「第一回! 夏の大水鉄砲大会~~っ!」
うおおおおおおーーーー!!
学園敷地内の広場にて、万桜はステージ上で笑顔を振りまきながら「どうしてこうなったんだろう」と思った。
時は八月上旬。
生徒会が企画した新しいイベントには3000~4000人もの一般参加者が詰めかけた。
こんなに大規模なイベントにするつもりじゃなかったのに。
◇ ◇ ◇
『やっぱり夏休みが狙い目だと思うのよ』
遡ること、新生徒会発足から間もない頃。
ああだこうだと「新しいイベントができないか」話し合っていた時にそんな意見が出た。
『そりゃみんな休みだから時間は空いてるけど。あんまり参加できる人いないんじゃない?』
『だからこそなわけ。生徒が島からいなくなるってことは、街の人は暇じゃない。もちろん売り上げなんかもがくっと落ちるでしょ?』
『なるほど。そこを盛り上げることで地域活性化に繋げるのですね』
『いいんじゃない? だったらさ、島ぐるみのイベントにできたら楽しそう』
『ああ、わたしたちだけじゃなくて、島の人たちも参加できるようにするんだ』
島には一応、大きくはないが小中学校もある。
多少ながら子供もいるので、一緒に遊べたら喜んでくれるだろう。
『となると……プールとかだとできるところ限られちゃうから……』
『できれば費用はなるべく抑えたいところです』
『暑いから涼しくなるようなのがいいんじゃない?』
『涼しくって……肝試しとか、百物語とか?』
炎天下の中、集まった人たちで百物語。
怖くないというか、怖いのは熱中症だ。
『あ! じゃあ、みんなで水鉄砲で撃ち合うとかどう?』
『いいじゃん万桜ちゃん! 楽しそう!』
『いや、あたしたち男子小学生じゃないんだけど』
『男子でしたら中学生くらいまで乗ってくるかと』
奏音はまだまだ甘い、男子高校生、どころか成人男性でもこの手のイベントは大好きだ。
『貸し出しもするけど、基本的にはみんな自前で持ってきてもらうとかなら経費もそんなにかからないと思う。なんならわたし、2~3丁くらい寄贈する』
『そうね。自分用の他にいくつか買ってもそんなにしないでしょ。……1万円くらい?』
けっこう本格的なの買うつもりだな美夜。
……と思って軽く検索したら6000円とかするのが普通に出てきたので、水鉄砲とは言ってもかなりピンキリである。
この案はクリスマス会と共に他の生徒会役員にも賛成を受け、実施の方向で検討が進められた。
進められたのだが……。
『万桜ちゃん先輩。これ、何人くらい来る想定にします?』
『え? 生徒全員集まるわけないし、子供たちだってそんなにいないから、大成功で2~300人くらいじゃない?』
『……あー、瀬奈が言いたいのはそういうこと?』
『そうそう。一般参加ありにしたらそんなものじゃすまないかも。だって事前告知するんでしょ?』
『島外からの参加は不可──とするのは無理があるでしょうね。わたくしたちでは見分けがつきません』
しれっと紛れ込んでしまえばどうにでもなる。
普段は島外に住んでいる島の人の親戚はどうするのか、とか考えたら「一般参加OK」にするのが一番楽だ。
っていうかお客さん呼ばないと地域活性化にならないし。
『そうすると……ひょっとして水鉄砲めちゃくちゃいっぱい必要?』
『そっちもだけど、何人くらいお客さん来るかわからないのが怖いよー!?』
教職員にも相談してみたところ「それはいっぱい来そう」との回答。
『3倍……うーん、最大10倍くらい見積もっておいたほうがいいかも』
『いくらなんでも来すぎじゃないですか?』
『万桜ちゃん、当日どんな格好するつもり?』
『それは濡れてもいいように、水着の上から適当にシャツでも羽織れば……あ』
美少女を合法的に濡れ透けにできるうえに水着姿まで拝めるイベント。
駄目だ、これはいっぱい人が来る。
地元住民の理解がないとそもそも開催できないイベントなのでその辺も含めて相談に行って──。
『面白そうだ。そうと決まればいろいろと準備がいるな! 土産物の増産に冷たい飲み物の発注、水鉄砲もたくさん仕入れておこう!』
この街の人たちフットワーク軽すぎじゃない?
