「おお、これは……!」
祖母の家にお邪魔した日の夕食は。
テーブルに収まりきらなくなりそうなほどにずらりと並んだご馳走で。
その中央に置かれた今日の主役は大きなローストチキンだった。
「おばあ様、とても豪勢ですね?」
「そうでしょう? クリスマスは過ぎてしまったけど、せっかくあなたたちが来るからと思って」
その言葉に顔を見合わせる万桜と奏音。
「実は志穂さん、わたしたち寮でもクリスマスしちゃってたり」
祖母のフルネームは
おばあ様とかグランマとかいろいろ考えた末に名前で呼ぶことにした万桜である。
それはさておき。
クリスマスの夕食は寮の食堂も特別メニューだった。
骨付きフライドチキンにビーフシチュー、グラタンとメインを三種類から選ぶ形式で、選ばなかったものもミニバージョンが付いてくる。
デザートには小さいケーキまで振舞われた。
もちろんみんなに大好評だった。
「知ってるわ。だからローストチキンにコーンポタージュ、アラカルトをメインにしたのよ」
なるほど、そういうことだったのか。
「ありがとう。被らないように気を遣ってくれたんだ」
「可愛い孫のためだもの、それくらい当然でしょう?」
ふふん、と胸を張る志穂。
「まあ、半分くらいはできあいだけれど」
「志穂さん、料理はあんまり得意じゃなかったり?」
「馬鹿言いなさい。その気になればおせち一式だって用意できるわ」
「む、仲間かと思ったのに」
「伊達に歳はとってないわ。万桜も練習してみる?」
「あ、確かにここなら気楽に料理できるかも」
寮だと作った料理の消費に追われることになるし、実家だと母がうるさい。
軽く自慢しただけあって祖母の料理は絶品。
味付けはどことなく母のものに似ている、というかこっちが本家か。
「あなたたち、休み中も仕事があるんでしょう? なにをする予定なの?」
食事をしながら世間話的に尋ねられる。
祖母はマナーもしっかりしているものの、それをあえてラフに崩していて格好いい。
万桜たちには細かく適用してこないので気持ちが楽である。
「あー、うん、それが」
「わたくしもお姉様も初めてなのですが、ライブの依頼が来ておりまして」
ちょっと緊張していたりする。
◇ ◇ ◇
ところ変わって地元の市営ホール。
公共交通機関で行くつもりだったが、祖母が送ってくれた。
ついでにライブを見ていくと言う。
暇なのかと思ったら「暇にしたのよ」とのこと。
「私みたいな時代遅れが頑張らなくても後輩たちが活躍してくれるしね」
まだまだ若い見た目でそう言われても説得力が皆無だが。
「ようこそお越しくださいました、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
余所行きの格好で地元に来るのもなんだか落ち着かないものである。
ついでに言うと相手の担当は市の職員、つまり公務員。
年始には成人式にも呼ばれているので、なんだ、地元は万桜たちを推しているのか。
「我らが市から誕生した『
「温かいお言葉、心より感謝いたします」
今回の衣装はファーストライブの時のもの。
曲はこれまでのライブで歌ったものに加えて、定番の冬ソングなどをいくつか。
二人だけで何曲も続けて歌うのは初めて。
学院以外の会場も初めてだし、場所は地元だ。
「うまくできるかなあ」
「緊張しなくても大丈夫よ。地域のイベントなんだし、ハコも知名度も学院のイベントより小さいじゃない」
せっかくだからご一緒にお話を、と担当さんに勧められた祖母があっさりそう言うと、
「いえ、それがその……好評につきチケットは完売、立ち見も出ておりまして」
小学生時代の合唱コンクールで使った気がする多目的ホールにはお客さんが超満員だった。
もしかしなくても知り合いいっぱいいるはずで。
こみ上げてくる羞恥心を、これまで培ってきた自信で打ち消して笑顔を浮かべる。
ちなみにこのほか、年末中に地元のショッピングモールと私立高校でも歌うことになっており──。
◇ ◇ ◇
「やっほー、今回もよろしくね?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
怒涛のライブが終わると今度は冬の同人誌即売会へ。
夏にも会った心奏OGの漫画家さんは万桜たちに笑顔で、
「二人とも大活躍だよね。すごいすごい」
「そんな、わたしたちなんてまだまだ」
「そんなこと言って、万桜ちゃんなんか『
「それ、わかるものなんですか?」
「うん、慣れてくるとなんとなくわかるんだよ」
マンガのキャラが同じ能力者の気配を感じ取ったりするようなものか。
「それで、今回も前回と同じキャラなんですよね?」
「そうだよー。衣装は新しいやつだけど」
今回は作者側で衣装を用意してもらっている。
というのもデザインが彼女オリジナルだというのもあって、
「……これは?」
「画像はもらってましたけど、ちょっとえっちなやつですね?」
原作者自らの同人誌なのでやりたい放題。
基本的な方向性は同じなのに、同人版フォームということで露出度とフェチ感がかなり上昇している。
同人誌のほうは成人向け作品なので衣装が多少えっちになろうと誤差だが。
「大丈夫。二人ともライブでは短いスカート穿いて踊ってるんだから」
「そう言われると確かに」
えっちなマンガを買いに来る男どもに「この子たちがえっちな目に遭うのか」という目で見られるのはちょっと違う気もするが。
……あんまり変わらないか。思春期男子なんてえっちなことと格好いいもののことしか考えてないし。
「二人のおかげでお客さんいっぱい来てくれそう。頑張ろうね?」
「はい、精一杯頑張ります」
万桜たちのアカウントのフォロワー数も着実に増えて「ちょっとした芸能人か?」くらいの数字になっている。
少しでも売り上げに貢献出来れば御の字だと思いつつ、笑顔を振りまく。
◇ ◇ ◇
「うん。これは身体がいくつあっても足りない」
「お姉様はまだいいではありませんか。……ああ、能力を一点集中した代償は大きいです」
大晦日には疲れがどっと出た。
今日はなにもないしなにもしないぞ、と妙な気合を入れつつ祖母の家のリビングで羽を休める。
志穂はそんな万桜たちをみてくすりと笑い、
「奏音はエナジーの量で苦労しているようね?」
「ええ。……と言っても恵まれているほうだとわかってはいるのですが」
何度も言うが、例外の万桜と天才レベルの美夜、ミアと比べているせいであって、奏音のエナジー量も学年トップクラスだ。
「あれもこれも、と欲張るとどうしても不足するものですね」
「そうね。でも、頑張ったおかげで成長もしているでしょう?」
成長期に入ってエナジー量自体もかなり伸びているし、能力使用時のエナジー消費量も習熟するほどに節約されている。
「思考加速をメインにしているのなら、常時倍率を二倍程度で維持できるようにして、残りを疲労回復に回したらどう?」
「理屈はわかるのですが……『疲れながら疲労回復を目指す』というのが感覚的にどうにも」
「考え方の問題かしら。二倍状態でも疲れなくなれば、それは能力を使っていないのと同じことでしょう?」
「ああ。二段変身できるように修行するか、一段階目の変身したままずっといられるようにするか、みたいな」
「万桜の例えはわかりやすいけどわかりにくいわね」
そう言いつつ、古典的な少年バトルマンガの話についてこれているあたり祖母もなかなかのものである。