性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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二学期後半に向けて

 幸い、役員にはやる気のある子たちが加わってくれた。

 中間試験という試練を乗り越え、前任の役員から引き継ぎを受ける。

 と言っても、今回は続投も多いのでそこまで大変ではない。

 絵理華から万桜への引き継ぎも「会長業務チェックリスト」を投げられたうえで放課後一回まるまる使った程度。

 

「別にいいのよ。たかが高校の生徒会長なんて多少適当でも」

「ぶっちゃけますね……!?」

「そうでしょう? たぶん、仕事完璧で無愛想な会長と、仕事はへっぽこだけど愛想のいい会長がいたら後者が人気よ。だって、生活がかかっているわけではないもの」

「まあ、あたしは万桜が適当やったら仕事奪いにかかりますけど」

「ね? 抜けてるところがあったら周りが助けてくれるから大丈夫」

 

 ちなみに副会長の璃々に関しては美夜にチェックリストどころかマニュアル並のものをどん! と渡していた。

(データなので実際に質量があるわけではない、あしからず)

 というか、絵理華も脅したり励ましたりだいぶ振り回してくる。

 

 万桜だって、やるからにはちゃんとやりたい。

 

「放課後、生徒会室には誰かいるようにはしておきたいな」

「まあそうね。ぶっちゃけデバイスで連絡受けるほうが効率的だけど」

「直接駆け込む安心感もありますからね」

「でもちょっと大変だよねー? みんなやることあるし」

 

 ミアの言い分も確かにその通り。

 

「ん……。なるべくわたしは顔を出すようにするよ。日中暇だから」

「いや、あんたも暇じゃないでしょ」

 

 特訓するために授業を減らしているだけではあるが、美夜たちよりは自由が利く。

 

「寮でできる作業はできるだけこちらですれば良いかと。テレポートを使えるメンバーもそれなりにいることですし」

「そうね。顔合わせてれば話すこともどんどん出てきそうだし」

 

 例年通りにイベントを実施するだけでも大変そうではあるものの。

 

「やるからにはいろいろやるわよ。恒例イベントの改善点を洗い出して……あと、新しいイベントも企画するんでしょ? なかなか楽しそうじゃない」

「おお、美夜が燃えてる」

「美夜ちゃん先輩、ほんとこういうの好きだよねー」

「誰かさんたちがあたしに振ってくるからよ。……まあ、嫌いじゃないけど」

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 というわけで、生活がさらに忙しくなった。

 良かったのは生徒会の中心メンバーにいつもの四人が含まれていることだ。

 朝晩の食事ではだいたい一緒なので話しやすい。

 

「ねえ万桜、新イベントの件なんだけど」

「あれね。けっこう難しいよね、例えばで出したクリスマス会も、帰省する子たちにプレッシャーかけちゃうかもしれないし」

「そうなのよね。で、だったらいっそ地域イベントにしちゃうのはどう?」

「生徒だけではなく、街のみなさんも参加できるイベントですか?」

「面白そう! それならクリスマス会じゃなくてもいいよね、例えば花火大会とか!」

「花火どうするのよ。……いや、能力使えば再現できそうだけど」

「納涼花火ライブになりそう」

 

 適当に話しているだけでぽんぽんアイデアが出てくる。

 放っておくとそのままアイデアを詰めることになるので、

 

「万桜ちゃん先輩たちー? 話すのはいいけどウチら置いてけぼりにするのは止めてねー?」

「ごめんなさい、気をつけます」

 

 議事録というほど大したものではないが、生徒会の共有領域にアップするようにした。

 ついでに生徒会メンバー用のグループチャットに更新情報が残るように。

 話しながらメモを残すのは思考操作機能付きのデバイスなら簡単である。

 

「デバイス使うのもすっかり慣れちゃったなあ」

「もうこれなしじゃ生活できないわよね」

「うん、出先で壊れたら泣いちゃいそう」

「テレポートで帰ってくればいいんじゃないかな」

「それね。やっぱり長距離テレポートを早くものにしましょ」

 

 ほんとに顔合わせるだけでぽんぽん話題が浮かぶな。

 ……いつの間にか完全に「わいわい騒がしい女子高生」の一員になってないか? 今更か。

 

「新しいアイデアもだけど、ライブの準備も進めないとね。あ、SNSの更新……は、瀬奈ちゃんの担当か」

「あはは、万桜ちゃん更新癖になっちゃってるねー」

「うん、しょうがないから自分たちのを更新しよう」

 

