学園祭が終わると二学期の中間試験が迫ってくる。
十月末の中間試験の後は十一月にセカンドライブ。
曲や衣装などの準備も並行して進めていかなければならない。
「なんか、クローゼットに衣装がどんどん増えていきそう」
「そんなものよ。先輩の中にはいらない衣装をくれるって人もいるくらい」
九月末の朝食の席にて。
美夜の言葉になるほどと頷く。
処分するのももったいないし、再利用されるならそれもまた良さそうだ。
「試験なのですけれど、美夜さんとしてはユニットをどうなさるおつもりですか?」
「聞いてくるってことは考えてることは同じでしょ? あたしはこの四人でやりたい」
「ミアも賛成! 学園祭のライブ楽しかったもん」
もちろん万桜にも異論はない。
四人で練習するのにも慣れたところなのでちょうどいいだろう。
「ってことは、セカンドライブもこのユニットでいいよね?」
「ええ。今度はちゃんと衣装を合わせるわよ。四人ユニットとしての完成度も追及するんだから」
奏音とのユニットは勝手知ったる双子同士で楽だが、この先、他の誰かと臨時で組むこともあるだろう。
そういう時のためにも人数多めでのライブ経験も積んでおきたい。
「曲かあ。……美夜、作詞とか作曲できない?」
「は? ……いや、まあ、できなくはないけど。そんなもの人前に出すくらいならプロの曲使ったほうがマシでしょ」
やったこと自体はあるのが美夜らしい。
あと、プロの曲うんぬんというのはぶっちゃけ恥ずかしいからなのでは?
「必ずしも既成曲が有利とは限らないのでは? オリジナル曲は独創性という点で加点をもらえるはずです」
「う。まあ、そうね。正直気は進まないけど」
「美夜ちゃん、ミアが見せてって言っても絶対見せてくれないんだよー?」
「あんたが後ろから覗き込もうとするからでしょ! っていうか、万桜たちはどうなのよ?」
「わたしがやったらたぶんロボット物の主題歌とかになる」
「わたくしも、基礎的な理論は多少学びましたが実践までは」
美夜が本格的にやってないのと同じ理由だろうが、作詞も作曲も歌って踊るのとは別の才能がいる。
こればっかりはセンスなので能力でも解決できないし。
『
どころか、男性の作詞者、作曲者にお願いしているプロの『歌姫』もそこそこいたりする。
ともあれ。
「せっかくだから美夜の作詞も試してみない?」
「ええ、選択肢が多いのは良いことかと」
「美夜ちゃんがどんなの書くのかミア興味あるなー」
三人でじっと見つめると、金髪の美少女は「ああもう!」と声を上げて、
「わかったわよ! その代わり、あたしが見せるんだからあんたたちも見せなさいよ?」
「そう来たか」
あ、これグダグダになるやつだ。
アイドルものやバンドもののアニメならギリギリになって名曲が生まれるが、作中で使われる実際の曲はプロが時間をかけて作ったものである。
なので、並行して曲探しも行うことにした。
◆ ◆ ◆
十月頭。
さすがに夏の陽気からは遠くなり、だいぶ涼しくなってきた。
屋外で練習するのにも良い季節である。
試験やライブが近づいてくると練習場所に困るのが常だが、時間を調整すれば寮の周り、あるいは夏に海水浴に行った浜辺などが使える。
校舎や寮に近い場所は先輩方が譲ってくれたりもする。
「私たちは遠くても飛んでくかテレポートできるから」
「近いところは一年生が優先的に使って」
あとは、万桜の伝手で剣道場を半分借りられる。
おかげでユニット練習は一学期の頃よりもだいぶスムーズにできるように。
曲は──いちおう四人で作詞を行ってみたものの、みんなして素人丸出しで全滅。
恥ずかしいポエムを他人に見られるというダメージだけが残る結果で、仕方なくというか予定通りにプロの曲を借りることになった。
『そうだ。ソロの曲とかねらい目じゃない?』
という、ミアの発案により選曲は決定。
『いいけど、ソロの良い曲ってだいたい難しいわよ』
『振りつけを変更するのは織り込み済みですが、歌自体の難易度もそれほど変わりますか?』
『ソロでユニットと勝負できるようなのはだいたい天才よ。自分しか歌えないような仕込みしてるのも珍しくない。……でも、そういうのだけじゃなくて』
『怖れ多いからみんななかなか使わないってことじゃない?』
万桜の回答がおおむね正解である。
わざわざソロの曲をユニット用にアレンジしてしょぼかったら目も当てられない。
