性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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学年末試験

「ほんとずるいよ、まさかあんなことするなんて」

「あはは、ごめんなさい。でも、あれけっこう大変だったんだよ?」

 

 恒例になったライブ後の打ち上げ。

 万桜は複数の同級生から囲まれた。

 あの「続きはWebで」作戦は(気分的には)わりと反則なので気持ちはわかる。

 が、我らがリーダーはふん、と鼻を鳴らして、

 

「真似したければすればいいじゃない。やったもの勝ちよ」

 

 ルール的にもマナー的にも問題ない以上、勝負の世界は非情。

 万桜たちのあれがずるいとなると、一年生にできない能力を使う二・三年生のライブはみんなずるいことになりかねない。

 目を惹く演出がお客さんの注目を持って行くのは当たり前なのだ。

 なので、批判は受け取れないが苦情は「ごめんごめん」と謝るのが妥当。

 

「じゃ、わたしたち、あちこちあいさつ回りしてくるから」

「あんたもそういうの板についてきたわね……?」

 

 みんなと少し話したところで奏音と一緒に輪から抜ける。

 

「歩き回ってスカウトに捕まるんじゃないわよ」

「う、飛んで行っちゃだめかな?」

「暗くなってきたし、ちょっと危ないんじゃないかなあ」

 

 というわけで徒歩でうろついていたら案の定、大人からぽんぽん声をかけられる。

 

「是非うちの仕事を」

「いえ、ぜひうちで」

「な、なんでこんなに」

「ライブ中、お姉様が出ずっぱりだったからでは」

 

 代わりに声をかけられては「お姉さんのほうは?」と何度も言われたらしい奏音は(相手方に悪気がないにせよ)若干不満そうに頬を膨らませた。

 ともあれ、一応名刺は受け取りつつ、詳しい話は学院を通すように伝えて。

 名刺に書かれた会社名を見て、万桜は首を傾げた。

 

「……ん、新宿アニメーション?」

「どうかなさいましたか、お姉様?」

「や、どうしてわたしにアニメ制作会社のスカウトが来るのかなって」

「それはもちろん『声優をやってみないか』というお誘いです」

「声優!?」

「特に驚くことではないのでは? 歌手もアイドルも俳優も声優も、芸能のお仕事には違いありません」

「確かに」

 

 『歌姫(ディーヴァ)』がどれに近いかというとアイドルなのだが、そもそも『歌姫』とは〇〇〇人とか〇能力者とか〇〇〇〇使いのような能力者を表す呼称。

 ライブの内容は、万桜たちがミュージカルをやらかしたように、J-POPではなく演歌や洋楽、クラシックなどなんでもいい。

 卒業後の進路だってバラバラで、テレビドラマや映画、舞台に出る生徒も少なくない。

 しかし、

 

「わたしが、アニメに……!?」

「お姉様、目が輝いています」

「そりゃそうだよ。そんなの考えたこともなかったもん」

 

 アニメとは見るものであって出るものではないと思っていた。

 

「本格的に声優のお仕事をされるのであれば事務所に所属していただくのが良いかと思いますが、今回はお試しという形でお誘いにまいりました」

 

 ちょい役だが声優を体験してみないか、と。

 

「お二人はアニメ化作品のコスプレをされて話題になりましたので、当方としても話題づくりになるかと」

「……あれ、これいいお話では?」

「お姉様、落ち着いてください」

 

 とりあえずは他のお仕事と一緒の手続きをお願いしたが、思わぬ仕事の広がり方にちょっと楽しくなってきた。

 他にも、今まではあまり見なかったジャンルからのお誘いがいくつも。

 うちでコスプレをしてくれないかとか、グラビア撮影をしてみないかとか、あとは声優関係に強い事務所からも声がかかった。

 

「これは、本格的に仕事増やしてもいいかも……」

「送迎の件をクリアしていただかないと往復が大変そうですが……」

「わたし、もうちょっとでテレポートできそうな気がするからなんとかならないかなあ」

 

 ステージ上で超高速移動した感覚を思い出しつつ呟くと、さすがの奏音もジト目になって、

 

「さすがに早すぎませんか、お姉様?」

「そんなこと言って、奏音だって生徒会の事務作業一人で何人分もこなしてるくせに」

「それはそうなのですが」

 

 美夜だって「あんた一人で先行くのもたいがいにしなさいよ」とか言いながら一番の完成度を誇っているし、ミアもひんやりグッズを見えないように大量に使いつつ驚異的な身体能力を発揮している。

 要するにみんなすごいのである。

 

