「もうちょっとだと思うんだよねー」
久しぶりに入った美夜・ミアの部屋。
久しぶりでもないか、作戦会議とかで利用することもちょくちょくあるし。
主の片割れであるミアから「相談がある」と持ち掛けられた万桜は夜、食事や入浴が終わったあとでこの部屋にやってきた。
ちなみに美夜は万桜たちの部屋で奏音にもてなされている。
手土産に持ってきたちょっとお高いアイスにミアは「やった」と目を輝かせた後で、ちょっと真面目な顔でそう言った。
話を聞く万桜のほうは手近にあったぬいぐるみを抱きしめた状態である。
男だった頃なら「ぬいぐるみとか」と笑われそうだが、今は女子なので特に気にしない。
「成績のこと?」
「そうそう。次こそはAクラスに入りたいなーって」
二学期末の試験でミアはBクラス上位の成績を収めた。
彼女の言う通りあとちょっとだ。
あとちょっとでAクラス──学年上位20%に入れる。
それがあの、わりといい意味で過保護なご両親の望みだろうし、
「ミアだけ万桜ちゃんたちと違うクラスなのは寂しいじゃない?」
「それはわかる」
万桜も奏音たちと離れる時は寂しかった。
その時はミアがBクラスにいてくれたから助かったが。
「それで相談かあ。それならわたしじゃなくて奏音のほうが」
「んー。ほら、奏音ちゃんってミアとはなんていうか、タイプが違うじゃない」
「確かに」
合間にアイスを口にして「んー♪」と喜んでいる赤髪の少女はどちらかというと万桜に近く、つまりは脳筋、考えるよりはやってみて覚える性質である。
もちろん奏音との仲が悪いわけではないが。
相談となると似たようなタイプのほうが話が合いやすい。
「万桜ちゃんはどうやって成績上げてるの?」
「あー。えっと、エナジー量でゴリ押し」
「万桜ちゃん、言い方」
でもまあ「他の人には真似できない」という趣旨はこれでもかと伝わった。
「基本方針以外でなにかないの? 特別なやり方とか」
「わたしと言えばマンガを参考にした特訓だけど」
「うん、やっぱり奏音ちゃんに聞いたほうが良かったかも」
バトルマンガの修行も意外と馬鹿にできないのに。
「奏音と言えば、得意な能力に一点特化するって手はあるよね」
「ああ、奏音ちゃんは頭の回転速くしてるんだよね」
「そうそう」
思考加速は応用がききやすいので慣れてくると効果が高い。
組み手みたいな荒事でも組み合わせるのが当たり前になってくるくらいだ。
「ミアが得意なのは身体を動かす系だよね」
「うん。飛ぶのもわりと得意かも。あと、もっと得意なのは自分で動く系」
「そうすると身体強化ってことになるのかな」
身体強化も基本である。
思考加速に比べるとバトル向け感が否めないが。
「あ、ミアもやってみる? パワーアップ状態でずっと過ごす特訓」
「ほんとにマンガを参考にしてるやつだ……」
ジト目になったミアだったが、説明すると「なるほどねー」と言ってくれる。
「身体を強くしたまま寝られるくらいになったらダンスも楽に踊れるね」
「やってみる価値はありそうじゃない?」
「そうかも。ただ、一つ問題がありそう」
「問題?」
「ミア、身体を強くしてるとどんどん熱くなってくるんだよ」
片手をつないで彼女の体温を確認してみる。
アイスを食べているのでちょっと下がっているはずだが、それでも万桜よりは温かい。
年齢差もあるとはいえ平熱の時点でちょっと高めか?
「えっと、それはえっちな意味じゃないよね?」
「違うよ! でも、うん、興奮してるっていうのはそうかも」
「テンション上がってきたぜー、みたいな感じかあ」
身体能力の上昇にアドレナリンの分泌等々が伴ってくるわけだ。
それ自体はそんなにおかしいことじゃない。
普通の人間だって興奮している時はそうなりやすい。
おかげでいつもより馬鹿力が出せたり、時間を遅く感じたりすることもある。
……ん、時間?
