上背は、ビルよりも高く。
奥行きは、橋よりも長く。
総面積は東京ドームの個数で表現されるようなスケール感。
構成する骨は、それぞれ一本一本が、長い歳月を得て育った大樹のように太く、重く、長い。
そんな骨の神の内側に入り込──いや、『乗り込み』、宿儺が見下ろす。
「……名を、聞いておこうか」
「は。そりゃまた、どうして?」
「強者の礼儀さ。自分を殺した相手が名前すら覚えていないようでは、殺された方も憐れだろう?」
「はン。随分とお優しいことで」
「──俺の名は!!!!!
「威勢のいいことだ。名も名乗らせてもらえないとは、人気者は辛いな?」
天を衝くほどに巨大な骨の神と四百年の歳月を背負った雷の神が相対する。
初めは、宿儺からだった。
ぶぉん!!!! と暴力的な風──実際に瓦礫を巻き上げているので、一般人ならこれだけでも致命的だ──を発生させながら、その巨腕を鹿紫雲に向かって振るう。それを迎撃する鹿紫雲。
「ぐぅ……ッ!!」
「彌虚葛籠を維持したままとは呑気なことだなァ!!! 両腕を閉じたまま戦えると思っているのか!?!?」
「そうか……よ!!」
「止めたならそれはそれで、こちらの必中効果が復活するがな!!」
「がっ……!!」
彌虚葛籠は旧式の、両手の平を合わせて使用する結界術だ。当然その使用中は両腕はほとんど使用不能となる。近接格闘など以ての外だ。一撃で対応不可と感じた鹿紫雲は即座にそれを解除するが、その瞬間に嵌合暗翳庭の必中効果が復活し、餓煮髑髏の腕が即座に「命中した状態」になる。
二撃目で強く弾き飛ばされ、瓦礫群に突撃する鹿紫雲。
複数個の瓦礫を割り砕いた後、一際大きな壁にクレーターを残して、ようやくその勢いを止める。
「──言っておくが」
鹿紫雲の頭上から宿儺の声が響く。
「いくらオマエが速いとはいえ、逃げられるとは考えないことだな。コイツは領域の中心そのものだ。領域の中を動くのではなく、常に領域の中心であり続ける。コイツが移動できるということは、
「ペッ……さっきから随分と、ぺちゃくちゃ喋ってくれるじゃねえの。開示はしない主義だと思ってたんだが、違ったのか? それとも千年の呪物生活で人が恋しくなったか?」
「ハンデというやつさ。あんまり圧倒的では、観客もつまらんだろう」
「誰もいないのに?」
「俺が観客さ」
「本当に……俺を、舐めてるらしいな!!」
鹿紫雲が飛び出し、それを宿儺が迎撃する。
当然、領域の必中効果により、それは即座に鹿紫雲に命中するが──
「ほう」
「わざわざ当たりに来てくれて有難うなァ!! 狙う手間が省けるわ!!」
命中する瞬間、膨大な電力が弾け飛び、餓煮髑髏の腕の一部が破壊される。
その傷は新たな骨によって、即座に修復されるが──
「先ほど当たったときに電気でも置いておいたか? 手癖の悪い奴だ」
「小手先で飯食ってきたモンで! 悪いね!」
鹿紫雲の対策はシンプル。原理としては落花の情と全く同一だ。即ち、相手の攻撃に対して自動反応する攻撃で命中時に迎撃する。
鹿紫雲の雷撃の強みの一つは、設置して使用できることだ。それは雷霆しかり、普段使う電撃しかり、そして今のように、敵の体表に設置して、対応する電荷を自分側に保持しているという使い方でもしかり。
無傷とは行かずとも、これによって鹿紫雲は相手の攻撃を軽減する手段を獲得した。
「ぬあああああ!!!!」
手に持った如意棒で骨を殴打する。
鹿紫雲の呪力による肉体強化の『強度』は五条悟や宿儺の二人を明確に下回る。だがそれは、決して弱いというわけではない。
なにせ、ほとんど近接格闘で自分の時代を築いた男だ。
そのフィジカルが、最強格でないはずがない。
バガァ!! と鹿紫雲が殴った部位が勢いよく崩壊する。
「オラオラオラオラオラ!!!!」
ガガガガガガッ!!!!! と、まるで夜間の工事のような連続した破壊音を響かせ、如意棒を振り回し、走りながら餓煮髑髏の足元を次々と破壊していく。
(この巨体と再生速度だ、骨自体を倒そうとしても埒が明かねえ。どのみち術者が弱って領域を維持できなくさせりゃいいんだから、優先度は骨より宿儺! このまま登るか引きずり下ろすかしてアイツを殺す!)
「あァッ!!」
骨を破壊する合間合間に、餓煮髑髏内部の宿儺へ向けて雷撃。
餓煮髑髏の巨腕が雷を遮る。
だが、餓煮髑髏はいくら巨大とはいえ、人型であり、そして人の腕は二本しかなく。
片腕を防御に使うということは、即ち攻撃が半減するということで。
「あァ!? なんか攻撃ヌリぃなァ!? せっかくの領域展開も、式神を一体に絞ったせいで攻撃の手数が減ってんだよ!! 必中効果の強み自分で薄くしてんじゃねェのか!?」
「よく吠える」
「オラァ!!」
必中効果により目の前に唐突に出現した巨腕を雷撃で反撃。同時に持ち前の反射神経で追加の殴打を加える。
餓煮髑髏の傷は、どれもすぐさま再生していくが──
「意外と、大したことないな」
「ほお?」
「伏魔御厨子の代わり出したってんで内心ビビってたが、損したわ。慣れた。この程度ならどうにでもなる」
「随分と強気じゃないか」
「強気にもなるさ。だってお前、さっきからその骨の中から出てこないだろ? 俺にビビってるのが丸わかりだ。それに遠目でもわかる。回復が遅い。どうにも俺が思ってた以上に五条との戦いが響いてるみたいだな。反転術式がほとんど機能してなくて、俺の雷撃のダメージがまだ消えてないんだろ?」
「……」
「さっきも言ったが、俺を舐めすぎたし、喋りすぎたな。倒せる。ガッカリだ」
ここにきて、宿儺の言葉が止まる。
少しの間の後、再び口を開いた。
「先ほど、必中効果の強みが薄れている、と言っていたな」
「なら、お望み通り見せてやるとしよう」
ぎゅお、と唐突に全てを吸い上げるような下から上への突風が吹く。同時に、餓煮髑髏の姿が小さくなっていた。
そのあまりのスケールの大きさに、「ジャンプした」という極めて単純な行動の結果である、ということを理解することに鹿紫雲は一瞬の時間を要した。
(上空へ……!? 何をするつもり)
そのまま、落ちてくる。
(……!?!? いやこれ、そのままそういう攻撃か!?)
巨体を活かした、ただの押し潰し。
言ってしまえばそれだけだが、餓煮髑髏の超大質量は『落下する』という動作だけで爆風を巻き起こし、途中途中に生えているビルをほぼ無抵抗にへし折りながらやって来る。
落下というより、小惑星の衝突に近い。
(喰らえねえ! 彌虚葛籠を再展開して回避を──したところでどのみち間に合わねえ!)
そして当然、これも必中であり──
(全力で強化を……耐えられるか!?!?)
地面に激突する瞬間、鹿紫雲は「命中した状態」にさせられ、下に存在する都市ごと巨体に押し潰された。