宵崎奏は冬の女王とイッシュチャンピオンを目指すようです【改訂版】   作:弊鳥

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第3話 妖精と救世主と

 

 

モルガン「貴女は『妖精』種と呼ばれる種族をご存じですか?」

 

 モルガンは先ほどまでと同様、リボンでまとめた長い銀髪を鉄骨へと垂らしながら、もう片方の手に槍を携えて鎮座している。とはいえ圧制者のような雰囲気は幾ばくか鳴りを潜め、問題というよりはこちらを確かめるような軽い質問をこちらに投げかけてきた。

 

 『妖精』種?ええっと、確か昔授業の中で聞いてことがあったような無かったような、ええっと・・・。

 

奏「ポケモンバトルには向いていない種族?確か種族値も低めで真正面から戦おうとするタイプでは無いってどこかで聞いた覚えがあるけど・・・」

 

モルガン「ほう・・・中々命知らずですね、目の前にその『妖精』種がいるというのに。」

 

奏「え゛っ?」

 

 あっ、そういえばさっき言ってた気がする。モルガンが『妖精』種って。あれ?今私一瞬で地雷を踏みぬいた?いや、でも・・・まぁ嘘はついてないし。

 

奏「でも『妖精』種ってもっと羽があって、小さくて、悪戯好きだとかって教わった気がするんだけど・・・それこそ御伽噺に出てくるようなふわふわした感じで。それに比べてモルガンはなんかこう、圧というか戦えそうというか。あからさまに命を刈り取る武器をお持ちだしあんまり『妖精』種に見えなかったっていうか」

 

モルガン「その認識自体は間違っていないでしょう。それについては私が一般の彼ら彼女らとは少し異なるというのもあります。実際私のような例外とも言えることはありますが・・・殆どの『妖精』種は小さく、いわゆるステータスよ呼ばれるものは貧弱そのもの。正面から戦う力を十全には持ち合わせておりません。それが故、ポケモンバトルの世界に呼ばれることはあまり多くないでしょう。故に見覚えが無いのは仕方ないかと。」

 

 うんまぁポケモンバトルも見たりしないから実際はわからないけれども。それはまぁ・・・多少は仕方ないことだとは思う。ポケモンバトルにもポケモンによって向き不向きはあるというのは私でもわかること。ただ強い技をぶつけ合うだけがポケモンバトルじゃない。

 タイプやわざ、立ち回り一つとっても大切な事って、トレーナー図スクール時代に仲良くしていたあの娘もよく言っていたけれど。今モルガンが言ったように正面から戦う力こそ無くても、重要な要素の一点が無くても他の要素で補えば何とかならなくも無いともう。

 

モルガン「・・・ただ、ポケモンバトルが問題であれば他の種族にもそういったものはあるでしょう。それ以外にも、人間と暮らすにおいてそれ以上の欠陥が他ならぬ『妖精』にはあるのです。本当に、どうしようもないものが、全くもって度し難いものが」

 

奏「う、うん、わかったから落ち着こう?なんだか不機嫌さがどす黒くなって滲み出てるし。」

 

モルガン「んんっ、申し訳ありません。・・・先ほど貴女も申していた、”悪戯好き”という点。遊戯・・といえば確かに聞こえは良いですが・・・少しニュアンスにズレがあるように思われます。」

 

 悪戯好き、う~ん・・・お風呂にこっそり入浴剤いれる、とか?それか、いやそんな悪いことはないだろうけど・・・勉強中に『ねむりごな』してくるとか。

 

モルガン「正確に言えば、彼ら彼女らにとっての悪戯とはどんな悪意に満ちた事だろうと躊躇も反省も後悔も無く、実行してしまうということでしょうか。それこそ幾らの傷害を生もうとも。結果としてどんな悪辣な結末が待ち受けていようと、その一瞬の思いつきが全てとなり、そして築いた信頼を崩壊させる」

 

 ・・・わーお

 

奏「・・・そもそもあんまり誰かと関わって無いから全く参考にはならないけれど。それって悪戯のレベル超えてるんじゃないかな・・・?」

 

モルガン「ええまぁ、一般常識の違いとも言えますかね・・・あの気紛れが形を成したような愚鈍で悪辣な『妖精』種にとっては一般常識なんて欠片も無いでしょうし、あったとしても喜々として破ることを楽しむでしょう。『妖精』種と関わるということは、そんないつ爆発するかも、規模も分からない爆弾を抱えているようなものですから。進んで持ちたがる人はいないでしょう」

