「うん、我ながらうまくできたんじゃない?」
「お姉様、何度も失敗していましたものね」
「それは言わないで。っていうか、奏音だって苦戦してたじゃない」
メイド服のデザインは敢えて統一しないことにした。
バリエーションがあったほうが楽しいし、統一すると体型的に割を食う人が出てくる。
万桜と奏音は揃いのロングメイド服。
バスト部分にスペースを取りつつ、ウェストを絞ったのが最大の特徴だ。
エプロンはつけず、要所にフリルをあしらって白さをプラス。
そういう衣装でないと太って見えるというのも少々困りものである。
おかげで縫製にかなり難儀することになってしまった。
しかし、頑張った甲斐あって可愛く仕上がった。
「これは人気出ちゃうんじゃない?」
「お姉様、調子に乗るのは良くないかと」
「う。そうだね、ごめんなさい」
後天的に可愛くなったせいでついつい「わたし可愛い」したくなってしまう。
可愛いのは間違いないが、傲慢な性格は間違いなく可愛くない。
「お姉様の人気が出るのは当然ですので、それを誇る必要はありません」
「奏音?」
「じ、事実を言ったまでではありませんか」
衣装を着て上がったテンションを二人してちょっと落ち着けた。
◇ ◇ ◇
「わ。ミアは赤いのにしたんだ」
「えへへー。いいでしょ?」
ベルベット生地を使ったミニ丈メイド服なんて他の子じゃなかなか似合わない。
ふわりと一回転してみせたミアはにこりと笑って、
「可愛い系はそろそろ卒業しないとだし、今のうちに着ておこうって」
「またまた。まだ全然大丈夫だよ」
「そうよ。スカート穿いて踊ってるあたしたちが馬鹿みたいじゃない」
ふん、と、鼻を鳴らした美夜はミドル丈のメイド服。
足は黒タイツ、腕はアームカバーでガードしているため露出は抑えめ。
清楚さを醸し出しつつも動きやすさは確保したデザインだ。
「なんか美夜っぽい」
「できる女の雰囲気が漂っていますね」
「そりゃそうよ、メイド服って仕事着なんだから動きにくかったら駄目じゃない」
金髪なのも相まって本当にどこかのお屋敷で働いていそうだ。
そういう観点で行くと万桜たちのはエプロンがないので汚れた時が大変だし、一着ごとのコストが高すぎる。
「万桜たちはなんていうか、愛人兼ねてるかお城並に金持ってるところのメイドよね」
「あれ、もしかして悪口言われてる?」
「失礼ね、褒めてるわよ」
ぽん、と万桜の肩を叩いた美夜は「じゃあ」と。
「商品の受け取り、頼んだわよ」
「うん、行ってくる」
テレポートを使って、依頼した菓子店に一気に移動。
「こんにちは、心奏学院2-Aの小鳥遊万桜です」
「ああ、いらっしゃい。準備はできてるよ」
安くて美味しいお店に「直接取りに行く」「受け取りと同時にお金を払う」条件でまとまった個数を卸してもらった。
ケースに入って詰まれたそれを万桜は念のために個数、見た目など確認して、
「ありがとうございます。ケースは夕方に返しに来ますね」
「ああ。……でも、本当に一人で運べるのかい?」
「大丈夫です。学院までテレポートできるので」
自分ごと寮の自室へ。
出がけにエアコンを強く効かせてきたのでばっちり冷えている。
部屋には奏音がテレポートで移動してきており、
「では、手早く仕分けしてしまいましょう」
「うん」
あらかじめ用意しておいたクーラーボックスに菓子を詰め替えていく。
これならそうそう悪くなることはない。
もちろん二日目の分はまた翌日の朝に取りに行く。
「余ったらみんなで食べていいよね、これ」
「売り切れる量を計算していますから、そこまで余らないと思いますが……」
「残念。じゃあ、わたしは二軒目行ってくるね」
「お願いいたします」
一つのお店に頼むと量が膨大になるので、いくつかの店に分けて頼んだ。
チーズケーキの美味しいお店やタルトの評判がいいお店など得意分野も違ったりするので一石二鳥だ。
あと、和菓子屋さんから羊羹も受け取って。
「準備できたよー」
開店時に必要な分だけを店舗へ運ぶ。
「ありがと、万桜、奏音。こっちも最終確認と飾り付け終わったわ」
お菓子のほとんどを外注した分、店舗の飾りつけはみんなが頑張った。
万桜たちは当日忙しい&生徒会の仕事があるからとだいぶ免除してもらったが。
保管庫に眠っていた過去のクラスルーム素材なども駆使してシックな店内を演出。
心奏自体が新しくてお洒落な学校なので印象さらにプラスだ。
「じゃあ、わたしたちは開会式行ってくるね」
「ほんと忙しいわね……。OK、多少遅くなっても大丈夫だから行ってきなさい」
生徒全員集まっての開会式は行われない。
式に集まるのはむしろ一般客がほとんどだ。
生徒たちは開会タイミングを知るために放送自体は視るか聴くかしているものの、自分たちの出し物の準備をしている。
そんな独特の緊張感の中、生徒会長である絵理華が立って、
「それでは──今年度の心奏学院 学園祭を開催いたします!」
歓声の中、今年もお祭りが始まった。
◇ ◇ ◇
「謎解きメイド喫茶、開店しまーす!」
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
開会式の後は店舗に舞い戻ってメイド喫茶のスターティングメンバーに。
嬉しいことに、開店とほぼ同時に「待ってました!」とお客さんが詰めかけてくれた。
普通こういうのってしばらく閑古鳥が鳴くものじゃないのか……!?
