性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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SecondLiveとクリスマス会

 生徒会長になって初の大イベントはどうだったかと言うと、うん、めちゃくちゃ忙しかった。

 責任者というのはこれほど重い立場かと思い知らされた。

 まあ、最終的には失敗しても先生方がフォローしてくれるのだが、生徒会で完結できなくなること自体が生徒会長としては情けなく思えてしまうわけで。

 みんなで協力しつつなんとか乗り切った。

 

 役員の人数を増やしておいて良かったと思った瞬間である。

 

「わたしに絵理華先輩みたいな生徒会長は無理だね」

「は? あんたそんなことしようとしてたわけ?」

 

 会長と副会長になったおかげで美夜とはさらに距離が近くなった。

 今まで万桜と奏音、美夜とミアというペアが多かったのが「万桜と美夜」でいることがだいぶ増えたのだ。

 

「演説の時点であんたはあんたのやり方を目指してたでしょ? っていうかあたしだってあの人の真似は無理よ」

「や、美夜はわりとできそうな気がするけど。……でもうん、そうだね」

 

 万桜には万桜のやり方がある。

 

「わたしには政治家とか経営者とか向いてないよ。みんなに助けてもらいながらじゃないと」

「ならそれでいいじゃない。今まで通りってことでしょ?」

 

 みんなでああだこうだ言いながら完成させたイベントには達成感がある。

 なら、それでいいのだろう。

 

 盛り上げるために明るく会長挨拶をして、司会の瀬奈に相方として呼ばれて喋って。

 手が塞がっている間の全体指揮は美夜に代わってもらう。

 ミアの大雑把な部分は奏音がしっかりフォローして。

 

「お姉様、ご自身の手番も忘れないでくださいね?」

「そうだよ万桜ちゃん、ミアたちも『歌姫(ディーヴァ)』なんだから」

「うん。じゃあ、行こう」

 

 ほんのひとときの、最高の時間のためにステージへ。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 今回は美夜がソロ、万桜たち三人がユニットでの参加になった。

 

 一般に、ソロライブは難易度が高いとされる。

 未熟なうちは特にそうだが、歌やダンスの見栄えを人数で補完できないからだ。

 過去を振り返ってみても、ソロで結果を出しているのはななせや真昼のような一握りの天才だけ。

 野心家かぼっちでもない限りはみんなソロを選ばない。

 

 そのうえで、松陰美夜は一人でのライブに挑戦した。

 挑んだ勇気だけで十分称賛に値する。

 それからみんな、あの高峰真昼の妹がどんなライブを見せてくれるのかと期待した。

 

 輝くようなあの姿を再現してくれるのではないかと。

 

 ──そんな期待を、美夜は思いっきりぶち壊した。

 

 広がったのは、彼女のエフェクトである『闇』。

 どこまでも広がるようなそれがステージ上どころか『客席』までもを包み込んだ。

 昼間だというのにそこへ『夜』が再現されて。

 誰もがスマホやデバイスの明かりを頼る中、少女の姿だけがぽっかりと浮かびあがり。

 

 闇の中にぽつぽつと生まれた星々の輝きが幻想的な光景を作り出す。

 

 曲は、ややロ―テンポなしっとり系。

 それでいて歌の力強さも必要とする実力派向けの選曲だ。

 これも真昼の十八番とは違う。

 明るくアップテンポがかつての真昼の代表曲だった。

 

 だというのに、何故だろうか。

 

 闇に生まれた一筋の光のような白い衣装が強烈に自己主張してくるのは。

 

『あたしを見なさい!』

 

 声が、表情が、ダンスが強烈にみんなの視線を求めている。

 強烈に輝きみんなを照らすかのアイドルとは違う、カリスマ性。

 その煌めきでみんなまで輝かせる真昼はもちろんすごい。

 しかし、闇の中にあっても一点で輝き続ける美夜の姿は、みんなに迷わずそれを追わせる。

 

「ありがとうございました!」

 

 肌に汗を浮かせながら歌いきった彼女は、晴れやかな笑顔だった。

 少し落ち着いたら「あそこ失敗した」とうるさかったが……それはまあ裏を知っている者だけの特権というか。

 とにかく、松陰美夜はまた一つ『歌姫』として前進した。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 万桜たちも、負けてはいられない。

 奏音、ミアと手を合わせて。

 光あふれるステージへと駆け出した。

 

 当初の予定通り、センターはミア。

 

