死神代行のIS戦記   作:ピヨ麿

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遅くなってすいません!

今回は二巻の話を終わらせる為に、普段の倍近くの量になっています。
時間が無い方は一応気を付けてください。


7.German is reborn

「……う……」

 

 

顔に当たる光を感じ、目を覚ますボーデヴィッヒ。

 

 

「おお! 気が付いたかね!」

 

「……お前は……誰だ……?」

 

「私を知らないとは、無知なガールだ。テレビはあまり見ないのかね? 私こそ、世紀のカリスマ霊媒師、ドン・観音寺! よく覚えておきまえ銀髪ガール!」

 

 

いつものように、マントを翻して大仰に自身の名を言う観音寺。

 

 

「……鈍感音痴?」

 

「ノー! 鈍感音痴では無い! ドン・観音寺だ!」

 

「身体の調子はどうだ?」

 

「……教……官……?」

 

 

自身が敬愛してやまない織斑千冬の声を聞き、身体を起こそうとするが、全身に奔る痛みに顔をしかめ、その身をベッドへと沈める。

 

 

「無理をするな。無理な動きを強制させられたことと受けたダメージで、全身に筋肉疲労と打撲、あとは所々に裂傷と火傷だ。しばらくは動けないだろう」

 

「……何があったのですか?」

 

「ガールは悪霊(バッド・スピリッツ)に取り憑かれてしまったのだよ。だが安心するといい! マイ一番弟子がきちんと祓っていたからな!」

 

「……一番弟子……?」

 

 

観音寺のことなど興味が無かったボーデヴィッヒだったが、その言葉には僅かながら興味を示す。

 

 

「そう! ガールを助けたのは黒崎一護。私の一番弟子であると同時に、戦友(とも)でもあるボーイなのだよ!」

 

「……貴様が奴の師匠? ……強いようには見えないのだが……?」

 

「私はマーシャルアーツの師匠ではない! それよりも、もっと大切なもの……ヒーローとしての魂の師匠だ! 心の隙間を押し広げてそこにヒーローのヒートなソウルを埋め込んだのだよ!」

 

 

観音寺の言葉を聞いていくにつれ、ボーデヴィッヒの視線は訝しげなものを見るものへと変わっていく。

 

 

「弟子かどうかはともかく、暴走したお前のISを黒崎が止めたのは事実だ。ここまでお前を連れてきたのもな」

 

「……そうですか」

 

「何か言いたげだな」

 

「……いえ。無様に負け、ISを暴走させた私に……教官の名に泥を塗った私には……」

 

「……確かにお前は負けた。だがそれは、私の指導が間違っていたのが原因だ」

 

「なっ!?」

 

 

ボーデヴィッヒは驚きのあまり目を見開く。彼女の中で、織斑千冬とは完璧な存在。雲の上のような人であり、間違いを犯すなど考えられなかったからだ。

 

 

「そう驚いた顔をするな。今の私でさえ未だ人として未熟なのだ。間違いもするし、悩みもする。……まぁ、それを周りに見せないようにはしているがな」

 

「レディは恥ずかしがり屋なのだな!」

 

「……観音寺さん、その髭とグラサンはいらないようですね」

 

「ソ、ソーリー! 千冬嬢は立派なレディだ!」

 

「ハァ……。ドイツでの教導では私の指導力不足で、お前に力が全てだと間違った認識を与えてしまった。すまなかったな」

 

「…………」

 

「お前は私のようになりたいと思っていたようだが、それはやめておけ。私は――――」

 

「……なら、私はこれからどうすればいいのですか!? 貴方のようになりたくて! 今まで強くなってきたのに! 私は……これから、何を目指して生きればいいのですか!?」

 

「それは……」

 

 

慟哭にも似たボーデヴィッヒの叫びに、織斑千冬は答えるのに言い淀んだ。生きる目標を否定されたボーデヴィッヒの叫びは、ブリュンヒルデである彼女ですら怯ませたのだ。

 

 

「簡単なことだ、ガールよ。夢が無いのなら、探せばいい」

 

「探す……?」

 

 

だが、この男はその程度で怯む訳が無い。目の前に泣いている子供がいるというのに何を臆することがあるのか、と言うかのように。

 

 

「ガールの事情は良く知らないが、夢が無いというのなら探し出すしかあるまい! このドン・観音寺と共に世界を回れば、自ずと夢は見つかるだろう!」

 

「観音寺さん。彼女はドイツの代表候補生なので、他国に行くのは薦められませんよ?」

 

