心奏男子寮のとある部屋にて。
四人の男子が集まり、定期開催のとある会合が開かれようとしていた。
「というわけで、今日のお題は『Canon's Cats』だ」
会合と言うほど大したものじゃないが。
絨毯の上に直接あぐらをかいて座り、菓子とジュースを囲む。
深夜テンションでノリノリだが酒は入っていない。
「このユニットを知らない奴はさすがにいないよな?」
「当たり前だろ。一年の中でたぶん一番有名だぞ」
『Canon's Cats』は小鳥遊万桜、小鳥遊奏音、松陰美夜、明星ミアの一年生四人からなるユニットだ。
構成メンバーの学年内平均順位は一年生ユニット中で最も高い。
知名度や人気で言っても一、二を争うのは間違いない才媛の集まりだ。
「じゃあ、とりあえず一押しを言い合うか」
「ああ。じゃあ、せーので」
顔を見合わせた彼らは一斉に推しの名前を言い合う。
「万桜ちゃん」
「奏音ちゃん」
「美夜様」
「ミアたん」
見事な分かれっぷりである。
喧嘩にならなくて良い気もするが、彼らは「なんでだよ」とにらみ合う。
俺の推しの可愛さがわからないっていうのか、というわけである。
「まあ、他の子も可愛いのはわかるけどな」
「ああ、わかる。わかるが一番可愛いのは……なあ?」
ぐぬぬ、とにらみ合った上ではあ、と、ため息をついて。
「とりあえずミアちゃんはないだろ」
「ないな」
「ない」
「なんでだよ」
三人が結託した。
ミア推しを宣言した遠藤(仮)が低い声を上げて、
「愛くるしさなら間違いなく学年一位、いや歌姫科で一位だぞ」
「うるせえロリコン」
「ああいう子に欲望向けるのはアウトだろ」
「濡れ衣だ。俺は純粋にミアたんを応援している」
「まずその『たん』がキモい」
さんざんな言われようだが、仲のいい同士のなれ合いなので良い子は真似してはいけない。
「可愛いのは認めるけどな」
「可愛いにも二種類あるだろ。ミアちゃんはマスコット系の可愛さだ」
「いや、よく見ると主張の強い見た目してるぞ。特に笑ってない時の目つきはちょっとキツく見えてぞくぞくする。ユニットの中じゃ俺は二番目に推しだな」
「わかってくれるか宇野(仮)」
「……ここにも変態がいやがったか」
明星ミア。
美少女というのはえてして素の表情だと塩対応に見えるものだが、赤系の髪と瞳もあいまって一昔前のラノベヒロインのような鮮烈さがある。
『
「宇野はドMだもんな」
「心外だな。僕がいつそんな言動をしたというのか」
「さっき『美夜様』って言ってただろうが」
松陰美夜。
文句なしの美少女ではあるものの、目つきと態度の悪さでも有名。
まあ態度が悪いと言っても「そんなことより勉強したら?」系のキャラであって、本人が一番努力しているのも確かなのだが。
また、女子の間では徐々に態度が緩和したとかで人気が上がっている。
「可愛いけど……なあ?」
「俺たち男子なんて眼中にないだろ」
「それでいいんだ。僕のことを見下しながら踏んで欲しい。冷たく笑いながら『こんなのがいいんだ』と詰って欲しい」
「変態じゃないか」
遠藤がさっきの恩を忘れてドン引きした。
「そもそも美夜ちゃんってレズじゃなかったか?」
「そうなのか? 恋愛よりレッスンってタイプではあるが」
「俺としては、あれは虚勢を張ってるだけだと思うが」
「遠藤の意見にも一理ある。俺と付き合いだして普段はデレデレなくせにプレイでは女王様をしてくれる美夜様というのも捨てがたい」
「普通にいちゃいちゃすればいいじゃねえか」
「やっぱり変態だったか」
「というか、奏音ちゃんこそ男嫌いだろう? 井口(仮)、お前のほうがマゾなんじゃないか」