 左右に展開する万桜たちを観客もそろそろ見慣れてきただろうが──。

 

「え、あれ?」

「どっちが、どっち?」

 

 何割かがその姿に困惑の声を上げた。

 狙い通り、今回、万桜と奏音はほぼ同デザインのドレスを纏っている。

 白と黒を非対称にちりばめたアイドルドレス。

 細かなパターンが異なる以外は同一で、しかも、髪と目にはウィッグとコンタクト。

 

 プラチナブロンドに一筋だけ黒が交じり、カラコンによって右目が黒に。

 黒髪の一部を万桜の色に変えた奏音は、左目がピンクゴールド。

 

 よくよく見れば胸のサイズで判別可能かもしれないが。

 左右対称に立ち、完璧に揃った動きを見せる二人にそれどころではなくなる。

 中央のミアは赤系の映える衣装で。

 曲は初心に返って、とあるアニメの一期OP。

 

 アニメ主題歌の中には『歌姫』ライブで用いることを想定していないものもある。

 黎明期には『歌姫』がそれほど多くなかった名残。

 一方で、本編はファンタジックな出来事が起こったりしがちなので転用はしやすい。

 

 コンセプトは縦横無尽。

 

 センターのくせにあっちに行ったりこっちに行ったりするミアに万桜たちが合わせる。

 ミアが左右に寄れば中央をカバーし、その場で宙返りを決めれば横回転のダンスで広がりを作る。

 時には手に手を取って踊り、かと思えばミアを軸に完全なシンクロを決める。

 

 完全なシンクロ、だ。

 

 どっちかがどっちかの真似をしている、という域にはもはやない。

 記憶や経験まで流れ込んでくるということは、お互いの得意を自分のものにできるということ。

 万桜の躍動感と奏音の緻密さを二人はそれぞれに習得──ラーニングした。

 一度覚えてしまえばその技術を用いるのにシンクロは必要ない、これは完全な糧であり、ある意味学習速度が二倍になったようなものだ。

 その上で、シンクロ中はお互いに『エナジーの融通』すら可能になる。

 

『シンクロしてる時ってエナジー経由でいろいろやり取りしてるよね?』

『そうですね。相手のエナジーを不快に感じないのは双子ならではでしょう』

『じゃあ、わたしのエナジーを奏音に渡したりもできるんじゃない?』

『それは……できるかもしれませんね?』

 

 万桜のエナジーを共有することで、奏音は一時的にエナジー不足という問題から解放される。

 シンクロ、いや『同化』の域に達したことを表すように二人のエフェクトはさらなる煌めきを見せて。

 観客が目まぐるしく変わる情景にあっちこっち目を動かしているうちに曲は終了した。

 

 拍手の中、三人で一礼。

 ちゃんとやりきれた達成感に、自然と笑顔が溢れた。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

「いや、ほんとに反則だと思うんだけど?」

 

 打ち上げ。

 事務所所属を決めたことで万桜たちに寄ってくるスカウトの数は激減した。

 一年生の時より二年生のほうがゆったり過ごせるというのも不思議な話である。

 ともあれ、万桜は美夜からつんつんされながら文句を言われて。

 

「なによこれ。つまりなに、今のあんたはあたしにチェスで勝てるってこと?」

「勝てるかどうかはわからないけど、頭を奏音モードに切り替えればエミュはできるかな」

 

 思考加速のコツまでラーニングしたのでほぼ奏音だ。

 

「じゃあ、奏音ちゃんもテレポートとか余裕ってこと?」

「お姉様ほどのエナジーはないので、余裕とまでは申しませんが……コツは共有していただきました」

 

 本土に跳んで帰ってくるくらいはぶっちゃけ余裕である。

 ライブであれだけ観客を沸かせた美夜がガチで気に食わないとばかりに頬を膨らませて、

 

「文句言っても仕方ないけどさ、さすがにそれはチートよチート」

「まあわたしもそう思うけど」

 

 なにしろ奏音の学んだ座学も万桜の頭に書き込まれた。

 今なら学年二位の頭脳で試験問題をばりばり解くことも可能だし、外国語もかなりできる。

 

「万桜ちゃんたちのシンクロは真似すると危険だからあんまり責めないであげて」

「姉さん」

「真昼先生」

「みんなお疲れ様。すごくいいライブだったよ」

 

 微笑んでくれる真昼に、美夜は「それよりシンクロよ」と詰め寄って。

 

