東方種変録   作:大神 龍

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第四十八話

「……ルーミア?そろそろ起きてくれないか?」

 

 迅真はそう言いつつルーミアの頭を撫でる。残念ながらこの状況では頭を撫でるのは逆効果である。

 

「むぅ……正直こいつの重量なら軽く持てるんだが、それだと起きた時がうるさそうだしなぁ……やっぱり起きるのを待つしかないか」

 

 そう結論を出すと、迅真はルーミアの頬をぐぃ~~~っと引っ張って遊ぶ。

 

「んん……」

 

 ルーミアは少し苦しそうな表情になると同時に、頬を引っ張っていた迅真の手を掴み、口元に持っていくと――――

 

 

 

 

 

――――ガブゥッッ!!!

 

 

 

 

 

 という擬音が良く似合いそうなほど勢いよく噛みつく。

 

「っ!?!?!?!?!?!?」

 

 想定外のダメージに迅真は噛みつかれた手を引き抜こうとするが、起きている時の数十、数百倍の力で抑えつけられ噛みつかれているため微動だにしない。

 

 しかし、そんな痛みにも拘らず迅真は必死で声を抑えて悶え苦しんでいた(声を出す余裕が無いんじゃ?という突っ込みは無しである)。

 

 なんとか痛みに耐えられるようになった迅真は、手を動かしてみる。が、想像していた通り微動だにしない。

 

「(ちょっと待て。これがこいつの『本気』の片鱗か?ふざけんな。軽く俺を越えてるじゃねぇか。これで『本気』状態の全力ならまだいいが、これで手加減状態だったらシャレにならねぇぞ!?俺が本気で戦って勝てるかどうか……)」

 

と、迅真が冷や汗をダラダラと流しながら本気でそんな事を考えていると、口の端から赤い血をこぼしているルーミアが起きる。

 

「ん~…?ふぁへ?くひのなかかひへいっふぁい?」

 

 と言うと、口の中にいれられていた迅真の手を引っ張り出す。

 

「ん~♪おいし♪って、これ迅真の手だ……えっと、その、迅真?大丈夫?」

 

「お、おう。大丈夫だ。数分で治るさ」

 

 若干泣きそうになりつつも堪えて笑顔で返事をする。

 

「そう?ならいいんだけど……その、ごめんなさい」

 

「いいって。ある意味俺の自滅だしな。気にすることはないさ。とにかく、起きたなら閃鬼達の所に行こうぜ。さっきあいつに挨拶してから行けって言われたんでな」

 

「え?あ、うん。分かった」

 

 ポンポンッとルーミアの頭を軽く叩きつつ迅真は立ち上がり、隆起させていた地面を元に戻すとルーミアに手を差し出す。

 

 一瞬ルーミアは固まるが、少し考えた後、迅真の手を取って立ち上がる。

 

「よし。じゃあ行くぞ」

 

 笑みを浮かべながら迅真はルーミアの手を引っ張り、ルーミアも迅真にしっかりとついて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、おはよ~。昨日は楽しんだか~?」

 

 迅真は笑顔でそう言うが、辺りはほぼ地獄絵図である。現状まともに動けているのは四天王と恂覇だけである。ただ、恂覇も微妙に辛そうで、顔が青い気がしなくもない。

 

「あぁ、迅真。やっと来たか」

 

 そう声をかけて来たのは閃鬼。その手にはたくさんのゴミを持っていた。

 

「一応な。正直俺の中ではもうここから出てるつもりだったんだが……」

 

「させるかよ。とりあえず、このゴミを処理してる来るから待ってろ」

 

「りょーかい。待ってるよ」

 

 閃鬼は迅真の言葉を受けながらスタスタと行ってしまう。そして、迅真は閃鬼を見送ると、クイッと別の方向を向き、

 

「さて。恂覇。大丈夫か?」

 

と、足取りが若干危うい恂覇に声をかける。

 

「う、うぅぅ~……いや、かなり頭が痛い。というか、君はよく無事だな。あの人達に酒を飲まされたんじゃないのか?」

 

「いや?俺はそうなる前にここから離れてたから巻き込まれなかったぞ?」

 

「んな馬鹿な……もしかして、君の背中に引っ付いている人もそうなのか?」

 

