東方種変録   作:大神 龍

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第百九話

 日は完全に沈み、辺りは一面闇に閉ざされる。

 

 妖忌は明かりをつけて回り、そのまま食事の片づけを始める。

 

 いつもならもうすでに終わっているはずの仕事。しかし、今日に限っては終わっていなかった。

 

 薙浪迅真。彼が語る事に夢中になって聞き入る幽々子の、普段とはまるで違う明るい表情を見て、遮る事ができなかったのだ。

 

 おかげで食事は日が沈むギリギリになってしまい、急いで必要なところだけに明かりを灯すことになった。

 

「薙浪迅真…奴は、人間というにはあまりにも跳び抜けている…それに、あの宵闇と共にいるというのは、普通ではあるまい…そんな人間がこの館に居て良いものなのか?」

 

「そんなに心配か?」

 

 唐突に響いた声に驚いて振り返ると、そこには迅真が立っていた。

 

「なんでここにいるのかって言いたそうだな。違うか?」

 

「…その通りだ」

 

「だよな。俺でもそう思うからな。で、返答だが、手伝いに来た。泊まるだけってのは正直俺の性に合わないし気持ち悪い。手伝わせろ」

 

「そこまで言うのなら頼もう。では、半分は任せた」

 

「良いのか?断られると思ってたが…いや、ありがたい」

 

「ふん。それはこちらの言葉だ。ありがたいよ」

 

「ハハハ!まぁ、感謝してくれるなら素直に受け取ろうかね」

 

 そう言って、食器洗いに迅真も参加する。

 

「……なぁ、洗った食器はどこに置いておけばいい?」

 

「そこへ置いておけ。後で風通しの良い所へ持っていく」

 

「そうか。じゃあここら辺で良いか」

 

 迅真は洗った皿を置き、残りの皿を洗う。

 

「しかし、迅真。中々洗うのが早いな」

 

「ん?あぁ、昔は良くやってたからな。まぁ、あの時は俺より早く終わらせるやつらが居たけどな…あいつら、俺が頑張ってる間隣で煽ってきやがって……」

 

「…良き友人が居たのだな」

 

「そんな事……いや、そうだな。いい友達ではあったよ。もう会えないだろうけどな」

 

「……そうか。それはすまない事を聞いた」

 

「いやいや、構わないさ。もう受け入れて入るからな。それに、今も今で楽しいしな。あいつらとも絶対に会えないとは思ってはいないし。たぶん会えるんじゃないか?あいつらならやる気がするな」

 

「ふむ。それは楽しみだな。ぜひお主の友人に会ってみたいものだ」

 

「クククッ、いつか会えるんじゃないか?かなり無茶な奴らが多いからな。まぁ、その筆頭は俺だったわけだけど」

 

「ふっ、なら、楽しみに待っているとしよう。いつか来るそんな未来のためにな」

 

「あぁ、楽しみにしておけ。その為に俺は努力するからよ」

 

 迅真がそう言った時には、全ての食器は洗い終わっていた。

 

「さて、では、コレを置きに行くとするか」

 

「そこまで手伝うというのか?」

 

「ダメか?」

 

「構わんが…本当にお主には頭が上がらんな」

 

「初めて会った時に斬撃飛ばして来た奴のセリフじゃないな。まぁ、別に構わないけども」

 

 迅真は洗った皿を持ち、怖いので一応霊力で視認できないくらい細い糸で皿を固定させる。

 

「んじゃ、どこに置くのか案内してくれ」

 

「あぁ。こっちだ」

 

 妖忌の指示に従い、迅真は歩きはじめる。

 

 * * *

 

 

「ふぃー…終わった終わった。いやぁ、久しぶりに家事したわ…楽しいな、やっぱ」

 

「労働が好きなのか?」

 

「ん~…そう言うわけじゃないと思うんだけどな…どうだろ。もしかしたらそうなのかもしれない。掃除もそれなりに好きだけどな。まぁ、昔は俺より好きな奴が壊れた様にやってたが」

 

「ふむ。そやつには特に会ってみたいの…お主よりも進んで仕事をしてくれそうだ」

 

「ハハハッ!客人としてではなく労働者として会ってみたいのか!そりゃ確かにあいつならしっかり働いてくれそうだ!」

 

「ふっ、当たり前だろう?働いてくれるのならそれに越したことはない。無論、私はそやつ以上の働きをしようと努力するがな」

 

「あぁ、それは正にお前らしいな。会って半日だがよく分かる。お前は何者にも負けたくないと言いたげな気配があるからな。まるで俺みたいだ」

 

「いや、お主には負ける。手数が桁違いだ」

 

「……それは能力のせいだろ。俺はお前と同じほどの性能までは引き出すことが出来るが、それ以上は引き出せない。だからそれを他の人間―――いや、生物の能力で補ってる。それに比べてお前は俺が自力じゃたどり着けない高みにいるんだ。誇ってくれ。それが何よりも俺にとって嬉しい」

 

「なら、そうさせて貰おう」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

 少しだけ頬を緩めた妖忌に迅真は笑顔を向け、彼らは部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お嬢様?」

 

 庭には幽々子の姿があった。その足は何も履いていないようで、裸足だった。

 

 何かがおかしい。そんな気配を感じ取った二人は瞬時に警戒を強める。

 

「妖忌…幽々子はいつもあんなことをしているのか?」

 

「…いや、今まであんな姿は見ていない…一体何が?」

 

 困惑しているような妖忌。迅真はそれを聞き、両目をルーミアの眼に変化させる。

 

「……黒い糸が幽々子の首に大量に巻き付いて……?………ッ!!まさかあいつ、桜に向かって!?」

 

「何!?それはダメだ!!止めねば!!」

 

「オイ妖忌!!」

 

 突然走り出す妖忌。一瞬遅れて迅真も飛び出す。

 

「お嬢様!!止まって下され!!」

 

 バッ!!と幽々子の正面に立つ妖忌。しかし、そんな妖忌をするりと避けて彼女は桜へと向かう。

 

 すでに数メートル前にはあの巨大な桜が立っていた。

 

「幽々子!止まれ!!」

 

 迅真は咄嗟に指輪を投げつける。すると、

 

 

 

 パンッ!!と小さな破裂音と共に首の周りの黒い糸は弾け、幽々子の動きが止まる。

 

 

 

「あ、あら?私はなんでここに…?」

 

 不思議そうな幽々子。妖忌と迅真はそれを見て、ほぅ…と息を吐き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パシッと幽々子が寄り掛かるように桜に手をついた瞬間、凍りつく。

 

「?どうしたの?二人と―――」

 

 言葉は最後まで紡がれなかった。

 

 突然幽々子はその場に倒れ、それと反比例するように桜が動き出した――――。




 歯車は動き出す。全ては死を始めに。

 狂乱の宴の幕は開けた。最後に笑うのは――――
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