「うー、やっぱりミシン使うの難しい……」
「ねー、そこのメジャー取ってー」
「ここがこうなって、ああなって……」
今年入った一年生たちが学園祭用の衣装製作に励んでいるのだ。
部長になった万桜は伝統を引き継ぎ、コスプレ撮影会の実施を提案。
去年の活動を見て来てくれた子が多かったためこれが可決されて、みんなで同じ作品のコスをすることに。
どのキャラが良いか相談しあって担当を決めた後は図面を描いて布を裁断して、ミシンで縫っていく。
ミシンは二台しかないので交代しながらの作業だ。
「人が増えたからちょっと手狭な感じあるよね……」
「そうですね。機材ももう少し欲しいところですし」
ここの活動はSNSに投稿するほうであって、コスプレ自体ではない。
人数も少なかったので今までは特に問題なかったのだが……。
「うーん。と言っても部費もそんなに多くないんだよね」
部費の配分を決めた生徒会の会計担当は実を言うと隣にいたりするのだが。
こういう時は厳しい奏音は、真面目な顔で「駄目です」と答える。
「SM研究会には目立った実績がありません。活動内容を考えても基本、デバイスひとつで完結できるのですから、多くの部費は必要ないと考えます」
「部長としては『そこをなんとか』って言いたいなあ」
「では、次期生徒会長候補としてお考えをどうぞ」
ぐぬぬ、となった万桜は説得を諦めた。
いや、じゃれていただけで、予算を引き出せるとは思ってなかったが。
「やっぱり稼ぐしかないかなあ」
「そこはかとなくいかがわしい匂いのする言葉ですが」
「足りないなら増やすしかないじゃない。学園祭の売り上げでごにょごにょするのはいちおう大丈夫なんだし」
法的にどうなっているのかは知らないし、厳密に言うとアウトなのかもしれないが。
「撮影会を有料にするのですか?」
「や、一緒にグッズとか売れないかなって。それならお金になるでしょ?」
「なるほど。となると問題は製造面ですが」
「簡単なやつなら意外となんとかなる気がするんだよね」
申請すれば学園の備品を安く借りられる。
プリンタやラミネーターを使って写真を飾ったり、後は手作りのサシェとか、シュシュなんかを作るとか。
これに奏音は頷いて、
「学園祭らしいかもしれませんね」
「でしょ?」
学園祭なのだから変に仰々しくする必要もない。
あまりコストをかけるとかえって赤字になりかねないし。
「先輩、楽しそうなこと話してますよね?」
「私たちにも教えてください!」
二人で悪だくみをしていたら後輩たちが興味津々とばかりに声をかけてきた。
「あはは。ほら、人気キャラのコスプレわたしたちがもらっちゃったから、せめて部長として貢献しないとって」
「そんなこと気にしなくてもいいのに」
「胸の大きいキャラは私たちより先輩たちのほうが絶対似合いますから」
「それより、私たちにもアイデア出させてください!」
本当に、良い後輩を持った。
先輩として立ててくれながらも遠慮なく言いたいことを言ってくれる。
おかげで万桜たちもあまり気兼ねなく仲良くできている。
それにしても。
クラスの出し物用の衣装と撮影会用の衣装を作って、さらに小物まで用意して。
その他あれこれ合わせるといったいやることいっぱいすぎる。
まあ、睡眠時間を削ればなんとかなるか。
自分の分の裁縫は深夜にやることにして、部活中は部のほうに専念する万桜だった。
◇ ◇ ◇
「要は『移動する』って思うからいけないのよ。
自分はそこにいる、って強くイメージしてやれば、現実と理想のバランスが傾いて理想が勝つわ。
そうしたらいつの間にか移動先に到着するでしょ」
超短距離テレポートを安定させた美夜が友人たちを相手に解説している。
彼女なりの解釈に万桜はふんふんと頷いて、
「ちょっとなに言ってるかわかんない」
「あんたの言う『空間を繋げる』とかのほうが意味不明よ!