とは思ったものの、こんな島に住んでいれば商魂たくましくもなろうというもの。
◇ ◇ ◇
で、蓋を開けてみればご覧の有様である。
万桜は宣言通り水着+大きめの白いシャツというめちゃくちゃラフな格好。
普段は大人しい格好をしている奏音や、あまり悪ノリはしてくれない美夜でさえ学校指定の運動着(中は水着)である。
ちなみに学院生から参加してくれた生徒はというと、
「よーし、いっぱい撃つぞー!」
「おー!」
めちゃくちゃいっぱいいた。
特に三年生の参加率がやばい。
『水鉄砲大会? 面白そう、私も参加するー』
『戻ってくるの大変じゃないかって? 万桜ちゃん、私たちもテレポート使えるんだよ?』
去年の学園祭時には数えるほどしかいなかったテレポートの使い手も今では学年全体に広がっている。
島まで跳ぶのが怖いという子でも高速便の発着場まで一瞬で来られれば朝早起きしなくていい+電車に乗らなくていいでめちゃくちゃ楽だ。
一、二年生も特訓のために学院に残っていた子を中心としてけっこうな人数が参加。
歌姫科に比べて暇というか、普通の高校生活を謳歌している普通科の生徒の中にはわざわざ戻ってきてくれた者もかなりいた。
特に男子の参加率が高いのはうん、皆まで言うまい。
「ルールは簡単、いっぱい濡れていっぱい濡らした人が勝ち! みんな、撃って撃ってうちまくれー!」
「おー!」
大会と言ってもレクリエーションなので明確な勝ち負けはつけない。
ぶっちゃけ楽しんだ者勝ち、くらいの精神だ。
別に水鉄砲自体を撃たなくとも、その辺の喫茶店や飯屋でくつろぐだけでもOK。
もちろん屋外に出ている者は基本的に撃たれるが、仕事中の街の人には迷惑をかけないように注意。
「撃っても良い人かどうかは格好で判断してください! もし間違っちゃった場合は素直に謝りましょう! でないとスタッフや生徒会役員が飛んでいきます!」
あんまりあれこれ言っても仕方ないので、
「それでは、水鉄砲大会スタートです!」
歓声が上がった──かと思えば、万桜は横にいた美夜とミアから思いっきり水をぶっかけられた。
「やったなー!?」
自前で買ったウォーターガンでやり返す。
水鉄砲は、活躍しているOGたちが「面白そう」とこぞって出資・寄贈してくれた。
1人1万円とかでも100人から集まれば100万円である。
そこそこ飛ぶクラスのやつをかなり揃えて、さらにスポーツドリンクや塩飴などの熱中症対策グッズをけっこうな数用意しても余裕があるくらいだった。
『貸し出し用』のシールを一つ一つに貼りつけるのがむしろ大変だったくらい。
参加する側としても、質を選ばなければ100均に売ってるような水鉄砲で十分参加できるので元手がかからない。
濡れた服で超高速便に乗るのはアレなのでそこは乾くまで待ってもらうか泊まってもらうしかないが。
歌姫科の生徒が率先して水をかけ始めると、あちこちで水鉄砲合戦が開始される。
すぐ撃たれてたまるかと散開していく人もけっこういて、良い感じにフィールドが広がりつつある。
「よし、じゃ、わたしたちは空から!」
「そうね、やりましょうか」
そして『
二、三年生はこぞって空に浮き上がり、三次元的な撃ち合いを演じ始める。
もちろん地上の人も的である。
撃たれないためには逃げなければいけない。これでさらに街全体に人が散っていく。
水鉄砲だと対空砲火には限界があるが、それでも撃って「当たらない!」と悲鳴を上げるのもそれはそれで楽しい。
水の補給に関してはノズル付きポリタンクなどを各所に設置してあるが、
「ミアたちは水くらい自分で出せばいいもんね」
「めちゃくちゃズルしてる気分だけど……ねっ!」
あまり必要ないのでやらないだけで、水を出すくらいなら簡単だ。
普通の超能力者というか魔法使いっぽい使い方は、実は飛行などの際に使うので風操作がいちばん多いか。
火を出したり土操作で穴を掘ったりは危ないのでやらない。
まだ飛行できる生徒がほとんどいない一年生も「それくらいなら」と水を出して水鉄砲に補給し始める。
一見水場でないところから水が現れるのは『水道』というメジャーなイメージソースがあるので誰でもわりと簡単らしい。
撃たれた時に避けるには身体強化が役立つし、思考加速すれば冷静な判断ができるようになる。
……これ、図らずも能力の訓練にもなっているような?
