東方種変録   作:大神 龍

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最終話~彼の描いた幻想と宵闇の願う幻想~

 結局、桜の少女に記憶は無い。だから、皆は彼女に全てを伝える。

 

 彼女は、いつの間にか冥界の主となっていた。しかし、冥界に彼の魂は無かった。欠片も。記録すら、存在しなかった。

 

 闇の願いは届かない。

 

 幻想は砕け散る。また、紡がれるために。

 

 境界を操る妖怪が幻想。それは、彼の幻想。

 

 闇の幻想は、砕けた彼の幻想を紡ぐこと。

 

 闇は、人が、妖怪が、神が、皆楽しく暮らせる世界を。幸せに暮らせる世界を。

 

 幻想を紡ぐために、彼女は魂を削る。それが彼の幻想を掴む手段だから。その為に、どんな犠牲もいとわない。

 

 心は何時までも彼の傍に寄り添って。心は何時までも彼に支配されて。

 

 彼の幻想を叶えるために彼女の力は過剰。手加減のため、彼女は自らを封じる。

 

 その札は、過去に彼が異世界より受け取った封印札。だから、それを使った。彼は自分自身で封印札を作っていなかったから。

 

 闇は進む。手段は和平。恐怖の支配は必ず破れる。それも、どの支配よりも確実に、格段に早く。

 

 力を振るわず、話術で丸め込む。だが、拳で語る妖怪も居る。

 

 ならば、仲間の力を振るおう。友の力を振るおう。決して自ら戦わない。それだけを考え、彼女は幻想を紡ぎ続ける。

 

 彼のための幻想を。

 

 何も、怖くない。彼は、彼女の元に居るのだ。剣となって。盾となって。彼女の一部となって。

 

 今宵も闇は走る。

 

 

 * * *

 

 

「……ここは、なまじ安らぎがあるから地獄よりも辛いんじゃないかしら。どう思う?」

 

 青白く輝く月に手を伸ばしながら、小さくなった彼女は隣のスキマ妖怪に尋ねる。

 

「……そう、ですね。地獄は辛さしかない。でも、この美しく残酷な世界は、安らぎから一気に絶望の底へと叩き落とす。そんな事が常に起こり続ける世界ですわ…」

 

 数十年前、手に入れた扇子で口元を隠しながら、冷めた眼でスキマ妖怪は語る。

 

「結局、迅真はどこに行ったのかしら」

 

 冥界に存在しない魂。ならば、と思い閻魔の元へと向かったが、迅真の魂は、記録すらなかった。

 

「まさか、私達が見ていた幻覚…なんて無いわよね」

 

「もし、そうだとしたら、貴方の持っているそのバッグとその剣はどう説明するんです?」

 

「……そうよねぇ」

 

 彼がいなくなってから肌身離さず持っていたバッグと漆黒の剣。闇にしまう事は無く、だが、闇でコーティングし、傷どころか汚れ一つ付かなくなったバッグを撫でつつ、彼女は言う。

 

「……迅真は、まだこの中に居るのかしら…」

 

 自ら剣に飲み込まれた彼。もしかしたら未だにこの剣の中に存在しているのではないか。時々そう思うが、仮にいたとしても、安全に取り出す方法など全くと言っていいほど思いつかない。だから、その可能性を考えつつ、確認はしないのだ。

 

「はぁ…それで、今度は何をするんだっけ?」

 

「月に戦争を。今回ばかりは、参加してください。今の戦力で勝てるかどうか、情報がほとんどないので分かりませんが、少なくとも貴方がいれば何とかなると踏んでいます。どうでしょうか」

 

「式は送ったの?」

 

「はい。ですが、すぐさま打ち落とされ、情報は向こうに遠方から無数の攻撃を放てる、という事くらいです。ただ、当然の様に撃っていたという事から、おそらく彼らにとって普通かそれ以下の攻撃であったかと」

 

「ふぅん…?紫の式が瞬殺ね…それは危なそう。出来るだけ戦いたくない平和主義派の私からすれば挑まない方が良いっていう感じだけど…良いわ。面白そうだし、参加してあげる」

 

 珍しく、彼女はやる気を見せる。やはり、強敵を前に妖怪の――――支配者の血は抑えられないという事だろうか。

 

「これで、最大の問題は突破ですわ…ふぅ。もし断られたらどうしようかと思いました。その時点で敗北の色が濃いですからね…」

 

「まぁ、それはそうでしょうね。紫の式が瞬殺されてる時点でそこら辺の妖怪じゃ出た瞬間に死んじゃうでしょ」

 

「盾にもならないって感じですわ。連れて行くのは中級以上にしませんと」

 

「そうね。それくらいが妥当だとは思うわよ?」

 

 彼女はそう言って、乗っていた木から飛び降りる。

 

 シュタッと着地した彼女は、背負っている剣を持つと、軽く縦に振るう。

 

「うん。まぁ、封印状態ならこんな物でしょ」

 

 軽く言う彼女。しかし、その正面は、数キロに渡って、一直線のクレーターのようなモノが出来ていた。

 

「やっぱ、封印してたらどれくらいが一番なのかって分かりづらいわ。せっかくだし、久しぶりに本気を出そうかしら」

 

 彼女は剣を背負い直し、また、元の位置に戻る。

 

「久しぶりに暴れられそうで嬉しいわ。最近はなんでか知らないけど力があふれて来るのよね。せっかくだしストレス発散の意味も込めて全力でやらせてもらうわ」

 

「あ、アハハ…その、月が壊れないくらいに抑えてくださいよ?」

 

「当然。砕いちゃったら何の意味もないし」

 

 彼女は笑い、また月を見上げるのだった。

 

「ま、実行は明日よね」

 

「そうですね」

 

 二人は、そう言って、少しだけ欠けている月を見上げる。

 

 

 * * *

 

 

 幻想はまだ始まってすらいない。今、彼の死を糧に転がり始めたのだ。

 

 幻想は彼の死から始まるのだ。全てを幸せにする幻想は。

 

 さぁ、踏み出そう。幻想を紡ぎ、見るために。

 

 スキマ妖怪が見、生命の掌握者が思い描き、宵闇の女王が紡ぎだす幻想を!!




 以上。種変録でした。バッドエンドじゃねぇか?えぇ、バッドエンド。確かにそうです。ですが、種変録が終わったとしても、物語は続きますよ…!

 コラボをしてくださった方々。感想をくださった方々。この種変録を読んでくださった皆様!バッドエンド!?まずはその幻想をぶち殺す!って方は、続編、存在録へ!!(露骨な宣伝

 種変録は約一年半か二年くらいですが、続編はもっと長くやる予定です。まだだ。まだプロローグが終わっただけ。本編はこれからだ!
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