性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 男子たちの宴

 国立心奏学院には生徒用の寮が三つある。

 

 ひとつは『歌姫』候補生のための寮。

 ひとつは普通科女子のための寮。

 そして、最後のひとつが普通科に入学した男子のための寮である。

 

 男子寮は、三つの寮の中で最も校舎から遠い位置にある。

 寮自体の規模も最も小さい。

 

 歌姫科の生徒数は毎年百名前後。

 普通科は学年ごとに約百二十名で、うち三割ほどが男子生徒。

 全体だと女子は男子の四、五倍ほどいることになる。

 

 こうなる理由はそもそもこの学院が歌姫中心に存在しているからだ。

 歌姫科は男子禁制だし、普通科にしても「場合によっては歌姫科への転科が可能」であることから歌姫適性のある女子が優遇傾向にある。

 そもそも本州から離れた島にあるこの学院にわざわざ来て、きらきらした女子たちに囲まれながら暮らしたい男子は実際それほど多くはない。

 

 だから、心奏学院に所属する男子は団結力が強い。

 

「さて。待ちに待った体育祭の打ち上げを行いたいと思う」

 

 土曜の夜、男子寮の食堂にて。

 三年生のとある男子の号令によって、男子総勢百名ちょっとが「うおお!」と歓声を上げた。

 未成年なので酒は入っていない。

 ジュースと菓子だけの健全な会だが、その熱気は相当なものである。

 

 その理由は、いくつかある。

 

「体育祭じゃ俺たちはおまけ扱いだからな! 今日はせめてその鬱憤を晴らしてくれ!」

 

 『歌姫』適性のある女子は総じて男子よりも強い。

 歌姫科の女子は高校生男子の大会記録を超えてくるし、普通科の女子でも適性のある者は男子とためを張る。

 当然、獲得できる点数でも男子は女子に大きく水を開けられてしまう。

 

「ああ。俺たちにとってはこの打ち上げが本番だからな!」

「むしろこのために頑張った!」

 

 そしてもうひとつが、体育祭は『高嶺の花』歌姫科の女子と距離が近づく数少ないチャンスだからである。

 じゃあ本番頑張れよ、と言うなかれ。

 殴り合いで男に勝てる女子の群れ、しかも人数でも負けているのだ。下手にナンパなんかして失敗した時が怖い。

 下手したら失恋の瞬間がテレビで生中継されるというのにそんなことできるわけがない。

 よって、

 

「体育祭の映像見ながら騒ぐぞ!」

「おおー!」

 

 こうなる。

 

 『歌姫』以外にデバイスは使えないので、食堂の壁にプロジェクターで動画を流す。

 生徒たちはこの上映会に参加してもいいし、自分たちのスマホで別の動画を流してもいい。

 

 各メディアがこぞって撮影しているほか、学院もドローンを飛ばして記録を取っているので、今年の体育祭関連動画だけでもめちゃくちゃあるのだ。

 公の場ならアレだが、女子のいないところで騒ぐ分にはなんの問題もない。

 たとえ、女子のちょっとエロい姿を鑑賞するのがメインであっても、だ。

 

「やっぱり三年はレベルが違うよな……」

「ああ。単純なスペックもだが、大人っぽさが違う。マジエロい」

「みんな本気で動くから胸も揺れまくるしな」

 

「いや、二年生も捨てがたいぞ」

「三年とも一年とも仲良くしやすいから学年違うツーショットが多いんだよな」

「百合はいい。実にいい」

 

「待て、一年生には一年生の良さがある」

「二ヶ月前まで中学生だったと思うとめちゃくちゃ興奮するよな」

心奏(うち)はレベルめちゃ高いから一年でも十分エロい」

 

 結局全部良いんじゃねえか。

 まあ、温かい春の運動会なので薄着の女子も多い。

 しかも躍動感は他の比じゃないのだ、男子が興奮するのも無理のない話。

 男子とはそういう生き物である。

 

「うむ、今年の一年生は特にレベルが高い」

 

 先輩方はこの日のために関連動画をいろいろチェックし、自分なりのまとめ資料まで作成していた。

 話題が一年生に移るとすぐさま主要な一年女子のリストが写真付きで壁に映し出される。

 

