『miya&mia』。
衣装は、ノースリーブの黒いドレス。
金髪と赤髪。映える色合いの髪にも大きな黒のリボンがあしらわれ、可愛らしさと大人っぽさが両立している。
二人が舞台に立つと同時に照明が消された。
時刻は十三時を回ったところ。
暗くなる時刻ではないが、スポットライトがなくなると少し落ち着いた雰囲気になる。
それが、美夜たちの狙い。
彼女たちにとっては暗くなってくれたほうが好都合なのだ。
──ミュージック、スタート。
意外にも曲はロック寄りの、格好良さのあるチョイス。
二人のビジュアル、特にミアを活かすならばりばりのアイドル曲で来るかと思っていたのだが。
理由は、見ていればわかった。
二つの歌声が響き始めると同時に、美夜たちの周りに闇が広がる。
美夜のエフェクト。
立ち位置はミアがセンター、そして美夜はその後ろ。
目立ちたがり……とまでは言わないものの、実力でゴリ押すのが好きな美夜の選択としてはこれも意外だったが。
熱くはない、小さな火の粉。
ミアのエフェクトが闇と光のコントラストを作り出すと、フォーメーションが映える。
身長差のある二人が横に並ぶとアンバランス感が目立ってしまう。
かといって美夜が前では後ろのミアが隠れてしまう。
これなら明かりの中心にいる二人が共に照らされ、そして両方が注目を集められる。
そして、彼女たちもずっと同じフォーメーションのままではいない。
歌を合わせながら、ミアが高い宙返りを決める。
同時に前に踏み出した美夜がセンターを取り、かと思えば、片方の手のひらを合わせながら横並びに。
またすぐミアが前に出て、さっきとは逆の立ち位置で今度は両手をつなぐ。
何をするのか──思った直後、ミアの身体が宙に浮いた。
飛んでいる、わけではない。
軽くステージを蹴ってジャンプすると同時、美夜が回転してミアを振り回したのだ。
遠心力により、軽い少女の身体は浮く。
スカートがふわりと浮き上がり、くるくると何度もミアは回転して。
何度目かの回転、美夜が背を向けたところで、腕が大きく上に振られた。
投げる。
高く舞ったミアが空中で回転しながら落下。
正面に向き直った美夜の両手に見事に着地し、さらに跳躍。
くるっと一回転してから笑顔を決め、両腕を上に。
前を向いたままパートナーの首に腕を回し、美夜もまたミアの身体を抱く。
姉妹の抱擁にも、恋人同士にも見える姿勢。
黒のドレス、大人びた曲調はこのためか。
曲芸じみたパフォーマンスは飛び道具と言えば飛び道具。
しかし、『
彼女たちは一年生、初の公式ライブにしてそれを、できる範囲で真似した。
体重が軽く背の低いミアならではのやり方。
それでも、能力をかなり行使しただろうし、本番で成功させるために何度も練習を重ねただろう。
「……すごい」
曲の終了後、会場からも大きな拍手が上がった。
「今の子たち、一年生だろ? すごいな」
「背の高いほうの子は学年トップだってさ。さすが、心奏はレベル高いよ」
目の肥えたファンも多いだろうに、それでもこの評価。
間違いなくかなりのインプレッションを叩き出した。
歌い終えた美夜は、観客からの拍手に笑顔とお辞儀で答えた。
ミアは満面の笑みと共に手を振り、「いぇい!」とパートナーにハイタッチ。
屈託のない姿も含め、動画には収められるだろう。
──本当に、本当に、彼女たちは天才だ。
隣にいる奏音もそう。
凡才どころか争う権利すら持っていなかった万桜に、太刀打ちできるのか。
「……それでもやる、って決めただろ」
繰り返してきた決意を口にして。
武者震いを気合で抑える。
「行こう、奏音」
「はい、お姉様」
片手を握りあったまま、舞台裏から表に向かう。
戻ってきた美夜たちとすれ違う。
「期待してるわ」
「できる限り、やってくる」
万桜たちはスタンダードに横並びのフォーメーション。
スポットライトは二人に集まり──美夜たちのような奇策はこの部分にはない。
しかし、観客からの反応は、
「おい、見ろよあれ」
「コスプレ……!?」
万桜たちの策に、しっかりと嵌まってくれた。
◆ ◆ ◆
「……やば。ほんとやばいよ、万桜ちゃんたち!」
ミアが目をきらきらさせながら舞台裏のモニターを注視する。
美夜もまた、身体が「ぞくぞく」するのを感じながら「そうね」と答えた。
口だけは素っ気ない風を装ったが。