なんで都合よく人間だけその穴に吸い込まれるわけ!?」
怒られた。いや、そりゃそうだが。
聞いていたみんなはくすくす笑って、
「万桜ちゃんたち見てると、自分なりのやり方でいいんだなって思えてくるかも」
「ね。やり方は一つじゃないんだなって」
「そうよ。要はできればいいんだから、事故さえ起こさなきゃ『なんかよくわからないけどテレポートできます』でも問題ないわ」
「あれ、美夜にしてはすごく優しい」
「別に、あたしが理解できないだけで、できる人のことは認めるわよ」
そこで恥ずかしそうに顔をそむけるのが情けないというか可愛いというか。
はあ、と、気を取り直した美夜は「でも」と口にして。
「これでミアにばっかり大きな顔をはさせないわよ」
「残念。たまにはミアがドヤ顔できると思ってたのに」
実は珍しく、美夜よりミアのほうがテレポート成功は早かった。
「ミアはテレポート、けっこう向いてるっぽいよね」
「うん。万桜ちゃんにマンガ教えてもらったおかげかも」
もともと運動の得意なミアはテレポートの前段階、超高速移動はわりと楽に習得した。
それをテレポートに持って行くのは少し苦労していたのだが、マンガやアニメでイメージを掴んだらあっという間にできるようになった。
万桜と同じで感覚派なところのある彼女、わりと美夜の言う「よくわからないけどできる」を体現している。
「でもミア、見えないところまで行くのは苦手っぽいんだよねー」
「見えるところならほいほい行けるのも才能ではないでしょうか」
「そうね。……でもまあ、できれば学園祭までにある程度克服して欲しいわ。
気軽に移動できる人数が多いとできることも多くなるから」
「ああ。買い出しとか便利だもんね」
学院のある島から本土まで跳べれば、同じ距離を繰り返すことで沖縄でも北海道でも理論上はたどり着ける。
各地の激安スーパーへ買い出しに行ければ仕入れ値を抑えることが可能だ。
「っても、万桜にばっかり負担させるわけにはいかないでしょ。
あと、できれば店と寮を往復できる人を増やしたいのよ」
「学園祭期間中ですと、使えるキッチンが限られるから……ですね?」
「そ。店の中で調理するとなるとかなり限られちゃうじゃない」
メイド喫茶は広めの教室を借りて行うことになっている。
当然、キッチンはついていないので軽食の提供には工夫が必要だ。
目隠しをして裏にガスコンロなどを持ち込むこともできるが、スペースが狭くなるし換気等の問題もある。
かといって食堂のキッチンなどは簡単に借りられない。
となると各寮室にあるものを有効活用したいところだ。
「寮なら冷蔵庫もあるしね。ある程度なら前日前々日から用意しておけるわ」
当日焼く餃子と違って置いておけるものは限られるだろうが、できるだけ有効活用したいところ。
「やっぱりお菓子系が中心になるよね?」
「クッキーなどの乾燥した焼き菓子ならば前日に焼いてラッピングもできますね」
「ケーキはちょっと怖いけど、プリンとかなら焼いて冷やしとけば十分もつでしょ」
「焼きそばとかナポリタンとか出さないの?」
「喫茶店は喫茶店でも純喫茶の流れじゃないそれ。まあ万桜が料理上手なら考えてもいいけど」
「自慢じゃないけどわたし、料理はそんなに自信ないよ?」
ジト目で「知ってるわよ」と返された。
「焼き物ならまあ、パンケーキとか? 前日は無理でも当日何回かに分けて焼けばいけるんじゃない? で、提供する前にアイスとかトッピング」
「あ、美味しそう! けっこう本格的にできそうじゃない?」
「だから、素早く寮と行き来できる人がいるのよ。万桜も奏音も生徒会で忙しいんだから」
混雑する可能性があるので空を飛ぶのはちょっと怖い。
直で寮室に戻れるテレポートと、エレベーターを経由する飛行だと気軽さが大きく違うし。
「この辺はもうちょっと詰めないとだめね。どんな食材が調達できるかにもよるし……」
各自、知り合いの洋菓子店や和菓子店から大量仕入れできないかも併せて当たってもらっている。
取りに行くだけなら万桜がやってもいいので、ちょっと遠方の店舗でも大丈夫だ。
「せっかくコラボカフェなんだからちょっと気合い入れないとね」
