FGO/Irregular symphony   作:十九六

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第0話「イレギュラーが多すぎる」

神はサイコロを振らない、とは有名な物理学者の言葉である。

だが現実には、神だってサイコロを振りたい気分になるものらしい。

そういったものは得てして、予定通りにならない結果を生みだすものだ。

 

例えば、晴れの予報が覆って荒れ模様になったり。

そのせいで電車などの交通事情が遅延してしまったり。

結果として、面接会場へたどり着けず補欠にすらなれない者が続出したり。

そういった事情が重なって、ある人理保障機関のマスター候補が定員に満たなかったり……。

兎角、様々な事情が重なれば予定というものは崩れるのが定石なのだ。

 

これは、そんな乱数(イレギュラー)が重なり続けた可能性でのお話。

 

 

 

 

──────2016年6月、カルデア

 

『召喚が行えないってどういう事よ!?

 リソースはあるんじゃなかったの!?』

『そ、それが、あのぅ。

 今はまだ召喚に割けるリソースはないとのことで……』

『意味わからない事言ってるんじゃないわよ!

 (わたくし)は選ばれたマスターなのよ!?』

「賑やかだな」

「賑やかだねぇ」

 

食堂で職員に当たり散らすマスターの1人を見ながら、レフとDr.ロマンが雑談をする。

穏やかに茶を飲み合う2人であるが、きゃんきゃん吠えるマスター相手には眉をひそめていた。

 

だが騒がしいのは、彼女だけではない。

見やると様々に個性的なマスターたちが、食堂で喧々諤々と雑談をしている。

その様子を目の当たりにし、レフは怪訝な顔をしながらロマンへ訪ねるのだった。

 

「なぁ、ロマニ。

 カルデアのマスター候補は、47人だったはずでは?

 この食堂の込み具合、職員を含めても60は下らないように見えるが」

「あれ、聞いてなかった? なんか手違いで97人ぐらい来てるらしいよ」

「97人ン!?」

「うん。色々と事情が重なって、最初47人に届かなくて。

 そこで焦った人事部門が時計塔の魔術師とかに片っ端から声かけたそうだよ。

 そしたら思いのほか承諾が帰ってきて……。断る訳にもいかず、こう、ね」

「しかし……そんな人数を養う予算など下りないだろう?

 レイシフトは相当な出費が嵩むんだ。無駄な人員は削減するべきだ」

「ああ、そこはマスター候補を募った魔術家系の面々がスポンサーになってくれたんだ。

 オリジンストーン家なんか、気前よくレイシフト3桁は出来る金額を寄付してくれたよ。

 なんでも、"うちの放蕩息子を預かってくれた礼だ"ってね」

「そ……そう、か」

 

事態を飲み込めないといった様子で、レフは焦燥に駆られた表情に染まる。

それを悟ったのか、ロマニは手元にあるマスター候補の名簿と出自を纏めた書類を手渡した。

それらに目を通すと、想像以上に様々な事情を持つマスターが集められている事をレフは理解できた。

 

「先に騒いでいた少女は、ロードフェルト家の養子か。

 確かあそこは、不幸を束ね根源に至ろうとしている家系だったね」

「だからか知らないけど、あの子かなりの不幸体質なんだ。診断書を出したいぐらいに、ね」

「他には……ふむ。オルナ家の伝承保菌者まで来ているのか!?

 これほどの面子を扱いきれるというのか、カルデアは」

「その分、職員も増員されているから多分大丈夫かな。

 さっきの家守ちゃんとか、あとディング君とかが来ているよ」

「なるほど……」

 

ふと。

イレギュラーが多すぎるな、と。

不意にレフの口をついて、そんな言葉が飛び出した。

 

「イレギュラー?」

「いや、なんでもない。ただの独り言だ」

「イレギュラーといえば……、少し気になる事があってね」

「なんだね? ここまで来れば、ちょっとやそっとじゃ驚かないが」

「Aチームの芥ヒナコちゃんだけど。その……人間じゃないかもしれない」

「はぁ?」

 