「なんと!? では、ガールとは国内だけの旅になるのか。すぐにプロデューサーへ連絡せねば!」

 

「そもそもIS学園に入った以上、長期間離れることは出来ません」

 

「では私がこの学園に――――」

 

「無理です」

 

 

真剣な話が何故漫才のようになるのだろうか……。

年上だからと一応言葉には気を付けていたが、その対応を止めようかと内心検討し始めた千冬。

 

 

「先程の続きだが……ラウラ、お前は何故私が強くなれたか分かるか?」

 

「いえ……分かりません」

 

「私は弟を、一夏を護るために強くなった。才能や指導の上手さも関係しているだろうが、根幹にあったのはその想いだ。……まぁ、私が護ったつもりなだけで、ちゃんと護れているかは分からんがな」

 

「護る……お前もそうなのか……?」

 

「そうだとも! 私は全国の子供達の笑顔を護るために、日夜悪霊と戦っているのだよ!」

 

「……なら、奴も……」

 

 

彼のことを考えだした時、タイミング良く保健室のドア(修理済み)が開き、件のオレンジ頭が入って来る。

 

 

 

 

 

 

「……!! 黒崎……一護……」

 

 

一護の姿を見たボーデヴィッヒが、驚きながらその名を口にする。

 

 

「なんだ、もう起きたのか。怪我は大丈夫なのか?」

 

「……大丈夫ではないが、数日も経てば動けるようになるらしい」

 

「そうか」

 

「一護ボーイ! 久しぶりではないか!!」

 

「……なんでアンタがここにいんだよ」

 

 

観音寺の顔を見るなり、一護は顔を顰める。あからさまに面倒臭がっている。

 

 

「観音寺さんがラウラのことを気にかけていたからな。私が付いていることを条件に見舞うことを許可している」

 

「そういうことなのだよボーイ」

 

 

嫌そうな表情をしている一護だが、観音寺ならばボーデヴィッヒを放ってはおかないと思っていた。子供達のヒーローである彼ならば。

ただし、気に掛けると言ってもIS学園(ここ)は色々と制約が多く、観音寺の頼みを拒否する可能性が高いと予想していた。それでも彼は無茶を通すだろうが、まさか織斑千冬が許可を出すとは思ってもみなかった。

 

 

「……お前は……」

 

「ん?」

 

「お前は、何故赤の他人まで救おうとする。私など見捨てておけば――――」

 

「ふんっ!」

 

「いたい!?」

 

 

ボーデヴィッヒの頭を軽く叩いた一護。力はあまり入れていないのだが、全身の傷に響いたのか涙目になっている。

 

 

「他人だとかどうでもいいんだよ。俺が助けたいと思ったから助けた。文句あるか?」

 

「……自分に対して牙を向けていた奴を?」

 

「関係ねえよ」

 

「怪我を負ってまで……」

 

 

視線は一護の、包帯が巻かれた左手に。VTの斬撃を受け止めた際に、集めた霊圧が足らずに負った傷だ。

 

 

「あぁ、これのことなら気にすんな。大した傷じゃねえからよ」

 

 

手当てをしたのは簪なのだが、その時の様子がVTと対峙した時よりも数倍怖かったというのは内緒だ。

 

 

「自分以外の誰かを護る為の力……。何故お前は戦う? 傷つくのが怖くないのか?」

 

「怖くない訳ねーだろ。出来ることなら怪我なんてしたくねえし、戦いたくねえからな。

けどそれ以上に、戦いから逃げて誰かが傷つくのを見たくねえ。俺が戦うことで護れるんなら、俺は迷い無く剣を取る」

 

「その相手が自分よりも強くてもか?」

 

「相手の強さなんて関係ねえ。ただ、"負けられない"。負けたら、俺が護りたいもんも護れねえからな。だから、俺はもう負けない」

 

 

一護の言葉に込められた意味や決意を、出会って僅かしか経っていないボーデヴィッヒでは理解出来ないだろう。だが、

 

 

(……そうか。これが、教官の言う"想い"。そして、それを貫き通す"意思"。それこそが"護る為の強さ"か。怒り……いや、嫉妬でただ暴力を振りまいているだけの私では、勝てるはずがなかった。

教官に届くどころか、黒崎一護やドン……鈍感音痴?にも、恨んでいた織斑一夏にすら負けていた。だが……不思議と悪い気はしないな)

 

 

