クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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更新遅れてすみません!


第38話 懊悩する魔法使い

 セレンたちと別れた千司は、エリィに連れられ遺跡を後にした。

 

 移動中、遺跡内でモンスターに襲われるようなことはなく、森に入ってからもまばら。精々ゴブリンたちが襲ってくる程度で、何ら脅威とはなり得なかった。

 

 森の中をズンズン進んで行くエリィを見るに、この辺りの地理に関してはある程度把握しているのだろう。方位磁石等を使うこともなく、時折空を見上げては太陽の位置を確認し、迷いなく進んで行く。

 

(そう言えば『遺跡』に向かう時も迷ってなかったな。いくら来たことあるとはいえ、詳しいなと思っていたが……村が近いなら納得か)

 

 そうして歩くこと三時間ほど。

 

 千司たちは森を抜けて街道に出る。特段整備されているという訳ではなく、あくまでも人が往来するに応じて踏み固められた道だ。王都を出た際に利用した物とは比べ物にならないお粗末な造りである。

 

 そうして道なりに進むこと小一時間ほど。

 陽も傾き、空が茜色に染まり始めたころ合いになって、エリィがぼそりと呟いた。

 

「見えてきた」

 

 その声に応じて視線を上げると、遠くに小さな村を発見。

 

「あれが、エリィの生まれ育った村か」

「そう、シノファの村」

「うふふ、楽しみですね」

 

 ニコニコと笑みを浮かべるアイリーンを伴い、千司はエリィの後を追うのだった。

 

 

  §

 

 

 村に近付くにつれ、その全貌が明らかとなる。

 

 村の外周はモンスター除けと思われる木の柵でぐるりと囲われており、千司たちが歩く街道に通じる一部にのみ、門が取り付けられていた。

 

 その傍らには革鎧を身に着け、槍を手にした一人の男が立っていた。

 年のころは二十前後といったところか。

 

 男は千司たちの姿を見つけるや否や訝しげな表情を浮かべた物の、その近くに青い魔女っ娘の姿を確認すると、一転して朗らかな笑みを浮かべた。

 

「エリィじゃねえか! 久しぶりだな!」

「トニー、久しぶり。元気だった?」

「もちろんだとも! そっちも元気そうでよかったぜ!」

 

 和やかな雰囲気で会話をするエリィ。彼女曰く、人の少ない村だそうなので、トニーと呼ばれた青年もまたその一人なのだろう。などと考えていると、トニーの視線が千司とアイリーンに向けられた。

 

「そっちは?」

「えっと、今の私のパーティーメンバー。冒険者の依頼で近くまで来たから、野宿するぐらいなら私の家に泊めようかなって」

「なるほど、そういう事か! よろしくなお二人さん!」

 

 にこやかな笑みを浮かべるトニーに軽く会釈すると、彼はふと何かを思い出したように顎に手を当て、エリィに向き直った。

 

「ところで、イルの奴はどうしたんだ?」

 

 その名前を耳にした途端、エリィの身体が硬直。ぎゅっと握られた拳が小刻みに震えていた。

 

(妹に言っていないとは聞いていたが、村人にも告げてないとはな。……まぁ、人伝手に伝わるよりはましなんだろうが)

 

 トニーの言葉に上手い返しが思い浮かばなかったのか、もごもごと言葉に詰まるエリィ。そんな彼女を見て、トニーは何を勘違いしたのか千司をちらりと見た後、「あちゃー」と片手で顔を覆った。

 

「あー、そっかそっかぁ……まぁ、そう言うこともあるわな~」

「えっと、トニー?」

「いんや、エリィが気にすることじゃねぇさ。人の心は誰にも縛られないもんだからな。それは時間に比例するもんでもねぇ。何はともあれおかえり。そっちの二人も歓迎するぜ」

「? う、うん。ナクラ、アイリーン、こっち」

 

 終始意味が分かっていない様子で小首を傾げつつ、手招きするエリィ。千司はそんな彼女の認識を正すこともせずに、あとに続いた。

 

「わかった。……トニーだったか? 短い間だが世話になる」

「うふふ、よろしくお願いしますね」

 

 そうして、千司とアイリーンはシノファの村へと足を踏み入れた。

 

 事前に聞いていた通り、人の少ない村というのは本当らしかった。

 

 一目見て通りに人の姿はほとんどなく、精々子供が元気に走り回っている程度。

 所々に存在する畑で仕事をする大人の姿を見受けられるも、それも両手で数えられるほどだ。

 

 エリィ曰く、人口としては二、三百人ほど。

 飲食店も一軒あるのみで、基本的な買い物は月に一度、行商人が来るのを待つしかないのだとか。

 

