艦娘と一般市民が一堂に会する『フレンド艦娘デー』を数日後に控え、鎮守府は和やかで賑やかな空気に包まれていた。
だが、その裏で熊野は、額に汗を浮かべながら奔走していた。
「まったく、鈴谷ったら……どうしてこう無茶ばかり……」
手にしたメモには、手伝いを頼むべき艦娘たちの名前と、必要な物資のリスト。
どうにかして樺太奪還作戦――もとい『光栄ある艦娘の名を現代護衛艦に復活させようチャリティーパーティー』を成立させねばならない。
鈴谷風に言うとチャリパ。
「まずは……
熊野は艦隊の母・鳳翔のもとへ駆け寄る。
“表向きの”事情を簡潔に説明すると、鳳翔はおだやかな笑みを浮かべてうなずく。
「なるほど、“ほうしょう”のためなら喜んでお手伝いします。空母の子たちにも、励みになるのではないかしら。
まあ、難しいことはさておいても、せっかくの機会として、艦娘と市民の皆さんに美味しいものを召し上がっていただきたいですし」
「ありがとうございます、鳳翔さん……!」
その柔らかな物腰に、熊野はほっと安堵の息をついた。
もっとも、鳳翔のことだから、どこまで裏事情を読み切っているかは底知れない。
続いて熊野は、独特なシルエットの
怪しげな通販のチラシを前に悩んでいた龍驤だが、熊野の提案を聞くなり、にんまりと笑った。
「おう、ええで! たこ焼きからお好み焼きまで、なんでもござれや! でも広島焼きだけは勘弁な。
“いずも”と“かが”に先を越されたが、次は絶対に元祖一航戦の“ほうしょう”と“りゅうじょう”やで」
「え、ええ……よろしくお願いしますわね」
頼もしさと同時に若干の不安も覚えた熊野だったが、背に腹は代えられない。
まあこっちは裏事情については大丈夫だろう、と熊野はこっそり思った。
さらに、パーティーの匂いをかぎつけ、
「パーティーと聞きました! 食べ放題ですか!?」
目を輝かせる赤城に、熊野はあわてて手を振った。
「え、ええ、まあ、赤城さんも名前が復活してない方としていわば主催者がわですから……でも、その前に護衛艦としての艦名復活に向けた運動を! 加賀さんは復活されましたし!」
「一航戦の誇りではらはふくれません」
「ご自分のアイデンティティーを否定しないでくれませんかっ!?」
食い気に負けそうな赤城を、鳳翔がそっと制止する。
「赤城さん、まずはお手伝いをお願いいたしますね」
「は、はい……!」
さすが鳳翔。
熊野は内心で感謝しながら、これまた自分からやってきた問題児に目を向けた。
「護衛戦艦、きよしもーっ!」
……現代の護衛艦に戦艦はない。
熊野は苦笑しつつ、てきとーにあしらっておく。
「まあまあ、後でね、後で!」
そして、中心人物である鈴谷たちはというと――
「できたーっ! 見て見て、FFMすずやの想像図!」
「こっちは掃海艦えとろふ!」
「かわいいペンギン……じゃなくてエトピリカのぬいぐるみもあるわ」
案外、着実に準備を進めている。
「よーし、これで樺太奪還計画……おっとっと、艦娘の名前を護衛艦に復活させようチャリパの準備は万全じゃん!」
そしてやってくるのは、間宮。
「ふふ、皆さん随分楽しそうですね。海峡由来の私は、実は現代の命名基準だとあてはまる艦種がなさそうですが……もちろんおっさん由来ではありません」
一同、びくりとする。主に鈴谷が。
「そうでしたわね……」
腕を組んで悩む熊野だが、鈴谷はぽんと手を打った。
「イメージ的には、海保の測量船? 今の基準は違うっぽいし、間宮さんが艦じゃなく船でよければだけど」
間宮は微笑み、軽く頷いた。
「ええ、私はそれでも構いません。ただ、あまり無茶はしないように」
「も、もちろん! ……たぶん」
熊野は頭を抱えたが、行き足のついた巨船――泥船かもしれない――は、もはや誰にも止められない。
(……せめて、フレンド艦娘デー自体は無事に終わりますように)
熊野はそっと天を仰ぎ、切実に願う。
だがその口元には、ほんの少し笑みも浮かんでいる。
「まったく、鈴谷に振り回されてばかり……でも、少しはいいイベントになるかもですわね」
会場の片隅で、そんな声が溶けた。
ロジはお嬢様のたしなみ? 執事はいないのでした。
>……現代の護衛艦に戦艦はない。
執筆当時はないはずだったんですけど……。