 

 こちらがどこかに否定を挟むような間隙を生む事も無く、彼女の中では最早諳んじる事が容易な程当たり前となっていることをこちらに伝えてくる・・・自らもそうである種族に対して、これほどまでに侮蔑を向けられるようになるまで、一体彼女はどれだけのものを見て来たのか。私に当てはめてみても想像もできなかった。

 

 それでも彼女は話し始めてからその長い髪を揺らすこともなく、目線を常に前に据えたまま、聞いているこちらが圧されていると勘違いするような眼差しを向け続けている。

 

モルガン「かといって野生に目を向けたところで結果は同じ・・・より単純な”力”が求められる場所では悪戯のような目に余る行為を袖の内側から覗かせただけでも瞬時に強者に淘汰され、そうでない者が集まるコミュニティでは、連携などとることも出来ず、人間と同じくそれを崩壊させるだけ。」

 

奏「・・・」

 

モルガン「『妖精』種はこの世界で唯一と言って良いでしょう・・・種として、他の誰とも、どのポケモンとも、共存できない傲慢と享楽、刹那主義の象徴なのです。」

 

 モルガンは、それが至極当然に淡々と。それでいてわずかに恨ましさと悔しさが入り混じった目を私の、さらにその先を見据え、噛みしめるように続けている。

 

モルガン「私は・・・同じ『妖精』種に生まれたポケモンとして、これを良しと見なしませんでした。野生でも捕獲されていても、生きていける場所は少なくなってしまう。そうなる前に、共存できるよう、・・・救わなければと。」

 

モルガン「ただ・・・私に与えられた権能、先々を見据える眼をもって、様々な未来を何千、何万と推測したところで、行きつく先は無意味なのだと気付いてしまいました。妖精は、相手がポケモンでも人間でも、どこかできっと間違える。致命的な場所で致命的な選択を無自覚なまま行い、揺らぐ火の中に悦んで自らとその仲間を突き落とすでしょう・・・であれば、もう私には救えない。救うことなんてできやしないのです。融和でも圧制でも、救い手になる資格を持つ種の王すら嘲笑の対象とする誤った種族を前に、滅びゆくのをただ見るのみ。」

 

 以上です。と、どこか終わった事を回顧するような表情で独白を終えたモルガン。・・・なんでそんな言葉をつむげるのだろう。私だったら・・・多分、無理だ。そんな何かに縋るような顔をしながら、諦めるなんてできないから。

 

 だから・・・諦められない私だからこそ伝えられることがあるかもしれない。

 

奏「・・・無理に本当の思いを捻じ曲げて、変えようとするのは・・・本当に大変な事だと、思う。」

 

 私の脳裏によぎるのはお父さんのあの日記。私のために、私と生きていくために望まない音楽を作ろうとしていたお父さんは本当に辛そうだった。それは多分、どんな人間でもポケモンでも同じこと。望まぬ変化は心の底から苦しいのだと。

 

 モルガンの目の前に立ち、初めて真正面から視線を交わす。その眼は潤んではいなかった。泣いてなんていなかった。ただその諦めようとしている瞳に、不意に私の姿が重なった。なら・・・でも・・・なおさら言わないと。

 

奏「でもだからこそ、諦められないんだよね?」

 

モルガン「・・・!」

 

奏「多分・・・いやきっと、ここで諦めてもモルガンの心には残り続けるよ。・・・呪いみたいに。それこそ生きていくことがたまらなく苦しくなる位。」

 

モルガン「・・・呪い」

 

奏「だって、モルガンがいる意味はそうだって思ってた・・・んだよね?」

 

 薄い繋がりかとも思うけれどふと思った。モルガンも同じなんだ。私がそう、誰かを救わなくてはいけないように。この呪いは私たちの一部なんだ。喜んで切り離すなんてもっての外、誰にも渡したくない。私たちだけの宝物で、心臓の鼓動を急速に早める病。

 

モルガン「しかし、先ほども申し上げたように、変える手立ては。」

 

奏「・・・これは一つ提案なんだけど、『妖精』種を変えてしまうんじゃなくて・・・」

 

 私はふと思い立った・・・いや、曲を作るときにそうあって欲しいといつも願っている希望的観測をモルガンに届ける。

 

奏「他の仲間の方から、変わりたいって、共存したいって思わせればいいんじゃないかな?」

 

モルガン「変わってもらう・・・ですか?」

 