口元に手を当て、表情を隠さずにはいられない。
──周りの生徒たちも、万桜たちの姿に興味を惹かれている。
「すご、あの子たちすっごく大胆」
「コスプレにアニソンとか、初めてで普通選べないってば」
上級生からの称賛が、胸に響く。
彼女たちの中にはつい一分前に「すっごく良かった!」と美夜たちを褒めてくれた生徒も含まれている。
万桜たちの選択はとびきりの奇策だ。
普通やらないことをやって注目を集める。完成度を評価された美夜たちとは違う。
わかっていても、悔しさと嫉妬がこみ上げる。
──流れ出した前奏は、先輩たちが口にしたようにアニメのOP曲だった。
調べたところ、放送は半年前。
アニメの内容は、異なる陣営に分かれた「双子の姉妹」が、それぞれの信じるもののために戦うというもの。
OP曲はメインキャラである「双子姉妹のデュエット」。
「……やってくれるじゃない」
現状から逆算すれば、これが最適解だと確かにわかる。
わかるが、果たして美夜にこの選択ができたか。
つまり、万桜たちは「双子」という強みを最大限に活かしたのだ。
同じ顔が二つ。背丈も一緒。
美夜たちのように「並ぶとアンバランス」ということもない、むしろ髪色以外鏡合わせのような姿がそれだけで映える。
そこに、アニメのコスプレという非日常感の強い衣装を合わせてきた。
ただでさえ珍しい双子に、映えるコスプレ。
この時点でもう、十分過ぎるほどの注目要素だと言うのに、曲が始まると同時に行ったことと言えば、
「あははっ! あれ、アニメのOPと同じだ!」
手にした
もちろん、剣と言っても本物ではない。
ある程度の硬度はありそうだが、打ち合った時の音は金属っぽくはなかった。
コスプレ会場では許可されないかもしれないが、良くて鈍器。
それでも臨場感としては十分。
──そもそも、アニソンの多くは『歌姫』が手掛けている。
歌詞に独特のフレーズが交じったり、作品に即した内容になるためこうしたライブではあまり使われない。
美夜も無意識に候補から除外していた。
耳馴染んだ最近の曲ながら他生徒がチョイスしないライン。
たとえ誰かが選んだとしても、本当の双子美少女に勝るインパクトは得られなかっただろう。
考えてみれば、ミュージカルを得意とする歌姫も実際にいる。
基本的にライブと言えばダンスだが、ダンス中にバトルを繰り広げるパフォーマンスはある。剣で戦うのももちろんアリだ。
「ミア、あんたこれ知ってたのよね?」
「ん? うん、万桜ちゃんたちが『剣道場を予約してなにか練習してた』のはね」
学院の剣道場は部屋が二つに分かれている。
男子と女子で分かれて練習するためだが、現状、女子剣道部は部員ゼロで活動していない。
片方の部屋だけでも練習には十分なので、申請すれば借りることは可能だ。
盲点。
しかも「ダンスの練習で使う」のではなく実際に剣道の稽古もするのなら剣道部としても貸しやすかっただろう。
「衣装も可愛いー。動くからスカートが揺れて綺麗だよね」
「うん、それにちょっとえっち」
奏音のほうは和柄の巫女風なので露出度抑えめだが、万桜の衣装はレオタードにジャケット+ミニスカート。
スカートの中にはそもそも下着の影も形もない。
レオタードの下には穿いているかもしれないが……なかなかの角度、穿いていてもけっこうきわどい下着に違いない。
美夜は、一部の男が「うおお!」とばかりに撮影しているのを見て辟易すると共に、万桜たちが本気で本気だったことに戦慄した。
しかも、
「あいつ、なんて楽しそうな顔してんのよ」
万桜は高揚からか頬を赤らめ、額に汗をかいている。
一曲の時間なんて大したことはないというのに、どこまでハイになっているのか。
あれじゃまるでえっちな気分になっているみたいだ。
もちろん実際はそんなことはないだろう。
歌によって身体能力を強化し、ことによっては体感時間の加速まで行っているかもしれない。
殺陣がプラン通りなのか行き当たりばったりなのか区別がつかないものの、奏音に当てず武器を振るうのにかなりの神経をすり減らしているのはわかる。
「ねえ美夜ちゃん。あれ、美夜ちゃんならできる?」
「そりゃ練習すればできるわよ。でも……」
剣道なんてやったことはない。
練習は素人同然のところからだっただろう。だとすれば経験値のアドバンテージは存在しない。