「わたしのはいつものゴリ押しだよ。あと、意外とテレポートは相性いいのかも」

 

 体質的に、豪快な能力が向いていたりとか。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「この三か月の成果は上々のようね?」

「はい。だいぶコツが掴めてきたと思います」

 

 夜の生徒会室。

 打ち上げの後なのでもうだいぶ遅い時間だが、高揚がさめきらないせいかそれほど眠くない。

 月明りの下、絵理華と向かい合った万桜は「というか」と首を傾げて、

 

「もしかして、超高速移動よりテレポートのほうが簡単なんじゃないかって」

「あら」

 

 その言葉に絵理華は意外そうに瞬き。

 

「万桜さんはそっちのタイプなのね」

「そういう人もいるってことですか?」

「ええ。超高速移動は飛行をさらに突き詰めたもの──対してテレポートは全くの別物だから、そういう人もいるわ」

 

 微笑んだ絵理華は「じゃあ、どうしてわざわざ手順を踏むのかわかるかしら?」と尋ねてくる。

 これは前に聞いた理屈の通りだと思う。

 

「感覚を掴むためでしょう? 今いたところとは別のところに出るっていう」

「正解。他にも能力制御を高めるためとか、自己防衛の意識を持つこととかいろいろあるけれど」

 

 歩み寄ってきた彼女は万桜の手を取ると、一瞬にしてあの地下室に。

 

「そこまで掴めていればあと一歩。後はテレポートの原理をイメージできるかどうか」

「原理」

 

 と言っても、そんなに難しいことだろうか。

 

「試しに短い距離でやってみたら?」

 

 と絵理華が言うので実際に試してみる。

 能力発動の原理は人によって違っていてもいい、というのは飛行の時に聞いた話だ。

 要するに結果が導ければ問題はないわけで、そういう意味では気楽。

 万桜の思い描くテレポートは、なんというかワープだ。

 言葉を変えただけで同じじゃないかと言われるとそうなのだが、要するに「空間と空間をつなぐ」ということ。

 連続していない空間に直接移動するには、例えば一瞬だけゲート的なものを作り出して、

 

「わ」

 

 視界が揺らぐと、さっきまで正面が見えていた絵理華が背中を向けている。

 

「絵理華先輩が動いたわけじゃないですよね?」

「ええ、違うわ。……驚いた。少し嫉妬してしまうくらい」

 

 歩いてきた生徒会長にむにー、っと頬をつねられた。

 

「いはいれふ」

「あら、ごめんなさい。だって本当にできてしまうんだもの」

 

 どうやら、万桜は成功したらしい。

 

「どうやったの?」

「どうって……こっちと向こうの様子を具体的にイメージしながらワープゲートみたいなので直接移動する感じです」

「……生意気」

「いた」

 

 今度はでこぴんされた。

 知ってはいたが、生徒会長は意外と気さくかつお茶目だ。

 

「たぶん少年マンガを読んでいたおかげですね」

「……寮に有名な少年マンガを常備してもらうようにかけあってみようかしら」

「それは……どうなんでしょう?」

 

 少女マンガにもいろいろあるけれど、傾向としてリアル志向の話が多いのはあると思う。

 不思議なことが起こってもそれは「不思議なこと」で流して、主人公の苦悩や葛藤が描かれることが多い。

 

 対して少年マンガはバトルがメインに描かれやすい分、トンデモではあっても何かしらの理屈が用意されることが多い。

 そういったものに当たり前に触れている万桜はそこから理屈を引っ張ってこられる。

 

 逆に言うと、いちいち理屈をくっつけないとうまくできない、ということにもなりかねないわけで。

 魔法少女ものなんかを見て育った生粋の女子のほうが「なんかよくわからないけどできる」というミラクルを起こせたりするかもしれない。

 人によるというか一長一短なのだろうが。

 

 ななせは絵理華の要望を意外とあっさり了承してくれて、誰でも利用できる寮の書庫にあれやこれの有名作品が置かれたものの、

 

「このマンガ、主人公とライバルの関係が良くてね!」

「私、〇〇学園の俺様キャラが推し!」

 

 読んでくれた女子もあんまりバトル理論や能力理論には興味を持ってくれなかった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 ライブが終わるとすぐに一年生最後の試験がやってきた。

 

「さすがに緊張するわ」

 

 試験初日の朝、美夜はそんな風に呟いていた。

 

「やっぱり、一位を取り続けるのってプレッシャー」

「当たり前でしょ? あんたたちは上を目指せるけど、あたしはどんなに頑張っても『現状維持』しかできないのよ?」

 