余りにも突拍子がない話に、レフは素っ頓狂な声を上げた。

芥ヒナコといえば、カルデア設立者のマリスビリーに直々にスカウトされた技術者だ。

だがそのマスター適性を見込まれAチームに加入したという来歴を持つ女性である。

なぜかカルデアの健康診断を受ける事を頑に拒否している点以外は、特段目立たない女性である。

 

あるの、だが。

 

「いや、そのね。

 とにかく怒りっぽい鳴々ちゃんを宥めようと軽くパーティを開いたんだけど。

 それにAチームの面々がなぜか乗り気になってね。ヒナコ君も参加していたんだ。

 そこで彼女の不幸体質のせいか紅茶とディング君特性の魔術で作ったお酒が入れ替わってて……。

 ぐでんぐでんに悪酔いした皆をオルナちゃんが治癒の竪琴で治療しようとしたんだ。

 しかしヒナコ君だけ一向に治らない。理由を探るべく医務室へ運び込まれ、それで……」

「イレギュラー要素のバーゲンセールか!?」

 

流石のレフも声を荒げて突っ込んだ。

本来はカルデアへ来るべきでない面々が、ピタゴラスイッチの如く連鎖している地獄絵図。

その結果として、カルデアが最も頼りにするべきAチームにとんでもないイレギュラーが混ざっていると発覚したのだ。

流石のレフも、声を荒げたくなるというものであろう。

その重大性はロマニも理解しているらしく、神妙な顔で彼は訪ねた。

 

「起こさないように簡易的な検査だけだったから、正確な答えは出ていない。

 けどあの数値、人間でないことは確かだ。もしかしたら精霊種……真祖とかもあるかも」

「いやいやいやいや。馬鹿な冗談はやめてくれよ。伝承保菌者までは理解できる。

 できるが、真祖までマスターに交ざっているとなったらもうお手上げだぞこっちは」

「けど、もし本当に真祖だったら割と早く例の特異点を解決できるんじゃないかな?

 サーヴァントなんか呼ばずとも解決できたりしてね」

「あ、ああ。まぁ、確かに、そうかもな」

「そうなればカルデアも安泰だ!

 イレギュラー要素様々ってね!」

「は、はは! そうだそうだ。

 イレギュラーに感謝だな!

 ははははははは!」

 

ロマニの楽観的な言葉に合わせ、レフも笑う。

その渇いた笑い声の裏で、彼は冷や汗をびっしりとかいて焦っていた。

 

「(冗談じゃない!! 初めてのレイシフト決行に合わせて準備しているんだぞこっちは!!

 97人って、当初の予定の倍以上ではないか! しかも、しかも真祖が混ざっているだとォ!?

 今用意している爆弾ではとても足りん! 殺しきれるはずがない!)」

 

実は彼は、人理焼却を目論む存在の命を受けて行動していた魔術師である。

だがそのためには、カルデアは最大の障害となるだろう。そのために、彼は妨害工作を準備していた。

具体的には、初めてのレイシフト決行日たる2016年7月31日にレイシフトルームを爆破し、マスターたちを殺害するというもの。

だが蓋を開けてみればマスターは倍以上の数募られており、更に到底爆弾では殺しきれない存在が混ざっているという状況に彼は追い込まれていた。

 

「(迂闊だった! 準備に手間取り人事まで手が回っていなかった!

 どうする? 今から火薬を手配するか? いや、とてもじゃないが足りな過ぎる!

