性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 祖母との再会

 二学期の期末試験も無事終了。

 生徒会の打ち合わせもして、休み中に戻る羽目にならないように調整。

 試験結果を見たらすぐに終業式が来た。

 

「このシステム、成績下がった子にとっては地獄じゃない?」

「それはまあ、他の学校でも同じですので……」

 

 そういえばそうだった。

 

 ちなみに今回、万桜は学年十一位まで順位を上げた。

 いくら母でもこれで文句は言わないだろう。

 

 むしろ「生徒会に入った」と言ったらいい意味でうるさそうだ。

 やっぱり実家に直接帰らなくて正解か。

 

「そろそろ約束の時間ですね」

「ん、じゃ、行こっか」

 

 荷物を持ち、奏音と連れ立って部屋を出る。

 夏休みに比べれば短い間なので今回はわりと気楽である。

 もちろん電子機器の電源や水道なんかはしっかり確認して。

 

「ななせさん、わたしたちも帰ります」

「はい。二人とも、よいお年を」

 

 意外と普通な管理人からの挨拶に、万桜たちも「よいお年を」と返す。

 

「……私のお部屋で二人っきりでも良かったのに」

「っ」

 

 と思ったら耳元で艶っぽい声を出された。

 うん、そんなことしたら骨抜きにされてしまいそうだ。

 やっぱり告白をOKしなくて正解である。

 

 さて。

 

 寮の外に出たところでちょうど約束の時間。

 船や超高速便を利用しないのかと言えば──約束の相手が「直接迎えに来て」くれるというので甘えることにした。

 デバイスに『GO♪』とメッセージが入ったかと思えば。

 

「久しぶり、万桜、奏音! すっかり女の子らしくなって!」

 

 銀髪の『美女』が不意に寮の前へと現れた。

 目が合ったかと思ったら目にもとまらぬ速さ(ほんとに見えるか見えないかギリギリ)で接近され、二人まとめてぎゅう、と抱きしめられる。

 押し当てられる豊かな双丘は、奏音以上万桜未満といったところか。

 なるほど、万桜たちの体型はこの人の血だな。

 

「ばあちゃん、久しぶり。元気そうで良かった」

 

 そう。

 見る限り、せいぜい三十代後半くらいにしか見えない彼女こそが万桜と奏音の『祖母』──つまり母の母である。

 例えば万桜たちの歳で産んだとしても十六かける三なわけで、どう考えても三十代のわけがないのだが。

 寝込む前に会った時よりむしろ若くなってないかこの人。

 

 訝しみつつも微笑みかけると、祖母は軽く目を細めて。

 

「ばあちゃんは止めなさい、万桜。似合わないし、レディに失礼よ」

「いや、レディって歳じゃ──」

「なんですって?」

 

 笑顔なのに目が笑っていない。

 テレポートの精度、身体強化の倍率と瞬発力に果てしない実力差を感じて、万桜は「ごめん」と謝った。

 小さい頃から「ばあちゃん」と呼んでいたので今更変えるのもあれなのだが。

 

「おばあさま、ご無沙汰しております」

「ええ、奏音。ほら万桜、この子を見習いなさい」

「わたしが『おばあさま』とか言っても似合わないでしょ」

 

 というか血縁の前だと男口調に戻りそうになる。

 

「それにしても、ばあちゃんってすごい『歌姫(ディーヴァ)』だったんだ」

 

 しみじみと感心したように言うと、彼女はくすりと笑って、

 

「今更なに言ってるの、もう」

 

 当然のことのようにそう答えた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 祖母の肩に手を置いて一呼吸したと思ったら高級マンションのロビーにいた。

 

「一瞬で本土だ」

 

 デバイスの位置情報が更新されてテレポートの事実を教えてくれる。

 さすがは『歌姫』の大先輩。

 万桜と奏音に外国の血を入れた張本人(ハーフ)にして母が『歌姫』に憧れた原因の一人──それこそがこの祖母である。

 

「さ、大したところじゃないけれど、行きましょ。三人くらいなら余裕で寝られるから」

 