一護の決して変わることの無い"護る"という想いに、意思に、彼女は魅了されてしまった。その感情が尊敬なのか、それとも愛なのかは、本人もまだ分からないが。

 

 

「そういえば……いいのか? 更識を放っておいて」

 

「あー……今機嫌が悪いからなぁ」

 

「刃を、ISを装着しているとはいえ素手で受け止めたのだ。そんな無茶をして平然としているお前に対して不機嫌になるのも当然だ。

それと、分かっているなら会いに行ったらどうだ? 放っておくと手が付けられなくなるぞ」

 

「……そうだな」

 

 

普段楯無に対して行われているオシオキが自身にも向けられることを考え、表情を暗くする。一護には楯無のように虐められて悦ぶ趣味は無いのだから。

 

 

「黒崎一護」

 

「ん?」

 

「お前は……何とも思わないのか? 私は奴らを甚振り、傷つけたんだぞ? それを……」

 

「お前があの時のままだったら許されないだろうな。けど、お前は変わろうとしてんだ。他はどうか知らねえが、俺はそんなお前にどうこう言わねえよ。ま、織斑達には謝らねえと駄目だけどな。

だから、とっとと怪我治せよ? 少なくとも、俺はお前が来るのを待ってるからよ」

 

 

それだけ言うと一護は部屋を出て行った。

 

 

「私は……やり直してもいいのだろうか」

 

「もちろんだ。間違いを犯したからと言って、前へ進んではいけない道理など無い。特にガールのような年の子は、失敗からも学び、成長していくものだ。この失敗を糧に、ビューティフルなレディを目指すのだ!」

 

「……観音寺さん。あなたもそろそろ……」

 

「オーケーだ。ガールよ、何か困ったことがあったらすぐに私に連絡するのだ。このヒーローたる私が、出来る限り力になると約束しよう!!」

 

「あ、ああ」

 

「ではさらばだ!」

 

 

マントを大仰に翻しながら、観音寺は去っていく。その様に呆れながら織斑千冬は後ろを歩く。

 

 

「……この学園に来たのは正解だったな……」

 

 

誰もいなくなった医務室で小さく呟くボーデヴィッヒは、何かを決意したかのように真剣な眼差しをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室を出た一護は、霊絡を辿って簪を見つけ、そのまま食堂へ来たのだが……

 

 

「黒崎君! あんな得体の知れない相手に一人で立ち向かってて、格好良かったよ!」

 

 

生徒とすれ違う度に、ほぼ同じようなことを言われる。それに対して一護は曖昧に返事を返すほかなかった。

 

 

(戦いの後に褒められたり、感謝されるってのも、妙な気分だな)

 

 

褒められたり感謝されて、悪い気はしない。ただ、こうも多くの人からされれば、戸惑ってしまうのも無理は無い。普段からヤンキー扱いを受け、好意的な視線を向けられることの方が珍しい――二年前と比べれば大分マシになっているが――位なのだから、尚更だ。

 

 

「…………」

 

 

そして、一護を悩ませる一番の問題は、隣にいる簪。先程からずっと機嫌が悪く、今も『自分、不機嫌です』と言い表せる表情をしている。

 

 

(どうすっかなぁ……)

 

 

他の仲間達ならば、無茶したことを怒鳴ったり、心配したり、あるいは共に闘えなかったことを悔やんだり。少なくとも言葉として一護にぶつける者が多く、簪のように怒っているのにそれを吐き出さないタイプは初めてで、一護もどうすればいいのか分からずにいた。

そして、

 

 

(どうしよう……。謝るタイミング逃しちゃった。さっきはつい怒っちゃったけど、私が言ったところで黒崎君が変わる訳無い・って分かってたはずなのに……。あと、この表情してるの疲れてきた)

 

 

簪自身もこの状況に頭を悩ませていた。

もっとも、二人が今思っていることを口にすれば、自ずと状況は良くなるのだが……

 

 

「一護……」

 

 

この場に更なる爆弾が追加された。以前の一件で(一方的に)一護のことをライバル視している織斑一夏が、シャルル・デュノアを連れて食堂へやって来たのだ。

 

 

「織斑か」

 

「一護があのドン・観音寺の弟子だったなんてな。何で言ってくれなかったんだよ?」

 

「…………は?」

 

 

予想外な言葉に、一護の思考が止まる。何故、そんな言葉が出て来るのかと。

 

 

「え! 黒崎君がドン・観音寺の弟子!?」

 

「じゃ、じゃあ、幽霊見えるの!?」

 

