宴もたけなわ。
艦娘と一般市民の視線を集め、ひとりの艦娘が姿を現した。もと戦艦にして現工作艦、朝日。
栗色の髪に穏やかな表情、明治の香り漂う丁寧な口調と、古風な立ち居振る舞い。
最古の艦娘たるその瞳には、鋭くも暖かい光が宿っていた。
「皆さま、本日は誠に、お疲れ様でございました」
賑わっていた会場が、しん、と静まる。
朝日は壇上に立ち、ゆっくりと周囲を見渡すと、落ち着いた声で語り始めた。
「歴史に残る艦名の数々――その名は、武運つたなく一代で消えたものもあれば、海外艦のように六代、七代と受け継がれてきたものもあります」
国後や択捉、そして鈴谷が、思わず息を呑んで聞き入る。
「けれど、いずれの場合でも、その時代にその名を背負った艦は唯一無二。作り手の思いを背負い、乗り手の命を背負って、艦の名のもとに役目を果たしました。
そしてその名を受け継ぐ私たち艦娘の役目とは、人の争いを引き起こすことではありません」
柔らかに回顧しつつも、軽く釘を刺す朝日。鈴谷は拳を握り、悔しそうに口をつぐんだ。
だが、朝日は微笑みを浮かべ、少し声を和らげる。
「とはいえ、日本国の主張を改めて確認するくらいはよいでしょうか。北方領土は日本固有の領土、南樺太の帰属は未定。その南樺太を流れていたのが――」
「鈴谷川!」
鈴谷が嬉しそうに叫んだ。
朝日は静かにうなずく。
周囲の艦娘や一般市民も、多少なりと事情を察したように鈴谷のほうをちらりと見やる。
「そう。鈴谷川。その名が現代に蘇るか否かは人の政治に任せ、あなたには艦娘として、いっそうの奮励努力を期待しています」
「は、はいっ!」
感動に目頭を押さえる鈴谷。
熊野と鹿島も、どこか嬉しそうに彼女を見やる。
……そんな空気をぶち壊すのが、いつもの清霜である。
「護衛艦きよしもなら争いも起きないから、先によろしく! 戦艦で!」
「や、海自が戦艦作ったらそれはそれで大騒ぎっしょ……」
鈴谷がつっこみ、
「清霜さん、お説教部屋」
朝日が言い、
「わーい!」
なぜか清霜が嬉しそうに飛び跳ねる。
まあ、尊敬する戦艦の先輩に構ってもらえると思えば無理もない。
彼女らの姿に、場は和やかな笑いに包まれた。
そして――朝日の視線が、また鈴谷に向けられる。
「それから、鈴谷さんも」
「え、ええええ!? ちょ、何で鈴谷も!? セッキョーされるようなことはしてないはずじゃん?」
困惑する鈴谷に、朝日は珍しくも頬を赤らめ、言う。
「目的のためとはいえ、その、殿方と……みだらなことをしていたとか。詳しく聞かせていただかなくてはなりません」
鈴谷は、叫んだ。
「鈴谷、パパ活なんて、してなーい!!」
艦名の悲喜劇をお届けしました。
鈴谷が樺太の川に由来することは公式でも言及されていますし、もがみ型護衛艦で旧最上型のうちすずやだけ反映されていないのも事実です。
すずや復活の日は来るのでしょうか……。
(隣国では係争中の島の名前の揚陸艦もあるわけですし、「からふと」型掃海艦はあってもよいのでは…)
ちなみに、むかし艦これRPGで同じテーマを扱ったことがあります。
ちょうど「あさひ」が進水したころで、ゲームのほうには「朝日」も海防艦全般も存在しなかったのですが、「朝日」はTRPGでずっと、海防艦もそのとき公式より早く、登場させていたのは先見の明と言えますかどうか。
ご感想お待ちしております!
なお次は艦これながらシリアス予定です。よろしければぜひそちらも。