奏「そう、彼ら自身のオモイの力で。悪戯なんかより優先したいものがあるって思わせる・・・とか。例えば・・・今単純に思いついたことだけどさ、モルガン自身が誰かと一緒に凄い事を成し遂げてみて。他の『妖精』種にもそれが良いと、自分もそうなりたいと何よりも強く、焦がれる様に思わせればいいんじゃないかな?」

 

モルガン「・・・だとしても、そんな多くの『妖精』種がそこまで興味を持つとは」

 

奏「確かに、最初は少しの『妖精』種しか救えないかもしれない。私の曲も・・・最初はそうだったから。」

 

 ふと、動画サイトに曲を投稿し始めてくれた時のことが浮かんできた。最初こそ、本当に一日に一回見られれば良い方だったけど、救うことしかできない私はそれでも曲を作り続け、見てくれた人が、救われてくれた人が、他の人も救われて欲しいと思いを込めて広めてくれた。そのおかげで、今日も一人でも多くの人に私の歌を届けられてる。

 

奏「それと・・・同じこと。今は小さくても、いずれ大きな炎となれば。誰もが焼き焦がされて、目なんて離せなくなると思う。それこそ・・・モルガンが誰かとポケモンチャンピオンになっちゃう・・・とかさ」

 

モルガン「・・・私に誰かの軍門に降り、兵器として力を振るえと?」

 

奏「そ、そこまでトレーナー全部は物騒じゃないと思うけど・・・」

 

 過去、授業で聞いた内容を思い出す。

 隣に座るあの娘と、素敵だねって笑いあったあの言葉。

 

奏「共に歩む”仲間”として、どの『妖精』種が見たこともない景色を見せられたらいいんじゃないかな・・・そう思うんだ。」

 

メロエッタ「~~♪ァ~♪」

 

モルガン「・・・私を仲間として・・・頂点。まだ私について何もお伝えしていないにも関わらず、『妖精』種である私を・・・」

 

 と、初めて目の前のモルガンが私から視線を逸らした。僅かな時間目を閉じ、何か考え事をしている。今、伝えるべきと思い、本能が紡ぐままに言葉を発した私と違って、この刹那で色んな思考を巡らせているのだと思う。

 

モルガン「・・・決して簡単な道のりでは無いでしょう。俗世より遠くにいた私とて、人が多く往来するこのイッシュ地方において、チャンピオンになる事の厳しさは伝え聞いています。それに貴女はまだ『妖精』種のことを誤解している。たとえ頂点に昇りつめたとて、すぐに忘れてしまう愚かな同族はいるかもしれません」

 

奏「うっ・・・だ、だよね・・・うんまぁ、ごめんなさい。その、ポケモンバトルの事とか良く知らなくって。それ以外にいい方法は・・・今私が言った方法じゃなくても、モルガンが少しでも実行できると思えるような方法は無いかな」

 

モルガン「・・・随分と諦めが悪いのですね、貴女は」

 

 私が流石にそんな上手くいくようなわけは無いと思っている最中、モルガンから聞こえてきたのは、少し予想外な事。

 

モルガン「・・・曲」

 

奏「・・・ん?」

 

モルガン「曲を・・・聞きたいです。奏の作った」

 

 ・・・えっと、急に話が変わったんだけど。あれ?私、作曲家だなんて言ってたっけ?確かにちょっと煩いかなって思って、モルガンが話を始める前にとりあえずは止めていたけれども・・・あの未完成の、インストだけの曲。

 

モルガン「先ほど、私が起きた直後はかかっていましたよね?いつの間にか止めていたようですが。それを、聞きたいのです」

 

奏「いい、けど・・・でもまだ完成してないよ?えっと、別に曲を聞きたいって言うには全然問題ないんだけど、まだミックスも歌詞も付いてないし、インターネット上に発信するレベルまでブラッシュアップも済んで無いんだけれども」

 

モルガン「構いません、いえ、むしろ・・・その方が好ましい。」

 

奏「・・・わ、わかった・・・?」

 

 何でそんな事をモルガンが言ってきたのかわからない・・・わからない、けれど。私は画面に映る表示を三角形から、2つの長方形に切り替える。

 

奏「それじゃ、いくよ」

 

 そして再び、曲は流れ始める。

 

 

メロエッタ「ァァァ~♪」

 

モルガン「・・・・・・これだけのオモイをここに・・・貴女は・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その瞬間から私の止まった秒針も、微かに、それでも再びーーーーーー

 

 

 

 

 

 




ようやく次回の第4話で皆大好きステータスが
ご意見・ご感想あれば是非に
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