「ね、ミア。その熱くなった状態だと思考加速しやすくなったりしない?」
「え? あんまり気にしたことなかったけど、言われてみるとそうかも」
体温上昇によるもろもろの恩恵によってミアの身体強化は人より高性能になっている可能性がある。
その状態のミアは「明星ミア・ヒートアップモード」といったところか。
「でも体力の消費が激しそう」
「万桜ちゃんまたマンガで考えてるでしょ? いや実際疲れるんだけど」
「暑いの苦手だっけ?」
「そんなことないよー。寒いのよりは暑いほうが好きー」
アイスも美味しいし。
「じゃあ、身体を冷やしながら動くよりは暑さに慣れるほうがいいのかな」
「身体を冷やすってどうやるの?」
「わからないけど、ほら、冷却ファンみたいな」
「今度はパソコン部品の話!?」
いやいや、空調服とかでも空冷は使われているし、冷やすために風を発生させるのはおかしくない。
「それか水をぐるんぐるんさせるとか」
「水かー。泳ぐのは好きだけど動かすのは得意じゃないかも。火のほうが得意」
「火属性だもんね」
「わかるけど言い方!」
人体でもパソコンでも熱を持ちすぎるとパフォーマンスが落ちる。
放っておけば寿命の低下にも繋がりかねないが、
「わたしたちの身体って本人次第で改造できるらしいじゃない?」
「そっか。暑いの平気になるように自分を改造すればいいんだ」
「っていうかもうなり始めてるのかも?」
無意識にしている暑さ対策を意識的にすればもっと効率的になるかもしれない。
「あとは、なにするにしても身体強化しながらにしてみるとか。飛ぶときも考えるときも」
「あ、飛ぶ時は勝手に風が当たるからちょうどいいかも」
まさかの空冷再評価か。
「ありがとう万桜ちゃん。まさか本当にできそうなアイデアが出るなんて」
「あはは。やってみないとわからないし、無理はしちゃだめだよ?」
「大丈夫。倒れちゃったら意味ないもん」
ある程度方針が固まってしまえば美夜や奏音たちからも意見がもらえるかもしれない。
万桜たちの寮室に移動すると、二人はフラッシュ暗算なる競技で対決していた。
一緒にやるかと聞かれたものの、万桜とミアは揃って首を振った。
「なるほど、身体強化を基本にした能力行使ですか」
「で、身体が熱くなりすぎないようにするのが課題ってわけね」
さすが頭脳派、話をもちかければすぐに理解してくれて、
「衣装に冷感素材を使ってもらうとかはできるんじゃない? わりと気分違うわよあれ」
「冷却グッズを常備するのも有効かもしれません。風邪を引いた時などに使うでしょう?」
「なるほどー」
冷凍庫に入れて冷やしておいて使いたいときに身体に貼る、みたいなのもあるし、意外と邪魔にならなさそうである。
「こまめに冷たいのを飲むのもいいよね」
「あ、冬でも半袖にすればいいんだよ! 今度からそうしようかなー」
「いいけど、男子の目は気にしなさいよね」
「もう美夜ちゃん、ミアなんか気にする男の子いないってば」
「……どう思われますかお姉様?」
なんで万桜に聞くのかって、特別に男子専用の学内掲示板を覗けるからだが。
「うん、ミアも可愛いんだから気をつけたほうがいいと思う。男子の中には胸の小さな子のほうが好きって人もいるし」
「おっぱいかあ。それならだんだん膨らんできてるんだけどなあ」
出会ってからもうすぐ一年。
成長期のミアもすくすく成長している。
万桜たちとの歳の差は変わらなくとも、こっちの変化が少ない分だけ容姿はどんどん差がなくなっていくだろう。
「そのうち美夜さんよりも胸が大きくなるかもしれませんね」
「ほんと? そしたら美夜ちゃんに自慢しよー」
「ミア、奏音。あんたたち喧嘩売ってるわけ?」
「まあまあ。胸なんて大きくてもいいことばっかりじゃないし」
宥めるつもりで言ったら「あんたのそれが一番妬ましいのよ」となぜか睨まれた。
◇ ◇ ◇
年度末ライブの準備もかなり忙しい。
今回からは新生徒会が一から動くことになるからだ。
そういう意味では万桜の仕事は主に広報なので「まめな告知」を心がけていればよく、だいぶ仕事内容がわかりやすいほうかもしれない。
一方で、他のメンバーの進捗がわかっていないと知らせる内容が掴めない。
自然と全体の進捗をある程度把握することになってなかなかに勉強になる。
ライブまで間があるうちは比較的暇なので各メンバーのヘルプに入るし。
これならもし来期に別の役職になってもそんなに戸惑わなさそうだ。
そんな中でも
「ファンコミュニティ、ですか?」
「そうそう。アーティストとかクリエイターの人をファンが応援するためのサイト、みたいな」
蛍から新しい活動の提案を受けた。
「なんかちらっと見たことはあるような……えっちなやつでしたっけ?」
「サイト自体がえっちなわけじゃないよ……! えっちな投稿が多いのは確かだけど……!」
それはえっちなのでは?
