宵崎奏は冬の女王とイッシュチャンピオンを目指すようです【改訂版】   作:弊鳥

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第10話 それでも、ヒナちゃんがいたから

 

 

『誰もいないセカイ』

 

 

 

カリオストロ「・・・驚いたなこりゃ、原理も何もかも不明だが・・・本当に曲を再生したら、景色も、空気も何もかも一変しやがった」

 

虹夏「本当に異世界に飛ばされたみたい。えっと?凶暴な野生ポケモンが多くいる『ダンジョン』とかではないんだよね?」

 

奏「ああうん、大丈夫だと思うよ?どこまで行ってもメロエッタの歌が聞こえてくると思うし」

 

メロエッタ「ァァァ~♪」

 

 カリオストロと出会った日、そしてライモンジムで海夢とアグネスデジタルから様々な『資質』と私が『能力型』と説明を受けた日から数日後。私はカリオストロと伊地知さんをセカイへと招いていた。何かあってから説明するのも手間かなと思って。

 

 

 カリオストロは思索の世界に耽るように。伊地知さんは物珍しさからか辺りを見回すようにと行動は対照的ながら、二人とも驚いているみたい。メロエッタも心なしか、歌声が弾んでいるように聞こえる。

 

奏「うん綺麗で透き通って、とても優しい歌声だね。これならどこからでも聞こえそう」

 

虹夏「・・・メロエッタなんて古代種聞いたことないなぁ。音楽に関わる古代種には結構詳しいつもりだったんだけれど」

 

モルガン「おそらく一般の古代種とはまた隔絶された存在かとは思います。奏の『歌』に関連する統率力に惹かれたのは定かではありませんが」

 

カリオストロ「コイツの力でこのセカイ何か・・・ってのもあんまり想像出来ねえな。スマホが原因かそれとも奏が原因か、なるほど、研究と解明のし甲斐がある」

 

 くっくっくっと、美少女らしからぬ口調と笑い声を怪しげに漏らすカリオストロ。正直な話、私もここが何なのかわからないし色々聞かれても答えられないんだけどね。むしろこっちが解明してほしい位なんだけど。

 

 

モルガン「一応忠告しておきますがこのセカイについては他者には」

 

虹夏「ああうん分かってる。明らかにわけありな場所なんだろうけど奏ちゃんにとっても憩いの場なんでしょ?なら奏ちゃんの許可なしに不用意に広めたりはしないって」

 

 私たちの方から言わずとも、伊地知さんは当たり前の様にそう返してくれて、カリオストロもその後方で首肯してくれる。

 

カリオストロ「っても本当に良かったのか?オレ様達をここに入れて。ここは奏にとっても大切な場所のように見受けられるが?」

 

奏「うん、まぁそれはそうなんだけど・・・なんだか、皆には繋がりを感じたから。メロエッタにも紹介したかったし」

 

メロエッタ「~♪」

 

カリオストロ「そっか~♪うん、うん、それなら仕方ないよねっ☆始めまして、私超絶美少女ポケモンのカリオストロって言うの☆よろしくねっ、メロエッタちゃん☆」

 

 メロエッタがエスコートを迫るように差し出した手を柔らかく握り返すカリオストロ。私と一緒に来たのはここに来た・・・というか現れたことのあるモルガンと、初めて来るマイと伊地知さんの2人と2匹。後者については直前までスマホで曲を再生することで『セカイ』に来れるっていうことに半信半疑だったみたいだけど・・・。

 

 

虹夏「実際見てみると・・・認めざるを得ないねこりゃ」

 

カリオストロ「かなり広いうえ、水辺まであるときた?なら水生のポケモン」

 

虹夏「・・・そう考えるとかなり貴重だね。スマホさえあればアクセスできるひっろい空間。世のプロチームが秘密の育成場所としてこぞって欲しがってもおかしくないかな」

 

 「うん、する気も無いけど公開したら大変なことになりそう」とは伊地知さんの談。うんなるほど・・・そういう見方もあるのか。今後は口外しないようにもっと気を付けよう。

 

モルガン「ですが、実際に体を動かすには良さそうですね。体も鈍っていましたし」

 

 そういうとモルガンは手ぶらだったところから、どこからともなく杖にも見える、見上げるほど高い大槍を手に取った。

 

 

モルガン「カリオストロ、そこに立ちなさい。ちょうどよくムーンフォースの実験台にしてあげましょう」

 

