迅真はゆっくりと目を開ける。さっきまで見ていた夢を思い出し、ふと懐かしい気持ちになる。しかし、あの後自分がどうしたのかをどうしても思い出せない。彼女の能力がなんだったかすらも。
そこまで考えた後、両腕に違和感を感じ、迅真は横になった状態で周りを確認する。右にいたのはぐっすりと寝ているルーミアだった。迅真の右腕をがっしりと掴んで離さない。だが、右腕にルーミアがくっついているのになぜ左にも違和感があるのだろうと気になり、迅真は左を見る。そこには鳳花の顔が。こいつ、なんで俺にくっついてるんだよ。とか思いつつも迅真は動けずにいた。なぜなら、両腕を二人にがっちりつかまれ、動けないのだ。
仕方がないので見える範囲に何かないか見てみる。
顔を少し上げてみると、鳳花の後ろに少し苦しそうな表情で寝ている閃鬼がいた。そして、その閃鬼の首を絞めるような体制で勇儀が寝ていた。萃香の姿が見えないが、おそらく自分の見えない所にいるのだろうと迅真は考え、
「一体俺の寝た後に何があったんだよ……」
思わず迅真は呟く。が、その問いに答える者はいなかった。
迅真が起きてから数分も経たずルーミアが起きる。が、なぜかその目から涙を流していた。
「おはよう……って、ルーミア?大丈夫か?」
「おはよう。大丈夫って、何が?」
ルーミア自身は気付いていないようだった。
「いや、泣いてるからさ……何かあったのかと思ってな?」
「え?」
ルーミアは迅真に言われ、自分の顔を触る。手に濡れた感覚があり、それはルーミアが涙を流していた事を指していた。
「あれ?何でだろ……別に悲しい事なんてないのに……」
泣いているルーミア自身は気付いていなかったようで、自分自身が涙を流していることを疑問に思っていた。
「はぁ、まぁいいよ。お前自身が気にしてないならさ」
言いながら迅真はルーミアを抱き寄せ、優しく背中をさする。
「たぶん俺の夢に
しばらくそう言って迅真はルーミアの涙が止まるまでずっと抱きしめていた。
ルーミアは涙が止まるころには再び寝てしまっていた。しかも、今度は体に抱き着いており、少し男としては色々と気まずかった。はぁ、と迅真はため息をつき、
「で、何時まで寝たふりを続けてるんだ?鳳花。分かってるからな?」
少し怒りを込めた声で左腕にくっ付いている鳳花に話しかける。声をかけられた鳳花は、
「あらら、気付かれてたのか。てっきり気付いてないもんだと思ってたよ」
「俺がルーミアを抱き寄せたあたりから腕を折るような力で抱きしめてたくせによく言うよ」
「む。それは無意識だった。そりゃ気付くに決まってるね」
少し残念そうに鳳花は言うと、迅真の腕を離してその場に立つ。
「じゃ、これから私はちょいと片づけをするから、あんたたちはそこらへんでも歩いてきたらどうだい?」
「手伝わなくても大丈夫か?」
「あぁ。手伝わせるとしてもあんたらじゃなくて転がってるこいつらを起こして手伝わせるからね。ま、安心しな」
そう言って鳳花は歩いて行く。その後ろ姿を見送りながら迅真は、
「散歩でもして来いって事か。面白そうだし行くかな」
言うと同時に迅真は、起こすのはやめとこうと思い、ルーミアを一度引きはがしてから背負って、当てもなくそこら辺を歩く。
しばらくとぼとぼと歩いていると、今度は鬼の所とは違った村を見つける。迅真が目を変化させてそこに住んでいる者を見てみる。
そこにいたのは、背中から黒い翼生やした人や、白い尻尾や耳が生えている人たちだった。また、その翼は烏のようにも見える。
「……入り口でも見たな。というか、また襲われたりしないといいんだけど……」
「貴様!何者だ!」
その言葉を言い切るかどうかと言う所で背後から声が聞こえる。
「なんだよ……朝から運動とかちょっときついんだけども……」
疲れ切った声をあげながら迅真は振り返る。そして、そこには迅真の予想通り入口でも見かけた天狗の男だった。そして、その手には抜かれた剣を持っている。
「ここで何をしているかを聞いているのだ!さっさと答えろ!」
「……鬼の所から来たんだけど……信じてもらえそうにないかな」
鬼と言う言葉を聞くと同時に天狗の顔は険しくなった。
「人間が鬼の所から来ただと?その言葉が真実か試させてもらう!」
天狗ってこんなに好戦的だったかな。と思いつつ突撃してくる天狗の攻撃を避け、言葉を紡ぐ。そして、天狗が反転し再び迅真に刃を向け襲い掛かってくると同時に、
「『
迅真の前に炎の玉が現れ、天狗はそれと衝突する。ゴゥン!という音をたてて爆炎が発生し、火の粉が舞う。爆炎が晴れた時には、火炎によって火傷を負っている天狗が倒れていた。
「はぁ、全く。ルーミアが起きたらどうしてくれんだ」
呆れたような声色だが、はっきりと殺意を込めた声で迅真は言う。しかし、先ほどの一撃で気を失っている彼にはその声は届かない。
「まぁ良い。次やったら殺すぞ?」
明確な殺意が込められたその言葉は、ルーミアを起こしはしなかったものの、目の前にある天狗の村に住んでいる人々が危険を感じるだけでなく、その村にいる者達よりも強い鳳花達には、死神の鎌が首に当たっているかのように錯覚した。そして、それは天狗の村の強者たちも例外ではなく、ただの天狗たちよりも恐怖に震えていた。
「さてと。散歩の続きをしようかな。これでもう邪魔されることは無いだろ」
迅真はやれやれといった雰囲気を出しながら歩いて行く――――。