※今回は書き方が一人称です。
俺は追われていた。追っているのは研究所の奴らだったはずだ。
俺は森の中を突き進み、山を走り抜け、川を飛び越えた。
一体俺はどこで間違えたんだろう。いや、生まれた時点で間違っていたんだ。俺は車を使い襲い来るあいつらから必死で逃げながらそう考えていた。
俺は一体どこに逃げているんだろう。変える所なんてどこにもないのに。皆、俺を気味悪がって見捨てるのに。だが、それでもあそこで実験されるのは嫌だ。水の中に2時間も入れられたり、炎の中に1時間放り込まれたり、体中を切り刻まれた時はもう死にたかった。あの時能力を解除していれば死ねたかもしれないのに。あぁ、全く。俺は本当に馬鹿な奴だよ。生まれた時は体が弱くて今にも死にそうだったのに、能力で回復すると同時に親は気味悪がってあんな施設なんかに捨てやがった。
「クソがっ!」
俺は怒りのこもった声で叫ぶ。頭の中ではあいつらに居場所を知らせるだけだとわかっていた。だが、叫ばずにはいられなかった。
逃げ出してからどれくらい経っただろう。逃げ出したのは、確か夏だったかな。今はもう雪が降っている。街に行けばクリスマス一色だ。たぶん、もう半年近く逃げ回っているだろう。能力がばれなければ俺はただの人間だ。しかも、俺はまだランドセルを背負って学校に行くくらいの年齢だ。確か、8歳になったのが秋の頃だったかな。この忌々しい能力のせいで生後1時間くらいからの記憶がある。だから誕生日も、薄らとだが覚えている。知識なんて、あいつらに読まされた本で知った程度だ。
はぁ、とため息をつきながら俺は下を向いて夕方の住宅街を歩く。すると、ドンッ!と何かにぶつかった。
「うがっ!」「うきゃっ!」
声をあげながら俺は倒れる。あそこを抜け出してからまともなものを全く食べていない俺は、ぶつかった衝撃で、ただでさえもふらふらする視界を悪化させた原因を睨みつけようとする。しかし、起き上がろうとした途端に体に力が入らなくなった。いきなり起こった体の異常に頭が反応しない。そして、数秒経ってから、今自分の発動させていた全ての力が消滅した事に気付き、瞬時に元に戻す。
起き上がると、ぶつかった相手であろう同じくらいの身長の少年が心配そうな表情をしてこちらに近づいて来ようとしていた。
「うわあ!」
即座に俺はその場から飛び退き、体勢を立て直す。
「近寄るんじゃねぇ!」
叫ぶ俺の声に一瞬少年はビクッ!と震えるが、
「でも、君、怪我をしてるよ?いたくないの?」
言われて俺は自分の姿を再確認した。腕や足には無数の擦り傷。山や川を無理に移動したせいで施設で着ていた服はボロボロになっていた。
「ねぇ、君。僕の家に来ない?その傷がどうしても放っておけないんだ。怪我が治るまででいいからさ」
とんでもないお人よしも居たもんだ。たかが傷だらけの、しかも自分に向かって近づくなと言って警戒している人に向かって家に来て怪我を治させろだと?バカじゃねぇのか?そう考える俺の頭とは裏腹に、俺は涙を流していた。本音を言うなら嬉しかった。忌み嫌われた俺に、慈悲の言葉を投げかけてくれる人が居て。だが同時に怖かった。その言葉が嘘かもしれないことが。だが、結局その時の俺は――――
「本当に、良いのか?」
「うん!来てよ!その方が楽しいからさ!」
少年の穢れ無き太陽のごとき笑みと差し出された手を前に、一歩。少年へと歩みより、彼の差し出してくれた手を取った。
直後。また全ての力が消えた。
何が起こったのか分からなかった。ただ俺は少年の手に触れただけである。それだけの事だったのに、なんで自分が倒れているのかが分からない。そして、おそらく原因と思われる少年は、俺の事を見て驚いた表情をしていた。しかし、数秒後には何かに気付いたように急いで俺の事を背負い走り出した。
少年は走りながら、
「君、能力持ちだったの?しかもそれで生命維持をしてるって事は、僕と相性悪すぎ!」
と言う。どういう意味だろう?とぼやけている頭で考えるが、結局この時は分からなかった。
そして、彼の家であろう所に着くと、少年はこのまま入っていく。
玄関を開けると少年より何歳か上であろう少女がいた。そして、少年はその人物に、
「お姉ちゃん!この子を助けられる!?」
と叫ぶように言う。少女――――少年の姉は一瞬困惑するが、すぐに何かを察したのか、
「分かった。じゃあ、応急処置をするからリビングに運んでおいて」
了解!と短く言うと、少年はリビングに俺を運び込む。そして、その場に寝かせると同時に先ほどの少女がやってくる。手にはなぜかペンと消しゴムを持っていた。
「お姉ちゃん!早く!」
「急かさないでよ!ミスって変なのまで消したらシャレにならないわよ!?」
「!それもそうか。分かった。静かにしてるよ」
少年が静かになると同時に少女はポケットからメモ帳のような物を取り出してこちらを数秒見る。そして、視線をメモ帳に移すと、消しゴムを使って書かれていたのであろう内容を消していく。消しカスがボロボロと出る中、なぜか俺の傷は治っていく。そして、少女がメモ帳を閉じた頃にはすでに俺から傷は消え去っていた。その事に驚きながら俺は先ほどまで使えなかった能力を使って起き上がる。
「何を……したんだ?」
「その疑問の答えは君はもう知っているかもしれないわよ。まぁ、意識して使っていた場合の話だけどね」
少女は俺の疑問をはぐらかして答える。どこか馬鹿にされている気がするが、彼女が使ったのもおそらく能力なのだろう。でも、一体どういう能力何だろう?少し真面目に考えるが、知った所で何かが変わる訳でもないだろう。と考えることを放棄し、傷も治ったから出て行くつもりで立とうとする。しかし、
「清雅。こいつに触って」
「はいは~い♪」
という言葉と同時に清雅と呼ばれた少年に触られ、体から力が抜ける。
「おい、これはどういうことだ?」
殺意を込めた目で俺は少女を睨むが、少女は気にせずにやにや笑いながら言葉を発する。
「決まってるじゃない。治療の報酬を貰ってないもの。逃がさないわよ?」
「報酬?俺はあんたに何かを頼んだ覚えはないぞ?」
「そうね。でも、私は結局君の傷を治した。たとえ清雅の頼みだったとしても、君に恩を与えたことに変わりはないから。嫌だったら逃げても良いよ?代わりに傷をもう一回開いて君の力を封印するだけだから」
「脅迫じゃねぇか。チッ。で?俺に何をしろっていうんだ?」
「簡単な事よ?」
少女はそこで区切り、一拍明けた後に、
「あなたがここに住めば良いだけだから」
満面の笑みで、そう言い放った。
まさかの唐突なシリアス。次回に続く……?