 一年やってたので、止めたら手持無沙汰感がある。

 生徒会のSNSを更新しなくて良くなった分、プライベートのアカウントを更新するようにしたら更新頻度がめちゃくちゃ上がってしまった。

 これではSNS中毒女子だ。

 

「カツ丼でも食べてバランスを取りたい」

「あんた定期的に食べてるじゃない」

 

 そうでした。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 セカンドライブについての話し合いもした。

 何故かこっちを生徒会室でやるとかいう逆転現象も起きたりはしたが。

 

「このまま別ユニットでやるって手もあるわよね」

「それはそれで楽しそうかも。でも、雛ちゃんたちも都合もあるよね」

 

 本人たちに聞いてみたら「遠慮させてください」と丁重に断られた。

 

「楽しそうですけど、それだと万桜先輩たちがいなくなった後に困っちゃいます」

「あー、それはあるかも。先輩に頼っちゃいそうだし」

「そうだね。雛ちゃんたちにも同じ学年の友達、いっぱいいるもんね」

「い、いっぱいはいないですけど」

 

 とか言いながら、雛は瀬奈の交友関係についていける逸材である。

 大人しいように見えて癖や偏見が薄いので誰とでも仲良くなれるのだ。

 学園祭のライブで大活躍したので一年生の仲間から「一緒にやろう」と誘われまくっているらしい。

 

「となると、万桜だけソロっていう手もあるわよね」

「なんでわたしだけのけ者なの!?」

「万桜ちゃんの人気なら一人でもお客さん集まるからとか?」

「うーん……真昼先生とかななせさんみたいにできればいいけど、わたしには向いてない気がするなあ」

 

 ななせといえば「雛ちゃん狙っていい?」と囁かれたので「刺し違えてでも止めます」と答えたことがある。

 それはさておき、

 

「わたしはみんなとやるほうが性に合ってる気がするんだよね」

「と言いますか、わたくしはお姉様以外と組む気はありません」

「や、奏音は他の子と仲良くしてもいいと思うけど」

「今度はわたくしがのけ者ですか!?」

「そういうことじゃないから」

 

 捨てないでください、くらいの目で見られたので慌てて宥めた。

 

「じゃあ二人とも、掛け持ちしようよ!」

「そうそう、私たちのユニットにも入って」

 

 と、他のテーブルからそんな声が。

 そういうことはたまに冗談で言われるし、いつもは無理無理で流すのだが、

 

「あれ? そもそも掛け持ちってだめなんだっけ?」

「生徒会長なんだから把握しときなさい。規約上は問題ないわよ。誰もやらないだけで」

「練習量二倍だもんねえ……」

「そっか。……なら、意外と面白いかも?」

「お姉様?」

 

 不思議そうな顔をする妹に微笑み返して、

 

「やってみたいことがあったんだよね」

「なによ、そのやってみたいことって」

「奏音とデュエット。会長選の時のあれ、もう一回できないかなって」

「あの、お姉様の身も心もわたくしの前で丸裸になった現象ですね?」

「言い方」

 

 すると美夜は「なるほどね」と頷いて、

 

「シンクロしたとか言ってたっけ。確かに、あの時のあんたたちは映像見返してもすごかったわ」

「うん、だから試してみたくて」

「そういうことなら……いっそのこと、あたしがソロやろうかしら」

「えっ」

 

 ミアが悲鳴を上げた。順番にのけ者になってる感。

 

「この子一人だけならあんたたちと一緒でもなんとかなるんじゃない? センターに置いとけばいいんだし」

「なんか猫かタヌキの置物みたいな扱い!?」

「確かに三人ユニットならシンクロしても崩れなさそうだけど、いいの、美夜?」

「また『あたし一人でなんでもできるわよ』という状態に戻るおつもりでは?」

「あたしそこまでひどくなかったでしょ!? ……いや、ひどかったかもだけど。違うわよ。どうせ卒業したらあんたたちとは別になるんだし、そのための準備」

 

 同じ事務所に入らない限りユニットを組み続けることはないだろうから、それはその通りだ。

 卒業したらみんなそれぞれ商売敵になる。

 

「そういう意味では、わたしは奏音と一緒に歌えるかもね」

「事務所としても、双子歌姫をばらばらにするメリットが少ないですものね」

「でもいいの、美夜ちゃん? ミアたち三人に勝てる?」

「ふん。あたしを誰だと思ってるのよ。むしろ、新しいことに挑戦していかなきゃあんたたちと並んではいられないでしょ」

「本当、美夜はすごいよ」

 

