この物語は、無数のマスターたちが織りなす
本来ならばカルデアに招かれるはずのないイレギュラーである彼ら彼女らが、どのように考えて生き、どのような個性を持ち、そしてどのようにそれを受け入れるのか。
それらを短編を通して知っていただければと幸いです。
鳴々、と言う名前が嫌いだった。
故に、鳴々。愛と呼べるものの欠片すら無い、不吉だと畏れられた忌み名。
その名前が嫌いだった。二束三文で私を売り払った両親を、思い出すからである。
ロードフェルト、と言う名前が嫌いだった。
私を買った魔術師は、私の人格にも才能にも関心を持たなかった。
魔術師がわたくしに期待した性能はただ一つ、不吉なる胎盤、と言うだけだった。
幸運の物質化に到達する為に不幸を追求する。そんな矛盾の為の一要素。
それが私に求められた役割だったけれど、それでも求められるだけ嬉しかった。
……最も、最大吉方により訪れた初潮によって、その希望が打ち砕かれたのだけど。
「幸運を欠片でももたらす命は、我が家に必要ない」と、義父の言葉がいつまでも響いた。
不吉故に両親に捨てられ、吉兆により家を追い出される。
──きっと世界は、私が嫌いだったのだ。
そうして流れ着いたのがこの星見台。此処なら誰かが、私を必要としてくれるはず。
そう信じデータバンクを読み漁り、道術の心得を生かしてマスターとして遜色ない技量を磨いた。
……けれど、付け焼刃でしかなかった。螺旋館出身の魔術師には思想魔術で敵うはずがない。
ならば他の魔術でと考えたが、どれも中途半端。マスターとして呼ばれる人々には敵わない。
気付けば私は、その憂さを晴らすかのように周囲に当たり散らし、敵を作り、常に苛立っていた。
結果、「マスターとしての団体行動適正に難あり」という自業自得の烙印を押され、補欠扱い。
そうして思ったのだ。ああ、私はこうして一生、不幸だけに愛され生きていくんだろうなと。
勝手に不幸になって勝手に孤独になって、そのままずっと誰にも必要とされずに孤独に死ぬ。
私を愛してくれるのは不幸だけと──────そう考えていた。
「今は亜種特異点を始めとする様々な特異点修正を試みているが、人手が足りないんだ。
順次、マスター候補たちを治療して作戦に投入したいと考えている。
だから、バリバリ頑張ってくれよ。鳴々くん」
「………………………………。」
「どういうことよそれぇ~~~~!!?」
思わぬ形で、私は必要とされる運命が幕を開けた。
もっともそれから先に待ち受けるのは、余りにも不幸が過ぎる運命。
労基が助走をつけて殴るレベルの特異点修正任務に、私は奔走することになるのだ。
◆
「ったく! あれから数ヵ月経ったけど忙しさは変わらないわね!
先月はラスベガスでこの前はチェイテピラミッド姫路城! そして今回はロズウェル!
いい加減にしなさいよ! ってか何よチェイテピラミッド姫路城って!?」
「まぁまぁ。その分マスターも順調に蘇ってますし、良いじゃないですかぁ」
「なんでよりによってアンタが同行者なのよヤン!!」
アメリカ・ロズウェルで発生した特異点に私はいた。
隣にいるのは、よりによって
彼女がいたせいで私は補欠になったと、以前はとにかく敵意を向けていた女。
けど、今はそんな場合じゃないと協力し特異点の解決に尽力した。
辿り着いたのは、蛇人間たちがウヨウヨいる特異点。
気持ち悪さに眩暈がしそうになったが、必死で振り払い現地のサーヴァントと合流する。
蛇人間を変態じみた目で調べるキャスター:ダーウィンと仮契約した私は、事態を知っていると思われる少女の下へと連れて行かれる。
そうして私は──────その日、運命に出会ったのだ。
「私は、この地に召喚されたサーヴァントです。
真名は……明かせる状況にないのですが。
あなたたちは抑止力とは違う、明確な外部からの介入者だと判断して、頼みがあります」
「どうか彼らを、レプティリアンたちを、"守って"ください」
そいつは小さく非力で、それでもレプティリアンたちの前に立って彼らを守っていた。
私と同じぐらいなのに、戦う力なんて無いのに、人理が差し向けた英霊たちから、彼ら異形を守っていた。
「なんで、そいつらを守るの!?
トカゲどもを駆除して特異点を解決するために私達はここに来たのよ!?
