。

 

それに予兆はなかった。

それが起きる寸前まで、カルデアスに異変はおろか波風1つ立ってなどいなかった。

 

それなのに

 

ある一瞬を過ぎた途端、カルデアスのシミュレーションはこう演算をたたき出した。

 

 

”今から3か月後、サハラ砂漠の一点を中心に、地球は崩壊する”と。

 

 

「何なのよこれぇ……!!?」

 

どう操作しても、演算結果は変わらなかった。

半泣きになりながら家守はキーボードをとにかく叩くが、結果は変わらない。

 

 

画面に映る引き裂かれた地表が、彼女の絶望をあざ笑うように眺めていた。

 

 

◆

 

 

「と、ということが、エッグ……あっでぇ……! ひっぐ!」

「はいはい泣かない泣かない。で、これがその演算結果ねぇ」

「こりゃものの見事にぶち壊れてるな。見事過ぎて笑えるぐらいだ」

 

半泣きになりながらも家守が、なんとかダヴィンチに報告をする。

家守を慰めるダヴィンチの横で、画面に大きく映し出されたその光景をマシュが呆然と眺めていた。

 

「これは、一体……。何が起きたのでしょうか?」

「分からない。カルデアスはこう結果をはじき出している。

 "全くの前触れなく、地球は3か月後にこうなる"ってね」

「冗談じゃねぇな。こんなの人類絶滅なんてレベルじゃないぜ」

「そうね。こんな結果到底受け入れられない。早急に解決するしかないでしょ!」

 

カルデアスの前に集められた面々が、口々に所感を告げる。

面子としては、緊急事態のアラームを聞き駆けつけてきたマスターとサーヴァント数名。

そしてマシュと技術顧問ダ・ヴィンチ、および事態を観測した第一人者たる職員の家守 灯影がその場には揃っていた。

 

更にそこに、もう1人追加でメンバーが現れる。

 

「一切の前触れなく、結果だけが起こる。

 これは探偵への挑戦状、と見るべきかもしれないね」

「ホームズさん!」

「特異点という予兆をどれだけ探っても見つからない。

 ならば……1つ理由に心当たりがある」

 

「これは、異失帯(イレギュラー・サイクル)が原因だと考えられる」

 

ホームズの告げた言葉に、聞き覚えのある人間はいなかった。

当然だ。特異点は数多く経験すれど、そのような異変の原因は聞いたことがない。

皆がそろって首を傾げていると、ホームズは分かっていると言うかのように頷いて解説を始めた。

 

「聞き覚えがなくて当然だ。

 異失帯はそもそも、この世界と関わることが有り得ないものだからね」

「ええっとぅ……。特異点とは、違うんですか? そもそもどういう……」

「特異点は、人類史の正常な運用を侵すポイントだ。癌細胞に喩えてもいい。

 癌細胞だから、人類史という人体の内側にあるものだ。しかし異失帯は違う。

 異失帯は、人類史から完全に切り離された、全く別の世界なのだよ」

「異世界って事?」

「その通りだ」

 

肯定し、ホームズは続けた。

曰く人類史には、かつて"当たり前"として存在したが今は存在しない法則が数多くある。

例えば「告げた言葉が真実になる」法則"言霊"。

あるいは「供儀を捧げる代償として安寧を約束される」法則"生贄"。

そういった要素は神代の消失と同時に消え去ったが、稀に人類史という巨大な幹から切り離され、独自の世界として発展することがあるのだという。

それらの独立した世界は、魔術用語で異失帯と仮称されているというのだ。

 

「なんで、仮称なんですか?」

「誰も観測したことがないから、あくまで仮説だけの存在なのだよ。

 切り離されるという事は、人類史には不要と断ぜられたことを意味する。

 不要なものがこちら側に干渉して来れば、排除を試みるのは生命活動として当然だろう?

 だから相互不干渉を貫いている、というのが魔術師たちの仮説なのだ。

 もっとも、時折"あちら側"へ転移したという話は世界中にあるがね」

「どうしてそんな世界が、消えずに生き永らえているのです?」

「一説では聖杯のような楔がある為、世界として成り立っていると言われている。

 世界であるが故に様々な命が生きている。だが聖杯が消え去れば────」

 

そこから先を、ホームズは告げることはなかった。

告げれば、集った面々のモチベーションに支障をきたすと考えたからだ。

 

「なに? ホームズ」

「いや、何でもないよ」

「しかし、そんな無茶苦茶なもんが理由だとしたらどう防げって言うんだよ。

 基本的にこっちから干渉できないんだろう? じゃあ行く手段ないじゃないかよ」

「そこには策がある。今回の異変が起きた場所はエジプトだ。

 そのエジプトの各時代にレイシフトして、どの時代で異失帯からの干渉が起きたのかを調べる。

 なぁに、苦労はするだろうが、地球を救う為なら安い物だろう」

 

 

「その為に、君たちマスター全員を集めた(・・・・・・)んだからね!!」

 

 