 大したところじゃないと言いつつも。

 オートロック付きのお高いマンションの一室なので広さも部屋数もぶっちゃけ十分すぎるほどだった。

 ここ使って、と示された部屋にはでん、と、

 

「ダブルベッド」

「ああ。さすがにベッド二つ置くのは狭苦しいかなって。……やっぱりもう一部屋あったほうがいいかしら?」

「いえ、ほんの一、二週間ですし、シングル一つでも十分です」

 

 いやさすがにシングル一つは暑苦し──まあ冬だからいいちゃいいが。

 ちなみにもう一つの部屋候補は祖母の衣装部屋になっており服や靴、鞄などでいっぱいだった。

 この部屋にしてもダブルベッドを置いているのに狭苦しくはない。

 

「わたしたちは同じ部屋でも気にしないから大丈夫」

「ええ、これでお姉様が男性でしたらどきどきするところですけれど」

「男だとさすがに気持ち悪いとか言ってなかったっけ」

「あら、男性の性欲の強さを考えますと身の危険がある……と思っただけです」

 

 それは「どきどきする」で済ませたらだめなのでは?

 と、聞いていた祖母がくすくす笑って、

 

「本当に変わったわね、万桜」

「変?」

 

 少しどきっとしつつ尋ねると、返ってきたのは「いいえ」という回答。

 

「いいじゃない、可愛いし」

 

 からっとした笑顔がなんとも頼もしい。

 

「私的には『歌姫』同士のほうが話しやすいしね」

 

 年齢的に、祖母は『大戦』を終わらせたはじまりの世代までは行かないにせよ、かなり最初の頃の『歌姫』ということになる。

 金銭的にも困っていないのは衣装部屋にあったあれこれを見れば明白だが、ならばなぜ豪邸とかに住んでいないのかと言えば、

 

「煩わしいじゃない、先祖代々の家を守り続けるとか」

 

 当時の価値観だと非難ごうごうじゃないか? と思ったものの、母の本当の実家に関しては別の親戚がちゃんと管理しているらしい。

 祖母がそのへんを嫌だと言ったのも考えてみると当然で、

 

「そっか。次の人に受け継ぐタイミングめんどくさいもんね」

「そういうこと。やっぱりそのあたり『歌姫』同士のほうがわかってくれるわよね」

 

 そのうち外見年齢と実年齢が倍違ってきそうな祖母を見ていればわかる。

 普通の人よりも引退やらなにやらが遅いので、下手するとえんえん同じところに縛り付けられることになるし、子世代も相続のタイミングを失ってしまう。

 万桜たちもそのうち他人事じゃなくなるので「さもありなん」という感じだ。

 

「おばあさまは心奏の卒業生ではないのですよね?」

「ええ。だって私の若い頃はまだなかったもの、あの学校」

 

 訪れたことは何度もあるのでテレポートは簡単だった、とあっさり告げてくる祖母だが──みんなの憧れの伝統校が「高校生時代にはまだなかった」とは、なかなかのカルチャーショック。

 そういえば、小学校で「おばあちゃん世代から話を聞いてまとめましょう」という課題が出たことがあったが、万桜と奏音のまとめたそれはぶっちぎりで詳しかった。

 『歌姫』は記憶力もいいし交友関係も広いので、下手をすれば、というかしなくても、祖母の世代なら戦時中のことまであれこれ知っている。

 

 ほっと息をついた奏音が微笑んで、

 

「やはり、おばあさまの申し出に応じて正解でしたね」

「うん。ここならのんびりできそう」

「あの子が面倒をかけてごめんなさい。でも、私が原因でもあるから口うるさくは言いづらくて」

 

 そりゃ、実の母親が『歌姫』なら自分も、と思うのは自然だろう。

 母の子供時代も祖母はこんな感じで周りよりぶっちぎりで若かったはずで、下手したら同級生男子から恋されていたり──と、それはともかく。

 

「世代が違うと言っても『歌姫』同士。いろいろ話もしたいわ。でも、あれこれ指図するつもりはないから安心して」

「ありがと、ばあちゃん」

「だからばあちゃんは止めなさいって言ってるでしょう」

 

 万桜たちの祖母はそんな感じの人である。

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