ファンからも「わざわざこの曲使うなよ」と見られる可能性のある挑戦的な選択である。
──が、まあ、そういう挑戦は嫌いじゃない。
安パイで十分な成果が挙がるならそれを突き詰めるが、足りないならギャンブルもする。
才能不足を補うためでもある。
他人へのコンプレックスは姉との対話やのんびり屋のどっかの誰かの影響で割り切れるようになった。
後は努力の仕方を間違えないことと、できる努力はすること。
そうして選ばれたのは、かつて天才と呼ばれたとある『歌姫』の曲。
よりによって
いいだろう。
美夜たちだって今年の一年生で上位に入っている。
天才の曲だろうと、自分たちなりに歌えるくらいじゃなければ上には行けない。
というわけで、厳しい練習が始まった。
ソロ曲をユニット用にアレンジする以上、振りつけやフォーメーションは当然自作になる。
ソロパートやデュエットパートを入れるかも含めていろいろ試行錯誤しながらひたすら踊る。
「万桜、あんたたまにワンテンポ遅れてるわよ。気をつけなさい」
「奏音はタイミング完璧だけど表情が硬くなってる。動きに集中しすぎ」
「ミアは逆にちょっと速いから少し落ち着きなさい」
あらためて組んでみると、この四人はなかなか癖のあるユニットである。
相似形の万桜・奏音と対照的な美夜・ミア。
その寄せ集めなのだから当然と言えば当然だが。
その分、センターを誰にするかも選択肢が広く悩ましい。
万桜と奏音をダブルセンターにするのも映えるし、一人だけ身長の低いミアを据えてももちろんハマる。
一番上手い人間が務めるのがセオリーと言うなら美夜が立候補するが、そうするとミアをどこに置くかがなかなか悩ましい。
ああだこうだと話し合うだけの時間は無駄なので、ああだこうだと実際に試していたら──あっという間に時間が経って。
「今日は、ここまでにしましょうか」
告げた時にはさすがの美夜もバテバテ、万桜たちも限界といった様子だった。
ミアが「もうだめー」と大の字に寝転がり、奏音は目頭を押さえながら目薬とラムネ菓子を取りに行く。
万桜は──額に汗しながら水のペットボトルを取り、一気に飲んで。
「……あぁ、生き返る」
ふわりと浮かんだ自然な笑顔と、水で濡れた唇に思わずどきっとした。
汗で濡れたウェアが身体に張り付き、起伏に富んだ肢体を強調している。
お尻のラインも綺麗で、華がある。
彼女ならいるだけで他人、特に男子の目を惹いてくれるだろう。
しかも。
「どうしたの、美夜?」
見つめ返された美夜は「いや、なんていうか」と濁したうえで、
「あんた、最近ほんと可愛くなったわよね」
すると万桜は「また言ってる」とあきれ顔に。
と思ったらすぐに表情を和らげて、
「でも、ありがとう。可愛くなったらその方がいいだろうし。嬉しい」
「っ」
だから、そういうところだっていうのだ。
ぶっきらぼうだった口調も少し装飾が施されるようになって、それに自然な表情が加わる。
普段は少し眠そうに見える彼女だが、笑うと本当に。
「あー、わかる。万桜ちゃんエロいよね」
「……ミア、あんまり人にそういうこと言っちゃいけないと思う」
「えー。万桜ちゃんが『可愛いほうがいい』って言ったのに」
「可愛いとエロいはだいぶ違うと思う」
ジト目になる万桜。
奏音がしみじみと頷いて、
「お姉様の美しさに艶が加わるのであればわたくしは大歓迎です」
「奏音、そっちに味方するのはやめて」
「あら、良いではありませんか」
「……あー。本当、あんたたちは」
話がすぐ変な方向に行ってしまう。
と言っても、今回水を向けたのは美夜なのだが。
我ながら万桜相手にどきっとするとかどうかしている。
美人揃いの心奏だ。尊敬や親愛、愛着を覚えるのは自然だし、同性も魅了するのが『歌姫』のカリスマだとはいえ。
「万桜。あんた結構ラブレターとかもらうんでしょ?」
「さすがにラブレターはそんなにないかな。……えっと、入学してから五通? や、六通?」
「十分多いわよ」
まあ、美夜も何通かもらったが。
「じゃあ万桜ちゃん、告白は? 告白は?」
「ナンパを含めてもいいならけっこうある。簡単に思い出せるだけで十回以上……?」
「ミアさんは告白、されないのですか?」
「ないよー。変な人はみんなが守ってくれるし」
「ミアに告白する高校生がいたら通報した方がいいわよ」
それぞれに異なる魅力を持った四人。
