性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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章間 番外編
番外編 うどんとキスとチェス


「うどんと言ったらやっぱりきつねだよね」

 

 汁をたっぷり吸ったおあげがたまらない。

 食べ方は人それぞれあると思うのだが、万桜は噛んだ時に汁がじゅわ、と溢れだしてくるのが好きだ。

 ちなみに寮の食堂ではうどん・そばのだしを関東風と関西風から選べる。

 万桜は住んでいる地域柄、関東風派である。

 

 髪をかき上げながら食べるのにも慣れた。

 大きなおあげをちょっとずつ味わいつつうどんを啜っていると、美夜が不思議そうに見てくる。

 

「どうかした?」

「いや、あんた肉とかがっつり系のメニュー好きじゃない? なんでうどんはきつねなのよ」

「万桜ちゃんきつねが好きなんじゃない? ぬいぐるみも持ってるし」

「や、そっちのきつねも好きだけど」

 

 特に関連付けて考えたことはない。

 確かにメニューには肉うどんとかカレーうどんとかいろいろあるのだが、

 

「ほら、がっつり行きたいときはそもそもうどん食べないというか」

「ああ、まあわからないではないわ」

「麺類ってちょっとさっぱりするよねー。ラーメンはあれだけど」

 

 冷たいのか温かいのか、あるいはパスタなどの汁なしかによっても変わるのでなかなか奥が深い。

 

「お姉様、かき揚げも美味しいですよ。玉ねぎたっぷりです」

 

 と、隣でうどんをすすっていた奏音がそう言ってくる。

 

「む、確かにかき揚げも捨てがたい」

「天ぷらが入ると途端にがっつり感出るわよね。美味しいけど」

「エビ天とかかなりご馳走っぽいよねー」

「一口いかがですか? はい、あーん」

 

 差し出された大きなかき揚げをさくっと一口。

 下半分だけつゆに浸かったさくさくのかき揚げがとても良い。

 適度な油分が食欲をかき立ててくれる。

 

「じゃあ、お返しにおあげを」

「よろしいのですか、では」

 

 はむっと食いついた奏音が、おあげの一部を吸った汁ごと持っていく。

 濡れて艶めく唇が若干えっちな雰囲気。

 

「あんたたちほんと仲良いわね。さすがに麺類とか天ぷらのシェアは抵抗ない?」

「別に。姉妹だしいまさら気にしない」

「……あっそ」

 

 ジト目になった美夜がなにかを言おうとして、やめる。

 それを見たミアは「うーん」と考えてから、

 

「万桜ちゃんたちってキスとかもしてるの?」

「あたしが我慢したことをわざわざ聞いてるんじゃないわよ!?」

「あまり求めるとお姉様に嫌がられますので時々、ですね」

「なにその顔。女同士だし、姉妹なんだから別に気にしないってば」

 

 そりゃ美夜のところは歳が離れてるし、しばらく別居してたからアレだが……って前にも似たようなこと話した気もする。

 

「じゃあ、男兄弟だったらできないわけ?」

「さすがに抵抗あると思うけど……わたし、兄も弟もいないからいまいち想像できない」

 

 むしろ万桜が兄だった側である。

 一応、男だった頃に奏音から請われたとしてキスできるかを考えてみるものの……気恥ずかしいとか、妹のファーストキスをそんなので奪うわけにはいかないとか、そもそも奏音がファーストキスじゃなかったらそれはそれでもやもやするとかがあるだけで、キス自体はできそうな気がする。

 しかし男→女と女→男は違うだろう。

 

「奏音はどう思う?」

「そうですね……。お姉様が男性でももちろん愛おしいことに変わりはないのですが、血の繋がった相手でも愚民は愚民ですので」

「やっぱり奏音ちゃんはそうなるんだねー」

「なるほどね。……まあ、そうよね」

 

 頷いた美夜はさらにしばらく考えてから、

 

「じゃあ、あたしとだったら?」

「美夜が嫌じゃなければいいけど。……する?」

 

 普通に尋ねたら「するわけないでしょ!?」と真っ赤になって怒られた。

 先に聞いてきたのは美夜なのにひどいと思う。

 あと、その日一日、ななせから「私とはしてくれなかったのに」みたいな恨みがましい目で見られた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「暇ね。万桜、脳内チェスしましょ」