おかげで心の準備をする暇がほとんどなく。
こういうのに慣れてきたおかげでそれでもしっかり対応できた。
「SNSで宣伝した効果があったみたいね」
「あはは……これは、嬉しい悲鳴かも」
ドリンクはペットボトルのソフトドリンク、粉のコーヒー、水出ししてボトルに詰めまくったアイスティー。
フードメニューは専門店から卸してもらったケーキ・和菓子類に加えて、可愛くラッピングした手作りクッキー、それからしょっぱいのが好きな人用に柿の種や煎餅(市販品)を用意。
一品頼むごとに謎解きカードが一枚ランダムでついてくる。
カードは全10種で、答えの一部を並べてできるワードを推理、正解すると「メイドのサイン入り写真」を一枚もらえる。
他に「メイドと写真撮影」「メイドにサインしてもらう」等の飲み食い以外のメニューも用意。
また、追加料金を払うことで謎解きカードに「メイドの私服写真」をセットすることもできる。
もちろん私服写真にサインしてもらうこともできるわけだが、クイズの景品は「メイド服を着て笑顔のレア写真」なので同じものにはならない。
ついでに言うと景品の写真は各日メイドごとに一枚ずつという限定品である。
いちおう残念賞というか代わりの品も用意しているが、
「アイスコーヒーとアイスティーを二つずつ、それからチーズケーキとフルーツタルト、シュークリームと羊羹をください。全部写真付きで、サインもお願いします」
「私、万桜ちゃんと写真撮りたいです!」
「俺は奏音ちゃんと!」
出だしから売れ行きがやばい。
一人で四品、五品頼むお客さんがそんなに珍しくなかったし、当然のように写真が売れていくし、素人のサインがぽんぽん希望されるし。
これは……お菓子ぜんぜん足りないのでは?
売り切れただけでかなりの黒字になるようには計算してあるのだが、飲食系以外、特にいくらでも出せるサインをメニューに入れたのは英断だったかもしれない。
しかしこう、アイドル的存在とのひと時や大したことないグッズがお金になるというのはぼったくりというか、気分的には詐欺に近いというか。
いや、ファンの立場だったら万桜も喜んで払うが。
むしろ心奏に来てからも真昼の現役時代の限定グッズとか思わず見かけて買ったことあるが。
「ふふ。これなら今日だけで先行投資分は軽く回収できるわね」
美夜Pこわい、もとい、恐るべし。
◇ ◇ ◇
衣装の多くは蛍ほか今までの部員が集めたものだが、万桜と奏音、あげはが今までに着た衣装も一緒に展示している。
撮影はその時の当番になった子が要望に応じて受ける形。
併せてちょっとした手作りグッズも販売して、少しでも衣装代に充てる。
メイド喫茶のほうを交代して奏音と顔を出してみると、
「……あなたにとってSMといえばなに?」
「え? ええと、つぶやいたー?」
「残念。あなたとは縁がなかった」
「あげは。なにお客さんに絡んでるの」
油断も隙もないなこの平部員。
万桜たちに比べると暇だし上級生なのでなるべくこっちにいてもらうようにお願いしたのだが、
「絡んでるわけじゃない。むしろ縄を絡ませて欲しい」
「はいはい。健全なイベントだからそういうの禁止だからね」
「そこの衣装着て成人指定本売ってたくせによく言う」
「い、衣装は成人指定じゃないし!」
隅に設置した簡易更衣室で着替えをして、
「じゃ、わたしたちも参加します!」
「待ってました!」
来ていたお客さんがわっと沸く。
「やっぱり万桜先輩たちがいると違います……」
「そんな。みんなだって撮ってもらってたんでしょ?」
「それは、はい」
「グッズも結構売れたんですよ!」