 だったら芥ヒナコのコフィンに集中させ火薬を……いや、それだと他のマスターが……)」

 

「(くそっっっ!! 一体どうすればいいんだぁ~!!)」

 

その日から約1月。彼の苦難はとにかく続いた。

予定以上に集められたマスター同士の衝突や、思わぬトラブルへの対処。

それに平行して、真祖すらも討伐出来る術式の模索、構築。あと火薬の手配。

しかし当然と言うべきか当たり前と諦観するべきか、1ヵ月では準備など出来きる筈がない。

 

結果として、彼はなんとか2016年7月31日に決行まで漕ぎつけた。

だが──────その結果は当然、本来の歴史とズレるものとなった。

 

 

 

 

『……えますか! 聞こえますか!!』

「うぁ。……っつ……! なに、よ。これぇ……。

 何が一体、起きたって言うの……?」

「よかった……! 鳴々・ロードフェルト、意識が回復しました!!」

 

片目の隠れたシールダーが、泣きそうになりながら報告する。

その隣では、48人目のマスター候補として招集されていた素人の日本人が泣き腫らした笑顔を浮かべていた。

彼らが見やるのは、ベッドに横たわっている1人の少女。全身に包帯が巻かれ、重症とは分かるものの命にまでは別条がない様子と分かる。

彼女のベッドの周りにはカルデア技術顧問のレオナルド・ダ・ヴィンチやカルデア職員たち───ロマニ・アーキマンを除く───が囲んでいる。

余りにも理解不能な状況を前に、その少女……マスター候補の1人鳴々・ロードフェルトは飛び上がって声を荒げた。

 

「ちょ、何なのよアンタたちは!?

 いきなり爆発音がしたと思ったらいきなりベッドの上!?

 全然理解できないんだけど! 爆発事故でも起きたって言うの!?」

「そうだよ。君は……いや君たちは、爆殺されかけたんだ」

「────────はぁ?」

 

ダ・ヴィンチの説明によると、鳴々が目覚めるまでの経緯はこうだ。

2016年7月31日。レフ・ライノールによるレイシフトルーム爆破が発生。

それに伴いマシュ・キリエライトとマスター候補性である藤丸立香が特異点Fへレイシフト。

そこから発生した7つの特異点を、マシュと藤丸の両名が修正したのだというのだ。

 

「詳しくは追って説明するけど、要するに、だ。

 ようやく余裕が出来たから、爆破事故でまだ傷が浅かった面々の回復を試みたって事さ」

「は、え。あ、ちょっと。え??? つまり、あの はい?」

「今は亜種特異点を始めとする様々な特異点修正を試みているが、人手が足りないんだ。

 順次、マスター候補たちを治療して作戦に投入したいと考えている。

 だから、バリバリ頑張ってくれよ。鳴々くん」

「………………………………。」

 

「どういうことよそれぇ~~~~!!?」

 

何も分からないまま大量の情報を突き付けられた鳴々の叫びが、カルデアに木霊した。

 

 

 

 

────────と、まぁ。

こんな具合に、俺はカルデアに乱数(イレギュラー)共を集めさせてもらった。

少し集めすぎたきらいもあるが、まぁ多いに越したことはないだろう。

そのせいで発生する特異点も、この可能性では多くなるかもしれんが……。

まぁ、うまくやってくれよ。

 

ここから先の特異点で、乱数共はそのイレギュラー性を覚醒させてゆく。

既に自覚しているやつは、その扱い方を。

自覚すらないやつは、その自らの特異性を。

まずは、そういった特異点での軌跡から学んでもらおうか。

 

そうした乱数が重なり合い、やがて最も特異なイレギュラーに向かうのだ。

本来人類史に干渉するはずのない、異失帯(イレギュラー・サイクル)へと。

 

精々楽しみにしているぞ。

お前たちが、滅び去ったはずの世界を■■ことを。

 




こちらの小説は、TRPGで行ったFate/Grand Orderの二次創作ストーリーを源流として執筆しました。
乱数とは即ち、そういったTRPGのプレイヤーたちの暗喩になります。

TRPGと言えばダイス。ダイスと言えば乱数。
乱数だからこそキメるべきところで失敗し、逆に思わぬところでクリティカルが出ることがある。
そして多人数の個性が集い織り成すからこそ、思わぬ物語が生まれる。
そういった要素を物語にしたいと考え、こちらの小説を執筆いたしました。

人は、1人では生きていけない。
他人がいるからこそ変われるし、物語が生まれ、成長できる。
そんな当たり前にして誰もが忘れそうになる事を、骨子として書きました。
楽しんでいただければ幸いです。
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