しとしと、という表現が合うほどに雨は弱くなっていた。
「……さすがにこうなるのは想定外だったよなぁ…」
そう呟く迅真は、三人の女性に囲まれていた。しかも全員が寝ている。
それはつい30分ほど前の話である。
あの後紫と緑はしばらく話していたのだが、紫が何を思ったのか、迅真に寄り掛かって寝息をたて始めたのだ。すると、その姿を見て緑が、
「二人とも気持ち良さそうに寝ていますが……寝心地良いんでしょうか……?」
と呟き、反対側に回って寄り掛かると、そのまま寝てしまったのだ。
「はぁ……俺も寝るか」
迅真はそう言うと、目を瞑り、すぐに寝てしまうのだった。
その数分後。
「……緑、だっけ。起きてる?」
そう聞いたのはルーミア。
「なんですか?」
その声に寝ていたはずの緑が聞き返す。
「起きてるのね。なら、少し聞きたいことがあるんだけど……良い?」
「別にいいですが……私の名前を知っているって事は、終始起きてたんですね」
「当たり前でしょ。私は自分の大事な人に全部投げて知らんぷりするようなことは基本しないわ。まぁ、ある程度は投げるけど、せめてその人の知っている情報以上の事を知るくらいするわよ」
「そうですか。それで?何を聞きたいんですか?」
「あなたの目的よ」
「目的?それはどれに対して?」
「龍神であるあなたが地上に降りて来た事。紫の計画に手を貸した事。主にこの二つね。教えてくれる?」
「ふむ。そうですね……まず地上に降りて来た理由ですが、これはただ単に足を滑らせました。そりゃもう豪快に。地上を見ようと思って身を乗り出したらこのざまです」
「バカなの?」
「うぐっ……ひ、否定できないのがまた悔しいですが、まぁいいです。そして、紫さんの計画に手を貸した理由ですが、実はこれも嘘なんて全く吐いて無いです。純粋に面白そうだなって思っただけで、別に深く考えていません。これで良いですか?」
「…あなた、良くそんな簡単に答えるわね。全く、嘘の一つくらい吐いてみなさいよ」
「いやです。お母さんに『嘘は必要な時以外吐かないようにしなさい』って言われてますもん」
「そう。まぁ、別に私は困らないから良いんだけど……それなら、迅真の事を裏切って攻撃なんてするんじゃないわよ?その時は私が全力であなたを喰いに行くわ」
「こ、怖いこと言わないでくださいよぅ……そもそも私は戦うのはそんな得意じゃないんですよ?」
「龍のくせにそんなこと言うんじゃないわよ。昔のあの戦闘狂っぷりはどこに置いてきたって言うの?」
「知りませんよそんな事……それに、一族全員に『宵闇の妖怪とは絶対関わるな。関わったとしても絶対敵対はするな』って言われてるんですから。たぶん貴方に牙を折られちゃったんですよぅ」
「しばらく見ない間に随分と貧弱になったものね。昔はあんなに暴れまわってたくせに」
「ぶーぶー。貴方が暴れ回らなければもう少し私達も顔を大きく出来ていたはずなんですよ?」
「そんなの私に喧嘩吹っかけて来たのが悪いでしょうが」
「えっ!そうだったんですか!?す、すいません…」
傍から見ても緑が明らかに落ち込んでいる様子が分かるほど、どんよりとした空気を緑は纏う。
「あなた、人が良過ぎじゃない?良くそんな性格で今まで生きて来れたわね。一体どこに住んでたの?」
「住んでたところですか?え~っと……高天原…いや、天界だった気がします」
「だった気がするって何よ」
「だって、正確な名前なんて憶えてませんもん。仕方ないじゃないですか」
「……はぁ、まぁ良いわ。それで、あなたはそこに戻らなくても良いの?」
「そうですねぇ……別に問題ないと思いますよ?別に私の事を気にかけてる子なんてあんまりいませんし」
「仮にも神様がその発言をするってどうなのかしら?だって、信仰の力で今の姿を保っているんでしょう?」
「いえ、それがそうでもないんですよ。確かに信仰の力は必要ですが、私はなんでか知らないですが妖怪としての龍の方が強いんです。だから神の力はあくまでもオマケです。あっても無くても大差ありません」
「そうなの?神様ってよく分からないわね」
「ただ、私の母親も妖怪の方が強くて、父親は逆に神の方が強いのである程度信仰が無いと消えてしまいます」
「ふぅん?じゃあ龍の中にも神様の力が強いのと妖怪の力が強いので分類されてるんだ。じゃあもしかして妖怪の方が強い龍はあまり快く思われてないの?」
「……まぁ、そうですね。今の龍は神の力が強ければそれだけで箔が付きますから。だから私は妖怪の方が強いのであまり気にかけられてないんですよ」
「なるほどね。つまりあなたは目立つのが嫌だったわけね」
「ちょっ、どうしてそうなるんですか!?」
「だって、あなた神力を抑えてるじゃない。妖怪の方が強い?何変なこと言ってんの。あなたは圧倒的に神様よりでしょうが」
「…………」
ルーミアの発言に、緑は絶句する。まさか自身の親にすら隠し通していたことをあっさりと見抜かれたからである。
「……まさか、こんなにアッサリとばれるなんて……ルーミアさんって、本当に何者ですか?」
「私は私。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そう、ですか。あはは……なるほど。確かにそれ以外の何者でもないですね……」
「……何落ち込んでるの?別に神の力の方が強いって知ってるのは私だけよ?それに、私は他言なんて滅多にしないわ。まぁ、今の私なら迅真になら言っちゃうかもしれないけど、迅真はそこから広めようなんてしないわ。それは自信を持って言える。だから安心しなさいよ。どうやってもあなたたちの住処までは届かないわ」
「ルーミアさん……ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。それと、そんなに固くならなくても良いわよ。確かに昔は暴れてたけど、今は封印されてこのざまだしね。だから、もっと気軽に声をかけて頂戴」
「え、そ、そのぉ…この喋り方が一番楽なんですけど、ダメですかね?」
「いやいや。あなたが一番楽な喋り方で良いわよ?今の喋り方が一番楽ならそれでいいわ」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えさせていただきますね」
その後、二人は迅真と紫が起きるまで談笑をしていたという。