「新入生代表、松蔭(しょういん)美夜(みや)。胸はそこそこだが顔は文句なく可愛い。金髪ってのも王道だし、性格がキツいのも逆に魅力だ。顔は誰かに似てるんだが、誰なのか微妙にわからん」

「暫定二位の小鳥遊奏音もいいぞ。黒髪黒目の正統派美少女。俺たち男子にも丁寧に接してくれるし胸もでかい。横を通り過ぎただけでいい匂いがする」

 

 女子たちに聞かれたら「キモい」と言われそうだが、既に言った通りここには男子しかいない。

 

「しかし、やはり外せないのはこの子か」

 

 拡大された画像は、プラチナブロンドにピングゴールドの瞳を持つ美少女。

 

「奏音ちゃんの双子の姉、小鳥遊万桜。妹と違って成績は微妙だが、正統派の妹とはまた違う魅力がある。若干ダウナーというか、のんびり屋な性格だと思われる」

「胸でかいんだよなあ、この子。揉みたい」

「俺は顔を埋めたい」

 

 繰り返すがここには男子しか(以下略)。

 

「万桜ちゃんは体育祭に向けて自主トレする姿も多く目撃されている。ぶっちゃけ、ここでファンになった奴も多いだろ」

「声かけた奴は撃沈したみたいだけどな。お前たちはよくやったよ……」

「まあ、奏音ちゃんと百合百合してくれるだけでも十二分に目の保養になる」

 

 盗撮は犯罪だが、体育祭中の撮影はOK。

 生徒たちのプロモーションも兼ねているためで、入学書類にもイベント時の撮影に同意する項目がある。

 よって、体育祭中はお気に入りの子を撮り放題だ。

 

「そして、今こそ見よ! これが小鳥遊万桜の体育祭中の映像だ!」

 

 ばん、と、映し出されたのは、借り物競争に奮闘する万桜がお題を完了してドリンクで一息ついている時のもの。

 学院指定のウェアは汗のせいで濡れ、非常に透けやすくなっており、下のスポーツブラが形と柄までくっきり浮き出ている。

 そのうえドリンクを一気飲みしようとして上体を反らしているので胸が強調される格好となり、

 

「うおおおお! やばい、これはお宝すぎる!」

「先輩、俺にもこの画像ください!」

「もちろんだ。ちなみにこれはとある動画の一部を抜き出している。元動画もオススメだぞ」

「この子、借り物競争に夢中で、でかい胸ゆさゆさしながら走ってたよなあ」

「汗かいてブラ透けてるのに気づかなかった結果がこれだしな……」

 

 さらに「麻婆焼きそばで汗をかく万桜」「マリトッツォを頬張る万桜」「うどんをすする万桜」などのアップが次々と披露され、男子たちは祭り状態となった。

 これにより小鳥遊万桜関連動画のアクセス数が急激に上昇、一部の男子が中学時代の友人等に拡散したことで万桜の知名度は一気に上昇。

 すでに万桜に目をつけていたマニアもここぞとばかりに同調したことによって、この流れは確定的なものとなった。

 

「万桜ちゃん、彼氏いるのかな」

「いないと思うぞ。入学前は長く入院してて、奏音ちゃん以外とは会ってなかったらしいし」

「奏音ちゃんとめちゃくちゃ仲いいよな。別の意味の姉妹みたいに」

「いや、美夜ちゃんとのカップリングも捨てがたい」

 

 意見はいろいろあれど、じゃあ告白するか、と言われれば多くの男子が「ノー」。

 歌姫科の女子は高嶺の花すぎてなかなか手が出せない。

 しかし、一年生の女子はかなり狙い目。

 二年生以降になると各所から目をつけられる女子が増え、学年順位下位の女子でも複数名からの求婚を受けることは珍しくない。

 その中には社長やら芸能人も多く含まれるため、競争率が高い。彼氏持ちの確率も上がってしまうのだ。

 

「いやでも、さすがに勇気がいるな……」

「だけど成功したら夢のような生活が待ってるぞ」

「このデカパイがいつか誰かの手に渡ると考えるとな……」

 

 その夜、男子たちの悶々とした会話は夜遅くなるまで飽きもせず続いたという。

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