「龍?こいつが?」
迅真は目の前で気絶している女性を見つつそう呟く。
「そう。龍だよ。ただ、この龍はたぶん神様じゃないかな。諏訪子みたいな気配もするから」
「へぇ…?これが龍なのか。いや、神様だから龍神か。でも、なんか俺の知ってる龍と違うんだよなぁ……」
「人の姿だからじゃないの?」
「あぁ、なるほど。確かにその可能性はあるな」
二人がそんな会話をしていると、
「うぅ…ん?」
うめき声を上げながら、女性は目を覚ます。
「あ。起きた。お~い。大丈夫か~?」
迅真は特に深く考えることも無く声をかける。すると、女性は迅真達の方を見て、こわばった表情になるとかなり必死な様子で距離を取る。
「……俺、なんか怖がられるような事したか?」
少し悲しそうな声色で迅真が言うと、女性は、
「あ、貴方と一緒にいるその妖怪は、あ、あの宵闇の妖怪でしょう!?数千年も前に私達龍族の半分以上を喰らったという、あの伝説の!!」
と、顔を青くしてそう叫ぶ。
「……ルーミア。お前……どんだけ喰ってんだよ。さすがにどうかと思うぞ?」
「う、うるさいわねぇ……あの時は強い生き物を探して色んなのを食べてただけよ!龍を多く食べてたのだって、あいつらが良いくらいの強さだっただけなんだから!」
ルーミアは必死で反論するが、迅真は悩ましそうな表情のまま変わらない。そして、女性は女性で臨戦態勢になっている。
「うぐぅ~……別に私はそんな食い意地張ってないわよぉ……ちゃんと一日三食だったもん……」
「ちょっ、泣くな泣くな。つか、昔のお前がどんなに喰ってようと今のお前にとっては関係ないっての。ほら、泣きやめって。お前に泣かれるとこっちまで悲しくなるんだっつの」
主に迅真の視線によって泣き出してしまったルーミアを見て、女性は少し気を緩め、
「えっと……あれ?そのぉ、その妖怪…宵闇の妖怪ですよね?あれ?あれれぇ?おかしいなぁ……たしかお母さんとかお父さんの話だと色んな生物を無差別に襲う恐ろしい存在だって聞いたんだけど……どう考えてもあの妖怪からそんな恐ろしい気配は感じないし、むしろ友好的な様な…?」
女性は途中から本気で考え始めてしまう。
「はぁ……ルーミア?落ち着いたか?」
「私の泣き出す原因を作った迅真が言うな」
ドスッという鈍い音が響く。ルーミアが迅真の腹を殴った音である。ちなみに、拳ではなく肘で。
「ケフッ……お、お前……そんな、殴らなくても良いだろうが……」
「うるさい。迅真は殴られても文句言えないような事したんだから当然でしょうが。えいえい。追撃よ」
「ちょっ、痛い痛い。や、やめてくれよ……ぐぬぅ、お前がその気ならこっちにも考えがあるぞ……うりゃあ!」
迅真はそういうとルーミアの事を抱きしめ、それによってルーミアは腕を動かす事ができなくなる。
「う、うわわわわ!な、何するのよ!もぅ!離しなさいよぉ!」
ルーミアは必死で暴れるも、迅真はそれ以上の力で抑え込み、結局抜け出せない。すると、
「あ、あのぉ……少し良いですか?」
「ん?……あ。いるのを忘れてた」
「……迅真?後で憶えてなさいよ?」
「は、はい。すいませんでした」
「……えっと…良い、ですか?」
途中からまた忘れられそうになっていた女性はもう一度迅真達に声をかける。
「あぁ、ごめん。で?何の用?」
「え、あ、その……その妖「ルーミアだ」――――ルーミアさんは、宵闇の妖怪ですよね?」
「…そうよ。何か文句あるの?」
「い、いえいえ。ただ、聞いてたよりも優しそうだから、もしかしたら違う妖怪なんじゃないかと思って……」
「そう。でも残念ね。私はその聞いた話に出てくる妖怪よ。まぁ封印されてから今までの100分の一すら出ないんだけどね」
「そ、そうなんですか……」
「マジか。お前、さすがにそれは言いすぎじゃね?」
「何言ってるの。これでも控えめに言ってる方よ?」
「……そ、そうか。分かった」
なんとも言い難い気持ちになった迅真は目を逸らしつつそう答える。
「そ、それにしても…どうしてそんな大妖怪が人間と一緒にいるんですか?」
「え?……迅真と一緒にいる理由?」
ルーミアは思わず聞き返す。
「はい。少し気になってしまって……教えていただけないでしょうか?」
「……迅真と一緒にいる理由……考えたこと無かったなぁ……」
ルーミアは女性の言葉を完全に無視しつつ、考え始める。
「う~ん……たぶん一緒にいたかったからじゃない?まぁ、それ以外に思いつかないだけだけどね。前は何か考えてたのかもしれないけど、今はこれくらいしか思いつかないわ。もしこれが望んだ答えじゃなくても文句は言わないでよ」
「……そうですか。一緒にいたかったからですか。なんていうか……すごい意外な答えです。あの大妖怪もそんな事を思うんですね」
「……バカにしてるの?もしそうなら迅真に頼んで貴方を退治してもらうわよ?」
「えっ…!そ、それはやめてくださいよぉ~!」
「なら余計な事は言わない。分かった?」
「はい。分かりました」
女性と話すルーミアを見ていて、迅真はボーっとしながら、こう思う。
「(どこかいつものルーミアと違う気がする。なんでだ?)」
しかし、彼はいくら考えてもその答えにたどり着く事ができなかった。