鈴谷、陰謀ス。   作:白水つかさ

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本編
鈴谷、淫行ス?


それは、穏やかな休日の午後のことだった。

 

意識高い系御用達の某カフェチェーンの窓際に、艦娘・鈴谷(すずや)の姿があった。

トレードマークの薄緑色の髪を帽子に押し込み、艦娘の艤装でも制服でもなくややボーイッシュな私服。あまつさえサングラスまでかけて、遠目に見た程度では艦娘〈鈴谷〉であると分からないように変装している。

そして真剣な表情で、目の前の中年男性と何やら話しこんでいる。

 

中年男性のほうは、何ともうさんくさい。

スーツこそ着ているが、こちらは変装のためというよりは威嚇のためらしきスモークグレーのサングラス、金のネックレス、ごつい()レックス。

カフェの周囲の客からは、明らかに浮いていた。

 

「マジで? ほんとにソレ、してくれんの?」

 

鈴谷が小さく身を乗りだし、男に問いかける。

男はもったいぶってうなずき、書類らしきものを鞄から取りだす。

 

「今なら、君さえその気になれば……ね。ほら、我々はあっちのほうにも顔が利くし、じいさんたちなんて君が一声かければイチコロだよ」

「ふむふむ?」

 

鈴谷はしばらくじっと紙を眺め、何度かうなずきながら、

 

「……いいね、それ。鈴谷、やっちゃうよ」

 

と、にやりと笑った。

男もぐふふと笑い、がっしりと鈴谷の手を握ろうとして――それはひょいとかわされる。

だがともかく、ふたりが意気投合した様子であるのは明らかだった。

 

 

――☆――★――☆――

 

 

その様子を、たまたま目撃したのが熊野(くまの)だった。

姉妹艦としては少々変装されていようと、遠目だろうと、すぐに気づく。そして一度気づけば、“偵察”能力は人間よりずっと高い。

というわけで様子をうかがっていたのだが……

 

(な、な、なにをしてますの、鈴谷!?)

 

熊野の頭の中には、瞬時にありとあらゆる悪い想像が駆け巡る。

変装しての密会、怪しい中年男、こそこそ話、そしてじいさんはイチコロとか――となると。

 

(まさか、まさか……パパ活ですの!? それともエンコー!?)

 

動揺を押し隠してスマホを取り出し、連絡先の中からいちばん頼りになりそうな相手に音声通話。

 

「もしもし、鹿島(かしま)さん? すぐ来てくださいまし! 鈴谷が、鈴谷がとんでもないことをっ!」

 

 

――☆――★――☆――

 

 

それからしばらくして。

 

「それで、どういうことかしら? 履歴の残るチャットはもちろん、音声通話でもできないような話のようですけど」

 

柔らかな表情にふわりとした銀のツインテール。練習巡洋艦・鹿島が、いい香りとともに現れた。

熊野は息を切らしながら、かくかくしかじかとまくしたてる。

 

「もう見た目も態度も完全にアレですわ! きっと援助交際か何かですの! 鈴谷が、鈴谷があんな男に騙されるなんて……」

 

鹿島はおとがいに細い指を当て、軽く考えこむ。そんな様子もいかにも絵になる美女だ。

 

「ふむ……確かにそれが事実であれば、鈴谷さんの艦娘人生はもちろん、鎮守府の名誉にも関わることですね。放置しておく訳には参りません」

「お願いですわ、鹿島さん! 鈴谷を淫行の危地から救ってくださいまし!」

 

熊野が涙目で訴える。

ところで――と、鹿島が続けた。

 

「どうして、私に?」

 

ぎしっと、熊野がきしんだ。

 

「い、いやその、練習巡洋艦だから無軌道な若者を矯正(おしおき)するのは得意なはずだと思いまして……」

「あらあらまあまあ」

 

ぽむっと、鹿島は熊野の両肩に手を置く。

そんな様子もいかにも絵になる……ところが、よけいに凄味を増している。

 

「本当ですわ! 有明の女王とか淫行の先輩とか思ったわけでは決して――とおああやぁやぁやあ!?」

 

小破したような奇声を上げ、というか上げさせられ、熊野が悶絶する。

膝をついた熊野をじっと眺め、冷や汗を流させてから、鹿島はにっこりと微笑んだ。

 

「まあ――お任せください。確かに、私の得意分野ですもの。……淫行がではありませんよ?」

「は、はい……ワカリマシタ」

 

 

――☆――★――☆――

 

 

カフェを出た鈴谷と男は、さして人目を気にする様子もなく、連れだってすたすたと歩いていく。

鹿島は絶妙な距離感で尾行しつつ、耳を澄ませる。

細かな内容までは聞き取れないが、どちらかといえば鈴谷のほうが積極的に話しかけているようでさえある。

そして男が意味深な笑みを浮かべ、通りに面したビルを指した。

 

「それじゃあ、この中で……」

 

逆さクラゲのつく類の建物ではなさそうだが、美少女と中年男性が並んで入っていくとなると、やはりただならぬ雰囲気である。

 

「いいね。鈴谷もそういうの、興味あったし」

 

唇の端をつり上げ、鈴谷は迷いなくビルに入っていく。

 

(これは……もう、確定かしら?)

 

鹿島は目を細め、そっと懐から艦娘手帳を取り出す。時刻や場所をさらさらとメモしたうえで、一度エレベーターが動くのを確認してから小走りで追う。

エレベーターの止まった階を確認し、あえて階段で向かう。

 

「さて、ここからが本番ですね」

 

音もなく、鹿島は階段を駆け上がる――。




初投稿の白水つかさです! 感想いただければ幸いです!
※アンチではないので安心して2話へお進みいただければ……※
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