 苦手をどんどん克服して、前に進み続けている。

 

「わかった。じゃあ、セカンドライブはそれで行こっか」

「あ、でも美夜ちゃん。ミアたちがライブの相談してても聞き流してよね?」

「わかってるわよ。そこで気を遣ってもめんどくさいし」

 

 何度もライブをこなしているとだんだん、他のユニットとの被りがどうとか、意識して目立たないと順位がこうだとかあまり気にならなくなってきた。

 やりたいこと、やってみたかったことを全力でやる。

 結果は自ずとついてくる、だめだったら努力が足りないかアプローチが間違っていたと思えるようになった。

 負けない、の方向性が「負けないくらい頑張る」になったのもあるかもしれない。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

「さて、万桜? そろそろ三年生の進級課題に取り組むわよ」

「志穂さん、さすがに早くない?」

 

 会長選のために特訓時間を減らしていたせいか、祖母がめちゃくちゃ張り切っている。

 眉をひそめて「なに言ってるの」と言った彼女は、

 

「能力的には十分できるはずよ。さっさと覚えなさい」

「鬼でしょ」

倍速(ダブルアクセル)くらいできなくて戦闘なんかできるわけないでしょ」

 

 三年生の進級課題は自分を取り巻く時間だけを倍速にして素早く動く能力だ。

 いよいよヒーローものめいてきた。

 

「この能力は非常に有用よ。例えば、あなたが苦労した体育祭のアレも難なくこなせるようになるでしょうね」

「あれかあ。でも、倍速は体育祭だと使えないんだよね?」

「身体強化ではなく空間操作も含んでいるから禁止ね。でも、現実の荒事には使えるでしょう?」

 

 それくらいは万桜にもわかる。

 

「車に轢かれそうになってる人とか、落ちて来たものに潰されそうになってる人とか助けやすくなるね」

「そういうこと。思考加速やテレポートと組み合わせればより良いわ」

 

 時間自体を二倍確保した上で頭を二倍働かせれば四倍の猶予があることになる。

 瞬間移動で割って入って逃げるくらいはわりとできそうだ。

 

「あれ? っていうか、思考加速って倍速の限定版ってこと?」

「思考加速は脳の働きを活性化させる意味合いが強いから、一概にそうは言えないけど。まあ、似ている部分もあるわね。それを言ったら超高速移動も重なる部分はあるし、飛行だってそうよ」

「ああ、早く動くってことは、そうできるように周りの空間も操作しないとだから。あと、今回は過程はふっ飛ばさないから……」

「そういうこと。ね? 今まで覚えたことの積み重ねがあれば、新しい課題も難しくはないわ」

 

 そう言われると、能力を使うこと自体に不慣れだった頃よりはコツが掴めてきたが。

 

「なんとなくできたかな? で進級しちゃった子は『わからない』が積み重なっちゃいそう」

「そんなの数学とかでも一緒でしょう」

「否定して欲しかったなあ……」

 

 万桜のぼやきを無視して、志穂は話を続けた。

 

「倍速は身体強化と違って、身体に無理をさせるのが本質じゃないの。普通に動いているのに『世界のほうが遅くなる』──そういう風に操作する能力よ」

「世界自体の操作とか……ああ、だから自分の周りの操作なんだ」

「そ。ほんの一時的に、自分とそのほんの僅かな周囲だけが二倍で動けるように『世界を騙す』能力」

「言ってることがもう完全に能力バトルものだから」

 

 逆に言うと、そういうのが好きな万桜とは相性がいいかもしれない。

 

「そうね。まずは、自分だけ二倍の速度で動くというのがどういうことかイメージしてみなさい」

「よくツッコまれてるのは『空気の流れとかどうなってんだよ』とかかな。や、よく見るのは倍速じゃなくて時間停止した時の話だけど」

 

 要領は同じ。二倍で動けば、普通は空気でさえもいつもより重く感じるはず。

 それがない状態をイメージする。

 

「志穂さん。これ、自分が速いんじゃなくて『周りが遅い』って考えたほうがわかりやすくない?」

「それでももちろんいいんじゃないかしら。あなただけ、遅い時の流れの中で普通に動けるイメージ」

「……うん、なんかわりとできそうな気がしてきた」

 

 少年マンガのバトルとか、身体強化だけで実現してると考えるよりこういうの使ってると考えるほうがよっぽど現実的だし。

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