彼らは話が通じない、怪物じゃないの!?」
「レプティリアンには、ちゃんと心があります。
ただ、理解してやれないだけ。けれど、どうか……」
そいつは言った。どうか手を伸ばしてほしいと。
理解しあえなくても、それでも心を持っていることを尊重してほしいと。
……バカみたい、とあの時の私は思った。なんで特異点解決にきて、エネミーみたいな怪物に殴りかかる事も出来ず、あまつさえ守らなければならないのかと。
ただ、必死に懇願する少女の姿を見て、私は彼女にシンパシーを覚えた。
分かってほしい。気づいてほしい。理解してほしいと懇願するその姿は。
まるで、過去の私自身を、見ているようで─────。
「めんどくさいですねぇ。いっちょぶん殴って素材剥ぎ取りますか」
「理解。ええ理解しますとも。その代わりどういう構造なのか解剖手術を少しだけ」
「ええい退きなさいバーサーカー共!! ダーウィンは令呪を以て命ずる! 黙れ!!」
あと、周りが異常者ばかりだから、自然と私がリミッターになった。いや、された。
かくして私はその少女と行動を共にし、絆を深めていった。
「なんでアメリカに日本の神がいるのよ!!!」
「伊吹童子ってマジでサーヴァントになれるんですねぇ。でっけー。2つの意味で」
「あらぁ? 私のこと知ってるのかしらぁ? あっは! じゃあこれあげちゃう~」
「アマノハバキリとか貰って何に使えって言うのよ!!?」
ああ、もう! 兎にも角にも不幸が舞い込んでくる!
英霊が扱う代物のコピーだけ渡されてどうしろって言うのよ!
こっちにいるのは文化系英霊ばっかだし! ダーウィンにハバキリ振らせろっていうの!?
かと言ってこんなちっこい女の子に振らせるわけにも……と、少女の方を見やる。
するとその子は、優しく包み込むように私をじっと見つめていた。
「大丈夫ですよ鳴々さん。
心から分かり合えば、どんな困難でも超えられる。
そう先生も言っていましたから」
「いや、分かり合えても神造兵器は使えないんじゃないかしら!?
……けど、ありがとう。なんか元気出たわ」
話す内に、私は彼女と自分が似ていると気づいた。
どこか不器用ながらも、必死に誰かに分かってもらいたいという思いがある。
私はそれが実を結んだことはないけど、彼女はきっと、それが実を結んだから英霊になったのだろう。
そう思うと、以前の私なら悔しさが滲み出たのだろうけれど、何故だか「彼女のようになりたい」という憧憬が胸の内に広がるのを感じた。
──────そうして彼女の事を分かり始めたその時、特異点の主が姿を現したのだ。
「あ──────。
ひ……っ、ぃあ、あぁ……!!」
五感という孔を通して、■が流れ込んでくる。
この宇宙にない理が。名状しがたい混沌が。
悍ましき蛇の手が、小さな箱庭に顕現しようとする。
それは特異点を生み出した、外の神だった。
「やだ……やめて……やめなさい!
この情報を、私に流し込まないで!」
「大丈夫、です。落ち着いて。怖がらないで」
「あれが、彼方より来るもの。
外宇宙から理を書き換え、神の側から神話を刻み込むもの。
──────私が、生前触れた"人"です」
そう恐れずに、少女は告げた。
震える私の手を優しく握りしめてくれた感触を、今でも私は覚えている。
それは生前、恩師が彼女に対して教えてくれたものと同じだというのだ。
曰く彼女は、かつて見えず、聞こえず、喋れずの三重の闇に囚われた過去があるという。
虚空に神在りき。その闇の中に"それ"は現出し、そして彼女を救うべく手を差し伸べたというのだ。
だが、彼女はそれに手を伸ばし返せなかった。
理解できなかったから。恐ろしかったから。
そして彼女は光を取り戻し、外部と繋がり合い、そして奇跡の人となった。
……唯一、自分を助けようとした"それ"に手を指し返せなかった事だけが、心残りだったそうだ。
「三重苦……奇跡の人? じゃあ貴方の真名は───」
「皆さん、折り入ってお願いがあります。私に、信頼を託してもらえますか?
それが私の宝具の、発動条件ですので」
その宝具の性質は、理解。そして接続。
名状しがたい外の理を、"排除すべきもの"ではなく"繋がり合えるモノ"と再定義するもの。
それは即ち、この悍ましい状況を打破する唯一の力であることを意味していた。
「……それを使えば、この状況も打破できるのね?」
「ええ。私を信じてくれるのならば、きっと」
「繋がり合うってことは、魔力の並列接続もできるのかしら。
この託されたアマノハバキリを振るうとかも、出来なくはない?」
「どうでしょう。信じてみれば、出来るかもしれませんよ」
悪戯めいた笑みで少女は言う。
簡単に言ってくれる。例え魔力が潤沢でも、人間がそんなものを振るえばどうなるか。
筋繊維がずたずたになって、きっと数ヵ月は寝たきりだ。しかし振るえるのは私しかいない。
なんという不幸。ああ、全く自分が嫌になる。こんな不幸が常に降りかかる人生が、今後も続くのだろうか?