 不意に話を振られた迅真の背中に張り付いているルーミアは、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに理解したようで、

 

「私はちゃんと付き合ってたわよ?ただ、私が倒れるよりも先に皆が倒れちゃったから迅真の所に行ったの」

 

「「……………」」

 

 二人は目が点になる。その様子を見て、ルーミアは困惑した表情になり、

 

「いや、別に私はそんないっぱい飲んではいないわよ?ちょっとずつ飲んでただけだからね?まぁ、それでも5升は飲んだけど。でも、それだけ飲んでも鳳花達の半分どころか10分の1くらいだからね?」

 

「そ、そうか。ってか、お前、酒飲んでたんだな。全く酔った雰囲気が無かったから相当強いのか?」

 

「知らないわよ。別に飲み比べなんてしたことないし。そもそもそんなに飲む機会ないし」

 

「まぁ、確かにふらふら旅してるとそんなに飲まないよな。そもそも俺自体が酒を飲んだことないし」

 

「へぇ?君は酒を飲んだことが無いのか?なら、ここで飲んでいくと良い」

 

 にやりと恂覇は笑い、酒瓶を迅真に押し付けようとして来る。が、迅真は恂覇の頭にチョップを入れ、行動を止める。

 

「やめい。これから出て行こうとしてる奴にそんなもん飲ますんじゃねぇ。もしそれで俺が弱かったらどうするつもりだ」

 

「……そこまでは考えてなかった」

 

「アホかお前は。はぁ、まぁ取りあえずこの酒は貰って行くとしてだ。これをやるよ」

 

 スッと恂覇の手から酒瓶を取ると、代わりにブレスレットを渡す。だが、閃鬼に渡したのとは違う色で、緑色をしていた。

 

「コレは?」

 

「風のブレスレット。若干風を操れるようになる。コツを掴めば分身くらいは作れるようになるはずだ。ありがたく貰っとけ。付け方は……まぁ、自分で考えるんだな」

 

「そうか……うむ。ありがとう。しっかりと活用させてもらうよ」

 

「おう。これからもがんばれよ。じゃあな」

 

 迅真はそう言うとスタスタと行ってしまう。

 

 次に向かったのは鳳花の所。

 

「よお。元気か?」

 

「ん?あぁ、元気だよ。そう言えば、あんた達、今日出て行くんだったね。もう行くのかい?」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

「そうか。勇義や萃香には挨拶するのかい?」

 

「いや、しないよ。挨拶するのはお前と恂覇。それと閃鬼だけだ。他の奴らは別にいいだろ。正直挨拶なんかするつもりなかったんだから、代表だけに挨拶だ」

 

「なるほどね。つまり面倒だったわけだ」

 

「否定はしない。とにかく、お前にコレを渡してたら出て行くよ」

 

「へぇ?何をくれるんだい?」

 

「試作品だが……たぶん効力はあるから付けとけ。ほらよ」

 

 そう言って迅真が投げたのは透明な石の付いたネックレス。

 

「コレは?」

 

「能力効果範囲の拡大能力付きの魔法石のネックレスだ。効果は言葉通り能力効果範囲の拡大。お前の場合は皮膚から5センチくらいじゃないか?」

 

「ふぅん?面白そうな道具だね。ありがたく使わせてもらうよ」

 

「おう。感謝しとけ。んで、付け方は閃鬼が知ってるはずだ。後で聞いておけ。じゃあな。俺はこれで出て行くよ」

 

「……またいつか、戦う日が楽しみだね」

 

「……そうだな。じゃあそれまでにちゃんと強くなってろよ?じゃあ、またいつか会おう」

 

 ひらひらと手を振りながら、迅真は山の麓を目指して歩いて行き、ルーミアはその後ろをついて行きながら鳳花達に手を振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいのか?」

 

 村を出て少ししたところで、待ち構えていた閃鬼に声をかけられる。

 

「あぁ。渡すモノも渡したし、もう出て行くよ。じゃあな。またいつか遊ぼうぜ?『鬼になる事を望んだ人間』」

 

「またいつか、な。『生命の掌握者』」

 

 短く言葉を交わし、迅真達は閃鬼の横を通って山を下りて行くのだった。




 妖怪の山編、完結!……そう言えば、誰か忘れている気がするんだけど……誰か置いてきた?
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