「ん。持ち時間は十秒でいい?」

「OK。じゃ、先攻をランダムに決めるわよ」

 

 二学期期末試験──四度目の定期試験の最中。

 グループでの試験の順番を待つ間、最近プチブームになっている遊びに誘われた。

 名前の通り、盤と駒を使わずに符号と記憶力だけでやるチェスである。

 

 チェス。

 「古くからある」「競技系の」ボードゲームの中では将棋やオセロに並んで有名なのではなかろうか。

 交互に駒を動かして相手の王様を取ったほうの勝ち。

 取った駒を自分のものにできる将棋と比べると考えることは少ないものの──素人がやった場合、盤ありでもうんうん唸りながら考えるのが普通。

 

 だからこそ、なかなか訓練になるのだ。

 頭の体操でもあるものの、どっちかというと能力のほう。

 十秒という短い持ち時間は「思考加速」を十二分に活かすためだ。

 例えば思考速度を二倍にすれば持ち時間は二十秒あるのと同じことになる。

 三倍なら三十秒相当──加速の安定性と倍率が勝敗に大きく影響する『歌姫(ディーヴァ)』らしい遊び方。

 

「あたしはこう」

「じゃあわたしはこう」

 

 符号のやり取りは割愛するとして。

 二人して宙を見据えたまま一進一退の攻防が続く。

 なお、持ち時間のタイマーや、宣言した手が合っているかの判定はデバイスに入れたアプリで管理できる。

 審判もなしで遊べるのでお手軽だ。

 ……頭はめちゃくちゃ疲れるが。

 

 十秒制限なので状況もどんどん進む。

 総力戦と言っていい乱戦が繰り広げられた後に、

 

「あっ」

 

 美夜の宣言した手にブー、と「お手付き」を示す効果音が鳴った。

 お手付きは即失格。

 万桜はふう、と息を吐いて思考速度を等倍に。

 

「危ないところだった……」

「盤面ではお姉様が負けていましたからね」

 

 符号だけで状況を追っていたらしい奏音が両目を開きながら微笑む。

 対照的に美夜は悔しそうに、

 

「くっ……。あんた、馬鹿みたいにエナジーあるから能力はぜんぜん切れないのよね」

「うん、倍率は安定しなかったりするけど」

 

 節約を意識しすぎてぷつっと能力を切らしたり、エナジーの消耗に体力を大きく削られることはあまりない。

 ライブなどの派手に使う時以外はエナジーを使いきるほうに苦労しているくらいだ。

 もちろんそれだけで優劣が決まるわけではないのであまり威張れはしない。

 実際今も駒運びの上手さ自体は美夜のほうが上だったわけだし。

 

「わたしはむしろチェス自体のコツが知りたい」

「は? そんなの相手の対応を予測しながら一番いい手を選ぶだけじゃない」

「ミア、それを『だけ』とか言われるの不満じゃない?」

「すっごく不満! 万桜ちゃん、ミアたちはミアたちで遊ぼう?」

「では美夜さんはわたくしと一局いかがですか?」

「いいけど。いいけど、どうして負けたあたしが奏音とやらされるのよ……?」

 

 四人の中の最強は当然のように奏音である。

 思考加速に慣れており倍率を上げられるうえ、美夜と同様文武両道、さらに言えば万桜の影響で美夜よりはゲームに慣れている。

 今のところ万桜と美夜、ミアのうち二人以上でいっぺんに挑まないと勝機は薄い。

 

「ふふっ。美夜さんに勝てるものがあるのは気分が良いです」

「あたしは悔しくて仕方ないんだけど?」

 

 ちなみにこの脳内チェスや脳内将棋は思考加速のトレーニングとしてメジャーなもので、毎年一年生の後半から二年生の前半にかけて流行るらしい。

 万桜たちは生徒会長の絵理華から作業の息抜きにと教わった。

 そして当然、一学年上の先輩方は強い。鬼のように強い。能力のスペックが違うのだから当然ではあるが、あの強さはちょっと自信をなくすので、勝ったり負けたりできる同学年との勝負がやっぱりほっとするのだった。

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