"バカでうるさい自称文学少女"と" "   作:鎌獺

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 純粋な生命活動に必要かどうかだけを問えば、趣味と娯楽というものは全く持って必要無いものだろう。

 

 読書をすれば書籍から情報や知識を得られるかもしれないが、人間は経験則等他に知識を得る方法がある訳で。

 運動をすれば身体を鍛えられるかもしれないが、ちゃんと日々を過ごしていれば必要最低限には身体は鍛えられる。

 食事が趣味だとしても、別に趣味が食事じゃない人間だって飲食はする。睡眠も同じことだ。

 アニメや映画、劇に関しては何かを語るまでもない。

 そんな風に、趣味娯楽というものは生命活動に関して、直接関わるものではない。だが、それでも人が趣味を持って娯楽を求めるということは、人間は既に純粋な生命活動をしているだけでは生きているとは言えない、思えないという状態になっているからなのだろう。

 衣食住が保証されているというのに、大抵の人間が牢生活に憧れを持たないように。どんな有名な学者や選手を輩出していたとしても、ルールや規則に厳しい学校に疑問を思ってしまう人間が多いように。

 人間にとっての"生きる"とは、他の生物の"生きる"とは全く既に別の意味になってしまっているのである。

 

「いらっしゃいませ!!ってあれ!?キミじゃないか!!もしかしてうちのケーキを気に入ってくれたのかな!!嬉しいね!!恩人のキミ相手だ!!多少はサービスするよ!!」

 

 気に入った甘味を取るか、いつも五月蝿い女の子を避けるかを天秤にかけ、甘味を選びつつそんなことを思った。

 


 

「さて!!どれにするかい!?季節限定のマスカットケーキかな!!定番のショートケーキもオススメだね!!勿論!!この前食べたモンブランだって良いものだよ!!知ってると思うけど!!」

 

 サービスは断りつつ、ケースに並ぶケーキを眺めながら思考を働かせる。

 この前頂いたモンブラン、ガトーショコラは取り敢えず選択肢から弾く。あの二つのケーキを気に入ったからこそ今日ここに来ている訳だが回転寿司よろしく、いろんな物を味わい楽しむのが流儀というものだろう。

 つまり、選択肢は──ふむ、まだ十種類ぐらいある。随分と多い。まあ、十種類買えばいいか。

 

「えっ!?十種類も買う気かい!?賞味期限明日ぐらいまでだよ!!」

 

 今日全て食べる気だから問題ない。

 

「あるよ!!大有りだよ!!太るし、そもそも食べきれるの!?食べきれたとして晩御飯が入らないよ!!ケーキが主食になっちゃうよ!!君はマリー・アントワネットなの!?」

 

 そうだよ。

 

「そうなの!?!?!?」

 

 違うよ。

 

「違うの!?!?!?」

 

 他にお客様がいたら迷惑だっただろうな、と思いつつもう一度思考を働かせる。

 恐らく、ケーキを十種類食べた上で晩御飯は食べられるだろうけどそれは最終手段だ。いくら奢られたケーキが美味しかったと言えど、流石に五千円という大金をここで吹き飛ばすつもりはない。二種類ぐらいに抑える必要があるだろう。

 現在残る選択肢は、ショートケーキとマスカットケーキ、チーズケーキ。更に、ティラミスにショコラケーキ、ミルククレープ、アップルパイ、野菜ケーキ、フルーツタルト、柑橘類ケーキ……野菜ケーキ!?

 あまりにも見慣れない文字があったが故に驚き、慌てて実物を確認する。そこにはショートケーキから苺を取り除いて、ブロッコリーやパプリカ、にんじん等が乗せられたケーキがあった。成る程、確かに野菜ケーキである。こいつはないな、多分不味い。しかし、なんでこんな案が出ることすらなさそうなケーキが売ってるのだろうか。

 

「ふっ……野菜ケーキが気になるかい!?実はねそれは私が考案したものでね!!お父さんには普通に却下されたけど店番時にこっそり並べたのさ!!」

 

