性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 寮への帰還とお小遣い稼ぎ

 実家で数日のんびりした万桜は、奏音と一緒に寮へと戻った。

 

 再び乗ることになった超高速便はまだまだ乗り慣れなかったものの。

 管理人のななせに挨拶をして、自室のベッドにぽふっと座ると、

 

「あー、なんか『帰ってきた』って感じ」

「向こうでは肩肘張りっぱなしでしたからね」

 

 先に届いていた荷物──向こうで買った服等を取り出しながら、苦笑する奏音。

 素の口調で話すことさえままならなかった万桜はともかく、彼女はこっちにいても向こうでもあまり変わらなかった気がするのだが。

 

「お前でも気疲れするんだな」

「当然ではありませんか。お姉様以外の方と接する時はやはり気を遣います」

「俺といる時でも、もっと気を抜いていいんだぞ」

「いいえ。お姉様に対しては胸を張れるわたくしでいたい、と思いますので」

 

 結局頑張ってるんじゃないか。

 そう思う万桜だったが、「気を遣わないといけない」のと「気配りをしたいと自発的に思う」のとでは気の持ちようが違うのだろう。

 万桜だって、奏音相手には多少なりとも「いい兄」でいたいと思う。いや、今は姉だが。

 

「お姉様はわたくしがだらけても採点を始めたりはしないでしょう?」

「そりゃあな。……でも、度が過ぎたら注意くらいはするぞ?」

「例えば?」

「例えば、こっそりタバコ吸い始めたりとか」

 

 すると奏音は「ありえませんのでご安心を」と笑った。

 

「そのようなものに手を出すくらいならお姉様を押し倒します」

「貞操の危機なんだが」

 

 まあ、今の万桜ならうっかり取返しのつかない傷をつけたりはしなくて済むし、それで気が済むならそれはそれでいい……のか?

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 さて。

 

 戻ってきて早々ではあるものの、午後の時間が空いたのでバイトをすることにした。

 実は『歌姫(ディーヴァ)』にはちょうどいい日雇いのバイトがあるのだ。

 

「わたし、実際やるのは初めて」

「わたくしもです。特に危険性などはないはずですが……」

 

 ちなみにミアはまだ本土で家族サービス中。

 美夜は戻ってきていたものの、一緒に行かないかと誘うと「あたしはパス」とのこと。

 

 会場は全国にあるが、近場だと万桜が入院していた病院がそうだった。

 受付で要件を伝えると、しばらく待ってから別室に通してもらえて。

 前に使ったエナジーの検査機器の、より大がかりになったバージョン──のような機械がいくつか用意されていた。

 

 デバイス経由で個人情報が確認され──二人に資格、すなわち心奏に所属する『歌姫』候補生であることが認められたうえで、

 

「提供していただくエナジーの量はどうしますか?」

 

 そう。

 このバイトは『歌姫』の持っているエナジーを提供して、代わりにお金をもらうというものだ。

 二人が対面した機器は人からエナジーを取り出すためのもの。

 悪用されると危険だし、取り扱いも難しいためセキュリティの高い病院等に設置されていることが多い。

 

 『歌姫』を中心に回っている現代社会においてエナジーはとても重要なエネルギー。

 火力や原子力のように自然を汚すリスクがなく、風力や水力よりも簡単に取り出せて保存もしやすい。

 今や、世界の電力の大半がエナジーによる発電で賄われている。

 日本の場合、このエナジーは国民から負担のない形で徴収されている──具体的には、日本に住む女子からほんの少しずつ、特殊な方法で自動的に集めて蓄積している。そうして集めたエナジーの恩恵を受ける代わり、国民は電気料金といった形で対価を支払う。

 そして、普通の方法だけでは足りない分のエナジーはこうして、エナジー保有量の多い存在、すなわち『歌姫』から確保している。

 

「ちなみに、初めての場合は総量の半分から三分の一くらいがおススメです」

「であれば、わたくしは10,000エナジーで」

 

 だいたい三分の一くらいか。

 妹の選択に万桜は頷いて、

 

「じゃあ、わたしは60,000エナジーで」

「60,000!?」

 

 驚いた女性看護師さんが「話聞いてました!?」という顔をした後、万桜のデータを見て「なにこのエナジー量……!?」とまた驚いた。

 うん、60,000でだいたい三分の一くらいなのである。

 一年生どころか卒業する生徒のトップレベルの数値はやっぱりみんな目を丸くする。

 入院中に万桜とよく接していた人じゃなかったのも原因だろう。

 

 ともあれ。

 提供するエナジーを申告したら、好きなほうの腕を機器に取り付けて──。

 

「では、始めます」

「っ」

 

 吸収が始まった瞬間、不思議な脱力感が来た。

 特に痛くはない。

 ただ、力を使っていないのにエナジーが減っていくのが少々変な感じだ。

 これは確かに、慣れないと若干辛い。

 少なめにしておいて正解だったと思いつつ、しばらくエナジーが吸われていくのを待って、

 

「ありがとうございました。……謝礼の入金を行いましたのでご確認をお願いします」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 提供するエナジー量によってかかる時間は変わるものの、万桜の60,000でも三十分はかからず。

 もらえたお金は、奏音が10,000円で万桜が60,000円。

 病院を出た万桜は、小さな声で妹に語りかけた。

 

「毎日エナジーを提供していれば、それだけで大金持ちなんじゃ」

「その分、練習に使えるエナジーが減るのを忘れないでくださいませ」

 

 実際、これはかなり割のいいバイトである。

 正確にはバイトというより献血とかに近いが、何を隠そう、万桜たちの母もこれを主な収入源にしている。

 母の総量は20,000と少し。

 『歌姫』を目指すには少ないが、週に二、三回、保有エナジーのほとんどを提供すれば普通に仕事をするのと似たような額が得られる。

 仮に万桜が週一で100,000提供した場合は──うん、けっこういい会社に勤めるくらいの稼ぎになる。

 が。

 

「ん。お小遣い稼ぎくらいにしておかないと、みんなに追い抜かれかねない」

 

 万桜たちの保有エナジーは、可能な限りステップアップに使うべきだ。

 美夜がパスしたのもそういう理由。

 お金に困っているのでもない限り、提供するエナジーで能力の制御訓練でもしたほうが良いから。

 あんまりほいほい提供しているとみんなから出遅れて、結果、将来稼ぎのいい仕事に就けなくなってしまうかもしれない。

 そんなことになったらいろいろ本末転倒である。

 

「でも、この前の買い物代くらいはだいたい取り戻せた」

「そうですね。調子に乗ってだいぶ買ってしまいましたから」

 

 手に入れた70,000円は、奏音と話し合って折半することにした。

 妹は「さすがに悪い」と拒否しようとしたものの、万桜が「どうせ一緒に暮らしてるんだから」と説得するとしぶしぶ折れた。

 

「では、これからのアルバイト代も折半ということで」

「うん。エナジー提供は遊び代を稼ぐくらいにして、本格的なアルバイトはこれから」

 

 既に、本命のアルバイトは目星をつけて先方ともやり取りをしている。

 献血で生計を立てています、みたいなのだと若干人聞きも悪いし、ここはちゃんとしたお仕事を推し進めていきたいところである。

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