「双子でもなきゃそもそも成功しないのはわかるけど、危険って?」

「一時的に気持ちを合わせるくらいならともかく、記憶まで共有してるのよ? 下手したら人格が混ざって戻らなくなるじゃない」

「……なんでそんな危険なことしてるのよこいつら?」

「なんでって言われても、奏音のことはだいたい知ってるし」

「お姉様と一つになれるなら本望です」

「万桜ちゃんたちくらいお互い大好きじゃないと成功しないってことかなー」

 

 ミアがなんかうまいことまとめてくれる。

 

「いや、柔軟なように見えてめちゃくちゃ頑固ってことじゃないのそれ?」

「だから、他の人は絶対に真似しないこと! 万桜ちゃんたちにも止めて欲しいけど、一回成功してる時点で言ってもあんまり意味ないから」

「成功したからって次も成功するとは限らないじゃない?」

「ううん。自分の中に別の人間が入りこんじゃってる時点で、耐性がないとそのうち混ざっていくから」

「ほんとに危険すぎるじゃない!?」

 

 なので、エナジーの融通なんていう反則ができても他に応用はきかない。

 

「エナジーだって普通はもっと反発するものなんだから」

「でも、真昼先生は万桜ちゃんをそれで助けたんだよね?」

「あの時はたまたま運が良かっただけ。相性も良かったし、万桜ちゃんも目覚める前だったし。私だってもう一回やれって言われたらできる自信ないよ」

 

 偶然成功した超必殺技といったところか。

 

「成績は上がるかもだけど、これから努力しないとみんなに置いていかれるしね」

「ですが、お姉様と学ぶ分野を分担できるのは効果的かもしれませんね?」

「それがチートだって言ってるんだけど」

「まあまあ美夜ちゃん。美夜ちゃんも真昼先生とシンクロしてみるとか」

「姉さんと記憶共有するとか死ぬんじゃない、あたし」

「ちょっと美夜、それどういう意味?」

 

 ちなみに奏音は格闘技用の筋肉をあまり鍛えていないので完全に万桜をトレースできないし、万桜も頭の出来が奏音と違うので100%頭脳労働で並べるわけじゃない。

 効率二倍は言い過ぎで、いいとこ三割増しくらいではなかろうか。

 それでも十分チートだが。

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 毎度の定期試験を乗り越えたらあっという間に年末である。

 

 万桜率いる新生徒会では今回、校舎ホールにてプチクリスマス会を開催することにした。

 あんまりしっかりやると帰省組が可哀そうだといったん没にしたが、じゃあささやかな催しなら良かろうという話になったのだ。

 どうせクリスマスっぽいご馳走は寮の食堂で出してくれるし。

 生徒会からの出費は軽い飾りつけとお菓子とジュースくらいで、会のメインは、

 

「では! これからプレゼント交換会を開催します!」

「わー!」

 

 参加者に費用を負担してもらってのプレゼント交換会である。

 高いものだと困るので予算は3000円以内、何が当たっても恨みっこなし。

 近い金額の品物が手元に残るので基本的にあまり損はしない。

 もちろん万桜たち生徒会メンバーもそれぞれにプレゼントを用意した。

 

「では、音楽が鳴っている間、近くの方とプレゼントを回し合ってくださいませ」

「止まった時に持っていたプレゼントが自分の物になります!」

 

 そんなに大した人数にならないだろ、と思ったのだが、意外と参加者は多くなった。

 特に男子の参加率はかなり高いような。

 普段ハブられがちなのに今回は参加可能だから張り切っているのか。

 女の子からプレゼントをもらえるかもしれないのがそんなに嬉しいのか。

 

 確かに、野郎同士でこんなことしてもときめきはないだろう。

 プレゼント内容も「オススメのマンガの第1巻詰め合わせ」とか「ファミレスのチケット3000円分」とか「観光地に良くある剣のキーホルダーセット」とかそんなになりかね──普通に楽しそうだな?

 それはともかく、女子が多いおかげでプレゼントのラッピングも綺麗なのが多く、華やかな雰囲気だ。

 

 結果も悲喜こもごも。

 いらないものが当たったとしても3000円だ、まあ笑って流せる範囲である。

 万桜のプレゼントも誰かの手に渡ったはずだが……メッセージカード付きのミニタオルとバスソルトのセット、役に立ってくれるだろうか。

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