──────上等だ。
そう、私は頬を叩いて自分を鼓舞した。
「やってやろうじゃないの!!
信頼? そんなの、とっくにしているに決まっているでしょ!!」
「おぉー。めっちゃやる気ですね鳴々さん」
「ヤン五月蝿い!!」
キャンキャン吠えながらも、信頼の証として私は少女の手を強く握る。
後で気付いたことだが、どうも私は怒れば怒るほどモチベーションが上がるらしい。
どんなに辛くても、苦しくても、嫌でも、とにかくこの現状に憤ればそれが力になる。
だがそれ以上に、手を握り返してくれている少女の存在が私の力になっていた。
「視界は不要。聴覚は不要。言葉は不要。ただ触れ、接すればいい。
差異や欠落は、理解の断絶を意味せず。だから今こそ、すべて心あるものの繋がりは───」
「──溢るる水の如く、ここに一つとなれるのだと!
ヘレンケラー。それが彼女の真名だった。
彼女と私は向き合い、理解し合い、そして繋がり合い────託された刃を振るった。
後遺症でもうボロボロだったけど、それでも満足だった。だって特異点は解決できたし。
何よりも、理解しあえる
それはどんな不幸だって笑い飛ばせる、私にとって最高のアガリだった。
かくして、私の不幸はまだまだ続く。
けれど、もう孤独じゃない。だって隣に、ヘレンがいるのだから。
頼ってくれるカルデアの面々も、一緒にいてくれるのだから。
◆
そうかな? 幸か不幸かなど、お前が決める物じゃない。
家を追い出されたことで使い潰されることはなく、爆破の被害が一番少なかったからこそ最も早く目覚めたのだ。
その結果の先をお前は不幸と感じたのだろうが、見方を変えれば幸運に変わりはないだろう。
そしてそれは、特異点でアマノハバキリの模造品を振るった事で確信へと変わったはずだ。
お前の特異性は「不幸」。
それもただの不幸ではない。
本人が不幸としか感じない形で、最適の幸運を手繰り寄せる。
それが、貴様の持つ
期待しているぞ。
その不幸がどのような結末をもたらすのかを。
マテリアル
◆鳴々・ロードフェルト
カルデアのマスター候補として招かれたメンバーの1人。
目つきと髪のクセが悪い少女。育ち故に口調は丁寧だが、口は悪い。
カルデアのマスターとして活躍できないことにコンプレックスを抱えていた。
が、とある特異点でのヘレン・ケラーとの出会いにより劣等感の払拭に至る。
口は悪いが根は気弱、ただし絶対に折れっぱなしにならないという強い芯をもつ。
特筆すべき才のない彼女の原動力は、生まれ持った不運への"怒り"である。
怒ればそれがそのままモチベーションとなり、逆境を跳ね除ける力になり得る。
また、実は不幸体質というのは誤りで、それは彼女の捉え方が誤っているだけにすぎない。
真実は「本人が不幸としか感じない形での最適の幸運」を呼び寄せるというもの。
故に、カルデアのマスターの中でいの一番に意識を取り戻し過労死しかけた。
◆ヘレン・ケラー
クラス:フォーリナーのサーヴァント。三重苦を乗り越えた奇跡の人。
英霊としては、赤い瞳の少女として顕現。生前に外なる蛇神の加護へ触れながらも、それに手を伸ばせなかった過去をもつ。
その影響からか、サーヴァントとしては五感を補った状態で召喚されている。
様々な存在に手を伸ばし、そして分かり合う事を是とする性格。
生前の経験から、どのような状況下であっても人は───否、人以外でも分かり合えるという信条を持つ。
故に、外宇宙よりの神性であろうとも手を伸ばそうとし、事実特異点においては分かり合う事に成功した。
そういった経歴から、鳴々に対しては単なる主従以上に深い思いがあり、心を通わせ合っている。
宝具は『
生前からもっとも彼女が尊ぶ、他者と他者の「心」を接続する宝具である。
普段は魔力パスを拡張するために使われるが、フォーリナーとして再臨段階が進むと「理解し難いもの」を相手の心に流し込むという使用方法を好むようになる。
また、フォーリナー特有の露出が多い異形の衣装になる。