とにかく撃って撃って撃ちまくる。
被弾が減点になるわけでもないので必要以上に避けまくる必要もない。
むしろ適度に水を浴びたほうが暑さが和らいで効果的だ。
と。
「隙ありよ、万桜」
「わっ!? ……絵理華、なにはしゃいでるんですか」
「いいじゃない。たまには息抜きも必要よ?」
気を抜いた隙を前生徒会長に突かれた。
大人げないことにかなりお高い高性能なウォーターガンを所持していらっしゃる。
ついでに言うと、普段は凛としている彼女が万桜と大差ない格好をしており、たいへん目の保養になる。
「やりましたね!」
「ふふっ。体育祭の時のリベンジかしら!?」
しばしの間、かなり本気で絵理華とやりあった。
飛行にテレポート、倍速まで用いておいてやることが水鉄砲での撃ち合いというのがなんともしまらないが、
「ふふっ」
「あははっ!」
それが楽しい。
絵理華の他にも心奏OGはかなりの人数が参加しており──ただの避暑イベントが本気で一大イベントと化してしまった。
もちろん、話を聞きつけたマスコミもこぞって詰めかけており、美少女たちが水を掛け合い濡れていく様がこれでもかと写真に収められた。
なお、もちろんそのカメラマンにも容赦なく水鉄砲をお見舞いする。
「万桜ちゃん、覚悟!」
スケベ心を出した男に群がられたりもするものの、
「残念!」
そこは歌姫科の維持として簡単には当たってやらない。
囲もうとしてくる複数人を返り討ちにし、適度なところで被弾を演じる。
濡れたところで下は水着だ。
男どもがエロいことを考えていたとしても、女子たちはただ涼むため、仲間ときゃあきゃあ騒ぐために集中していればいい。
やっていること自体はいたって健全なので規制とか無理だし。
いったい、短い時間でどれだけの水を撃ったか。
「……お腹空いてきたし、どこかでご飯食べよう」
「……そうですね」
この日、街の飲食店はどこも売り上げアップを狙っている。
臨時の移動販売なども出ており、冷たい飲み物や軽食を中心に実際飛ぶように売れているようだ。
万桜たちは合流して一時休戦すると、
「ほんとお腹空いたー。どこで食べる?」
「暑いし、なんか辛いものが食べたいわね。カレーとか?」
「麻婆豆腐っていう手もあるね」
「マスタードたっぷりのホットドッグとか!」
「七味やわざびをきかせてさっぱりと麺類、というのも良いかと」
ばらばらの意見を統一するためにじゃんけんをし──その間に他から狙われたので返り討ちにした。
そうして──疲れるし、日が弱くなってくると乾きづらくなるので午後三時にはイベント終了を宣言。
その後、生徒会役員は貸し出した水鉄砲を回収に回ったり、街のみなさんにお礼を行ったりと慌ただしく動き回った。
濡れた服も道路も、建物も放っておけばそのうち乾く。
島の天気は『歌姫』によって管理されており、基本的に晴れが約束されている。
夜まで雨が降ることはない。
はしゃぎすぎてやらかす人が出ないかが心配だったものの、あちこちに『歌姫』がいることもあって大事には至らなかった。
疲れすぎて休憩を余儀なくされた人などはいたが、ドリンクや塩飴のおかげか熱中症もほとんど出なかったようだ。
みんなは、
「楽しかったー!」
「こういうなにも考えなくていいイベントも楽しいね。またやりたい!」
今年、たくさん水鉄砲を買ったせいもあるだろうが。
夏の水鉄砲大会は次年度以降も新たな恒例行事として受け継がれていくことになった。