カリオストロ「はぁ!?てめぇこのカワイイカワイイカリオストロちゃんの柔肌なにしやがんだよっ☆」

 

モルガン「大丈夫です。リフレクターは張っておいてあげましょう」

 

カリオストロ「それとくしゅわざには効果無いじゃねーか!」

 

 このたった数日でもはや見慣れてしまったレスバトルの光景だが、今日は違った彩りが合わさっていく。魔法のような、不思議なオーラがモルガンとカリオストロを纏っていくのがわかる。

 

 まぁ流石に部屋の中とかでここまでやられたら大変だけど。まぁこの広い『セカイ』ならまぁまぁ。何故かメロエッタも目をキラキラさせて、手を胸の前でギュッと握りながらワクワクしてるし。

 

 

カリオストロ「ええい頭フェアリータイプな女王様に突き合って茶こっちがやられる、なら・・・ねぇねぇメロエッタ☆私の魔法練習に付き合ってっ!」

 

メロエッタ「!!」シュッシュッ

 

カリオストロ「おっ、いいインファイト!でも私の『防』を果たしてそれで貫けるのかな~?」

 

モルガン「先に言っておきますが、貴女よりメロエッタの方が合計種族値高いですよ」

 

カリオストロ「マジ?」

 

メロエッタ「!!」シュシュシュッ

 

虹夏「なんか一段と騒がしくなったけど、本当に連れてきて良かったの?」

 

奏「まぁ、うん・・・」

 

 まぁメロエッタも喜んでるしモルガンものびのびしてるから良かった・・・はず。

 

 

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 近くで巻き起こっているわざの撃ち合いを横目に見ながら、持ち込んだノートPCで作業。いつもは当然のようにヘッドフォンを付けているが、今日はいつも付けているというわけじゃなくて・・・

 

カリオストロ「あぁ!くっそ妖精野郎がちょこまかと!大人しくじめんわざでも喰らってろ!」

 

メロエッタ「ァァァ~♪」

 

モルガン「ふふ、どうやら『敵性種』でも私のとくせいで体は鈍るようで、というか野郎は貴女の方では?」

 

カリオストロ「あぁ!?オレ様なんかどっからどう見ても美少女だろうが!?」

 

 視界の端っこではカリオストロとモルガンが己のわざをぶつけ合おうと立ち回り、淡いピンク色の魔法や、蒼空を思わせるような波動が色とりどりに飛び交っている。メロエッタもその中を踊るように、舞いながら歌を歌って盛り上げている。メロエッタは急に歌うから。

 

 

虹夏「・・・この環境下で良くそんな作業進むね」

 

奏「うん、今作ってる曲にはポケモンに関連した所も盛り込もうとしてるから・・・やっぱりわざの音とか臨場感を見れるのはいいかな・・・って」

 

虹夏「だとしてもそんなてきぱきと曲ができていくかなぁ・・・?」

 

 伊地知さんはそんな私のDTMを横から眺めていた・・・ちらっと見られたことは何回もあったけど、こうまじまじと見られるのはなんか恥ずかしいな。

 

 

虹夏「そういえば・・・作曲の邪魔じゃなければちょっと気になったことがあるんだけど、海夢とかは連れて来なくて良かったの?」

 

奏「う~ん・・・考えはしたけどそんないっぱい連れてきてもメロエッタが困っちゃうかもと思ったし、一先ず縁を感じた相手だけ連れてきた感じかな・・・」

 

 私はこの『セカイ』について解明したい気持ち、解釈したい気持ちが全く無いわけではないが、それよりもここにいたいと思ってる。変に荒らされてもとても困っちゃうし、今後も連れてくる人は最小限にしておきたいなぁ・・・

 

奏「・・・まぁでも海夢は海夢で今度アニメ見る約束はしてるしそっちで埋め合わせって感じで・・・」

 

虹夏「いつの間にかめっちゃ距離詰まってる!?」

 

奏「私も音響で気になってた作品だから…あと他に曲がいいって言ってたゲームも一緒にプレイしよ・・・って」

 

虹夏「海夢の好きで曲がいいゲームってまさか・・エッ度な」

 

奏「曲が良いならまぁ」

 

虹夏「この小説は全年齢向けってこと忘れないでね???変なゲームとか変なことされてたら逃げるんだよ?最悪、雷電将軍・・・海夢のエースに助けを求めれば大丈夫なはずだから」

 

