東方種変録   作:大神 龍

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第百八話

「――――すっかり日が暮れちまったな」

 

 いつの間にか日が傾き、空は茜色に染まっていた。

 

「面白いお話ばかりで、つい聞き入ってしまいました…あの、よろしかったら泊まっていきますか?」

 

「良いのか?」

 

「えぇ。お話し、もっと聞きたいですから」

 

「そうか…なら、お言葉に甘えて泊まらせてもらおうかな。ルーミア。それでいいか?」

 

「私は構わないわ」

 

「って事で、問題ない。ありがとな」

 

「いいえ。こちらこそ貴重なお話をありがとうございます」

 

「まぁそれは良いんだけどさ…なぁ、紫からはそう言う話は聞かないのか?」

 

「紫は…その、すぐ迅真さんの話になってしまうので…」

 

「は?」

 

 反射的に紫の方を見ると同時に紫は瞬時に迅真から目を逸らす。

 

「……どういうことだ?おい。紫?」

 

「えっと……その……えへへ…」

 

「紫ったら、どんな話をしても最終的には迅真さんの話になってるんですよ?おかげで私も迅真さんに会ってみたくなっちゃって」

 

「そうなのか…それで?俺に会えた感想はどうだった?」

 

「紫の言っていたことが分かる感じがします。本当に迅真さんは良い人なんですね。私のわがままに付き合ってくれましたし。それにお強い。妖忌も倒されてしまいましたし。珍しいモノを見させていただきました」

 

「お嬢様…」

 

 妖忌が何とも言えない表情をするが、スルーである。

 

「なるほどなぁ…一体紫は俺の事をどう言ってたのか気になるな…」

 

「えぇっと。確か、性格が悪いけどカッコ良くて、でも時々とても優しくて。そして、とても強くて、そんな迅真さんが「幽々子ストップ!!それ以上はダメ―ッ!!」…あらら。そんなに言われたら言えないわ~」

 

 紫が顔を真っ赤にして叫び、幽々子の声がかき消されてしまい、幽々子は笑顔で紫の方を向く。

 

「むぅ。なんて言っていたのかが気になるが、まぁ聞かない事にしておこう」

 

 迅真はそう言うと同時に何かに気付く。

 

「(……なんだ、アレ…黒い糸…?)」

 

 幽々子の首の周りを囲む様に出現した黒い糸。それは庭の方へと続いていた。

 

「なぁ…庭に何かあるのか?」

 

 疑問を口にした瞬間、幽々子達の表情が凍る。

 

「……何かあるな?」

 

「あ、いえ…大きな桜があるだけですよ?」

 

「…それだけじゃ、ないだろう?」

 

「……いいえ。本当に桜があるだけですよ。妖忌。そこの障子を開けて?」

 

「はい」

 

 妖忌が開けた障子の先には、確かに大きな桜が一本立っていた。

 

「ここから見える通り、あそこに桜が生えているだけで、後は普通の庭ですよ?」

 

 幽々子が微笑んで言うが、迅真はその言葉を聞いていなかった。

 

「(……黒い糸が、桜に続いている…?それに、幽々子への糸以外にも他の所に繋がってる糸がある…あの桜、一体…?)」

 

 不思議な桜に疑問を拭いきれない迅真。だが、今はそれ以上知る事は出来ず、否、知る気が無く、彼は話題を逸らす。

 

「えっと、泊まらせてもらう事になったけど、どの部屋に泊まればいいんだ?」

 

「あ、それでしたら妖忌に案内してもらいますわ。お願い妖忌」

 

「分かりました。では皆様。こちらへ」

 

 そうして、妖忌に案内され、迅真達は部屋へ行くのだった。

 

 

 * * *

 

 

「なぁ、ルーミア。アレ、何なんだろ?」

 

 部屋に着き、妖忌がいなくなると同時に迅真が言った。

 

「アレって?」

 

「桜だよ。どう見てもただの桜には思えないんだよ…何か黒い糸が見えたし」

 

「黒い糸…ねぇ、もしかして迅真、無意識に私の目を使ってない?」

 

「え?」

 

 言われて、迅真は意識してルーミアの目を切り離して外にある桜を見てみると、

 

「何も見えない…?どういうことだ?」

 

「その黒い糸、呪いよ。死の運命を植え付ける呪い。あの桜から出ている所を見る限り、アレそのものに呪いの効果があるみたい。能力か何かかしらね?」

 

「……桜に能力…しかも死…?なんだよそれ…それなら、幽々子が死ぬじゃねぇか…」

 

「そうだけど…ふふ。許せないのね?分かったわ。なら、手伝って上げる。あの呪いを断ち切ればいいんでしょう?」

 

「いや…出来るなら封印したい。あの桜には幽々子に向けられていた黒い糸以外にも無数の糸があった。だから、幽々子だけじゃなく、その他の人間にも被害が出ないようにしたい。それでも良いか?」

 

「……甘いわね」

 

「え?」

 

「迅真は甘い。とっても甘いわ。何もかもを救おうとする。それは確かに良い事だけど、それで本当に守りたいものが守れなかったら――――」

 

「ルーミア。言わなくていい。そんな事、百も承知だ。それでも俺はやる。最悪を考えて、最高と見比べて、今が消えるか未来が消えるかを天秤にかけて俺は今を選んだ。それ以上の事は求めないさ」

 

「………………」

 

 迅真の言葉にルーミアは黙り込む。が、考える。

 

「(本当に迅真がそれで満足するかしら?)」

 

 ルーミアの疑問は間違っていない。さすが何千年も隣にいただけはある。

 

「取りあえず、それは明日にでもするかな。今はゆっくり休もうぜ。久しぶりの布団だ」

 

「そうね…ねぇ、本当にそれ以上を求めない?」

 

「あぁ。()()()()事しか選ばないさ」

 

「……なるほどね。そういう事。ふふっ。やっぱり迅真は迅真ね。一体何をするのか、楽しみにしているわ」

 

「あぁ、楽しみにしていてくれ」

 

 口角を上げて言う迅真を見て、ルーミアは安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それによって一体何が起こるか、考えもせずに。

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