 はっきりとした順位という形で「良くなった」ことが示されない。

 下からの追い上げがどれほど苛烈かも蓋を開けてみないとわからない、というのは確かに想像を絶する重圧だ。

 万桜は中学までそこそこの成績で来ていたのでそういうのは味わったことがないのだが、

 

「奏音はわかる? 美夜の気持ち」

「そうですね、重圧は理解できます」

 

 万桜たちの母も方向性としては、どちらかというとミアの両親に近い。

 自慢の娘である奏音ならやればできると期待をかけており、様々なレッスンや習い事をさせてくれる。

 が、それは「期待を裏切ればどうなるかわからない」ということでもある。

 双子を生んだのに片方が「女子ですらない」失敗作だった母にとって奏音は一回しかない「子供を心奏に入れる」チャンスで、その期待を背負った奏音は常にプレッシャーにさらされていた。

 そんな彼女は「ですが」と微笑んで、

 

「大事なのは順位ではなく努力と成果ですので」

 

 奏音にとって、中学までの試験やレッスンは通過点でしかなかった。

 一喜一憂したところで心奏に受からなければ意味がない。

 目標を達成した今、彼女が目指しているのは「将来の目標」か。

 そんな奏音を眩しそうに見た美夜は、はあ、とため息をついて、

 

「ゲン担ぎにカツ丼でも頼もうかしら」

 

 一応、朝でもお願いすれば通常メニューを注文できるが、

 

「朝からカツ丼!?」

「美夜ちゃんどうしたの!? 太るよ!?」

 

 万桜とミア、朝からでもカツ丼平気でいける組が驚くと、美夜は「うるさいわね、いいでしょ別に!?」とキレた。

 

「万桜。そろそろあたしたちとガチで勝負する気、あるでしょ?」

「……ん、そうだね。わたしも今回は気合いを入れるつもり」

 

 万桜は歌やダンス等の基礎的な科目について比重を減らしている。

 その分、練習時間も確実に減っており、新しい単位をぽんぽん取得していくのはかなり難しいが──成績を上げるための秘策もある。

 代わりに増やした武道や戦闘技術の試験。

 マンツーマンで指導してくれた真昼も言っていたが、

 

『一年生でこの単位取る子はほとんどいないからねらい目だよ』

 

 国語数学理科社会英語を頑張らないと順位が下がるように、他の生徒が触れていない分野に触れられれば大きなボーナスになる。

 万桜は今回、フィジカル系の単位を積極的に狙っていくことにした。

 この方面でライバルがいるとすれば、

 

「ふふん。覚悟してね万桜ちゃん。ミアも運動系頑張っちゃうから」

「うん。ミアには負けない」

 

 あの相談からめきめきと身体能力を伸ばしているミア。

 今はまだ筋肉量やリーチの差があるが、もう少しミアが成長すればフィジカルでは追い抜かされてしまうかもしれない。

 本当に、うかうかしていられない。

 秘策は、もう一つ。

 

「小鳥遊万桜です。審査はテレポートでお願いします」

 

 一番高度、あるいは自身のある能力で判定を受ける能力の試験。

 短距離ながら純正のテレポートを成功させた万桜は、十分な手ごたえを感じた。

 審査してくれる先生方がポーカーフェイスを保っていて感触がわからなかったのがめちゃくちゃ怖かったが……。

 

「来た」

 

 試験終了の翌日。

 生徒会室での仕事中に訪れた『その時』。

 通知が来た瞬間に顔を上げて、隣にいた奏音と顔を見合わせてしまう。

 若干恥ずかしかったものの、その場にいたほぼ全員が似たようなことをしていたのでノーカウント。

 

 普通科所属の瀬奈だけは別試験かつ、通知が来るのもスマホなので、音がするたびスマホを手にとっては「今は広告とかいらないの!」と憤慨していた。

 それはともかく。

 通知表示をタップし、試験結果を表示。

 総合順位の表示が一番下のほうにあって焦らされるのが困る。いや、いきなりでん! と出されるのも嫌だが。

 胸がどきどきするのを感じながら細かい結果を手早く確認、かなり良くなっているような気がするが、果たして。

 

『5位』

 

 数字の意味を見た瞬間「~~~っ!」と言葉にならない歓喜の声を上げてしまった。

 2位をキープした奏音と手を握り合って喜んでいると、ミアから「Aクラス昇格!」とメッセージ。

 美夜はこっちからせっつかないと教えてくれなかったが「現状維持に決まってるでしょ」との返答。

 

 万桜たちの一年生最終試験は、とてもいい結果で終わった。

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