 自分のエースにもそこは駄目だって思われてるんだ。でも私自身、ゲームをプレイしていてもやっぱり音楽を聞く方に身が入っちゃって勝手にGAMEOVERしちゃってることも多かったから隣でやっててくれる分には大いに助かる。

 

 

虹夏「でもこの『セカイ』にはそれでも連れてこないのか~。ちょっと優越感・・・の割にはさぁ」

 

奏「ん・・・?」

 

虹夏「奏ちゃんはいつになったらあたしのこと名前で呼んでくれる様になるのかな~?」

 

奏「うっ」

 

 伊地知さんは口をすぼめて不満そうな表情を浮かべながら、私の目を見てそう要望してきた。

 

虹夏「もう知り合ってそこそこ立つじゃん?なのに他の面子は気軽に呼んでるのに、あたしだけ苗字のまんまで寂しいな~って」

 

奏「それは、なんかお世話になってるし、ちょっと言いにくさがあって」

 

虹夏「そう思ってくれてるなら名前呼びしてくれてもいいんじゃないかな〜」

 

 不満そうな表情の中に、ちょっとからかう様なニヤニヤとした笑みを浮かべながらそんな提案をしてくる伊地知さん。

 

・・・これは言わないと逃してくれなさそう。別に気恥ずかしいだけで嫌とかそんなわけはないし、

 

奏「虹夏、ちゃん・・・で、どう、かな?」

 

虹夏「おっ・・・ふ」

 

奏「ちょっと?」

 

虹夏「ふぅ・・・ちゃん付け、これはこれでなんか破壊力が」

 

伊地知さ・・・虹夏ちゃんは私が名前で読んだ直後、口元を手のひらで覆いながら、そっぽを向いてプルプルと震えていた。

 

なんだか特に指定は無かったけど、日がなお世話になってるし、年上だし呼び捨てはなんか。それに虹夏ちゃんにはこれがピッタリな気がするから。

 

 

虹夏「は〜やっば、なんか顔熱い。なんかこう、破壊力あるなちゃん付けは。覚悟の準備ができてたらいいけど、不意打ちは」

 

奏「虹夏ちゃん」

 

虹夏「おっ・・・ふ」

 

 なんか、愉しいかもしれない。今まで目覚めたことが無い感情が芽生えそうになる・・・寸前、虹夏ちゃんが紅潮させながら咳払いをして、無理やりにでも空気をリセットした。

 

 

虹夏「ま、まぁまぁ名前呼びありがとうって事で、そんな私はこの『セカイ』に入れてくれたわけだけどさ。他にはどんな人ならこの『セカイ』に入れてもいいの?奏ちゃんとしては」

 

奏「え?ええっと」

 

  虹夏ちゃんにそう言われて、メッセージアプリの連絡先一覧を登録順から思い出す。虹夏ちゃん、海夢、この前もらったアグネスデジタル、終わり。

 

奏「そもそも、そこまで交友関係広くないかな。他とかいないくらいには、うん」

 

虹夏「そういえば基本引きこもりっぱなしだったわこの娘」

 

 思い出す程の交友関係はあまりない、というか全くないから正直どんな人ならいい、っていうのは思い浮かばないな。

 

 ただ、何となく。

 

奏「でもそうだなぁ・・・私も必要以上にここに入れたいとは思わないかな、けどその上で良いって思えるのは」

 

 今まで私が知っている人で思い返したとき、一人だけ思い当たった。私よりももう少し低い身長。少し鋭いようでいて優しい紫色の瞳。ふわふわで歩くたびにたなびく、隣で肩を寄せ合って座った時にはくすぐったかった白い髪の毛。

 

奏「ヒナちゃん位、かなぁ」

 

 何年も前に最後に別れた友達・・・を挙げるのは流石に自分の交友関係があまりに狭いことを自覚せざるをえないけど。でもそれでも今まで一番仲が良かったといえるのはヒナちゃんだと思う。その割には苗字もうまく思い出せないけれど・・・

 

虹夏「ヒナちゃん・・・前にちょっと聞いたことあるけど、確か奏ちゃんがトレーナーズスクールに通ってた時の同級生、だっけ?」

 

奏「うん、でも正直に言うとあの頃のことはほとんど覚えてないんだよね。」

 

 私にとっては生きて来た意味、これから生きる意味を根底から覆されるような出来事。お父さんの病とその理由を知った時から、回顧する暇も無く曲を作り続けて来た。その代償か、暖かい家族の思い出は今も思い出せるけど、それ以外の思い出は夜霧の中に散らばっていった。ただそれでも残っていた微かな記憶

