年に一度の、フレンド艦娘デーが幕を開けた。
快晴の空の下、特設会場には屋台や露店が並び、艦娘も一般の来訪者も笑顔を浮かべ、賑やかに行き交っている。
そしてひときわにぎわっているのが、甘味処『間宮』とその周囲を会場とするチャリパこと『栄光ある艦娘の名を現代護衛艦に復活させようチャリティーパーティー』だ。
鳳翔が仕切る料理ブースには行列ができ、龍驤の屋台も客がひきもきらない。
清霜は戦艦の模型を手に走り回り、「護衛艦きよしも建造! 戦艦で!」と元気に叫んでおもにお子様に大人気となっていた。
そして、会場の喧騒のなか、鈴谷はちゃっかりと陰謀を巡らせている。
「ちーっす、このチャリパ主催してる鈴谷でーす! ぜひ今後の艦娘ネーム復活をよろしくお願いしまーっす♪」
笑顔で愛想を振りまきながら、スーツ姿や軍服姿の男性たちの間をひょいひょいと歩き回る。案外女性にも受けがよいのがあなどれない。
鹿島がジト目でそれを見つめ、こめかみを押さえた。
「まったく、少し目を離すと……」
案の定、鈴谷は偉い人にしなだれかかりかける。
だがその瞬間、鹿島に首根っこをつかまれ、ずるずると引き戻された。
「はい、アウト」
「ちょちょ、待って待って! 今ちょうど護衛艦すずや計画とそのために必要なもろもろの話を親密にしようとしてたところで……」
「ダメです。主に必要なもろもろと親密のあたりが」
「樺太奪還~~~!」
鈴谷のネタバレボイスが、悲痛に響いた。
その間にも、
小さな子供たちが熱心に訴える微笑ましさに、会場の人気は高い。
しかしこちらはこちらで、
「不法占拠した北方領土を返すピィ!」
「南樺太も返すッピ!」
熊野があわてて飛んできて、二人の口をふさいだ。
「お、おやめなさい~! その鳥はだいぶ危険が危ないですわ!」
「そんなことはないッピ……! むぐぐ」
なんとか危機を乗り越えたところで、会場に長身の大和撫子がやってくる。
「……あら、ずいぶんと賑わっていますわね」
言わずと知れた戦艦・大和だ。確かに護衛艦〈やまと〉はいまだ存在しない。
彼女は優雅な笑みを浮かべ、会場を見渡す。
「あら、大和さん! 大和さんほどの方が来てくだされば百人力ですわ、もちろん主催者がわとして入場料は無料で――」
と熊野が言いかけたところで、鈴谷がポケットから笛を取りだし、ピィと……もとい、ぴーと吹いた。
「はいNG、たっぷり入場料いただきまーす!」
「……え?」
困惑する大和に、手のひらを差し出す鈴谷。
大和も熊野ももちろん状況が飲みこめていないが、鈴谷は一人分の入場料くらいではとても通してくれなさそうな構えだ。
「私は大和よ。先代はいても、護衛艦やまとはいないはずだけど……」
「宇宙戦艦! 護衛艦どころの騒ぎじゃないじゃん! ズルすぎ!」
……鈴谷はひがんでいた。
「銀河の彼方イ○カンダルへやからなぁ」
「テレビまんがですね……」
いささか納得したような表情で、龍驤と鳳翔がうなずいているのを見て、熊野は頭を抱えた。
「最近だと銀河の彼方といったら飛び出していけなのです!」
そして電が突如としてぷらずま、もといPlazma走りで乱入し、電波をまきちらしながらゲートを駆け抜ける。
だが、護衛艦いなづまは現役であるため、電もしっかり入場料を取られる側である。あとそれは宇宙の彼方。
「なのです? うう……」
電はしょんぼりと財布を取り出した。
「ほら、ちゃんと払ってねー」
「入場料は嫌いなのです!」
とにぎやかな入場ゲートに、小柄な艦娘がやってきた。
白いワンピース型セーラー服に水兵帽、清楚な雰囲気を纏ったその海防艦娘は――
「私も、混ぜてもらっていいですか?」
鈴谷は一瞬、絶句した。
……昭南とはすなわち、シンガポール。
これにはさすがの鈴谷もお手上げで、護衛艦として名前が復活する可能性は、100パーセント、無い。
「え、えっと、昭南ちゃん! 入場料無料……い、いえ、収益半分あげます! はい!」
何故か直立不動で叫ぶ鈴谷。
「な、なんかもう……いろいろ負けた気がする」
「……勝ち負けの問題なのかしら?」
熊野の呆れた声が、パーティー会場の喧騒に溶けていった。
「――ちなみに観測艦“しょうなん”はありますが、これは景勝地「湘南」に由来し、シンガポール島を意味する「昭南」ではないのです。
艦娘になったらウェーイ系になるのでしょうか? 観測艦は真面目っ子な気もしますけど。
以上、鹿島先生のワンポイント講座でした……」
ピッ! ピィ!