性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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章間 番外編
番外編 夏のプチ同窓会


「急に集まってもらって悪い」

 

 とあるカラオケルームの一室に、男子四人が集まっていた。

 高二の食べ盛り。

 女子がいないので人目を気にする必要もなく、食べ物飲み物がところ狭しと並んでいる。

 ポテトにチキン、たこ焼きあたりは鉄板として、普通にカルビ炒飯とか頼んでる奴まで。

 というのも今回は歌いに来たわけではないからだ。

 

「別にいいけどな」

「なんか相談があるんだろ?」

「もしかしてあの件か?」

「ああ」

 

 だいたい察しているメンバーもいるようだと思いつつ、言い出しっぺは頷いて。

 

「お前ら、今年はあの集まり……どうするよ?」

 

 議題が口にされると全員「あー」と複雑そうな顔をした。

 

「去年、中学の奴らで集まったやつだろ? ……小鳥遊も含めて」

 

 そう。

 彼らは去年、万桜たちとプチ同窓会をした面々だ。

 あの会はとても楽しかった。

 今年もまたやりたいのはやまやまなのだが……。

 

「ぶっちゃけ女子から『あんたたち遠慮すれば?』的なプレッシャーがあってな」

「ひどくね?」

「いやまあ、気持ちはわからなくもない」

「なんでだよ。俺たちにだって会う権利はあるだろ」

「でも、会ったら我慢できないだろいろいろ」

「……あー」

 

 全員、めちゃくちゃ微妙な顔をした。

 

「信じられないくらい可愛くなったからなあ、小鳥遊」

「しかも有名人だし」

 

 小鳥遊姉妹は地域から出た心奏入学者として地元ではほとんどの人が知っている。

 生徒会に入ってから露出も増えたので、現学院生の中でも指折りの知名度だろう。

 

 万桜の神秘的な色の髪に蠱惑的な瞳。

 対照的にシンプルながら、だからこそ手入れの見事さが際立つ奏音の黒髪と瞳。

 

 高校デビューというやつか、昔に比べて表情がころころ変わるようになり、その笑顔に魅了される青少年も数多い。

 さらに最近はメディアへの露出も多くなってきた。

 雑誌に載ったり、有名人の配信にゲスト出演したり、コスプレ写真が公式サイトで使われたり。

 卒業までまだ一年半はあるというのに、既に全国的な知名度を獲得しつつある。

 

 ──ぶっちゃけ、もはや同級生に会うテンションじゃない。

 

 旧知の仲である彼らでさえ「あの小鳥遊姉妹と会える」というノリになってしまう。

 

「……いい匂いしたよなあ」

「……胸でかかったよなあ」

 

 遠い目をして呟く奴らがおかしいとはちょっと言いづらい。

 

「今はあの時より絶対成長してるだろ」

 

 スマホを取り出して、去年の記念写真を表示。

 この時点ででかい。

 でかいが、最近のSNS投稿を表示してみると、

 

「……でっっか」

「サイズ2個くらい上がってんだろこれ」

「めっちゃ柔らかそう」

 

 もはやでかすぎて普通の写真ですらエロく見える。

 妹の奏音も万桜よりちょっと小さいくらいのサイズなので、並ぶともはや暴力だ。

 しかも最近、投稿する画像のきわどさがちょっと上がった。

 健全ではあるが、青少年には「これエロくねえ?」と見えてしまう画像がぽんぽん投稿されるのでつらい。

 

「これさ、思いっきり揉むところ想像するだろ?」

「そんなことしたら我慢できなくなるだろ」

「だから、目の前に置かれたら余計やばいんだよ!」

 

 カラオケに集まったのは誰にも聞かれないようにするためである。

 

「隣に座られたりとかしたらさ、良い匂いまでするんだろ」

「声もめちゃくちゃいいからな、忘れんなよ」

「……それもう誘われてんだろ、何もしない方が失礼だろ」

「やっぱ俺ら行かないほうが良いだろこれ」

 

 元クラスメートに襲い掛かられた日には万桜たちだって悪夢だ。

 

「いや待てよ。ちゃんと告白すりゃいいんだろ。付き合ってれば合法的に揉める」

「揉むために告白するって言っちゃってるじゃねえか」

「勝てると思うのかよ。周りには心奏普通科受かった男子がうようよいるんだぞ」

 

