性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 浴衣と花火と屋台グルメ

 夏と言えば、と言われて思い浮かべるものは人それぞれだろう。

 海! プール! ももちろんいい。

 学院のプール開放イベントは今年ももちろん堪能したし、島の浜辺で海水浴もするつもりだが。

 去年はできなかった「浴衣で花火」はやはり捨てがたい。

 

『万桜先輩! こっちです!』

「やっほー、万桜ちゃん先輩。浴衣めちゃくちゃ似合ってるじゃん」

「こんばんは。雛ちゃんもすごく似合ってるよ」

「ええ。とてもよくお似合いです」

『ほんとですか? えへへ……』

 

 瀬奈の地元で行われる納涼花火大会。

 せっかくなのでみんなで、と、誘われてやってきた。

 瀬奈たちもそれぞれ浴衣を着てきていて。

 

 雛は薄紅色に花模様をあしらった正統派。

 瀬奈は丈短めで黒地に赤の薔薇を散らした派手なタイプ。

 

『万桜先輩とお出かけできるなんて夢みたいです!』

「ってか先輩たちの浴衣高そうー。どこで買ったの?」

「祖母に紹介していただいた店で購入いたしました」

「うん、まあ、正直安くはなかったけど、思い切って買っちゃった」

 

 万桜のは薄桃色に白い桜模様。

 奏音は濃紺の地に黄色で星と星座が浮かび上がるデザイン。

 

「少なくとも向こう何年かはこれで通さないと元が取れないかも」

「あははー。ぜんぜん大丈夫でしょ。二人ともめちゃくちゃ可愛いし」

 

 一歳年上の一年後輩に言われるといい意味でほっとする。

 『歌姫(ディーヴァ)』のアンチエイジング能力を間近で見られる的な意味で。

 万桜たちだけ急に老けたりしなければ大学生くらいまで余裕だろう。

 と。

 

「浴衣……下は裸……むしろ縄」

「わっ!? い、いたのあげは」

「参加するってちゃんと言ったんだからいるのは当然」

「あげはさん……奇抜ですがお似合いの浴衣ですね」

「そう? ありがとう、奏音」

 

 二歳年上で同学年の少女はゴスロリ風浴衣という不思議なものに身を包んでいる。

 目立つ。目立つが、元の容姿がいいのも原因だし、彼女の雰囲気にはとても合う。

 

「ほんと可愛い。……縄とかつけてこないか心配してたから安心した」

「さすがの私も外にはつけてこない」

「うん、わかった。それ以上言わなくていいから」

 

 地域のイベントとはいえ、会場はかなりの人出である。

 

「少し心配していましたけれど、それほど注目されてはいませんね」

「お祭りみたいなものだからねー。みんな遊ぶのに夢中でしょ」

 

 初詣の時は迷惑を避けるために配慮したが、あれは並ぶイベントだったというのもある。

 今回はごった煮状態なのでそこまで気にしなくていいだろう。

 さすがに「あの子たち可愛い……あ、もしかして歌姫?」みたいな声は聞こえてくるが。

 ピアスやチョーカーをつけてる女の子くらいならいっぱいいるのでそこまで目立たない。

 

『美夜先輩たちも来てるんですよね?』

「そのはずだけど、いまどのへんかな?」

「そんなのデバイスの位置情報機能で一発でしょうが」

「やっほー、みんな。いろいろ買ってたら遅れちゃった」

 

 言っていたら美夜たち二人がやってきた。

 ミアは甘ロリ風浴衣姿で、既にフルーツ飴とベビーカステラを手にしている。

 隣で「まったくもう」という顔をしている美夜は青系の生地にまさに花火の柄。

 

「女の子ばっかりこんなに集まると壮観かも」

「一番目立ってそうなくせになに言ってんのよ」

「万桜ちゃん万桜ちゃん。なに食べる? 早く行かないと売り切れちゃうかもよ」

「そうだなあ、わたしはやっぱりじゃがバターかな」

『こ、こんな時間にバターたっぷりなんて太りそうですけど……』

「大丈夫だってば雛っち。ウチら『歌姫』だし」

 

 カロリーとかそういうのが都合よく消費されてくれる生き物で良かった。

 

「にしても人数多すぎるわね。二つか三つに分かれない?」

「そうですね。後で合流するということで」

 