 

彼の一言を皮切りに、食堂が騒がしくなっていく。騒いでいるのはやはり日本人ばかりなのだが、今回はそれ以外の留学生も話に乗って来ている。アリーナでの騒動を切っ掛けに、ファンになった者が多いからだ。

 

 

「……何でこの学園はこんなに観音寺の支持者が多いんだよ」

 

「……私に聞かれても困る」

 

 

 

 

 

 

食堂で騒ぎ過ぎた生徒達は皆、織斑千冬によって鎮圧された。そして、その騒ぎによって一護と簪の間に漂っていた重い空気は有耶無耶になった。

 

 

「悪かったな。お前はただ心配してくれただけなのによ。けど、俺は――――」

 

「言わなくても分かってるよ。黒崎君は無茶をしてでも誰かを護ろうとするんだって。そして、周りが何を言っても変わらないって。

分かってたはずなのに……黒崎君が怪我してるのを見たら、怒りが湧いて来て。止めなきゃって思ってたのに、溢れ出る感情が止まらなくて……」

 

「……そうか。心配掛けて悪かったな」

 

「……うん」

 

 

自身の感情を持て余していることを悟り、一言告げる。

その言葉はその場凌ぎに過ぎない。そう遠くない未来で起こるであろう敵との戦いで、一護は絶対に無茶をし、大きな怪我を負うだろう。簪だけでなく、多くの者にも心配を掛けるだろう。それでも、目の前の少女を安心させる為に、言うしかなかった。

 

 

「そういや、俺がVT(アレ)と戦ってる時、何か感じたか?」

 

「ううん。戦う前と何も変化無し」

 

 

簪曰く、最初は触れた程度の名残。それが、VTシステム発動と同時に(ホロウ)の存在を感じ取れるまでになった。それは――――

 

 

「本当に"いきなり現れた"みたいだった。遠くからだったけど、周囲の霊子も変化してなかったみたい」

 

「そもそも、俺が知ってる(ホロウ)化とは違ったな。俺らのは魂の内側まで浸食されてるけど、アレは表面()()って感じだ」

 

 

二人して思考を巡らせるも、当然ながら回答となりうるものは浮かばない。

 

 

「……今ここで考え込んでも仕方ねえか。これ以上考えたって何か浮かぶ訳でもねえし」

 

 

浦原喜助にはすでに連絡を入れていた。本当ならすぐにでも会って相談したいのだが、休日でもないのにIS学園から出るのは難しい。……まぁ、浦原ならば気付かれずにこの部屋に来ることも容易なのだが。

 

 

「うん。じゃあ私は部屋に戻るね」

 

「あ、ちょっと待て。今大浴場に誰かいるか?」

 

「え? ……今いるのは二人。織斑君とデュノア()()

 

「簪も気付いてたのか」

 

「私だけじゃ無いと思うよ。さっき食堂にいた人なら、違和感持った人が多いと思う」

 

 

暗部の家系である簪だけでなく、一般生徒にも分かった理由。それは……

 

 

「織斑君に向けてた表情が、何て言うか……"恋する乙女"って感じがして」

 

「……あいつ、隠す気あったのか? バレバレじゃねえか」

 

 

もっとも、他の生徒からは『女じゃね?』と疑う程度であり、他にも『デュノア君はソッチの気が……』『もう少し早かったら織斑×デュノアで夏コミに出したのに!!』等々。

 

 

「黒崎君は何で気付いたの?」

 

「気付いたっつーか、始めて見た時"俺と同じ男子生徒"じゃなくて、"男子用の制服を着てる女子生徒"って思ってたからな。隣にボーデヴィッヒもいたし。で、仕種とか見てても女にしか見えなかった、ってとこだな」

 

「なるほど。……あれ? 確か、織斑君と同室だったよね? 知らないってことは……」

 

 

一般生徒にもほぼ気付かれているのに、同室の織斑に気付かれていないとは考えにくい。そこまで至って、

 

 

「まぁ、私には関係無いか」

 

 

すぐにその思考を捨てた。簪にとっては知ったこっちゃないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、生徒会室にて

 

 

(黒崎一護。彼は何者なの? 調べてみてもちょっと、いや、かなり喧嘩が強いみたいだけど、それ以外は至って普通の高校生。なのに、ISに触れてから一カ月程ですでに国家代表レベルの実力。才能、という言葉だけでは片づけられないわ)

 

 

楯無は一護のことを疑惑の目で見ていた。彼女は、一護が一カ月程篠ノ乃束の下にいたということも、死神のことも知らない。なので、一護の強さに疑問を持つのは当然なのだが。

 

 

(おまけに、簪ちゃんとあんなに仲良くなってるし!)