 そんな説明を受けながら、千司たちはエリィの家へと向かう。道中、何人かの大人とすれ違ったが、その度にエリィは笑顔で話しかけられ、あれを持っていけ、これを持っていけと、肉や野菜等を押し付けられていた。

 

「愛されてるんだな」

「前も言ったと思うけど、昔はよく狩人のおじさんと一緒にモンスターから村を守ってたから。……まぁ、それを抜きにしても、この村のみんなは家族みたいなものだし……っ、そ、それより持つの手伝って」

「照れなくてもいいのに」

「照れてない」

 

 恥ずかしいことを口にした自覚があったのか、話を逸らすように荷物を手渡すエリィ。これを受け取りつつ、さらに歩くこと数分。村はずれの一軒家に到着した。

 

 来る道中に並んでいた家々と比較しても少しばかり大きく、小綺麗な一軒家だ。

 

「ここが私の家」

 

 慣れた手つきで鍵を開けるエリィに招かれ、千司たちも玄関を潜る。

 室内は僅かに埃が積もっていたが、全体的に小綺麗だった。少なくとも千司の想像していた異世界の片田舎という雰囲気はない。

 

 これが一般的なのだろうか、と内心首をかしげていると、同じく疑問に思ったのかアイリーンが口を開いた。

 

「エリィさんのおうちは、裕福だったりするのでしょうか?」

 

 これにエリィは、窓を開けて空気を入れ替えながら答える。

 

「村の中ではね」

「失礼ですが、ご両親は?」

「小さい頃、モンスターに襲われて」

「……申し訳ありません」

「ううん、気にしないでいい。良くある話だから。それに、大変だったけど、村のみんなが助けてくれたし……そういう意味じゃ、この村が私の親みたいなもの」

 

 エリィは普段見せない穏やかな表情を浮かべる。

 余程この村のことが大切なのだろう。

 

 彼女は魔法でお湯を沸かすと紅茶を準備。

 リビングテーブルを軽く掃除すると、出来上がったそれを並べ――三人で囲みながら紅茶に舌鼓を打つ。王宮で飲む一品には劣るが、それでも美味しい、と千司は思った。

 

(正直、細かい味の違いなんざ判らんが)

 

 時刻は夕方。

 夕食にはまだ早く、三人で一息入れていると、徐にアイリーンが問うた。

 

「そう言えば、門番の方がおっしゃっていた……イルさん、でしたか? というのは、どなたのことなのでしょうか?」

 

 何気ない質問がエリィの心をえぐる。

 表情は固まり、下唇を強く噛みしめ、紅茶のカップを握る手に力が入る。

 

 以前、ブラックウルフに襲われた際、エリィはその心情を千司に吐露することである程度心の整理を付けていた。しかし、だからと言ってトラウマが消えるのかと言えば、答えは否である。

 

 他人に話すことで楽になる、というのは、あくまでも楽になるだけで後悔が消えるわけではない。

 

 特に、エリィのように責任感の強い少女ならなおさら。

 

 苦悶の表情を浮かべるエリィを見て、千司とアイリーンは思わず口元がにやけてしまう。幸いエリィは俯いていたために気付かれはしなかったが、人格破綻者の二人は、目の前の哀れな少女が可愛くて仕方がなかった。

 

(何故後悔に押しつぶされている姿がこれほどまでに愛おしいのか……エリィちゃん、愛してる。一生涯傍でキミを苦しめ続けたい)

 

 胸中で歪んだ求婚を語る千司に対して、いち早く意識を切り替えたアイリーンは姿勢を正して頭を垂れた。

 

「いえ、失礼しました。言いにくいことであれば、無理にお聞きするつもりはありませんので」

「そうだな、誰しも言いたくない事の一つや二つはある。……アイリーン、悪いが少しの間、席を外してもらってもいいだろうか?」

「それが良いようですね。……では私は散歩にでも――」

 

 と、腰を上げた瞬間、エリィが待ったをかけた。

 

「ま、待って。……その、大丈夫だから」

「よろしいのですか?」

「うん、それにその……もしよかったら、アイリーンにも、聞いて欲しい」

「私は構いませんが……無理していませんか?」

「無理なんてしてない。聞いて欲しい。だって……」

 

 エリィは一度言葉を区切ると、大きく深呼吸。

 その後、ゆっくりと顔を上げて、笑みを浮かべながら告げた。

 

「アイリーンは、私の大切な友達だから」

 

 その言葉に、アイリーンは目を大きく見開き、心の底から喜ぶような大輪の笑顔を浮かべた。

 

