慌ただしい二学期
楽しかった夏休みもあっという間に過ぎていく。
遊びに勉強、鍛錬に仕事と大忙しだったのだからさもありなん。
休みが残り数日になる頃には寮も普段の賑わいをほぼ取り戻していて。
「そろそろ本番ね。万桜、お互い恨みっこなしで選挙戦に臨みましょ」
「うん。あんまりギスギスしても仕方ないし、フェアにやろう」
いつもの四人で食事をとりつつ、美夜とそう確認しあう。
この分なら選挙期間中も普通に友達付き合いできそうである。
ライバルだから距離を取って、とかになると逆に面倒なので避けておきたい。
「美夜さん。申し訳ありませんが、わたくしはお姉様の応援に付かせていただきます」
眉を下げつつ「パワーバランスを考えれば美夜さんを応援するべきかもしれませんが」と続ける奏音。
「いいわよ別に。むしろ、あんたが万桜を応援しないとか逆に心配になるし」
「そうそう。美夜ちゃんのことはミアが応援してあげるから安心して」
「ありがと、ミア。……でも、あんたの応援ってたぶんほんとに応援よね」
「あー、ひどい。せっかく気を遣ってあげてるのにー」
確かにミアは根回しとか情報拡散とか得意そうではないが。
作戦立案系は美夜が得意なので、なかなかいいコンビではなかろうか。
というか、顔の広いミアの応援はだいぶ手強い。
「でも万桜ちゃん、美夜ちゃん。その前に大事なイベントがあるよ?」
そのミアは首を傾げつつ万桜たちにそう告げて。
「あ」
忘れていたわけではないものの、万桜はそうだったとあらためてそれを認識した。
◇ ◇ ◇
「今年も学園祭の季節が来ちゃったねー」
「今年はどうしよっか」
「楽しかったけど毎年悩むよね」
二学期前半のスケジュールは学園祭→生徒会長選挙→中間試験だ。
演説等の選挙活動は学園祭の準備期間と丸被りしているため、万桜たちにとっては去年以上に慌ただしいことになるが。
だからと言って学園祭も手を抜くわけにはいかない。
「去年と違うことやるのは確定だよね」
とりあえず建設的に行こうとそう切り出せば、美夜が「そうとも限らないわよ」と応じる。
「毎年あそこは同じ出し物ってなれば名物っぽくなるじゃない」
「じゃあ、今年も餃子?」
「いや、あたし的には売り上げトップをねらえそうにないしパスね」
どっちだよ。いや、言いたいことはわかるが。
「実を言うと、あたしにひとつ案があるのよ」
「え、どんなの?」
さすが美夜、勝ちに行くためなら苦労を惜しまない。
期待しつつ尋ねると、
「メイド喫茶」
「ド直球」
「最後まで聞きなさい。ただのメイド喫茶じゃないわ。『謎解きメイド喫茶』よ」
「え。……ああ、そういうこと?」
「そ。そういうこと」
要は万桜たちが一年最後にやったライブと絡める案だ。
「ただ軽食を提供するんじゃなくて一緒にクイズを出すのよ。
正解すればちょっとした景品とかで」
「む。ちょっと面白そう」
「でしょ? あんたと奏音は知名度高いから、それを利用しない手はないわ」
夏休み中に参加した同人誌即売会でも関連コスプレしてプチバズした。
喜んでくれるお客さんは多いだろう。
「まあ、ちゃんと絡めるなら漫画家さんに連絡とったりしないとだけど」
「それ、ただの出し物っていうよりコラボカフェじゃ」
「儲かりそうじゃない」
確かに儲かりそうだ。
「ですが、これはクラスの出し物です。わたくしたちで私物化するのは」
「私たちはぜんぜんいいよー?」
「楽しそうだし」
「餃子いっぱい焼くよりは忙しくなさそうだし」
意外とみんなノリノリで賛成してくれて。
「じゃ、謎解きメイド喫茶に賛成の人」
「はーい!」
賛成多数にて可決、2⁻Aの出し物は『謎解きメイド喫茶』に決まった。
美夜のプレゼン力も決め手の一つだろう。
……ひょっとして学園祭も使って生徒会長候補としてアピールしに来たか。
やっぱり美夜は侮れない。
◇ ◇ ◇
『謎解きメイド喫茶』の詳細はどんどん決まっていった。
謎はカードかなにかの形式で何種類か用意。
軽食やドリンク一つにつきランダムで一枚配布し、各謎の答えの一部を組み合わせることであるワードが完成する仕組み。
ワードを突き止めて店員に申告することで景品がもらえる……という形式。