 

奏「ただ・・・キラキラした記憶としては残ってるんだ。一緒にいられただけで楽しかったあの頃。一緒に競い合って、負けたくないって意地はって、買っても負けても楽しくて・・・。」

 

 多分、学校そのものはそんなに楽しいとは思ってなかったのだろう、それでも

 

 

奏「それでも、ヒナちゃんがいたから楽しかったし、競い合いたいって思えてた気がするよ」

 

虹夏「・・・奏ちゃんにもそんなころが合ったんだね」

 

奏「うん・・・大切な、友達だったんだ」

 

 結果的には私がスクールを途中でやめて、やらなくちゃいけないことができたからそこで縁は切れてしまった。離れ離れになってしまったけれど・・・それでもかけがえのない大切な記憶だ。

 

虹夏「・・・それにしてもヒナちゃん、か・・・」

 

奏「?あ、もしかしてに、虹夏ちゃんも知り合いだったりするのかな?そういえば伊虹夏ちゃんもスクールに通ってるんだよね、なら年も遠くないはずだし」

 

虹夏「いや、うん、知ってるって言うか、同年代でヒナって言えば・・・」

 

 顎に手を当てて少し考え込む虹夏ちゃん。少しひとり言をはいた後、喉奥に何かが出かかっているような表情で口を開いた・・・なんだろう?普通の知り合いならそういってくれればいいのに

 

 

虹夏「えっと、もしかしなくてもそのヒナちゃんって・・・苗字が『空崎』だったりしない?」

 

奏「あ、うん確かそうだった、かな?自信はないけど」

 

虹夏「奏ちゃんと似た白い髪?」

 

奏「そうだね。それは間違いないよ。」

 

虹夏「小さい?」

 

奏「小さい」

 

虹夏「奏ちゃんと同い年・・・スクール出身・・・白い髪・・・ちっちゃい・・・そして空崎ヒナ」

 

------ピッ、ピッ、ピピッ

 

 何かを思い出したかのようにスマホを取り出し、タプタプと何かを入力し始めている虹夏ちゃん。どうやら直ぐに出てきたようで、何かが写った画面を私に見せてくる。そんな急に見せたいものだなんてどうしたんだろう

 

虹夏「えっと、その”ヒナちゃん”ってこの娘?」

 

 

 

 

 

 

 虹夏ちゃんが魅せてくれた画面に移ったのは小さくて、一度一緒にお風呂に入った時に手入れが大変だったことは覚えている長くて白い髪の女の子。うん、間違いない。それ以外の人たちは思い出せないけれど、この娘だけは鮮明に覚えてる。あの時よりも少し大人びた顔つきでお互いに成長してしまった箇所も、成長していない箇所もあるけど・・・

 

奏「この娘が私の言ってたヒナちゃんで間違いないよ。流石にあれから成長してるけど・・・懐かしいなぁ」

 

虹夏「・・・マジかぁ」

 

 「ここまで世間知らずかぁ・・・」と額に手を当てる伊地知さん、そこまでの反応する?でもよく見てみると写ってる場所が少し変な気がする。

 

 

 

 

 かなり広く、数万人規模で収容出来てしまいそうなスタジアムに数えきれないほど大勢の観客がいて、その中央に堂々と立っている。あ、もしかしてプロリーグの監督になれたのかな?

 

 

 そう思っていた矢先、虹夏ちゃんの口から飛び出たのは予想もしてなかった一言。

 

 

虹夏「奏ちゃん、この娘は・・・」

 

 

 

虹夏「今2連覇中の『イッシュチャンピオン』だよ!!!」

 

 

 

奏「・・・はい?」

 

 

 

 




イッシュチャンピオン 空崎ヒナ(出典:ブルーアーカイブ)

『資質』
トレーナーが持つ潜在能力を可視化したもの。
EからSまでのランクがあり、プロトレーナーならまず最低Cは欲しいものとされる。
なおA,AA,AAA,Sとなるが、純粋なAAランク以上は地方ごとに数える程度しかいない。

『+,-』
資質における+はある一点、または局所的に秀でているものがある場合に付けられる。
反対に-は明確に劣っている要素がある点。
奏なら『歌を理解できるポケモンでないと従わない』や『体力がないため長期戦に向かない』など

原則としては各記号がないランクと同水準。

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