「仕方ないんだよ。応援されるとその、お金が入るから」
「それは大丈夫なサイトなんですよね?」
「ちゃんと健全だよ。あんまりきわどいのは削除されるし、搾取してるんじゃなくて、応援したい人がお金を出して、そのお礼に特別な画像とかを投稿するだけだから」
物は言いようという気がしないでもないものの、アマチュアでもファンから支援を受けられるサービスという意味では確かに素晴らしい。
参加しているのはイラストレーターなどが多いものの、コスプレイヤーや音楽関係の人もいる。
「画材とか、衣装とか、レコーディング費用とかでお金がかかるでしょ? そういうのの足しにできるからすごく助かるよ」
「蛍先輩も参加してるんですか?」
「うん。まだ高校生だからえっちなのは投稿できないけど」
そう言いながらなかなかきわどい画像を載せているようで。
これは男子大喜びなのでは……? と思ったら釣られている奴がけっこういた。
知ってはいたが、男子、単純すぎである。
「万桜ちゃんたちもコスプレ画像とか上げるといいよ。お金、足りてないんでしょ?」
「貧乏なわけじゃないんですけど、親に依存しないであれこれ賄いたいなとは」
SNS投稿の延長みたいな感じでお金がもらえるならありがたい。
「奏音、やってみない?」
「わたくしはお姉様のご希望なら構いませんが……アカウントは一緒にしませんか?」
「あ、確かにそのほうがわかりやすいかも」
というわけでさっそくアカウントを開設してみた。
アカウントごとにコースと料金を設定できて、この投稿はこのコース以上じゃないと見れませんよ、みたいなことができる。
ファンは料金に見合うと思えば課金してくれるし、思ったほどじゃなかったと思えば課金を止める。
実にわかりやすい。
「投稿するのはちょっと特別なやつがいいんだよね。ちょっとプライベートっぽいやつとか」
「撮影は日頃からしておりますので、SNS投稿を見合わせたものなどからピックアップすれば良さそうですね」
全体公開には際どそうだけど課金ユーザー限定なら、くらいの写真は意外とある。
人によっては「続きはこちら」みたいな感じで誘導したりもしてるみたいなので……例えばSNSとは別アングルの写真を投稿するとかも良さそうだ。
考えているとけっこう楽しくなってきたが、
「これで応援してくれる人がいるのかどうか」
「いなかったらわたくしたちだけではしゃいで馬鹿みたいですよね?」
ちょっとどきどきしながらいくつかの投稿を行い、SNS側で告知すると──ぽんぽんと新規のファンがつき始めた。
「わわ、こんなにすぐ増えるもの!?」
「思った以上にわたくしたちのフォロワーが増えていたのですね……」
一人あたりの金額は一回ぶんの昼食代だったり、おやつを買い込む足しになるかな? くらいではあるものの、何人も支援してくれればなかなかまとまった金額になる。
例えばこれで服を買ってその写真を投稿すれば反響があって……新規の課金が増えればまた新しい服が買える。
なんだこれは、錬金術か?
いやまあ、ちゃんとした会社から依頼を受けてコスプレや撮影をするのとやっていることは変わらない、むしろもっとダイレクトになっただけなのだが。
こうやって個人でも仕事を作れてしまう時代とは恐ろしい。
これからはもっといろいろやっていかないとな、と思った。
ところでファンたちが露骨におっぱいを求めてくる件について。