「ほんとだ。じゃあ、もっと撮ってもらおう?」
後輩たちと一緒にポーズを取って笑顔を見せ、どんどん撮影してもらう。
「万桜ちゃん、メイド喫茶だと撮影有料なのにここだとタダなのバグってない?」
「そう言われるとそんな気も……。でもここはそういう催しじゃないので」
その分グッズを買ってください! と言ったら売れ行きが上がった。
むしろ「もっとメニュー増やして」と言われる始末。
「ポーズ指定いくらとか、セリフ指定いくらとかあってもいいんだよ!」
「なんでお客さんが『もっと金を払わせろ』って言ってくるんですか」
「そりゃあ払い足りないからだよ」
ドMなのか? でも、気持ちはめっちゃわかる。
「応援なら、うちの後輩たちもぜひよろしくお願いしますね」
「もちろん。実際に会ったら親近感湧いたし」
お客さんは基本、良い人である。
社会を『
戦後あたりから公衆衛生に関する観念が急速に進んだのも『歌姫』が登場した影響が大きいと言われている。
まあ、たまに変な人はやっぱりいて、
「ちょっと触るくらいいいだろ。プロでもないんだしさあ」
「や、やめてください……!」
「あ? ちょっと可愛いからって調子乗るなよ」
「はい、そこまでにしてもらえますか?」
ここまで過激な人はほんとに珍しいな、と思いつつ、万桜は相手の男の腕を掴んだ。
女の子に手を出すとか男の風上にも置けない。
別に女の子を守ってやれとか言わないが、女子を崇められない奴は万桜のポリシーに合わない。
「おい、離──力、強っ!?」
「こう見えて鍛えてるんです。……あと、わたしが生徒会役員だって知りませんでした?」
役員からの援護要請があるとスムーズに教員や警備員に伝わって最寄りの人が駆けつけて──もとい、空間を飛び越えてくる。
「万桜ちゃん、どうしたの?」
「この方が生徒に暴行を加えようとしたので制止しました。映像記録もあります」
「そう。……では、別室にてお話を伺いますね?」
粗相をした男はどこかへ連行されていった。
おそらく彼は学院出禁だろう。
高性能の顔認証システムで見つけ次第アラートが鳴るのでそう簡単には誤魔化せない。
そもそも悪意を持って再訪した場合はそっちが引っかかって結界を超えられない。
「ありがとうございました、万桜先輩」
「ううん。困ったことがあったらいつでも言ってね?」
「はい!」
「ほんとかっけぇ……。万桜ちゃん、今の撮ってたんだけどアップしてもいい?」
「いいですけど、わたし以外の人の顔は隠してくださいね?」
アップされた動画は「本当は強い『歌姫』候補生」とか言われてプチバズった。
「みんなも、ああいう人はあんまり真面目に相手しないほうがいいよ。
偉そうにしてるけど、殴りあったらたぶんわたしたちのほうが強いんだし」
「万桜先輩は鍛えてるから特別じゃないですか?」
「そんなことないってば。……そうだ、ちょっと腕相撲大会とかしてみる?」
乗ってきたお客さん数名と即興で腕相撲大会が始まり、一年生たちは大の大人を相手に勝ったり負けたりした。
意識して身体強化を使うとほぼ勝ち。
「……あれ? もしかして男の人ってそんなに強くない?」
「あー。理屈としては知ってても、ほんとにケンカする機会なんてないもんね」
あんまり実感してない子も中にはいるのか。
もちろん暴力は良くないので気の持ちようとしてしか意味はないが……「男子って腕力で私に勝てないんだ」と、なんかゾクゾクしてる子もいたりして。
変な扉開かせちゃったのでは……? と思いつつも、まあ『歌姫』は善良な子揃いだし、彼氏とSMプレイするくらいなら別に普通なので必要以上に心配はしないことにした。