「……うふふ、そう言っていただけると、とても嬉しいですね。私も、エリィさんのことは大切な友達と思っております」

「ありがと。……それじゃあ」

 

 と言って、エリィは幼馴染の少年であるイル・キャンドルについて話始めた。

 この村で過ごしたこと。

 王都で一緒に冒険者を始めたこと。

 そして、ダンジョンで命を落としたこと。

 弱い彼を連れ出し、殺してしまったことを後悔していること。

 

 そして、彼の妹に、まだ死んだことを告げていないこと。

 

 ぽつぽつと、自らの胸中をさらけ出すエリィは、大きく息を吸い込み、千司を見つめた。そこにあるのは親愛の情ではなく、疑念。

 

 続く言葉を、千司は容易に想像できた。

 

「そして、本当はこれでお終いだったけど……でも、ナクラが勇者であることを知って、聞かなきゃならないことが増えた」

「……というと?」

 

 静かに返すと、エリィは深呼吸してから告げる。

 

「イルを殺したモンスターは、オーガの強化種だった。……ナクラ、心当たりはある?」

「……確か、勇者が初めてダンジョン遠征に行った際、討伐したのがオーガの強化種——デッド・オーガだったはずだ」

「それは、勇者に経験を積ませるために、騎士団が意図的に作り出したもの?」

「戦闘経験を積むためにダンジョンへ行ったのは確かだな。しかし、強化種との遭遇は偶発的な物だったと聞いている。……騎士団が作ったのか?」

「以前、そう推測する人がいた」

 

 十中八九メアリー・スーのことだろう。

 

「信頼できる相手なのか?」

「分からない。でも、話の筋は通っていた。当時、ダンジョンには王国騎士団が頻繁に出入りしていて、冒険者ギルドでは稼ぎが減ると冒険者たちが不満を口にしていた」

「なるほど……その推測したって人は、騎士団の出入りを強化種作りのための調整、と考えたわけか」

「そう」

「だが、それだけでは……」

「その人は『しばらく顔を出せない』と言った切り、行方不明となった。そして——今は指名手配されている」

「なるほどね」

 

 エリィ目線で話を追うと、まるでメアリー・スーが国にとって都合の悪い存在であるため、指名手配されている、という風に映るのだろう。陰謀論に近い発想であるが、否定する証拠はない。

 

「ただ、さっきも言ったけど、信頼できる人かどうかは分からない。その推測を立てた人が悪人だった可能性もある。だから……ナクラはどう思う?」

「俺か?」

「そう、勇者は信じられないけど、ナクラのいう事なら……私は信じる。大切な、仲間だから」

 

 千司はどう答えるべきかと逡巡。

 今後の動きとエリィの好感度の具合を考慮し、口を開いた。

 

「……確証はないが、あの王女ならやってもおかしくないだろうな」

「……っ、そ、それは、セレンも?」

 

 途端に不安そうな表情を浮かべるエリィ。

 彼女を安心させるように、千司は首を横に振る。

 

「いや、ここ数日の付き合いで分かると思うが、あれは馬鹿だ。騙されて利用されることはあれど、本人が悪意を持って誰かを傷つけるとは思えない。……そのダンジョンに潜っていた騎士がどこの所属だったか分かるか?」

「第二騎士団って聞いた」

「ならば、セレンは関わってないだろう。あくまでも推測ではあるが」

「……そっか」

「そうだ」

 

 語り終えると、エリィは大きく息を吐いて天井を見上げた。

 その際、ずっと彼女の頭の上に遭ったとんがり帽子が、パサリと落ちて、美しい青い髪が横に流れる。

 

「……なら、よかった」

「いいのか?」

「うん。……まぁ、思うところはあるけど、ナクラとセレンが関わってないのなら、それでいい。今お話が事実なら、国も、王女も、第二騎士団も殺したいぐらい憎いけど……でも、関わってないなら、二人の事を好きなままでいられる」

「……ありがとう、エリィ。俺も王都に戻ったら調べてみるよ」

「……ほんと?」

「当たり前だろ? 大切な仲間の為なんだから」

「……えへへ、ありがと」

 

 穏やかな瞳で、まっすぐに見つめてくるエリィ。

 どこか甘ったるい雰囲気を醸し出す彼女に、アイリーンがコホンと咳払いを入れた。

 

「ん、んん! やはり、私は席を外しておいた方が良かったのかもしれませんね」

「ご、ごめんアイリーン!」

「酷いです、お友達と言っていたのに。途中から私は蚊帳の外……およよ」

 