むしろ、自らあれを選択した万桜のほうに一日の長があるかもしれない。
年単位で入院していた万桜に剣道経験があるというのも驚きだが。
──別に、おかしくはない。
多少ぶっきらぼうな口調も男勝りな環境で育ったせいかもしれないし、事故の大怪我で続けるのを諦めたのかもしれない。
留年や飛び級でもない限り、学年が一緒なら年齢は同じ。
ここまで費やしてきた時間に大きな開きはない。
だからこそ美夜は効率的な上達を心がけてきたわけだが、あらゆる分野において、美夜が万桜に勝っているわけではない。
「……奏音も、なんでそんなに」
美夜とライブした時よりも一段も二段も、動きのキレが良い。
彼女の経歴に剣道も、フェンシングも、薙刀もなかったはず。条件は美夜と変わらないはずなのに。
剣の経験がなくとも、彼女には天性の才があったのだ。
姉と、万桜と呼吸を合わせるという、誰にも真似できない圧倒的な才能が。
凛とした奏音の美貌、漆黒の髪と瞳に、和風の衣装がこれでもかとマッチしている。
そのうえでアニメ内のキャラクターともマッチしているのだから──他とは違う幻想的な光景がステージには広がることになる。
アニメ自体を知っていれば感動はひとしおだろう。
二人はステージ上を平面的に広く使い、躍動感溢れる戦いを披露した。
もともとアップテンポ気味のメロディなのでバトル演出がよく合う。
美夜たちは努力に努力を重ねてでも無理に『3次元的な演出』を目指したが、平面でも、『歌姫』の実力を如何なく発揮する方法はあったのだ。
「それにしても、あの子、良くエナジー持つよね」
「エナジー15万の子ってあの子でしょ? 動いて動いて妹さんをリードしてるお姉さんのほう」
美夜とミアも一曲に今日のぶんのエナジーをほぼ集中させた。
おかげで体力もエナジーもかなり使ってしまった。二人だけでやったリハーサルも含めて枯渇が見えかねないくらいだったが──。
とんでもなくエナジーを使う体感時間の操作をやりながら身体強化まで施しているとしたら、いったいどれだけ。
「スタッフさん、エナジー計って動いてますか?」
「はい。この調子だと最後までもつか少し怪しいですが……」
「あの、あたしにも見せてください!」
事故が起こらないように用意された測定機によると、すでに万桜のエナジー量は二割を切っていた。
12万の消耗。
あのパフォーマンスの代償がそれか。
美夜にはない、万桜だけの長所の応酬。悔しさに唇を噛みつつ、
「これ、止めさせなくていいんですか?」
相手を貶めて勝ちたいわけじゃない。
単にエナジーの枯渇は危険だからだ。
これにはスタッフも「そうですね……」と迷う様子を見せるも、
「最後までやらせてあげてください」
「先生方」
真昼と
「でも、倒れてからでは」
「上の了解ももらっています。大丈夫。彼女ならきっと──」
真昼たちは、なにかを確信しているようだった。
期待?
いったい、なにが。
エナジー量は絶対。休めば回復するが、気合いでどうにかなるようなものじゃない。節約術が急にうまくなるわけがないし、ましてや総量が──。
「え、これは……!?」
光をもたらす万桜のエフェクトがひときわ強くきらめいて。
測定機の示す万桜のエナジー残量が『上昇していく』。
「エナジーが、増える!? そんなこと、あるはずないじゃない……!」
譲渡でも受けたというのなら話は別だが。
唯一、距離的に可能かもしれない奏音はパフォーマンスに全力。
ましてや万桜は、訓練してもエナジー総量が増えないくらいその方面の才能がない。真昼から受け継いだエナジーだけでやりくりして──。
「まさか」
ある想像から思わず呟けば、真昼が「そう」と同じく呟くようにして答えた。
「万桜ちゃんは、自分自身のエナジーをまだ秘めていたの。それが、初めてのライブでようやく表に出てきた」
回復──上昇したエナジー量は全部で約『28000』。
今までの彼女のエナジーと合計すれば、
「エナジー、18万……?」
10万だった美夜との差が、12万に。
そうして万桜は、パフォーマンスを最後までやりきった。
ほんの数分で力を出し切り、全身に汗をかきながら、彼女は盛大な拍手を妹と共にその身に受けた。
晴れやかな笑顔。
剣を片手にみんなへ手を振るその姿は、まさにヒロインそのものだった。