 

 

今までいいとこ無しだが、これでも現更識家当主であり、IS学園生徒会長である。

 

 

「会長。考え込んでないで、早くこの書類に目を通してください。今回のトーナメントに関するものが山ほどあるんですから」

 

「…………ねえ(うつほ)ちゃん。黒崎君のこと、どう思う?」

 

「一護さんのこと、ですか? ……そうですね。言動はぶっきらぼうですが、言葉の節々に優しさが見え隠れしている。芯が強く、優しい人、ですかね」

 

「へ、へぇ~ (え? 何この反応。顔赤らめて、めっちゃ『私、恋してます』みたいなんだけど。しかも、いつの間にか名前呼びになってるし。ていうかいつ落とした黒崎一護ォ!!)」

 

 

予想外な(うつほ)の返答に、平常を装いながらも内心では動揺を隠せない楯無。この場にいない一護へ怒りの矛先を向けるも、

 

 

 

 

 

 

『黒崎一護のことを知りたいなら、空座町のことを調べてみな』

 

 

 

 

 

 

突如扉の向こうから聞こえた声に、頭が急速に冷えていく。それと同時に、今の声の主を捕らえようと動く。だが、

 

 

「……誰もいない?」

 

 

楯無が廊下に出た時には人影は一つも無かった。ただ一つ、緑色の小さな光が消えていくのが、楯無の目に映るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

 

翌日のHR、教室に入って来た山田真耶はふらふらしていて、誰の目から見ても"疲れている"という外無い。

 

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

 

歯切れが悪い山田の言葉を反芻し、クラス中がどよめく。一護達三人が来て一月も経っていないというのに転校生が新たに来るというのだから、その反応も当然だ。が、

 

 

「その前に、ちょっといいだろうか」

 

 

どよめきの中、少しばかり遅れてきたボーデヴィッヒが声を上げ、教室の前に立つ。

 

 

「これまでの、皆に対して悪い態度を取っていたことを謝ろうと思う。すまなかった!」

 

 

傲岸不遜を絵に描いたような態度だったボーデヴィッヒが上半身を90度曲げて謝る姿に、クラスの皆は呆気にとられた。

 

 

「私は産まれてからずっと軍で生きてきた。教えられたのは戦う技術ばかり。だから、これからも皆に迷惑を掛けると思う。それでも、私は皆と仲良くしていきたい。……駄目だろうか?」

 

 

不安げな表情で一同を見るボーデヴィッヒ。その不安に揺れている目も相まって、

 

 

((((こんな可愛い子からのお願いを無視出来る奴は人間じゃない!!))))

 

 

一年一組(一部除く)の心が一つになった瞬間だった。あのキング・オブ・鈍感こと織斑一夏ですら一瞬ときめいていた。

 

 

「全然駄目じゃないよ!」

 

「うん! よろしくね、ラウラちゃん!」

 

「同じロリキャラとして仲良くしようねラウラちゃん!」

 

 

クラスメイト(山田含む)のテンションが上がる中、ボーデヴィッヒは一護の下へ近づき、

 

 

「兄様! 先程の挨拶は如何でしたか?」

 

「………………は?」

 

 

淀みなく言われたボーデヴィッヒのある言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。そして、

 

 

「「「「兄様!?」」」」

 

 

クラス中が別の意味で騒然とした。

 

 

「黒崎君それどういうこと!?」

 

「俺が知るか!! ボーデヴィッヒ、説明しろ!!」

 

「うむ。あの後、どう接すればいいか悩んだ末に"あの男"に連絡したのだ。そしたら、

『何も迷うことは無い。ただ、自分の本心を語れば、皆分かってくれるはずだ。それか、一護ボーイを頼るといい。彼にはキュートな妹がいるから、ガールが困っていれば手を貸してくれるはずだ!』と。

それを聞いて、かつて副官が『日本では、頼りになる男性を兄として慕うという風習がある』と言っていたのを思い出したのだ」

 

「その副官は何嘘を教えてんだよ!!」

 

 

観音寺のことはまだ許せる。言われずとも一護なら助けただろうから。尤も、それを人に言われるのは癪に障るが。

それよりも、間違った日本の風習を教えているボーデヴィッヒの副官の方が問題だ。

 

