性転少女は憧れのヒロインに手を伸ばす   作:緑茶わいん

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番外編 即売会みたび

「他人を連れたテレポートのコツは、相手を自分の一部だと思うことよ」

 

 寮の前にて。

 祖母──志穂は万桜にそう教えてくれた。

 

「自分の一部」

「でないと移動先でぶつかりやすいの。歩いてる時もそうでしょう? 自分の身体はとっさに避けられても、持ってるスーツケースまでは気が回らなかったり」

「ああ、だから自分の一部」

「そう。他人だからって壁にめり込ませるような失敗はそうそうないだろうけど、同行者を通行人とぶつけたりしないようにね」

 

 なるほど、と、万桜は頷いて。

 自分と同じくスーツケースを手にした妹を振り返る。

 

「奏音。わたしのこと信じてくれる?」

「お姉様が相手でしたらもちろん、喜んで」

 

 じゃあ、と手を差し出すと。

 

「お姉様。手をつないでいただいてもよろしいですか?」

「うん」

 

 空いているほうの手が、指を絡めるようにして繋がれる。

 接触部分から奏音の体温が伝わってきて。

 

「練習相手に奏音は最適でしょうね。あなたたちは二人で一人みたいなものだし」

「双子ですからね」

 

 誇るように妹が言うので「二卵性だけど」とは言わなかった。

 確かに、奏音のことなら自分の延長のように素直に感じられる。

 

「行くよ」

「はい」

「行ってらっしゃい。楽しんできなさい」

 

 イメージするのは、これまでに何度か利用したホテル前。

 一瞬、目の前の景色がブレて──次の瞬間には思った通りの場所にいた。

 奏音は。

 つないだ手の先に、変わらぬ彼女の姿があった。

 道行く人にめりこんだり、ぶつかったりもしていない。

 

 少女は瞬きの後に状況を理解し、笑顔を浮かべて。

 

「やりましたね、お姉様」

「わっ」

 

 ぎゅっ、と、万桜に抱きついてきた。

 

「ありがとう、奏音。これでいろいろ便利になりそう」

 

 仕事の時とか奏音を連れて移動しやすくなる。

 しかし妹はくすりと笑って。

 

「すぐにわたくしも習得いたしますけれど」

「そうだよね。もう短い距離なら成功してるんでしょ?」

「はい。ほんの一歩の距離ですけれど」

 

 集中力の高い奏音はテレポートのイメージを強引に増幅して成功に持っていった。

 思考加速を併用する形なので余計にエナジーを喰うし、万桜ほどエナジー量のない奏音の場合は大変だが──成功した経験があるのとないのとでは大違いだ。

 その一回でコツを掴んだのか、以降はそれほど力まなくとも同距離のテレポートに成功している。

 消耗が激しいので試行回数を積み重ねづらいのがネックだが……二年生の進級課題は「一歩の距離でもいいからテレポートを安定して成功させること」なので、この時点でクリアである。

 

 後は地道に少しずつ練習していけばそのうち自在に使えるようになる。

 と。

 

「万桜ちゃん、奏音ちゃん!」

 

 駆け寄ってきた女性が万桜たちを二人まとめて抱きしめてきた。

 

「久しぶり。……って言ってもちょくちょくやり取りしてたけど」

「その節はお世話になりました、先生」

「もう、やめてよ。そんなこと言ったらこっちだって『原作者様』扱いしないといけなくなるし」

 

 すぐ傍にあるホテルはとある国際展示場でのイベント利用者が良く使う場所。

 そして彼女はすっかりなじみになった漫画家。

 そう、またしても同人誌即売会である。

 

「また綺麗になっちゃって。能力もどんどんうまくなってるみたいだし」

「ありがとうございます。皆さんが力を貸してくださるおかげです」

 

 部屋に荷物を置いた後、軽くお茶をしながら打ち合わせをする。

 テレポートで美味しいカフェに行ってテイクアウトして五秒で部屋に帰還。

 これなら最高の状態を味わいつつ寛げる。

 

「前から話はしてたけど、今回は例の宮廷ミステリの本なのね」

「ええ。先生がわたくしたちのライブを元に描いてくださったんですよね」

「それなんだけどね。実は連載が決まりまして」

 

 なるほど連載……連載?

 

「え。あの、商業誌に載るってことですか?」

「うん、そう。いろいろアレンジはさせてもらったけどねー。結果的に万桜ちゃんたちからお仕事もらった感じになっちゃった」

「おかげでこちらにお仕事をいただけるのですからいいお話ですね」

「マッチポンプとも言うけどね」

 

 今回の同人版は商業連載に先駆けた販売で、宣伝も兼ねている。

 例によってえっちな本でもあるのでエロ+宮廷ミステリとかいうカロリー激高な本だが。

 ついでに言うとえっちな展開入れたせいでストーリーもオリジナルだが。

 

「今回も衣装を用意させてもらったからコスプレよろしくね」

「心得ております。ですが……今回もまた煽情的な衣装ですよね?」

「あははー。まあその、アレンジする時にファンタジー要素入れたら露出度が上がっちゃって」

 

 先生は「でも!」と勢い込んで、

 

「万桜ちゃんたち以上に着こなせる子はいないと思うよ。なにせ原作だし」

「原作者の人に原作扱いされるってなかなかない機会ですね……?」

 

 メディアミックス展開してないので作品としてはマンガが原作なんだが、そのマンガの元になったのは万桜たちのライブなので確かにこっちが原作とも言える。

 

「万桜ちゃんたちをモデルに描いたキャラなのに他の子のほうが似合ったら困る」

「それは、わたしたちも気合いを入れないとですね」

「おお。万桜ちゃんが燃えてる」

「これでも一応プロになったので、下手なことはできないなって」

 

 今回はプライベートでの協力扱いだが、お互い良い宣伝になる。

 打ち合わせの後は試着もさせてもらったが、さすが、ぴったりである。

 

「二人の着こなしも上がってるね。あ、本番はお化粧もしようね?」

「はい。今回はわたしがチャレンジしてもいいですか? 少しずつ練習してるんです」

 

 一人での仕事やレッスンも増えてきたので、自分でできないとな……と思うことが多くなったのだ。

 

「お姉様は本当にどんどん成長して行かれるので、わたくしの出番がなくなってしまいます」

「そんなことないよ。わたし、まだまだ奏音がいないとだめだし」

「では、永遠にそのままでいてくださいませ」

「永遠!?」

 

 まあ、どれだけできることが増えても奏音には頭が上がらない気がする。

 

 そんなこんなで迎えた本番、先生の参加日はブースで売り子をメインにし、他の日はコスプレ姿で宣伝しに行ったり、別のコスで遊んだり。

 

「二人とも久しぶり、元気だった?」

「はい。蛍先輩もお元気そうで」

「本当に久しぶり。先輩として鼻が高い」

「あげはさんとは数日前にも会いましたよね……?」

 

 久しぶりに蛍と会ったり、なぜか一緒にいたあげはにツッコミを入れたりした。

 万桜たちのコスプレはまたしてもなかなかの人気を博し、

 

「原作者の同人誌を原作キャラが売り子していた」

「あれはコスプレじゃない、原作そのものだ」

「実在したのか……」

「えっちだ」

 

 と、盛り上がってくれたファンのおかげでさらに知名度が上がったのだった。

 

 ……しかし、万桜たちをモデルにしたキャラのR18同人誌に本人がコスプレで売り子するってめちゃくちゃ際どいような。

 まあ、成人指定のコスプレしてるわけじゃないし今更か。

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