誰をどう活用するかは曲次第、そして作戦次第になるのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「ようやくわたくしも自由な飛行訓練を許可していただけました」
十月上旬が終わろうと言う頃、奏音が進級条件に向けて一つのステップを終えた。
学食で昼食をとりつつ美夜たちと一緒に「おめでとう」を告げる。
「やったね、奏音ちゃん。これでみんな合格だね」
「待ちなさい。まだ自由に練習できるようになっただけでしょうが」
「うん。でも、かなりの進歩」
万桜と美夜、それからミアはすでに飛行訓練──の前段階である「受け身」において合格をもらった。
これができないとクッション部屋でしか飛べないのだからむしろ前提条件なのだが、この時期の合格はかなり早い方らしい。
ミアもちゃっかり合格しているあたりやはり天才か。
これには一応理由があって、身体が小さく柔軟で体重も軽いミアは曲芸に向いているからだ。能力で作るエアークッションのサイズや強さも万桜たちに比べて軽くてすむ。
反対に奏音がやや苦戦していたのは、
「良くやったわよ。奏音ったらスピードを出すほうに苦労してたんだから」
「と言いますか、未だに苦戦中ですが」
と苦笑して見せた通り、未だ彼女は先生の手を借りてぶっ飛ばしてもらわないとうまくスピードが出せない。
『奏音ちゃんはエナジーのコントロールが上手いけど、出力を上げるのが苦手みたいだね』
とは真昼の談である。
他人にぶっ飛ばされても受け身が100%取れる、さらに言えば「スピードを出しすぎない」がすでに実践できているのだからむしろすごいが。
『万桜ちゃんはスピード出しすぎ。エナジーが多すぎて調節が難しいんだね』
対照的な姉妹だと言われてしまった。
「奏音は部屋の中でも練習できそう。……わたしは外の人のいないところのほうがいいかな」
「あんまり近くに壁とか人がいると間に合わない可能性はあるしね」
ぶつかられるほうを経験した身としては避けたいところである。
「これなら飛んでライブもできるかなー?」
「試験には絶対間に合わないけど……まあ、セカンドライブで、無理のない範囲なら少しは混ぜられるかもね」
それには100%狙ったスピードを出せるようにならないといけない。
もちろん客席に突っ込んだりしてもいけないわけで……自由自在でなくていいにしても、なかなか難しそうである。
「空を飛べるようになるの嬉しいよねー。ね、万桜ちゃん?」
「うん。やっと『歌姫』になるための本当の練習が始まった感じ」
歌やダンスの練習に、試験対策、ライブの準備に飛ぶ練習、さらにSNSの更新。
本当に目まぐるしい楽しい日々。
これ以上なにかあったら目が回ってしまいそうだが、さすがにそうそう何も起こらないかと──。
「ねえ、万桜ちゃん? 良かったら今夜、部屋に遊びに来ない?」
起こった。
授業をすべて終えて寮の前に戻ってきた時のこと。
寮の管理人をしている
今日はどうだったかと言う問いに簡単に答えると、隣にいる奏音には内緒とばかりに唇を耳に近づけられて──お誘いの文言。
「部屋に、ですか?」
いきなり用件をばらした万桜を、ななせは特に咎めることはなく。
「ええ。良いお茶があるの。それで、万桜ちゃんたちが今度やる曲のこととか聞かせてくれたらなあって」
「ああ」
万桜たちが選んだ曲を初めに歌ったのは他でもない彼女──ななせだ。
名前で調べたらあっさりと昔の経歴が出てきた。
何度かユニットに加入したこともあるものの、基本的にはソロで活動していた天才的『歌姫』。
過去の映像を再生してみたところ、その圧倒的実力に息を呑んだ。
正直、こんな人がどうして管理人をしているのかと思ったくらいで。
自分の曲が使われるなら興味を持ってもおかしくない。
むしろコツとか教えてもらえるかもしれない。
「わかりました」
そう了承した万桜に、奏音は部屋に戻ってから「不思議なお誘いですね」と言ってくる。
「まるで密会のようです」
「別にそういうのじゃないと思うけど」
「曲が理由であれば、わたくしを排する意図がわかりません。あれは口実で、お姉様と二人きりになりたかったのでは?」
「なんでわざわざそんなこと」
相手が男なら確かにそういうこともあるかも……いや、向こうのほうが圧倒的に力が上という意味では変わらないのか?
「人を好きになるのに理由はいりません。お姉様に告白がしたいのかもしれませんね」
「ななせさんはわたしのことなんか相手にしないんじゃない?」
された。