性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 万桜の小さな特権

 心奏学院には学内専用のWebコミュニティがある。

 その中には女性限定、男性限定のものもあり、これは各人に割り振られたIDごとに権限が与えられている。

 よって、異性のふりをしてこっそり閲覧することは不可能。

 まあ、他人のIDとパスワードをなんらかの手段で入手すれば話は別だが、『歌姫』に関してはデバイスで個人認証を行っているため盗まれる心配はほぼない。

 

 さて。

 

 小鳥遊万桜にはこのコミュニティに関してある特別な権限が与えられていた。

 

「せっかく見られるんだし、たまにはチェックしてみるかな」

 

 それは、性別限定のコミュニティへ自由にアクセスできること。

 女になったとはいえ元男なわけで、たまにはガス抜きも必要だろうという学院側からの配慮だ。

 

 例えば中学時代の友人に(男を装って)連絡を取るとかでも「小鳥遊万桜=小鳥遊真央』とバレかねない。

 そのせいで「男と気兼ねなく会話」とかできなかったので、これは正直ありがたい。

 

 体育祭が終わって一息つける時期。

 今度はユニットの練習で大忙しではあるものの、夜のスキマ時間くらいは気晴らしに使って問題ないだろう。

 未だデバイスの思考操作は少々苦手な万桜だが、簡単な操作くらいなら問題ないし。

 なんならストレッチとかしつつコミュニティを閲覧することも十分できる。

 

「奏音。俺、ちょっと男の世界を覗いてみるから……覗くなよ?」

 

 風呂から上がって髪を乾かしている最中の妹にそう告げると、彼女はジト目でこう返してきた。

 

「覗きませんよ。愚民どものくだらない話なんて、見るだけ時間の無駄です」

「あのなあ。男には男のこだわりってのがあるんだよ」

「はいはい。お姉様の趣味の邪魔はいたしませんので、ご自由にどうぞ」

 

 この野郎。

 どうせ「男の会話なんてエロとメカとバトルでしょ」くらいに思っているに違いない。ああ、ほぼそれで正解だ。

 それがいいんだろうが、と思いつつコミュニティにアクセスしてログイン。

 仮に書き込みを行っても匿名性は保証されているので「男専用の掲示板に女子が!」みたいな心配はない。

 

「おお、本当に両方見られるんだな」

 

 各コミュニティのタイトルには性別限定がわかりやすいようにマークが付属している。

 男性限定と女性限定両方が画面に存在している様はちょっとした管理者権限のようで楽しい。

 

 ちなみに各性別ごとの専用コミュニティのタイトルの一例は、

 

 −女子−

『オススメのライブ動画まとめ(研究・練習用)』

『コスメ・ファッション・アクセサリーの相談・雑談』

『恋愛相談、彼氏の愚痴 ※自慢話NG』

 

 −男子−

『週刊フライング感想・雑談スレ』

『歌姫にはメカ要素が足りないと思う奴らの集い』

『学内の可愛い女の子 ◯年生編』

 

「……おぉ、見事に違うな」

 

 こうして見ると男子はガキ、もとい、夢とロマンに溢れている。

 対する女子は約半数が『歌姫』であるのもあって実用的な話題も多い。まあ恋愛はアレだが、『歌姫』にとってはお洒落も甘く見てはいけない項目だし。

 

 比較すると女子のほうが現実的、というだけで男がダメというわけでもない。

 特に機械関係なんかは男が向いている分野も未だにある。

 動力やシステム周りは『歌姫』の領分なので男性エンジニアには向かないが、機能的なデザインなどは男の領分。

 

 それはそれとして、男はすべからく女の前に跪くべしと思うが。

 

 ちらり、と横目で見ると、奏音は本当に興味なさそうに見向きもしてこない。

 では、と、さっそく中を詳しく覗いて見ることに。

 

 マンガの感想はネタバレになるのでやめておく。

 二年以上寝ている間にすっかり置いて行かれているし、入院時からここまで忙しくて追いつけていない。

 メカの話題もなかなか濃そうなのでここは後回しにして──。

 となると可愛い女子の話題か。

 

 いいじゃないか、いかにも男子って感じで。

 せっかくだから一年生のスレを覗いてみる。

 今年度に入ってからの投稿だけでも軽く一万を超えていた。

 ……いや一万は多いな!?