 

(一般常識が足りないボーデヴィッヒに間違ったことを教えるとか、面倒事が起こる未来しか見えねえ)

 

「なに? クラリッサが言っていた事は間違っているのか?」

 

「ああそうだ。そんな風習、あるわけねえだろ」

 

「むぅ……。だが、私個人としても兄様の妹になりたいのだが……」

 

「無理に決まって……」

 

 

彼女の願いを断ったところ、

 

 

「黒崎君! ラウラちゃんの願いを断るなんて、男としてどうなの!?」

 

「なってあげなよ! お兄さんに!」

 

「こんなに可愛い妹が増えるんだから、むしろ役得でしょう!?」

 

「ついでにリコリンもげふっ」

 

「妹キャラを手に入れれば、私も脱無個性? (理子、黒崎君に無理を言っちゃ駄目よ)」

 

「さゆか、逆になってるよ。というか、なに平然とクラスメイトを気絶させてるの!?」

 

「何故? それは理子だから」

 

「理不尽過ぎるよ……(絶対に無個性じゃないと思うのは私だけ?)」

 

 

一護を非難する者、便乗しようとする者、天に召される者、ツッコミを入れる者。収拾がつかなくなっていた。

そして、唯一この騒ぎを収められるであろう織斑千冬は

 

 

「ボーデヴィッヒさん、随分変わりましたね」

 

「ああ。これもあの人……観音寺さんのおかげだ。あの人は我々よりもずっと"大人"だった」

 

「凄いですねぇ~」

 

 

山田と呑気に談話していた。

 

 

「っておい! あんたらちゃんと仕事しろよ!!」

 

 

一護が怒る。皆は当然分からないが、

 

 

 

 

(何でか分からないけど……今無性に腹が立つ)

 

「あ、あの……更識さん?」

 

「……なに?」

 

「いえ! 何でも無いです!」

 

 

 

 

四組の簪から怒りと共に霊圧をめっちゃ飛ばされており、その原因と思われるこの状況をどうにかしたかった。

 

 

「む? そうだな。ほらお前達、静かにしろ。黒崎の妹になりたいというなら、それらしく振舞っていろ。そうすれば、奴は認めるはずだ」

 

「テメッ、何言って……ッ!?」

 

「静かにしろと言ったはずだ」

 

 

反論してきた一護の額にスクリューチョーク投げを命中させ、黙らせる。

 

 

「山田君」

 

「はい。じゃあ入ってください」

 

「…………ようやくですか」

 

 

やさぐれた感のするデュノアが教室へと入って来る。女子の制服で。

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 

ぺこり、とスカートを履いたデュノアがお辞儀をする。それを見た反応は

 

 

「あ~……やっぱりそうだったんだ」

 

「なん……だと!? これじゃあ『織斑×デュノア本』が書けないじゃない!!」

 

「…………男の格好してた時は全く無かったのに、何で今はそれなりに大きいの? ねえ、何で?」

 

「なんか僕の予想してた反応と全然違うんだけど!? あと、夜竹さん怖いよ!! ハイライトさんちゃんと仕事して!!」

 

 

まぁ、半分以上が疑っていたのだから(一部は知った上で男であることを望んでいた)、この反応も当然である。

 

 

「という訳で、デュノア君はデュノアさんになりました。皆さん仲良くしてあげてくださいね?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

「ちょっと待って! 今の言い方だと、僕が男から女になったみたいじゃないか! 僕は元々女だよ!!」

 

 

そして、全く気付いていなかった者達は

 

 

「一夏! どういうことか説明しろ!」

 

「そうですわ!」

 

「一夏ァ! きちんと説明しなさいよ!」

 

「鈴!? 何で一組にいるんだよ!?」

 

 

予定調和のごとく織斑一夏へと詰め寄る。

 

 

一護達が来てからは常に緊張状態が続いていた一組だが、その元凶であるボーデヴィッヒが激変したことで、教室の空気は大きく変わった。

腫れ物のように扱われていた彼女だが、これからはクラスの皆から愛されるだろう。

 

 

「ちょっ、まっ、ギャアアアアア!!!」

 

 

また一人、天に召された者がいるが、なに、気にすることは無い。

 

 




以前ヒロインのことを感想で聞かれた際はまだ未定だったんですが、簪がヒロインになりそうです。一護の性格上二股以上のハーレムはありえないですし、書いている内にこの二人お似合いだなと。
それなのに、虚他数名にフラグが建っているという……


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