「あれ? これっていわゆるガチャってやつじゃ?」
「謎カードはあくまでおまけだからコンプガチャとは違うわよ。
これが引っかかるなら金のエンゼルと銀のエンゼルもアウトじゃない」
「なるほど」
謎カードコンプしなくても最後の答えは推測できそうだし、他の客とトレードすることもできる。
ただし一グループのみで当てようとすれば相応の注文をしなければならず──。
「ちょっとえぐい」
「公式コラボってことにできれば商品単価も他より高めに設定できるわね」
「美夜さん、アイドルよりプロデューサーのほうが向いているのでは……?」
メイド服は去年同様各自で縫うことにした。
デザイン的な難易度は上がっているが、
「わたしだって、裁縫ちょっとは上達したし、少しは自信あるよ」
「わたくしたちには自前のミシンもありますし、作業も捗りそうですね」
去年思い切って買って良かった。
美夜から漫画家へ、漫画家から版元へ連絡が行って学園祭での利用はOKが出た。
これで正式にコラボできる。
「今回は万桜たちもメイド役だけどね」
「うん、こういうのちょっと着てみたかったから嬉しいかも」
「可愛いよねー、メイド服。あんまりえっちじゃないし」
万桜は、ミアのその言い分には素直に頷けなかった。
メイド服はミニスカとかじゃない限り露出度は低いが、ファンタジーの聖職者しかり、清楚な中に垣間見える女性的な魅力というのはえてして「めちゃくちゃえっち」だ。
でも敢えて口には出さない。
普通に考えたらえっちな衣装じゃないのは事実だし、そんなこと言ったら万桜や奏音は外歩くだけでえっちになりかねない。
◇ ◇ ◇
「美夜、学園祭のライブのほうはどうしよっか」
「確か今年はライブの規模拡大するのよね?」
「うん。仕組みを見直して、去年より大勢参加できるようになるはず」
例えば去年は一グループにつき二曲披露だったのを今年は一曲にした。
後は曲前と曲後の挨拶タイムを微減させたり、照明やサウンドの利用規定を細かくして操作の手間を削減、隙間時間を減らすことでよりたくさん歌えるようにした。
もしそれで枠に空きが出るようなら一部グループに二曲目を依頼したり、複合グループによる特別パフォーマンスを組めばいい。
美夜はこれに「なるほどね」と笑って。
「じゃ、せっかくだし別にやりましょうか」
「やっぱり、そうなるよね」
「そりゃあね。あんたもそのつもりで振ってきたんでしょ?」
「うん、実はそう」
ギスギスするつもりはないが、投票日間近の学園祭ライブは格好のアピールの場だ。
なら、万桜と美夜は別グループで出たほうが絶対盛り上がる。
「じゃ、お互い健闘を祈るってことで」
「OK。面白くなってきたじゃない」
万桜たちは互いに握手しあい、仲良く喧嘩することを誓い合った。
……さて、そうすると。
「わたしたちでライブ内容考えないとだね」
「そうですね。他にメンバーを募るという手もありますし」
ひとまず万桜と奏音、美夜とミアに分かれたものの、追加メンバーを入れてはいけないということもない。
運営サイド都合で言えば一グループの人数が多いほうが助かるし。
「あげは……は乗ってこないか」
「あげはさんも立候補者ですからね」
となると他のクラスメートか、あるいは。
「そうだ」
せっかくだから誘ってみたい子がいる。
「……というわけで、どう? 一緒にやってみない?」
『わ、わたしが万桜先輩と一緒にですか!?』
万桜は、雛と瀬奈のコンビに話をもちかけてみることにした。
グループはなにも同学年で組まないといけない、とは決まっていない。
他学年との混成でもいいのだ。
この提案に雛は目を輝かせたものの、すぐにしゅんとして、
『でも、わたしなんかじゃご迷惑じゃ』
「ううん。迷惑なんてことないよ」
万桜はそんな雛の手を取った。
「学園祭もライブも、まず自分が楽しまないと」
『自分が、ですか?』
「そう。じゃないとお客さんも楽しませられないよ」
学校行事のライブは仕事じゃないし、失敗したからって即成績が下がることもない。
成功したほうがいいが、失敗したっていい。
「わたしは雛ちゃんたちとやってみたいな。……どう?」
