第九十九話
「さてと。このまま都に直行しても良いんだが、それだと時間を潰すのがしんどいか…」
森の中、迅真はぼそりと呟く。すでに都は近くにあり、そこまで行く事無く、その手前で道を逸れてルーミアと話し合う。
「別に、人間の生活に慣れておくことに問題は無いんじゃないの?」
「……………それだ」
「『そんな名案よく思い付いたな』みたいな表情しないで。なんか、悲しくなるわ」
「そんな顔してたか?いや、別に俺も考えてなかったわけじゃないぞ?ただ、それだとルーミアが危ないように感じたからさ」
「なんでよ」
迅真の言葉に、ルーミアは不思議そうな表情をする。
「だって人間がいるんだぞ?しかも都だから陰陽師付きだ。余裕で撃退できるだろうけど、撃退なんかしたらもう暮らせない。だからこそ悩んだんだよ」
「なんだ。そんな事?なら私がばれないようにすれば済む話よね」
「ど、どうするんだ?」
ルーミアが何を企んでいるのか。それが分からず、少し躊躇いながらも聞く。
「簡単じゃない。妖力をばれないようにするだけなら迅真が私を霊力で覆えば騙せるわよ」
「ん~…それでルーミアが辛くないならそれでいいんだが」
「問題ないでしょ。たぶんやったとしても水に浸かってるようなちょっと息苦しい感覚で留まるわよ」
「……それ、喜ぶべきか、悲しむべきか…」
「あくまでも隠せるほどの霊力で囲んだ場合の話だからね?さすがに多すぎると私だって苦しいわ」
「そ、そうか…まぁ、苦しくならない様に頑張るよ」
「うん。頑張って」
自分の霊力が弱すぎるのではない事を知り、ホッとする迅真。取りあえず、霊力を糸状にして、バッグの中から編み棒を取り出すと、すごい速度で編み上げる。
「取りあえずこれで充分だろ。今はまだ冬だし、マフラーだしな。そんな不自然じゃ――――待て。ここは現代じゃない。って事はばれるんじゃね?」
「ほぼ透明なんだから問題ないでしょ?」
「いや、お前がそれで良いんなら良いんだが…まぁいいや。今度別のモノを作るとしようか」
「そうして?今はとにかく都に行ってみたいわ」
そう言いながらルーミアは迅真から渡された異様なまでに長いマフラーを何度か首に巻き、それでもかなり余ったので、面白半分で体中に巻き付ける。
「さてと。これで妖力は誤魔化せるようになったわけだ。じゃ、行っても問題ないな」
「服…とか?」
「……お前は行きたいのか行きたくないのかどっちだ?」
「失礼ね。そんなの行きたいに決まってるじゃない。だからこそよ」
「……それもそうか。はぁ…じゃあ偽装魔法でも使うか。正直コレ、維持するのに体力をかなり消費するんだよな…」
「もぅ。そんな弱音吐かないの。ほらほら。頑張って」
「はいはい。ったく、頑張るのは俺だけだろうが」
文句を言いつつ、迅真は呪文を唱え、
「――――偽装魔法『イリュージョン』」
迅真の言葉と共に、二人の服装は変わっていく。
「おぉ!案外分からないのね。偽装魔法なんてすぐ破れるかと思ってたわ」
「破れるよ。その魔力を上回る魔力をぶつければ済む。それ以外にも、あまりにも激しい運動をすると魔法が追いつかなくて剥がれるから。まぁ、普通に歩いてればまず破れる事は無いけどな」
「ふぅん?でも、私が面倒って思うんだから相当な魔力ね」
「お褒めにあずかり光栄です。お姫様。さて、そろそろ行こうぜ。まだ日は昇ったばかりだけど、これ以上いるとなんか面倒になってくる」
「はいはい。分かったわよ。じゃあ行きましょう」
全く、せっかちね。と言うルーミアに、別にいいだろうが。と答える迅真。そんな風に話しながら、彼らは都へと入って行く。
* * *
「案外簡単に住居ゲットできたぜ」
「誰に言ってんのよ」
「いや、こう言えってお告げが…」
迅真はルーミアに答えながら香の能力を使って創り出した椅子に座る。
家を手に入れる方法は本当に簡単で、持っていた適当な宝石類を売り払ったら手に入れられた。しかもそのおかげでしばらくは遊んで暮らせる位の金額は手に入った。
「それにしても、あのおっさん気前がいいよな。あの程度の金銀と真珠でこの屋敷をくれるなんて」
「アレ、貴族よ?さすがに人間の中だと影響力のある人だと思うのだけれど?」
「…え?マジで?」
「迅真が取引してる間に聞いたからね。かなり変なことしてるみたいで、確か『蓬莱の玉の枝』だったかしら。そんなのを作ろうとしてるみたいよ?」
「……車持皇子じゃんか…確か元は藤原不比等か。って事は、すでにかぐや姫はもういるのか…でも、月からの迎えが来るのは夏あたりだったか。じゃあしばらくはのんびりとしてようかな」
「あら?かぐや姫を見るのが目的じゃなかったの?」
「そうだけど、俺的にはかぐや姫を迎えにくる月の軍ってのが気になってるんだ。どれだけ強いのかなってさ。あいつらと会うと戦意を消失するとかいう話があってな?それをちょっと見てみたいんだよ。あわよくばその力を手に入れてやろうかと思ってさ」
「へぇ?そんな力があるのね…でも、確か私の知ってる月にいる人間は変な道具を使ってたような…」
「まぁ良いじゃんか。結局俺はその力を見たいだけさ。機械だろうと模倣くらいできるだろ」
「そう?じゃあ頑張ってね。私はしばらく人間のふりを続けてみるわ」
「いや、基本的に俺も一緒だからな?どうせ夏まで暇だし」
「なら一緒にいてもらいましょうか。買い物とか一回してみたかったのよね。諏訪子の所じゃ神社から出なかったしね」
「そういえばそうだな…じゃ、出かけようか。偽装魔法を使わない様に服も調達したいしな」
「わーい」
小銭袋を持ち、迅真とルーミアは家を出るのだった。