東方種変録   作:大神 龍

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第百三話

 ただの平原。だが、そこには無数の人影。

 

 迅真が転移させた結果だった。つまりは、そこにいるのは迅真と月の民。

 

「さてさて。ここならどれだけ暴れても問題ない」

 

「なんだ貴様は!ここはどこなのだ!!」

 

「……ここは知らん。俺は名乗らん。以上。死に逝く貴様らに教える事なんて何一つ無いのさ」

 

「なんだとぉ…!!全員!かかれぇ!!」

 

 一人の男の声と共に一斉に矢が放たれる。

 

「敵は弓兵10。槍兵10。剣兵20。指揮官1。余裕かな」

 

 弓兵の数と同じだけの矢が迅真へと迫る。が、迅真に当たると同時に、矢は飛来した二倍ほどの速度で敵へと帰って行く。

 

「うぐぁ!!」

 

「ぎゃあ!!」

 

 悲鳴が聞こえた事から、反射された矢に何人か刺されたらしい。

 

「なんだなんだぁ?その程度なのかぁ?だったら期待外れも良い所だ。けどよぉ……期待外れで終わる訳無いよなぁ!!」

 

 言い終わると同時に全力で大地を蹴り、自分にかかる負荷すらも推進力へと変化させて月の民に迫る。

 

「ハッハァ!!『火竜の翼撃』!!」

 

 迅真の両腕から翼のように吹き出す紅蓮の焔が月の民を襲う。

 

 だが、彼らは驚きはすれど、そこまでダメージを喰らったようには見えない。

 

「(……なんだ?何か結界のようなモノが働いている?)」

 

 気付くや否や、瞬時に距離を取り、指揮官の()()をコピーする。

 

 数瞬の硬直。そして、迅真は納得する。

 

「対妖怪用の鎧……そりゃ魔法が効くはずもない…か。アッハハハハ!!その程度か!!魔法…いや、妖術を防ぎ、妖怪の攻撃の威力を弱体化させる程度!!それで勝てると思うなよ『()()』。『()()()()』の本領って奴を見せてやるよ」

 

 ただの脅し。その為だけに今だけは能力をこう使う事にする。

 

 バキバキバキッ!!と音を立てながら迅真の身体は変化していき、人間としての原形を保たなくなっていく。

 

『GYAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 もはや人間の声ではない。それもそのはず。

 

 腕は前足の様な鋭利な刃物の如き翼に変わり、足は短く、太くなり、四つん這いの姿になる。全身は漆黒の体毛へと変化し、頭も四足歩行生物の様に変化し、しなやかな尻尾も生える。

 

 知っている人が見ればこういうだろう。

 

 迅竜。彼の名の一部を持つその竜は、昼夜共に高速で動く狩人。ただの人間は手も足も出ずに宙を舞い、絶命する。

 

 狩人は目覚めた。目の前には獲物の群れ。全ては奴の胃袋に収まるのだろうか。

 

 月の民はそのような化け物に変化した迅真に驚き、手が止まる。

 

『GUGYAAAAAAAAA!!!』

 

 反応は出来なかった。尋常ではない速度で距離を詰めた狩人は獲物に正面から襲い掛かり、その一撃で指揮官の姿は消える。

 

「…えっ?…はっ?」

 

 腑抜けた声。そして、それと同時に響く咀嚼音。ガリッゴリッグチャッ。そんな水を含んだ音は、おそらく指揮カンガ――――

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その言葉が引き金。練習だけでまともに戦った事も無い兵士たちは瞬時にただのエサへと変わり、どうにか月へと逃げる方法を模索する。

 

 

 全ては転移の際に分離させられたというのに。

 

 

 首をもたげた狩人。蜘蛛の子の様に散らばるエサ(月の民)。狩人は口角を上げたように見えた。

 

 瞬間、最も遠くにいた剣兵は恐ろしいモノを見た。

 

 先ほどまで見えていた森。それは直後、一面の黒に覆われる。

 

「う――――」

 

 その声は最後まで紡がれず、彼の命の灯は消える。

 

 その姿を見てしまった他のエサ(月の民)は怯える。しかし、それと共に彼らは逃げられないと知り、それならば。と考えてそれぞれの武器を取る。

 

 初撃は弓兵の矢。

 

 しかし、狩人は大きく振るった尻尾で全ての矢を側面から叩いてへし折り、吹き飛ばす。

 

 次の攻撃は剣兵。

 

 しかし、狩人が一度大きく叫んだ事で硬直し、その隙に振り下ろされた尻尾に直撃し、吹き飛ばされた地面と共に宙を舞う。

 

 三度目は槍兵。

 

 微妙な距離から攻撃するが、しかし、硬い皮膚に刺さる事は無く、飛び掛かられて数人が下敷きとなって絶命する。

 

 けれど、それでも彼らは戦う。なぜならばもうにげることすら 敵わないから。

 

 たとえ一撃必殺の尻尾による圧殺をされようとも、縦横無尽に駆け巡られ捕食されようとも、もう逃げ場がないのだから戦うしかない。

 

 一人、また一人と死んでいき、その平原は赤く染まる。

 

 そして、最後の一人となった時だ。

 

『GYAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 狩人が一際大きく叫ぶと、その体がだんだんと小さくなっていく。

 

『GYAAAaaぁぁぁぁああああ…はぁ。ったく。手間かけさせやがって」

 

 姿は竜から人へと変化し、彼は血塗れの身体を即興で組み立てた水魔法で洗う。

 

「さてと。お前には別に様な無いんだが、さすがに飽きてな。もう戦う気が起きないんだよ」

 

「へ…?」

 

 その兵士の顔は、助かった。そう言いたげな顔だった。が、彼はその希望を全て奪い去る。

 

「それでだ。今この周りに集まって来ている妖怪に土産にしてやろうと思ってな。まぁ精一杯生き残れ」

 

 そう言い残して、彼は姿を消すのだった。

 

 

 残された彼はもう動くことすらできない。圧倒的絶望とは、活力を奪い去るには十分。そうして、彼は迅真の言った通り、死の匂いに釣られて寄って来た妖怪に襲われた――――。




 うわぁ…月の民に救いは無いんですね…


 誤字がありました!報告してくださった方、ありがとうございます!<(_ _)>
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