 一瞬で疑問が氷解したので、目線を他へ向ける。「あれー!?」と五月蝿い声が聞こえたが、聞き流すのも慣れたものだ。昔の私ならすぐに声の方を見てしまっていた筈である。

 しかし、どうしたものか。果物系列はかなり好きだが、かといってそれ以外のケーキも捨てがたい。特にチーズケーキ。あのふわふわの食感と濃厚な味わいは捨てがたいものである。

 そんなことを考えてたらチーズケーキの口になってきた。一つ目はチーズケーキにしよう。それで、もう一つはどうするかだが──

 

「野菜ケーキにしない!?」

 

 しない。甘味を食べに来たのに、わざわざゲテモノを選ぶ理由はないだろう。

 

「サービスもするよ!!520円の所……なんと300円!!」

 

 四割引きだとしても買うものでもない。何割引きだろうが同じである。

 

「じゃあ、こっちが300円だすよ!?」

 

 なんでそっちが金を払うんだよ。

 

 そんな突っ込みに向こうは何も言い返せないようで、それでも何かを言おうとして「せっ、千円!!」と野口を差し出してきた。流石にこちらに罪悪感が沸くレベルの値段は止めて欲しい。

 しかし、ここまで野菜ケーキとやらにかけている情熱はなんなのだろうか。手間暇かけて、野菜の旨味とスイーツとしての甘味を上手く噛み合わせた自信作だったりするのだろうか。

 それとなく聞いてみればすぐに、そしてうるさく返答が返ってくる。

 

「いや!!冷蔵庫の余り物で出来そうだから作っただけだよ!!」

 

 おい。

 

「それにあんまり手間暇かけると採算が取れないからね!!適当だよ!!」

 

 採算なんて言葉を使うなよ。さっき手渡されかけた野口もビックリするだろ。

 

 さて、この野菜ケーキとやらが全くもって適当に作られた失敗作(失敗作と言えばまた騒がれそうだが)だと知り、なんでここまでの執着を見せているのかが分からなくなってきた。

 そんな物をホール一個分も作るなよ、というのが本心ではある。普通のケーキとかはつくれないのだろうか。

 

「それは失礼だよ!!私だってお父さんに色々教わっているからね!!さっき選んだチーズケーキだって私が作ったものさ!!」

 

 ……やっぱり別の物にしようかな。

 

「なんで!?言っておくけど、野菜は入ってないからね!?」

 

 入ってたら問題過ぎるだろ。

 

 まあ、野菜ケーキなんて明らかアウトな物をちゃんと止めてくれる父親なのだ。その父が認めてるということは、少なくともケーキ作り技術力は確かなのだろう……確かだよな?発想はもう明らかに駄目っぽいが。

 そろそろもう一つのケーキを決めたいが……適当にショートケーキでいいか。食べれていないケーキの種類が十種類はある以上、どうせあと四回ぐらいは来るのだ。そこまで深く悩み続ける必要もあるまい。

 今日はチーズケーキとフルーツタルトに決め、「野菜ケーキは!?サービスするよ!!」という最後の猛攻もサクッと丁重にお断りするると、あっという間に二つの甘味を手に入れた。

 野菜ケーキを謎にお勧めする彼女には悪いが──悪いか?別にこちらに悪い要素はないな……なんにせよ、甘味を欲している時に野菜ケーキというゲテモノめいた物を選ぶ理由はない。

 耳を塞ぎつつ「それじゃあまた来てねー!!」という言葉に返事を入れ、手に持つ甘味を楽しみに帰路についた。

 

 家に帰った後、手提げ袋の中に二つの甘味に加えて、ゲテモノめいたケーキも入っていた。サービス……という事にはしておこう。値段は払っていない訳だし。

 ちなみに、味に関しては想像を越えることはなく、可もなく……といった具合だった。

 とは言え、チーズケーキとフルーツタルトの方は最高である。予定通り、また足を運ぶとしよう。こういうサービスはサービスとは言わないので、今回限りにして欲しい物だが。

 

 また、別の日に彼女が父親に物凄く怒られた、と聞いたのはまた別の話である。

 

 

 

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