「――――って事で、夏になったぜ」
「もうずいぶん前の気がするんだけど?」
唐突な迅真の発言に瞬時に突っ込むルーミア。
「まぁな。でも、かぐや姫が月に帰るのは大体真夏なんだから今言うのが正しいんだ」
「だから意味分からないって」
「漫画とか小説とかじゃ言わないと進まないんだよ…」
「そう言うの、言っちゃいけない奴って言ってなかった?」
「……気にしたら負けさ」
メメタァ。という奴である。
「それは…アリなの?」
「…もう何も言わないでくれ。これ以上いぢめられると俺泣くぞ」
「それは見てみたいかも」
「Sだと!?それはちょっと怖い!」
「とにかく、迅真を泣かすのは後にして、どうするの?かぐや姫は家から出て来ないわよ?」
「……そろそろ俺の隠密テクを見せる時が来たようだな!」
「……何をする気かは知らないけど、やめといた方が良いって私の感が言ってるわ。だからやめなさい」
「だが断る!!隠密でこのネタだけは外せない!!」
迅真はそう言うと、バッグを持って家を飛び出していく。
「はぁ…まぁ良いわ。どうせふざけるけどしっかり魔法はかけるでしょ。っていうか、迅魔がしない訳無いわね。あれでいて意外にも心配性だし」
やれやれ。と言う風に首を振り、空き巣が入らない様にいくつかのトラップを仕掛けてから家を出る。
* * *
「で、その箱は?」
ルーミアの目の前にあるのは茶色い箱。構造は簡単で、解体も組み立てもすぐに出来る代物だ。
「ふっふっふ。これは伝説の傭兵が愛用する最終兵器――――『ダンボール』さ!!」
「『だんぼーる』…?ナニソレ。って言うか、本当にそんなので行くの?」
「面白そうだからな。それに、ここ以外で使う所が無い」
「そこが本音ね。じゃあ頑張って。私は後ろをついて行くから」
「了解。じゃあ行ってくるぜ」
ガタガタ。と音を立てながら箱は歩いて行く。
* * *
「……もうダンボールじゃ行けない所が出てきてしまった…無念」
そりゃ屋敷の周りは塀で囲まれているに決まっている。ダンボールでこれを超えるのは不可能だろう。
「しゃあない。跳ぶか」
ダンボールを畳み、バッグの中に放り込むと、軽く跳んで屋敷の内側に入り込む。
「さてと。どこに姫様はいるかなぁっと」
閃鬼の能力で音を消し、気配を断って、風の流れも魔法で操り呼吸を偽装し、闇で体を覆う完全隠密モードで屋敷を探索する。
しばらくそうやって外側から見て回っていると、ふと、目が留まる。
月の光を浴びて輝く黒い髪。整った顔立ち。幾重にも重ねて着ている美しい着物。
「……あれがかぐや姫、ね。確かに絶世の美女って奴だ。ただ、匂いは地上の人間じゃねぇな。何かもっと、違う存在だ。なんだ?この匂い」
「聞いて来ればいいじゃない」
「唐突に出てくんなよ。ビビるだろうが」
「あら意外。そんなに気にしなさそうなのに」
「気配が全く無かったらそりゃビビるわ。じゃ、言われたからには聞いて来るかね」
迅真はそう言うと、堂々と女性の前に行き、能力を解く。
「よっす。初めましてだな。と言っても、俺みたいのはもう慣れてるんだろ?かぐや姫?」
迅真の登場に目を丸くする女性。
「……さすがに、目の前に立たれるまで気付かなかったのは初めてね。どちら様?」
この反応を返す、という事はやはり本人なのだろう。
「薙浪迅真って言うんだが…憶えて貰わなくても結構だ。正直ここに来た目的であるお前の姿を見るってのは達成できた。これでもう都にいる理由はほとんどないな」
「あら、そうなの?てっきり貴方も私に婚約を申し込みに来たのかと思ったわ」
「まさか。あまりふざけた事を言うな。お前なんか眼中にねぇよ。俺の愛する奴はたった一人だけさ。他の奴に乗り換える気なんてさらさらない。乗り換えたらこの世界がヤバいとか聞いたけど、そんなの興味ないし」
「あらあら、随分とその人にご執心のようね」
ふふふっ。とかぐや姫は笑った後、鋭い目つきに変わり、