 心奏受験は男子が不利なので、学力や体力で相当頑張らないと合格できない。

 無難な高校で妥協した彼らには高嶺の花だ。

 

「でも、せっかく小鳥遊万桜に会えるチャンスだってのに」

「完全ファン目線じゃん」

「っていうかお前彼女いるだろ」

「おい待て初耳だぞ」

「そこはいいんだよ! っていうかその彼女が『万桜ちゃんとデートしてくるね!』ってめちゃくちゃ楽しそうなんだぞ!?」

 

 全員が「うわあ」という顔になった。

 

「そりゃあな。女子はエロい目で見ないだろうし、話も合うし、いい匂いもするしな」

「あいつはエロい目で見る気まんまんだったけど、女同士なら許されるからな」

「ずるくねえか!? なんで女子同士でいちゃいちゃするんだよおかしいだろ!?」

「まあ、男子に興味あったらとっくに誰かと付き合ってる気はするよな……」

 

 普通に男が好きだったとしても彼らを選ぶかと言われると……。

 全員、深いため息をついた。

 

「なんかもう、万桜に彼女を寝取られそう」

「それはそれで特殊な性癖に目覚めそうだが」

「目の前で見せてくれるならワンチャン……いや、いやいやいや」

 

 彼らはわいわい作戦会議を行った末、

 

「やっぱり今年は参加するのやめよう」

「ああ……仕方ないな」

 

 全員でやけ食いして憂さ晴らしをした。

 

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

 

「なんか、今年は女子会になったみたい」

「あら。ですが、そのほうが気楽かもしれませんね」

「あいつらに会えないのわたしとしては残念だけどなあ」

 

 久しぶりに友人と会えるということで普段よりおめかししてしまった。

 普段周りにいるのが『歌姫』の卵や芸能人なのでそのラインを基準にしているが──普通に街を歩いてみると「ひょっとしてわたしの感覚バグってる?」と思わなくもない。

 特に奏音と二人並んでいるとめちゃくちゃ目立つようで、

 

「あ、あれ小鳥遊万桜と小鳥遊奏音じゃない?」

「ほんとだー、やば、すっごい可愛い!」

「ねー、声かけてみよっか?」

 

 道行く人全員から視線を送られてくるレベルだった。

 普通のおばちゃんとかにまで知られているのは地元だからだろうが。

 

「あの、ファンです! 握手してください!」

「サインしてください!」

「うん、もちろんいいよ。応援してくれてありがとう」

 

 話しかけられるたびに笑顔で対応しているとなかなか先に進めない。

 まあ、握手に応じるのはさすがに同性だけだが。

 

「声かけてもらえるの嬉しいけど、ちょっと空飛びたくなってきた」

「よくわかります」

 

 去年に比べて有名人になったことを強く実感。

 これは、アイス食べたくなったからって適当にコンビニ行くわけにはいかないな……?

 牛丼屋とか入ったらSNSで拡散されかねない。

 有名になるというのもなかなか大変なんだな、と思いつつ、

 

「あ、万桜ちゃん! 奏音ちゃん! こっちこっち!」

「ごめんなさい、ちょっといろんな人に話しかけられちゃって」

「あーわかる。二人とも有名だもん」

「っていうかめちゃくちゃ可愛いんだけど。どうやったらこんな風になれるの?」

 

 集まった友人たちと甘い物を食べたり、ちょっとした遊びをしたりした。

 人数が減ったうえに女子だけになったので動きやすい。

 気安いノリのせいか冗談めかした発言まで飛び出して、

 

「ね、万桜、まだ彼氏いないんでしょ? もう私と付き合っちゃう?」

「ん、いいよ。じゃあ付き合おっか?」

「~~~~っ!?」

 

 ノリに合わせて返したらなぜか相手が真っ赤になってしまった。

 

「万桜ちゃん、この子彼氏いるからあんまりいじめないであげて」

「いじめたつもりはぜんぜんないんだけど……?」

 

 その後、お詫びということでカップル風のツーショットを撮らされた挙句、なぜか他の子たちからも同じように撮影を求められた。

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