雛は、しばらくしてから満面の笑顔で、
『……はいっ! わたしも、万桜先輩とライブしたいです!』
いい顔になった。
そんな雛を、瀬奈は満足そうに見て。
「ウチも是非参加させて。いい思い出になりそうだし」
「ありがとう、瀬奈ちゃん。……これで、楽しいライブができそう」
「ふふふ。じゃ、万桜ちゃん先輩たちの部屋で作戦会議しようよ! もちろんお菓子付きで」
「ちゃっかりしてるなあ。……うん、もちろんいいよ」
『うわあ。そんなの、完全に役得じゃないですか』
雛たちとああだこうだ言いながら曲を決めて、衣装を考える。
奏音と二人だけの時とも、美夜たちと四人の時とも少し違う話し合い。
メンバーが違うと出てくるアイデアも違うのが面白い。
衣装は、いつものように服飾部に依頼して。
「練習場所がなさそうだったらわたしが提供するからね」
「お姉様、一度に四人も運べますか?」
「距離が短いから大丈夫だと思うけど、無理そうだったら二回に分ければいいかなって」
デバイスで連絡を取り合いつつ、暇を見つけて練習することにした。
◇ ◇ ◇
さて、今度は生徒会長選挙のほうだ。
二学期の二週目に告示が行われ、選挙運動がスタートする。
心奏の選挙活動では「全校生徒をホールに集めて一人ずつ演説を聞かせる」とかはない。
当人たちの意思で演説会を開くことはできるが、全校生徒に集まる義務はない。
選挙期間が長めなので、どのようにして注目を集めるかが勝負。
主戦場は当然、ネットになる。
各候補者には専門チャンネルが用意されて、そこに演説などのアピールをする動画を投稿できる。
視聴者となる生徒は「いいね」等でリアクションできるので人気の差までばっちりわかってしまう。
「なかなか怖いシステムじゃない、これ?」
「ええ。数字で状況がわかってしまうというのは……場合によっては公開処刑ですね」
別に政治家ではないのだから、心奏の生徒らしくアイドルみたいに戦えということだ。
「普通の選挙のイメージからすると面食らうなあ」
まあ、万桜がしっかり覚えている「普通の選挙」というと小学校まで遡るのだが。
「お姉様の選挙のイメージですとどのような?」
「ぴしっとした服を着て真面目な顔で演説して『ご清聴ありがとうございました』って感じ」
「堅いですね」
「堅いよね」
万桜たちには似合いそうにない。
絵理華は将来そういう選挙戦を経験するのだろうが、
「可愛い服着て笑顔でやりたいことをアピールすればいいと」
「いつも通りですね」
『
さて、そうなると万桜たちの作戦は。
「やっぱり、動画をたくさんアップしてく感じかな」
「お手伝いいたします、お姉様」
そのための準備はいろいろとしてある。
必要なアプリや素材を集めたり、実際にいくつか動画を撮ったり。
小学校の生徒会選挙だと推薦人一人しか演説に同行できなかったりしたが、そういうのもないのでとっかえひっかえ色んな人を呼ぶのもアリだ。
「奏音と、絵理華先輩、雛ちゃんに、瀬奈ちゃんでしょ。それから……」
ゲストを呼びつつあれこれ話をする、これはもう選挙活動というよりただの配信である。
「なら、ここはアレだよね」
万桜は生徒会の仕事のついでに会長へ許可を取りに行った。
「絵理華先輩。選挙活動の動画を外部SNSや動画投稿サイトにもアップする許可をください」
「いいわよ。はい、承認」
五秒で許可が下りた。
美夜が聞いたら「ずるい」と言いそうなやり取りである。
「ふふっ。これで外の人たちも万桜の動画が見られるわけね?」
「はい。もちろん、投票権があるのは生徒だけですけど」
一般の人たちも心奏の行事についてはあれこれと注目している。
普通に面白い動画を心がけるなら、外の人たちへの感謝も込めて公開してしまえばいい。
「でも、デメリットもあるでしょう?」
「そうですね。視聴者が拡散してしまうので……」
生徒の中にも外部で見て済ませてしまう人が出る。
そうすると再生回数やいいねで明確な戦況比較ができなくなる。
「でも、そのほうが面白くないですか?」
「あら。万桜もなかなかえぐいことをするのね」
結果は蓋を開けてみるまでわからないことになる。