美夜プロデューサー(仮)は今年も稼ぐ気まんまんである。
◇ ◇ ◇
生徒会選挙のほうはというと。
美夜は目標として「誰にも卒業を諦めさせない」を掲げた。
具体的には生徒会長以下、役員が率先して生徒たちの相談に乗りアドバイスを行う。
どうしても間に合いそうにない生徒にも学院および外部の奨学金制度を紹介するなど、可能な限り親身になって対応する。
絵理華に却下された積立金制度を受けて、彼女なりにできることをと考えたのだ。
2-Aのリーダーを務めて出し物を主導することで目立つ立場にもいる。
加えて露出を増やす作戦として寮のロビーや学院のカフェテリアにいる時間を多くしている。
普通科の生徒にも率先して話しかけて会話を繰り返しており、着実に知名度と好感度をアップさせている。
「なんかこう、不良が真面目になったみたいなとこあるよね、美夜ちゃん先輩」
とは、瀬奈の談である。
『そう? 美夜先輩、ちょっと厳しいけど優しい人じゃない?』
「あー。去年の美夜ちゃん先輩を知らないとそうなんだろうなあ。ね?」
「あはは……。わたしは去年の美夜も好きだけどね」
とっつきにくい子が親しみやすくなったことで、最初から明るかった子よりもさらに「あの子いいじゃん」と好感度をゲットしている。
これは万桜には使えない手である。
「逆にわたしは今から悪い子になってみるとか」
「お、例えばどうするの?」
「え? えーっと……ほら、黒い服着て派手めの化粧するとか」
『それ、アニメで洗脳されたキャラのコスプレですか?』
うん、万桜には向いてなさそうである。
「まあ、わたしはわたしなりのやり方でやるしかないよね」
具体的にはコスプレで登校してみたりとか。
心奏はそのへんゆるい学校なので「選挙活動の一環」ということで普通にOKが出た。
注目が集まり歓声が上がるたびに笑顔を向け、手を振って応える。
それから選挙用の動画で雑談配信したりゲーム配信したり。
『万桜ちゃん先輩はどんな生徒会を目指すの?』
『わたしはみんなが楽しく生活できる生徒会を目指します』
『具体的には? 美夜ちゃん先輩みたいに脱落者ゼロとか目指しちゃう?』
『うーん、個人的には目指したい……っていうか目指してるけど、義務みたいになっちゃうとちょっと窮屈だと思うんだ』
相談に乗ったりアドバイスしたりは今も万桜が個人的にやっていること。
『生徒会役員ってただでさえ忙しいから、そこに相談の対応まで入ったら負担が大きすぎると思う。役員みんなにやってもらうのは難しいんじゃないかな』
『なるほどねー。確かに、ウチも要領いいほうじゃないし、アドバイスって言ってもそこまで上手くできないかも』
『だから、イベントをもっとよくする方法を考えたり、例えばクリスマス会とかなにか増やせないか考えたり、そっちをメインにしたいかな。……あ、でも、わたしへの相談はどんどんしてくれていいよ?』
『嬉しいけど、万桜ちゃん先輩はいつ寝てるの?』
『ちゃんと寝てるよ! 最近夜更かしが多いけど』
『良い子は無理しないでちゃんと寝るようにしてね! この人ちょっと変だからね!』
『変ってひどいと思うんだけど……!』
ゲームのほうも単に電源ゲームを遊ぶのではなく、『学院あるある』などをパーティゲーム形式で話し合ったりとか、いちおう選挙関係あるけど遊んでるだけにも見える、くらいのラインをできるだけ狙っていった。
自分のSNSでも動画の宣伝を行いつつ、生徒会の公式SNSでは候補者全員を平等に紹介。
昼間、地下に籠もって訓練する時間はなるべく減らすようにもした。
授業を減らした関係で人目につきにくくなっているので、できるだけ外でできる訓練に切り替えてみたのだ。
祖母・志穂と浜辺で立ち合いしつつついでに撮影とかしてみたらわりと注目されたり。
一学期や夏休み中に受けた仕事がぼちぼち公開され始めたことで注目度もアップ。
万桜自身が動画の外部公開によって戦況をわかりづらくしたせいで優勢なのか劣勢なのかはさっぱりわからないものの、選挙戦は水面下で進んでいき──。
そうして、あっという間に学園祭当日を迎えた。