 はぐれても美夜の言ったように位置情報機能があるし、デバイスはスマホ等と別回線なので混んでる場所でもらくらく電話可能。

 美夜はふむ、と、顎に右手を当てて。

 

「じゃあ万桜。お子様二人を頼んだわよ」

「二人? ……あげはと誰?」

「失礼。私は大人」

「たぶんミアと雛ちゃんじゃないかなー?」

 

 なんでその人選なのか聞いたら「食べそうな奴を固めといたほうが楽じゃない」とのこと。ごもっとも。

 

「じゃあウチは美夜パイセンとまわろっかなー」

「いいけど、なによそのパイセンって」

「あげはさん、あまり変な言動は控えてくださいね」

「大丈夫。無関係の人を巻き込むほど考えなしじゃない」

 

 なんかうまいこと分かれたので心置きなく買い食いすることにした。

 とりあえず、宣言通りじゃがバター、それからお好み焼きと……。

 

「雛ちゃんは屋台グルメなにが好き?」

『やっぱり焼きそばだと思います! あと、えへへ、イカ焼きとか……?』

 

 意外と好みが渋い。

 

「ビール飲みたくなりそうだなあ」

『万桜先輩、飲んだことあるんですか……!?』

「ないってば。大人の人見てるとそう思うだけ」

 

 残念ながら(?)年齢は詐称していない万桜である。

 

「ミアも甘いの食べたらしょっぱい系行こうかなー」

「よーし、いっそのこと屋台全部制覇しちゃう?」

『賛成です!』

 

 あれ、ツッコミ役もブレーキ役もいないぞ?

 まあいいか、と片っ端から食べていくと、さすがに全制覇は無理だった。

 

「むう、七人でチャレンジすれば行けたかも」

「お小遣いも大変なことになりそうだねー」

 

 などとやっている間に花火打ち上げの時間が近づいてきた。

 

『見ながら食べる用にもう少し買っていきましょうか』

「そうだね。……みんなのぶんは買ったほうがいいかな?」

 

 グループチャットで送信したら「自分の分は自分で買うわよ」と返ってきた。

 じゃあ、追加のじゃがバターと、つまみやすいタコ焼きと、

 

「ミア、ぶどう飴買ってくる!」

『あ、わたしはフランクフルトを……!』

 

 食べ物を抱えつつ合流地点に向かうと、

 

「あ、もしかしてこの子たち瀬奈の後輩?」

 

 瀬奈が清楚系女子に囲まれていた。

 美夜は握手やサインを求められており──どういう状況?

 

「違う違う。ウチの同級生と先輩」

「先輩……じゃあ大学生? すごく若く見えますね!」

「それも違うってば。言ったっしょ、ウチ歌姫科に入りなおしたって」

 

 なるほど、瀬奈の元同級生らしい。

 

「あれ、じゃあ皆さん……もしかして元ギャルですか?」

「そうだよ。この子と違って受験だから真面目になったの」

「っていうかもしかして小鳥遊万桜ちゃん!? すっごく可愛い!」

「こっちはミアちゃんだ!」

 

 万桜とミアまで握手を求められ、雛も含めた三人でサインもすることに。

 真面目になったと言いつつも嵐のように元気な面々が去っていくと、

 

「お待たせ」

「……あんたたち、隠れてみてたでしょ?」

「申し訳ありません、収拾がつかなくなりそうでしたので」

 

 正直わからなくもない。

 

『それにしても、人が多くてどこで見ればいいか困りますね』

「あー、良い場所はだいたい先に取られちゃうからねー」

 

 土地の面積は決まっているわけなので人がたくさん集まれば狭くなる。

 特殊なところに陣取れれば話は別だが、

 

「あ。そうだ、空飛んじゃう?」

「あ、そっか! それならいい場所見つかるかも! さすが万桜ちゃん!」

「でも万桜ちゃん先輩、ウチと雛っちはまだ飛べないんだけど」

「あんたたち二人くらい軽く運べるわよ」

 

 というわけで、雛は万桜が、瀬奈は美夜が運んで近くの神社まで飛んだ。

(食べ物は奏音に持ってもらった)

 歩いて来ていたお客さんも意外といたものの、屋台グルメを大量に抱えた万桜たちは羨ましがられ。

 

『……忘れられない夏の思い出ができちゃいました』

 

 うっとりしたような雛の呟きが、万桜の胸にもなんだか深く刻み込まれた。

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