「それで、そんな惚気話をするためにここへ来たのかしら?」
「いや?お前の前に出て来たのは聞きたいことがあったからだよ。
表情は笑ったまま、しかし目は笑っておらず、かぐや姫を突き刺す。
「見ての通り、人間よ?」
「
「心外ね。初対面にそんな事言われるとは思わなかったわ。むしろ貴方は私を何だと思っているの?」
「知らん。だが、人間じゃないのは確かだ。だから聞いてるんだよ」
「…嘘ではないんだけど…まぁ、普通の人間ではないわ。それは貴方も同じでしょう?『生命の掌握者』さん?」
余裕の表情のかぐや姫の発言に、迅真はピクリと反応する。
「…その二つ名、どこで聞いた?」
「すでに妖怪の中では有名みたいで、陰陽師つながりで私の耳に入ったわ。人間のような匂いがするのに鬼を上回る力に天狗を越える速さを出す。しかも妖怪の様な匂いも時々する不思議な存在だって。それと、かの『宵闇の女王』と深い関係があるとかなんとか。本当かしら?」
「……随分とまぁ詳しい様で。確かに俺は人間じゃないよ。妖怪でもないけどよ」
「あら。なら神様とでも言い張るのかしら?」
「いや?神様なんて大それたもんじゃねぇよ。残念ながら、人間でもなく、妖怪でもなく、神様でもない。だが、そのどれにでも当てはまる存在。言うならば『人外』だな。それで、お前は?」
「……ねぇ貴方。月に人間がいるって信じるかしら?」
「なんだいきなり。こんな魑魅魍魎が跋扈する世界で月に人間がいる事のどこが不思議なんだ?むしろ、そのくらいいてくれた方が面白い」
「ふふっ。貴方、面白い事を言うのね。はぁ…なら、私がその月から来た。と言ったら?」
「そりゃ随分と面白そうな話じゃないか。信じるさ」
もちろん、最初から分かっていた事だ。だが、今の発言で確信に変わったのは言うまでもない。
「そう、信じるのね。なら、この話を信じる貴方に一つだけ。面白い話があるのだけれど」
「へぇ?それは俺みたいな初対面の無礼者に言って良い事なのか?」
「えぇ。だって、貴方は強いもの。私には手も足も出ないわ。だからこそ、私は言うの。どうする?聞く?」
「あぁ。面白そうだ。聞かせてもらおうじゃねぇか。その『面白い話』ってのを」
不敵な笑みを浮かべ、迅真は聞く。
「十五日。その日の夜に月から迎えが来るの。今は誰にも話していないけれど、そろそろ話そうと思っているわ。おそらく帝辺りが私を帰さない様に兵を送ろうとするはずよ。私も帰りたくないの。正直、地上の人間ごときが立ち向かえるような相手じゃないわ。だから貴方に護衛をしてもらいたいのだけれど、構わないかしら?」
「俺は構わない。だが、出来るのか?」
「それくらい簡単よ。それで、協力してくれるのなら、家の場所を教えて?どうせ都に住んでいるのでしょう?」
「まぁな。取りあえず俺の住んでる場所は――――――だ」
「――――――ね。分かったわ。じゃあそこにいる人間に護衛をしてもらうように頼むからちゃんといてよ?」
「了解。で?仲間とか入るのか?一人とかでも問題ないが」
「それは当日で良い?そろそろ翁が来ちゃう。ほら、行って」
かぐや姫に言われ、確かに何かが近づいてくる気配があった。
「了解。じゃ、当日に会おう。そこで打ち合わせだ。俺が護衛になれるように頼んだぞ」
「任せなさい」
迅真は即座に飛び立つ。
直後、後ろの戸が開き、しわがれたおじいさんが出てくる。
「かぐや。どうかしたか?」
「……いえ、なんでもありませんわ」
かぐや姫は儚げな笑みをおじいさんに見せるのだった。
祝100話!!
前回が本数的に100だろ?とか言っちゃダメです!!メッ!です!!
まぁ、100だからどうした?と言われたら何も言えないですね。
何かしようとは考えてますよ?定番の人気投票とか…あ、それくらいしか思いつかない。じゃあ人気投票ですね。活動報告に置いておくので、お暇でしたら投票してくださると嬉しいです。
ではでは(^O^)ノシ