織田信奈の野望〜戦国に舞い降りし銀ノ刃〜   作:更新亀さん

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第一章 さよなら現代、こんにちは戦国時代
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夏の夕暮れ、剣道場で一人稽古を終えた青年が、ぼんやりと空を見上げていた。

 

「つまらんな、この世界は」

青年の名前は天城刃(あまぎはやて)。高校生一年生にして剣道で全国制覇、古流剣術に槍術や薙刀術・徒手空拳を極め、その天才的な才覚は周囲の誰もが認めるところ。生まれる時代を間違えたやら、沖田総司の再来などと呼ばれる“剣の天才”。だが、どんな大会で勝っても、どれだけ賞賛の声が贈られようとも心が満たされることはなかった。

 

『現代には斬るべき敵も、命を懸ける戦もない』

そう言われれば刃は苦笑するが、実際、彼自身がそう感じていた。

 

スポットライトを浴びるたび、拍手を受けるたび、心は冷えていった。

 

俺の師匠にして育ての親だった祖父が、亡くなる間際に俺に遺した言葉がある。

 

――

「いいか、刃。

剣とはな、武とはな――大切なものを守るためにある。人を傷つけるためではない。

決して、その使い方を誤ってはならん。

 

……だが、わしはお前なら大丈夫だと思っておる。

わしの愚息……つまりお前の親の子とは思えんくらい、立派で、そして優しい子に育ってくれた。

お前なら、必ず“守るべきもの”を見つけられる。心の底から、大切だと――そう思える誰かをな。

それが……わしから出す、最後の宿題じゃ」

――

 

それから俺は、祖父の言葉を胸に、一人で新しい生活を始めた。

気づけば、もう三年が経っている。

 

だが──

この時代に、命を懸けてでも守りたいと思えるものなんて、本当にあるのだろうか。

 

祖父が願っていたような“誰か”を、俺はまだ見つけられずにいる。

 

一度は捨てたくせに遺産目当てで寄ってきた血のつながった家族。

欲望の色に染まった視線で俺を値踏みするような連中。

何を見ても、何を感じても、世界はどこか薄っぺらく、色が抜けて見えた。

 

剣を振るう意味も、誰かと笑い合う価値も、すべてが霧の向こうにあるようだった。

 

どれほど鍛えても、誰も傷つけてはならない世界。

俺の剣は、ただの娯楽でしかないのか――そんな虚しさが、胸にこびりついて離れない。

 

祖父の“宿題”は、いまだに白紙のままだ。

 

……なら、せめて。

命を懸けるに値するものがある、戦いの意味がある時代に――

 

「せめて――戦の時代に生まれていたらな」

 

そんな独り言を、神が聞き取ったのだろうか。

あるいは、どこかでそれを“待っていた”存在がいたのかもしれない。

 

瞬きをした――その、たった一瞬の間に、世界は変わっていた。

 

 

「……は? 何処だ、ここ……?」

 

俺は立ち尽くし、言葉を失いながら辺りを見渡した。

夕暮れの街も、剣道場も、蝉の声も消え去り、代わりに目の前に広がるのは――

 

川沿いの広大な草原。

そこに響くのは、重く乾いた馬蹄の音。

耳をつんざくような火縄銃――種子島の轟音。

槍を手にぶつかり合う、足軽たちの怒号と悲鳴。

 

「まさか……これ、戦場……?」

 

焦げた血と土の匂いが鼻を突く。甲冑を着た男たちが次々に斬り伏せられ、槍で貫かれ、地に倒れていく。

そのすぐ傍に、自分は立っていた。

 

――これは、夢じゃない。

 

鋼が鋼を裂く音、肉を割る感触、地を蹴って突撃する馬の圧力。

現代では味わうことのない“生”の実感が、刃の全身に突き刺さるように押し寄せてきた。

 

「おい、あの白髪に赤い瞳をみろよ!?」「忌子かみゃあ?」「新手のつきだみゃあ!」

 

そんな声が聞こえた直後、視界の端に、横薙ぎに振るわれた刀が飛び込んできた。

 

本能が、先に動いた。

 

刃は足元に転がっていた一振りの刀を拾い、身体をひねるようにしてその一撃を受け止めた。

重い。けれど、心地よい重みだ。

腕の震えが止まらないのに――心のどこかが、確かに喜んでいる。

 

「……いいじゃないか。やっとだ」

 

誰にも聞こえないように呟いた。

現代では抜くことも許されなかった“剣”が、今ここで、本当に意味を持つ。

 

命を守るために、命を懸けて戦う――

そういう時代が、目の前にある。

 

「……やっと、俺の剣が活きる場所に来たんだな。ここでなら、」

 

かすかな自嘲と、わずかな期待。

心の奥底にしまい込んでいた感情が、剣の震えと共に浮かび上がる。

 

天城刃――

白磁のように透き通った肌、陽の光を白く弾く銀髪、

そして、燃えるような紅を宿す双眸。

その姿は、戦場にあまりに似つかわしくないほど幻想的で、異質だった。

 

刃は静かに刀を構えた。まるで今が本番だとでも言うように、動作に無駄がない。

体に染みついた技術と、研ぎ澄まされた感覚が、戦場の風と一つになっていく。

 

風が吹く。草原の匂いが、鉄と血に混ざって流れた。

 

「来いよ……今度は、俺が斬る番だ」

 

乱戦の渦へ、一歩、そしてもう一歩と踏み込んでいく。

 

刃の目に最初に映ったのは、兵士を槍で突こうとしている、先程攻撃してきた敵兵。

その刹那――

 

一陣の風を裂くような動きで、刃の身体が駆ける。

 

「っ!」

 