 初代からの通算らしいスレ数もなかなかびっくりな数である。

 

 そんなに話すことあるのか? いや、あるか。

 歌姫科はもちろん、普通科も『歌姫』適性を持つ子が多いせいか学内には美少女がたくさんいる。

 話そうと思えばいくらでも話せるだろう。

 寮にまとまってるんだから直接話せよとは言うなかれ、全員集まって駄弁る機会もそうないだろうし、顔を突き合わせていないほうが話しやすい事柄もある。

 

 見れば、体育祭以降の投稿数が多い。

 一年女子の露出が一気に増えたイベントだからか、みんな活気づいているようだ。

 ちなみにこのコミュニティには男性教員や男性職員も参加可能。

 匿名なので誰が誰かはわからないが、男どもの投稿に登場する名前をチェックしていくと──。

 

「ああ、納得と言えば納得だな。なかなかみんなよく見てるじゃないか」

 

 『歌姫科』の女子とは寮で会うせいか、一年なら顔と名前くらいはだいたいわかる。

 普通科も可愛い子なら一度くらいは見かけているし、画像つきだったりすることもあるので「ああ、この子か」とすぐわかった。

 

 ──それにしても、奏音と美夜の人気はすごい。

 

 成績トップということもあるが、あのライブバトルの影響も大きいようだ。

 華やかな舞台で見事なパフォーマンスを披露したことで注目が集まったらしい。

 ライブの動画もかなり出回っており、貼り付けられた短い切り抜きの中には奏音の乳揺れに特化したものを……っておい、人の妹になにしてんだお前ら。

 

「見るなら俺のにしろよ、せめて」

 

 万桜のならまあ減らないから許す……と。

 

『2000m走対決の時の万桜ちゃんの乳揺れ』

 

 俺かよ。

 動画を開いて見れば、真っ赤な顔で必死に走る万桜の乳房が、揺れる様が、これでもかとアップされて映っていた。

 おっぱい星人かお前ら!?

 ストレッチしながら見ていた万桜はつい、胸の揺れを気にしてしまった。

 

 いやしかし、男子が女子のおっぱい大好きなのは知ってはいたが、こいつら性欲に毒され過ぎじゃないか……?

 なんとなく納得いかない気持ちになっていると、奏音が自分の作業を続けながら、

 

「お姉様? 念のために申し上げておきますが、思春期を迎えた愚民どもの性衝動を甘く見ないほうが良いですよ?」

「……ああ、うん、ちょっと舐めてた」

 

 言われて見れば、万桜は元男子とはいえ中一で男をやめてしまった身。

 女子を見て「エロいな」と思うことはあったが、奏音というハイレベルな美少女が身近にいるのも手伝って、そこまで切羽詰まった衝動を覚えたことはない。

 男子の欲求が、エロへの渇望が、あれから二年以上の時を経てあの頃よりもずっと強化されているとすれば。

 

 ……思えば中学の先輩からエロい雑談を仕掛けられた時や、近所の高校生とたまたま話す機会があった時は「先輩ちょっとエロすぎっす」と許容量オーバーを起こしたこともあった。

 

 なるほど、男ってのはここまでエロに飢えているんだな。

 体育祭で投稿が爆増したのも納得である。

 乳揺れ汗透け生太腿の宝庫。ちなみに万桜の透けブラや太腿画像もわりとたっぷりアップされていた。

 さすがにR18に相当するような画像はないが、男子のガス抜きも兼ねているからか、公式コミュニティのわりにかなり自由である。

 

 太腿と言えば、確かに尻や足は男子だった頃に比べてむっちりした気がする。

 エロいかと聞かれればエロい。

 女性ならではの曲線的なボディラインは神の作り出した宝と言っても過言ではない。

 しかし、

 

『お前らちょっと待て。女子のここがエロいとかそんな話ばっかりしていて恥ずかしくないのか。

 主張するべきは「この足に踏まれたい」とか「この尻に敷かれたい」とかだろ?』

 

 思わず書き込んでしまったところ、少数の賛同意見と大量の反対意見をもらった。

 

『いや、可愛い女の子の主導権を握るほうがいいだろ』

『力では敵わない俺がベッドの上では逆転するのいいよな』

 

 こいつらはなにもわかっていない。

 男は女の前に這いつくばるべきなのだ。

 ……しかし、女子になった万桜があまり力説するのもマッチポンプ感がある。

 仕方ない、ここはこいつらにもう少し餌を与えてやるか。

 

 欲求不満が溜まっているからこうやって分不相応な夢を抱くのかもしれないしな。

 思った万桜は自分の太腿を撮影してスレにアップしてみた。

 

『ほら、これでも見て落ち着け』

 

 女子の足とわかるものは丹念に取り除き、女子寮っぽい映り込みも排除した苦心の一枚。

 奏音からは「なにをやっているんですか」と呆れられてしまったものの、苦労の甲斐あって「アップするな」とまでは言われなかった。

 さて、男どもの感想はというと、

 

『野郎の足乙』

『いや待て、これは女の子の足じゃないか……?』

『自撮りだぞ。女の子のわけないだろ』

『彼女の自撮りのおすそ分けだとしたら拝めばいいのか殺意を抱けばいいのかわからん』

『……もうエロいから男の足でもいいか……』

『落ち着け! これはなにかの罠だ!』

 

 なんか思ってた反応と違ったが、楽しんでもらえた部分もあるので良しとすることにした。

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