東方種変録   作:大神 龍

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第百十五話

「ハァッ!!」

 

 音を置き去りにしたその斬撃を、寸前で後ろに下がり回避する白華。

 

「それじゃあ私は斬れないわよ!!」

 

「知ってる」

 

 その言葉が響くと同時、白華の影が刃となって襲い掛かる。

 

「おっと――――!!」

 

 影の刃を回避した。そう考えた瞬間、背後に回っていたルーミアの存在に気付かず、そのままダーインスレイヴで吹き飛ばされる。

 

 一回バウンドした後、空中で体勢を立て直し、吹き飛ばされた方向を睨む。が、すでに誰もおらず、首を左右に振ってルーミアを探すが、見当たら

 

 

 ザシュッ!!

 

 

 ない。腹部を突き抜ける痛みが自分の察知力の低さを笑う。

 

「っりゃぁ!!」

 

 下から突き抜けていたダーインスレイヴを、跳躍することで抜き、そのまま地面を殴る。

 

 

 

 ドゴォッ!!と大地は砕け、白華の影はパッと見で分からなくなる。が、

 

 

 

「無意味」

 

 その一言が、白華の身体をこわばらせる。

 

「『喰らわれし魂よ。今再び目覚め、汝らの無念を、怨念を、世界を呪う怨嗟の慟哭を、この剣に纏わせ、力の限り復讐せよ』ダーインスレイヴ封印完全解放。『最終戦争(ラグナロク)』」

 

 黒い刃の剣は、その鞘である黒を喰らい赤となり、朱となり、紅となり、その全てを飲み込んで――――青く輝く。

 

「『さぁ、死せる魂よ。汝らの思うままに、暴れ、喰らえ』」

 

 ゆらりと揺れるルーミア。

 

 白華が構えた次の瞬間、

 

 

 

 姿が消える。

 

 

 

「ッ!!」

 

 気付いた時にはもう遅い。背後に回ったルーミアは光を超え、一撃振り下ろす。

 

 対処が追いつかない。白華は驚きで目を見開き、スレスレの所で防御の姿勢をとって急所は防ぐ。

 

 

 

 

 ドォッ!!

 

 

 

 おそらく普通に振るっただけでは出ないであろうその音を纏った一撃は、白華の身体をいともたやすく吹き飛ばす。

 

 ルーミアは即座にダーインスレイヴを地面に刺す。

 

 すると、白華が吹き飛ぶ先に無数の土壁が出来上がる。

 

 ゴッ!ドッ!ガッ!と轟音を立てながら土壁を砕きながら飛んでく白華。しかし、その姿はふとした瞬間に消え、

 

「西行妖!やっちゃって!!」

 

 声に反応してその方向を見ると、西行妖の下にいる白華を見つけ、それと同時に放たれる無数の桜の枝。

 

「『闇を前に死など無意味。闇は死すらも飲み込み、貴様を屠るだろう』」

 

 指先を軽く裂き、そこへ闇を集中させる。

 

「『血の闇衣』」

 

 血と闇を入れ替え、闇を纏った血を纏う。

 

「迅真はコレを使ってボロボロになっていたけど、それは単に血を抜く量を間違えただけ。これは全部抜かなくちゃいけないのよ」

 

 闇が体を蝕み、体を黒く染め上げる。

 

 桜の枝はその間も迫り――――

 

 

 ルーミアに触れる前にバラバラに切り刻まれる。

 

 

「闇を纏った血は全てを切り裂く。物質に限らず、霊体までも。見せてあげる。私の力の片鱗を」

 

 ルーミアは飛び出し、向かって来る桜の枝の間を嘲笑うようにすり抜けながら切り裂いて行く。

 

「フッ!」

 

 短く息を吐き、力を込めたダーインスレイヴの一撃は、切り裂かれた桜の枝を白華に向かって弾き飛ばす。

 

「セイッ!」

 

 飛んできた桜の枝を全力で蹴り上げ、そのまま白華はルーミアに突撃を仕掛ける。

 