抜きざまの一閃。

まるで稽古で振った一本のように、滑らかで正確な太刀筋。

敵兵の槍が届くより先に、刃の刀がその肩口を断ち切っていた。

 

「な、何者だお前は……!」

 

助けられた足軽が呆然とつぶやく。

だが、刃は返事をしない。次の敵、次の命が待っている。

 

その動きは研ぎ澄まされていた。

まるで何かを探すように、迷いなく、冷静に、淡々と斬る。

 

だが、その眼差しには確かに――“誰かを守る”という、強い意思が宿っていた。

 

 

――

 

小一時間――草原を舞台にした激しい押し合いが、続いていた。

 

兵たちの雄叫びと、剣戟の音、銃声と馬のいななきが入り混じる混沌。

だがその中に、確かな異変が起きていた。

 

白銀の剣士――天城刃が戦線に現れて以降、

その鋭くも静謐な太刀筋は、織田軍にとってまさしく“追い風”となって織田軍は劣勢から勢いを取り戻し、今川軍を押し返し始めていた。

 

斬って、斬って、また斬る。

無駄な動き一つなく、的確に命を止めるその姿に、味方の兵たちは次第に奮い立ち、

敵兵たちは恐怖に目を背け始めていた。

だが――心の奥では、確かに痛みがあった。

 

「……っ、く……!」

 

刀の手応え、血の匂い、命が絶える瞬間の目――

それは、稽古や試合では決して得ることのなかった“現実”。

 

初めての人斬り。

 

鋼で肉を割き、骨を断ち、誰かの生を終わらせるということ。

その罪の重さが、戦いを終えるたびに心に積もっていく。

 

刀を振るたびに手が震え、背筋を冷たい汗が伝う。

無意識に歯を噛み締め、感情を押し殺す。

 

刃の顔には平静が貼り付いていた。

だが、胸の奥では重く鈍い疲労が波のように広がっていた。

 

初めての人斬りによる精神的疲労――

それは、超人的な技量を持つ彼にとっても、決して軽くはなかった。

 

――それでも、止まるわけにはいかなかった。

 

「皆の者! 勇気を奮い起こせ、あと一押しだ!」

 

軍馬の背に乗った鎧武者が、前線へと姿を現す。

血煙の中、その威風堂々とした声が響いた。

 

「この機に乗じ、一気に押し込め! 騎馬隊突撃、始めッ!!」

 

刃の参戦によって勢いを得た織田軍は、前線を突破すべく、総攻勢を仕掛ける。

 

「足軽ども! 誰か本陣に戻り、信奈様をお守りせよ!」

 

だが、足軽たちの耳には届いていない。

敵の首を一つでも多く取ることに夢中になり、興奮と勝利の熱に囚われた彼らは、誰一人として引き返そうとはしなかった。

 

――しかし、ひとりだけ違う男がいた。

 

「……はっ、はぁ……くっ……」

 

刃は、戦場を抜けて本陣を目指していた。

袴は切り裂かれ、白い肌には無数の傷が、陽の光を白く弾いていた銀髪には血が固まりつつあった。初めての人斬りでの精神的疲労も相まって、ゆっくりではあるが戦場を抜け、一直線に本陣を目指していた。

 

仲間の中に彼の名を知る者はいない。

だが、彼はなぜか迷うことなく“そこ”へ向かっていた。

 

導かれるように――

あるいは、心の奥底で確信していたのかもしれない。

 

「“信奈様”……この戦の、中心にいる女……」

 

戦場の混沌の中に、確かに存在していた、強烈な“意志”の気配。

それを感じ取った刃は、本能的に気づいていた。

 

――この時代を動かすのは、あの名の持ち主だ。

――俺の剣が、向かうべき場所は――あそこだ。

――そして、おそらく……俺が“守るべきもの”の始まり。

 

それが理由なのか、ただの直感なのかはわからない。

だが、心の底に祖父の声が甦る。

 

「武とは、大切な人を守るためのものじゃ……」

(分かってるよ、爺ちゃん)

 

そして――運命が、動き始める。

 

それは偶然ではなく、すでに定められていたような交差。

この戦場で、天城刃の生きる意味が塗り替えられる瞬間。

 

それは、ただの歴史の歯車ではない。

天城刃という異物が入り込んだことで、世界がわずかに軋み、ずれ、揺らぎ始める。

 

そのずれは、やがて大きな渦となり、

幾人もの姫武将たちの“運命”と交差していく。

 

その最初の出会いが、今――

 

織田信奈との邂逅として、始まろうとしていた。

 

だがその時――

この戦場の別の場所で、もう一人の“異物”が本陣を目指して走っていた。

 

草をかき分け、荒い息を吐きながら、滑りそうな足元を必死に踏みしめる少年の姿――

その表情には焦りと興奮と、ほんの少しの希望が入り混じっていた。

 

彼の名は――相良良晴。

 

現代からこの時代へと飛ばされてきた高校二年生の少年。

剣の才などはなかったが、戦国時代の知識なら誰にも負けないという自負を持つ歴史オタク、特に「織田信長公の野望」に情熱を燃やす筋金入りのゲーム好きだった。

異世界に転移して間もなく、彼はとある人物と運命的な出会いを果たす。木下藤吉郎、後に戦国大名・羽柴秀吉となり、ついには天下人・豊臣秀吉となって豊臣政権を築き上げる戦国最大の成り上がり者。

そんな一代の英雄に庇われ、彼の夢である一国一城モテモテの夢と、相方である蜂須賀五右衛門を託された彼は、木下藤吉郎との約束を果たすため、織田家に仕官しようと織田信長に合いに織田の本陣に向かった。

 

そう、今――

 

二人の未来人が、それぞれの意志と理由を持って、織田信奈の元へと向かっていた。

 

刃をハーレムにするか

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