マーミヤン、もとい甘味処『間宮』。
昼過ぎ、艦娘たちがよく集まる鎮守府内の憩いの場だ。食事もスイーツも完備し、居酒屋『鳳翔』と艦娘の人気を二分する。
店長はもちろん、間宮。
その一角、入口近くのボックス席に、鈴谷、熊野、鹿島の三人が座っていた。
「だからさー、護衛艦すずや就役のためには、樺太を日本に取り戻すしかないっしょ」
鈴谷が頬杖をつき、プリンアラモードのチェリーを細い指先でぷらぷらさせながら言うと、熊野がため息をつく。
「鈴谷の熱意とその理由は十分理解したつもりですけれど、さっきのは流石に危なっかしすぎましたわ」
「危なっかしいというか、あらゆる意味で不適切です」
練習巡洋艦として、鹿島が教育的指導。
「反省してるってば。ほら、鈴谷は褒められて伸びるタイプだから、今度は失敗しないって」
「樺太奪還を失敗せずに進められても日本政府が困ります」
「ぐぬぬ……」
鹿島の鋭いツッコミに、鈴谷は反論できず身をふるわせる。
そんなところで、新たな来客を示すベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
入ってきたのは、
国後が、入口ちかくに座っていて目についた鈴谷たちに駆け寄る。
「あれ、鈴谷さん? 鹿島さんに熊野さんまで、何してるの?」
「いえ、それは――」
どう答えようかやや迷う鹿島を尻目に、鈴谷の瞳がきらりんと光る。
「……北方領土じゃん!!」
立ち上がって、国後の肩をがしっとつかむ。
国後と、あと択捉に、特に目をつけているようだ。
「な、なに!?」
いきなり捕まれた国後や背後の択捉はさすがに腰が引けているが、
「あんたたちさ、北方領土って、今も返還交渉中なわけじゃん? つまり島が日本に戻ったら、護衛艦の名前に選ばれる可能性がチョーあるってことだよ!!」
「本当ですか? えとろふ型護衛艦、いい響きですね!」
「現代の基準だと島の名前は掃海艦・掃海艇につけられるから、海防艦と同じで地味だけど重要なお仕事よね」
……鈴谷のアピールで目の色が変わった。
「占守はちょっと、難しいとは思うっすけど……できるだけ協力するっしゅ」
「ひらがなで“しゅむしゅ”って書いたらちょっとかわいいかも……です」
占守と松輪も、少しぽかんとしながらもついてくる。
鈴谷の瞬発力には、鹿島も苦笑するしかなかった。
「まったく……あなたも人たらしですわね」
とつぶやいた、そのとき。
キッチンの奥から、落ち着いた声が響いた。
「──ふふふ、聞き捨てなりませんね」
一同、びくっとする。
声の主は、甘味処『間宮』の店主、給糧艦・間宮。
いつもの温厚な笑顔だが、どこか含みのある気配で近づいてくる。
「皆さん、樺太や北方領土の話をされていましたね?」
「や、やば……」
身をすくめ、たらりと汗を流す鈴谷に、間宮は微笑んで言った。
「いえいえ、告げ口なんてしませんよ。むしろ――私の名前の由来も、思い出してください」
「間宮
「アイスは二度とないと思え」
「ジョーク! JKジョークだから! 間宮海峡、樺太と大陸の間でしょ!」
低い声で脅され、必死に叫ぶ鈴谷。
「まあ間宮海峡の由来をさらにたどればもちろん間宮林蔵さんではありますが……ねえ」
鹿島が落ち着いた声で海防艦たちに解説している。
そんな様子を見て気を取り直し、間宮が鈴谷に手をさしのべる。
占守たちはまだ理解できず、不思議そうに首をかしげていた。
「間宮という名前は、みなさんと同じく護衛艦にはありません。北樺太と大陸の間ですから、復活の可能性は占守さん松輪さんに近いでしょうが……もしよろしければ、私も仲間に入れてください」
一同、しばし沈黙。
そして──
「っしゃー! マーミヤンゲットぉ!!」
「……マーミヤン?」
鈴谷がガッツポーズ。国後と択捉も大喜びだ。熊野と鹿島は、呆れながらも笑みを浮かべた。
そしていつの間にやらファミレスにされ、若干混乱しているのは間宮。
「間宮さんが協力してくれるなら、ちょうど鎮守府公開日が迫ってるから、マーミヤンを会場に啓発&チャリティーパーティ! なんてどうよ?」
素早く考えをまとめ、鈴谷が言う。
海防艦たちが、一斉に賛同の手を上げた。
鹿島は一瞬躊躇するが――決まった策もなく放流するほうが危険とでも思ったか、意外にも前向きな反応を見せる。
「啓発は微妙ですが、チャリティーまではセーフ……かもしれませんね。樺太奪還ではなく、艦娘と海上自衛隊それぞれの士気高揚のため、栄光ある艦娘の名前を護衛艦として復活させましょうという一般論であれば」
鹿島の言葉に、さらに盛り上がる一同。
「姉妹艦の絆を取り戻したいじゃん?」
「択捉たちもよろしくです!」
鈴谷の計画は、思わぬ形で前に進みはじめるのだった──。
はい、とある共通点とは北方関連ということでした……ほっぽでもきたかたでもありません!?