東方種変録   作:大神 龍

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第九十八話

「さてと。結界を解いたから全部元通りだな」

 

 迅真はそう言い、隣にいる紫の頭に手を置く。

 

「な、何ですかいきなり」

 

「ん?あぁ、いや、そこに頭があったからつい、な」

 

「ルーミアさんに怒られません?」

 

「あ~…その…紫。死んだらすまん」

 

「被害はこっちなんですね!?」

 

 顔を真っ青にしながら紫は言う。

 

「はぁ…まぁ、全力で逃げますけど、私に矛先を向けないでくださいよ」

 

「次は気を付ける。それで許してくれないか?()()()()

 

 え?といって紫が後ろを向くと、そこには辛うじて真っ黒い剣の様な形をしている何かを握っているルーミアがいた。

 

「……チッ」

 

「ちょ、ちょっと!その舌打ちは何ですか!?」

 

「いいえ?別に、迅真に近づく虫が排除できなかったのを悔しがったわけじゃないのよ?」

 

「ルーミア?紫は虫じゃないぞ?」

 

「何言ってるの。紫は立派な害虫でしょ?」

 

「待て待て待て!お前、何か今日おかしいぞ!?」

 

 そう言えば、今朝もルーミアの様子がおかしかった事を思い出す。

 

 必要以上に香を締め上げてたりしていた。更に言えば、31日の朝から幽香を見た覚えがない。一体どこへ消えたのだろうか…?

 

 まさか、と考え、即座に迅真はその考えを振り払う。

 

「と、とりあえず、ルーミア。ちょっと考えてることがあるんだが、良いか?」

 

「ん?何?」

 

「いや…また旅に出ようかと思ってな。それで、出るなら何時が良いかって話」

 

「それなら何時でも良いわよ。迅真が良いって言うならそれで。私は何時でも行けるもの」

 

「そ、そうか…じゃあ、明日辺りでどうだ?」

 

「分かったわ。で、今日はどうするの?」

 

「え?あ…あぁ。今日は…だな……散歩でもするか。どうせ、しばらく戻ってくることは無いだろ」

 

「そう。じゃあ早く行きましょ。今すぐにでも」

 

「わ、分かった。じゃあ行こうか」

 

 そう言って、迅真は半ばルーミアに引きずられるように連れて行かれる。

 

 その姿を眺め、紫は一言、

 

「ルーミアさん…羨ましいな…」

 

 そう、呟いた。

 

 

 * * *

 

 

「そう言えばさ、あのウサギ、どうやって捕まえたんだ?」

 

「え?そんなの、軽く頭を叩いて気絶させた後に闇で作った鎖に繋いでつれて来たわよ?」

 

「嘘だろ…?俺の能力を完全に防ぎ切ったあいつを軽く叩いただけだと…?」

 

 正直、自身を失いそうな一言に、迅真は泣きたくなる。

 

「はぁ…やっぱり俺じゃお前には敵わないか」

 

「そんなことは無いわよ。大丈夫。貴方は私を超えるわ。遠い昔、無敵と称された私が言うんだもの。間違いないわ」

 

「そんなとんでもない二つ名持ちが俺の彼女なんだぜって自慢出来たらいいな…」

 

「すればいいじゃない」

 

「…はぁ…そうじゃないんだよ…男的にはそれは死ぬのと同義なんだよ…」

 

「なによそれ」

 

「『俺の彼女は無敵なんだぜっ!』ってのは、『俺は彼女より弱いんだぜっ!』って事の証明じゃねぇか。何か悔しいんだよ。それじゃあさ」

 

「ふぅん…?難しいのね…男心って」

 

「だってさ…俺よりもお前が強くちゃ、俺じゃお前を守れないだろうが。だから、俺はお前より強くなって見せる。それまでは、弱い俺で我慢してくれ」

 

「我慢も何も、私は別にそのままでもいいのよ?貴方がそばにいてくれるのなら」

 

「……なんか、そこまで言われると、俺の立場が無いな…」

 

 やっぱり敵わないな。と思い、迅真は苦笑するのだった。

 

 

 * * *

 

 

「って事で、俺らはもう行くぞ」

 

「じゃあまたいつか。それまで生きてたらだけどね」

 

 迅真とルーミアは、香と幽香にそう言う。幽香はどうやらずっと香の家の中にいたようで、それで見た覚えがなかったのだ。なんせ、掃除場所もキッチンもあのイベントの為だけに作った別エリアだからだ。

 

「お前らは死にそうにないからな…ルーミアのそれは俺たちの可能性を示してやがるのか?」

 

「そんなことにはなりたくないわね…」

 

「フハハ!とりあえず、次に会うのを楽しみに待ってるぜ」

 

「俺もな。ところで、目的とかあるのか?」

 

「いや?何もないぞ?」

 

「そうか…じゃあさ、都とかどうだ?時期的にはそろそろ『かぐや姫』辺りだ。()()()()()()あいつが降りて来てるんだが…行ってみる価値はあると思うぞ?」

 

「都か…かぐや姫って事は平城京か?確か絶世の美女だったかな…面白そうだな。行ってみるか」

 

「あら?私は美女じゃないの?」

 

「バカ言え。あくまでも俺は見てみたいだけだ。つか、別にお前を美女じゃないって言ってる訳じゃないだろ」

 

「もしかしたら私を置いて行っちゃうんじゃないかな?って思ったの。行かないならそれでいいわ。私だって人を殺めるのは面倒だからね」

 

 そのセリフは、暗に『私を置いてその女に乗り換えたらその女をぶち殺す』と言っているようなモノだった。

 

「ハハハ。そんなことするわけないだろうが。ってか、最近本当に病んできてないか?いつか刺されそうで怖いいんだけど」

 

「迅真…ルーミアと生きるって決めたんだろ?笑えよ。安全圏から笑ってやるから」

 

「テメェ!!ぜってーいつか痛い目見せてやるぞ!!」

 

「おぉ、こわいこわい」

 

 ぷぷぷー。と笑う香にキレる迅真。

 

「はいはい。迅真。いい加減行くわよ」

 

「チィ…また会う時は全力で後悔させてやる!」

 

「お前がこれ以上俺をどう後悔させるつもりなんだ…すでにお前をここに導いた時点で後悔してるわ」

 

「案外楽しそうだったのに?」

 

「そ、それは…」

 

 香が幽香に問われ、口ごもる。だが、それをかき消すように迅真は声を上げる。

 

「よし!それじゃ、本当にお別れだ。いつかまたバカ騒ぎに巻き込んでやるから楽しみに待ってな!!」

 

「その時は俺の本気、見せてやるよ!」

 

「おぅ!楽しみにしてるぜ!!」

 

 迅真はそう言うと、ルーミアと一緒に行ってしまう。

 

「本当に行っちゃったわよ?」

 

「それでいい。別に、俺はこの世界を巡るつもりはない。だって、最終的にここに集まるって知ってるからな。閃鬼を含むあの鬼達だって予想してたし一部は…って言うよりも、二人は知ってる。茨木童子はこの世界じゃ二択だからな。たぶんあそこにいないだろうとは考えてたぞ。まぁ、お前に言っても分からないんだろうけどな」

 

 香の言う通り、幽香は全く分からなさそうな表情をしていた。

 

「ま、(いず)れ分かるさ」

 

 香がそう言うと、目の前にスキマが開かれ、中から紫が出てくる。

 

「あの、頼みたいことがあるのですが――――

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