小鳥遊奏音。
黒髪ロングに巨乳、清楚系の敬語キャラという正統派コンプリートタイプ。
当然人気も高く、彼女にしたい一年生投票(非公式)にて一位を獲得したこともある。
「宇野の意見じゃないが、女の子は男嫌いなくらいのほうがいいんだよ。そのほうが付き合った時に俺以外の男に目移りしないだろ」
「いや、克服した時点で男嫌いはなくなるだろう」
「なるほど、井口はそっちのタイプか。俺は奏音ちゃんにも冷たい目で『この愚民』と見下しながら踏んで欲しいが」
「宇野は踏んでもらえれば誰でもいいんじゃないのか」
阿部(仮)のツッコミに真顔になった宇野が「誰でもいいが?」と開き直る。
「万桜ちゃんに馬鹿にされながらいじられるのもめっちゃ捗るぞ」
「万桜ちゃんがそんなことするわけねえだろうが!」
「まあまあ、落ち着けよ阿部」
「小鳥遊万桜が可愛いのは俺にもわかるぞ」
小鳥遊万桜。
歌姫科一年の中で最高のポテンシャルを誇ると評判の女生徒。
そのポテンシャルは歌姫としての素質だけにとどまらず、妹の奏音を超えるバストサイズを誇る。それでいて他の部分のサイズはほぼ妹と変わらない。
妹と異なり神秘的な雰囲気のある髪色と瞳も人気の秘訣だ。
「ロリコンの遠藤が褒めるとは思わなかったな」
「うるさいぞこのおっぱい星人」
「仕方ない。あのサイズには夢とロマンが詰まっている。俺だって一回触らせて欲しい」
「井口、お前は味方だと思ってたよ」
「ああ。俺は奏音ちゃん派だが、もちろん万桜ちゃんも大好きだ」
握手するおっぱい星人一号&二号。
「確かに。小鳥遊万桜はどんどん可愛くなっているな」
「それはわかる。入学したての頃は所在なさげというか、表情に乏しいところがあったからな」
それが今ではセカンドライブで司会を見事に務め、年上のギャルとコンビでトークを繰り広げている。
でかい同人誌即売会ではコスプレを披露し、大勢のカメラの前で笑顔でポーズを決めていた。
「中学時代に入院してて人付き合いの経験が少なかったらしいからな。それなのに美夜ちゃんみたいな性格のキツさもない。服の好みもなんていうか、男のツボをよくわかってる気がする」
「可愛い服着てるって意味じゃ全員なかなかのものだと思うが」
「全員タイプが違うな」
ミアは若さというか幼さを活かした、文字通り可愛らしいタイプ。
美夜は女の子らしさはしっかり保ちつつも格好良さを追求しているような、モデルとかそっちのイメージに近いスタイル。
奏音は流行を押さえつつもできる限り肌を見せず清楚さを貫く一本気のあるコーデ。
万桜は、可愛い自分を熟知したうえでそれを最大限に活かすように服を選んでいる節がある。
もしかすると妹や友人に服を選んでもらうことが多かったせいで自然とそうなったのかもしれないが。
「奏音ちゃんに比べるとスカート短かったり、胸を隠す意識が少なかったり、ときどきサービスショットくれるからめちゃくちゃありがたい」
「ああ。ときどき『誘ってるのか』と思う時があるな」
「あれで告白してきた奴らを全部振ってるのがやばい。面食いなのか、意外にドSなのか」
「ライブの時の屈託ない表情もいいな。青春を目いっぱい謳歌してる雰囲気がある」
さらにそこからも推しのここがいい、いや俺の推しこそ素晴らしいと言いあった彼らは、ある程度言いたいことを言い終えると沈黙して──いきなり同時にため息をついた。
「ああ、彼女欲しい」
好き勝手に女子を採点したり批評したりしているものの、全員、特定の交際相手がいないことは共通しているのだった。
彼らの未来に幸があるか否かは、誰も知らない。