 迎撃しようとルーミアがダーインスレイヴを振るうと同時、白華が無数に現れる。

 

 だが、ルーミアはダーインスレイヴを止めることなく振り切り、白華の内の一体を切り捨てる。

 

「残像…って訳でも無い。分身といった所かしら?」

 

「やっぱりばれちゃう!?それでこそやりがいがあるわ!」

 

 楽しそうに、心底楽しそうに彼女は言い、そのまま全員が蹴りかかってくる。

 

「『穿て』」

 

 その一言で桜で作られた無数の影が刃を生み全ての白華を貫く。

 

「カハッ!!」

 

 血を吐く、正面にいた白華。どうやら彼女が本物のようだ。

 

「さようなら。無様な道化師さん」

 

 冷徹な言葉と共に、ダーインスレイヴは振り下ろされ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はそれじゃないわ」

 

 目の前の白華が切り裂かれ、しかし、それは粒子となって消える。

 

 それと同時に貫かれるルーミアの腹。

 

「……はぁ。まさか気配に気付けないほど私が怒ってたなんて思わなかったわ」

 

 腹部を腕が貫通しているというのに、ルーミアはかなり落ち着いていた。

 

「白華。残念だけど、その程度の攻撃で私は殺せないわ。本気で殺したいのなら――――世界から闇を消し去ってみなさい。あらゆる手を使っても不可能だけどね」

 

 白華は気付いた。自分が敵に回したものの正体に。自分が犯した、罪の重さに。

 

「嘘……貴方は…闇の妖怪じゃなく……闇そのモノ…?……しかも、物理的なモノ以外の、精神的なモノすらも含んだ…!?」

 

「えぇ、そうよ。私は神に等しくなった存在。恐怖の根源たる闇。原初から存在した私は、光生まれた今でさえも生物の心の反面に存在し続ける。そう、例えば、こうすることも可能」

 

 パチンッ!と指を鳴らすと同時、白華の内部から無数の闇の刃が体中を貫く。

 

「ア…ガッ……!」

 

 振り返り、ルーミアは紅く輝くその瞳で白華を見下ろし、

 

「原初の闇へ帰りなさい。無謀者」

 

 足元から生まれる漆黒の闇は、白華を飲み込み――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな。さすがに今殺されるのは面倒なんで、回収させてもらうぞ」

 

 吹き抜ける一陣の風。それは白華を担ぎ、ルーミアを見ていた。

 

「…誰?」

 

 黒い、尖ったような髪型の青年。白いロングコートに同じく白いズボンを着ている彼は、不気味な気配を放っていた。

 

「別に、今はどうでも良いだろ?どうせまた会うんだ。次を待てよ」

 

「ダメね。今そいつを殺さないといけないの。それでもそいつをかばうなら、貴方ごと斬るわよ?」

 

「おぉ、怖い怖い。だが、それも勘弁してほしい。代わりに一つだけ。お前の恋人は必ずお前の元に帰る。それだけは約束してやろう。この命にかけてな」

 

「……分かったわ。ここはおとなしく引き下がってあげる。でも、次は無いと思いなさい」

 

 殺気を放ちながらルーミアは男を睨みつける。

 

「次はかなり後だ。その時は見逃す必要は無い。本気でかかって来な」

 

「…当たり前よ」

 

 ルーミアはダーインスレイヴに手をかざし、闇による封印を施す。

 

「じゃあ、また会おう。宵闇の女王」

 

 男はそう言うと、背後に開いた穴の様なものの中に入って行く。

 

「……紫。封印は?」

 

「……今、終わりました」

 

 紫のその一言で、張りつめていた緊張の糸は断ち切られた。

 

 そして、ルーミアはダーインスレイヴを抱きしめ、その場に倒れ込むのだった。




 闇は、静かに、眠る。全てはまだ終わっていない。これが始まりだ。

 まだ、復讐は終わっていない。

 しかし、闇は――――彼女は、夢へ身をゆだねた。まるで、現実から逃げるように。
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