そうハツラツと告げるダ・ヴィンチを前に、面々はやる気に満ちて頷いた。

竪琴を持った少女が、赤装束の青年が、ツンケンした女の子が、不機嫌そうな少女が、前代未聞の事変を前に気を引き締める。

その全員が等しく(・・・・・・)、掌の甲に赤く輝く文様を刻んでいた。

 

「はっ! 期待されたからには応えてやろうじゃないの。

 この私(わたくし)の手で、こんなカタストロフ覆してやるわ!」

「め、鳴々様ずいぶんと今回はやる気ですね……」

「ヘレンに良い所見せたいんだろ? 主従揃って初めての任務だからな」

「アスカうっさい!! 聞こえてるわよ!!」

「……」

「おや、どうしたんだいマシュ? 何か不安でも?」

「いえ……えっと。何か違和感と言いますか。

 こんなにカルデアに、マスターがいたかな、って……」

「ああ。確かに色んな特異点にみんな出ずっぱりだったからね。

 こうして集まるのは久しぶりかもしれない」

「コフィンの中で治療を受け続けてたあの日を思い出すわね。

 レフの爆弾の威力がなんか足りなくて助かったわ、ほんと」

「え、あ……。そ、そう、ですね」

 

マシュが歯切れを悪くしながらも、マスターの1人である鳴々・ロードフェルトの言葉に頷いた。

言われて彼女は思い出す。藤丸立香というマスターと共に人理焼却を解決する傍ら、事故で重傷を負ったマスターたちを助け出したあの日々を。

1人、また1人と助け、そしてそのたびに特異点修正の人員を増やし、1人に1基ずつのサーヴァントが宛がわれていった。

故に彼らも1人ずつ、自らのサーヴァントを連れている。当たり前の(・・・・・)カルデアの光景がそこにはあった。

 

「すいません。重大事態を前に、緊張しておりました」

「ま、緊張するのも無理ないだろ。私だってこんなの初めてだわ」

「安心して。動けるマスターは片っ端から投入するからね。なんならマスター以外も投入するよ。

 具体的にはレイシフト適正持ちのムニエルや家守君、あとはディング君なんかも逐次時間が出来次第投入するよ!」

「うぇぇ……。お、お手柔らかにお願いしますダヴィンチ様ぁ……」

「ま、何でもいいから、滅びだけは覆してやろうかみんな」

「はい! 一緒に頑張りま──────」

 

そう、マスターの内の1人のケルズ・ダウル・オルナが歩き出そうとした直後だった。

 

 

音もなく彼女は斃れ、目を閉ざし気を失っていた。

 

 

「……オルナ?」

「ねぇどうしたの? 寝不足──────」

 

彼に駆け寄った鳴々もまた、同じように気を失った。

彼らだけではない。1人、また1人と、カルデアのマスターたちが倒れている。

いや、異変が起きたのはマスターだけではなかった。鳴々が倒れたその瞬間、彼女の隣にいたサーヴァントもまた、"消えたのだ"。

 

「なんだ!?」

「緊急事態発生!! 今すぐにマスターを守って!!」

「ダヴィンチ! マスターたちが次々と気を……なんだよこれ!?」

「サーヴァントもだ。気を失ったマスターのサーヴァントは、どうも消滅するらしい」

「再召喚を……は? 召喚されている状態!? どこに……くそ! 検知できねぇ!!」

 

 

かくして、カルデアは未曽有の大混乱に陥った。

その心臓ともいえるマスター数十名が、次々とその意識を失い医務室へと搬送されていった。

1人、また1人と倒れていく。それと連なる形で、マスターと契約状態にあるサーヴァントも消滅していく。

誰もその原因は分からない。理解できない。ただ彼らは、忍び寄る破滅に際し、ただ焦りを募らせるしかできずにいた。

 

 

──────これが、滅び去ったはずの世界を■■ための、序章とも知らずに。

 

 

 




Tips.

◆異失帯(イレギュラー・サイクル)
特異点と異なる、人類史から切り離された異世界。単に「イレギュラー」とも呼ぶ。
人類史に不要と断ぜられた世界法則の一部が切り離され、それが世界として成長したもの。
例えば「言霊により世界に影響が及ぶ」という法則が異失帯になった場合、言霊が当たり前の世界になる。前提からして正しい歴史と全く異なるため、異世界と表現して相違はない。

通常、幹から切り離された枝が単独で成長することはない。
同じように、人類史から切り離された世界法則が独立して世界になる事も通常は有り得ない。
だが特異点と同じように、聖杯やそれに類する魔力リソースがあればそれを楔とする事で世界として確立。独自に成長を遂げる挿し木として成立できる。
ただし、どれだけ栄養を得たところですでに世界から切り離された存在であることに変わりはない。言ってしまえば、死骸が外付けの心臓を獲得して生きているように見せているだけなのだ。
この世界に永遠などない。世界を持続させ続けるなど、たとえ聖杯であろうとも不可能であろう。
つまりいずれ、異失帯は消滅する運命を背負っているのだ。
それを知らずに、異失帯の人々は生き続けている。
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