 目元に袖口を当て、泣きまねを見せる彼女に、エリィはあわあわ。

 

「うふふ、冗談ですよ。……何はともあれ、エリィさんも苦労されていたのですね。そんな大変なお話を打ち明けて下さり、ありがとうございます」

「アイリーン……ううん、こっちこそありがとう」

「いえいえ、これくらい。また何かあれば遠慮なく相談してください。私にできる事であれば、何でもお手伝いしますので」

「うん」

「もちろん、貴女の勇者様を優先されても構いませんが」

 

 その言葉を受け、エリィの視線が千司へと向かう。

 目が合うと、彼女は一瞬で頬を染め、逃げるように視線を逸らした。

 

「……っ、や、止めて、アイリーン」

「うふふ、エリィさんは可愛いですね」

 

 ニコニコと揶揄うアイリーンと、まんざらでもない表情で顔を逸らすエリィ。

 

 そんな仲睦まじい光景を睥睨しつつ、千司は冷めきった紅茶に口を付けるのだった。

 

 

  §

 

 

 夜、すっかり日も落ちた頃。

 

 千司たちは村唯一の飲食店に、夕食を摂るために赴いた。入店した当初は他の客から訝し気な視線を向けられるも、同所においてもエリィの顔パスは有効だったらしく、鬱陶しい視線もすぐに四散。

 

 むしろ彼女のパーティーメンバーだと知るや否や「エリィが世話になってるなぁ!」と酒や料理を奢られた。

 

 酒に関して千司はNG。

 一方の女子二人はくぴくぴと喉を潤していた。

 

 そんな二人を横目に料理を口に運ぶ。

 味としては可もなく不可もなく。

 王都や魔法学園の物と比べると、どうしても数段落ちてしまう。

 

 そんなことを考えつつ、千司は同所に居合わせた村人にシノファの村に関する情報を尋ねた。詳しい人口や村人の関係性、エリィやイル・キャンドル、その妹の人柄に関しても。

 

 すると色々なことが判明した。

 が、その中でも千司が気を惹かれたのは村の排他性。

 

 日本における田舎でも起こり得る事だが、外部の人間に対してあまりいい印象がないのだとか。思えば門番のトニーも、同所の客も、エリィを見つけるまで千司たちには良い顔を向けなかった。

 

「まぁ、こうして話てみりゃあそんな思いも消えるんだがな!」

 

 とは酔っ払いの一言。

 

 千司が一人で今後の動きを考えていると、顔を赤くしたエリィが、こてんと肩に寄りかかって来た。

 

「飲み過ぎだ」

「んむ、大丈夫。まだ意識はあるから」

「無くなるまで飲むな。ったく、アイリーンは大丈夫か?」

「うふふ。えぇ、欠片も問題ありませんよ」

 

 もし酔っぱらって彼女の中身が表層に現れたらどうしようと思っていたが、その辺りは自重できるらしい。思えば人を殺す瞬間以外はまともな人間だった気も……。

 

(いや、それはないな)

 

 一人納得しつつ、千司はエリィに水を手渡す。

 

「とにかく今日はもう帰るぞ。水飲め水」

「ん……」

 

 コクコクと喉を鳴らし、千鳥足ではある物の何とか立ち上がれるようになったのを確認してから、千司たちは同所を後にしようとして——店主の男がエリィに声を掛けた。

 

「そういやエリィ、もうリタには会ったのか」

「……まだ」

「なら早く行ってやれよ? 寂しがってたんだからよ」

「うん」

 

 店を出ると、夜の風が頬を撫でた。

 空を見上げると、蒼い月が千司たちを見下ろしている。

 

「っとと」

 

 歩いているとエリィが転びそうになる。

 慌てて支えつつ、千司は無言のままに彼女をおんぶした。

 

「いいよ」

「気にするな」

「……ん」

 

 一瞬降りようとするも、すぐに抵抗を止めて大人しくなる。

 そんな二人の横を、アイリーンはのんびりと歩く。

 

「さっきの、リタって言うのは?」

「……イルの妹」

「なるほどね」

「まだお兄さんのことはお伝えしていないのでしたよね?」

「……うん」

 

 小さく頷くエリィ。

 元気のない彼女に、千司は問いかけた。

 

「怖いか?」

「……うん」

「なら、言うのを止めるか?」

「それは……」

「正直、世の中知らなくていいこともあると、俺は思う。適当に『イルは強くなるために旅に出ると言ってどこかへ行った』とでも言えば、誤魔化すことも出来るだろ」

「……」

 

 その言葉にエリィは閉口。

 キュッと千司の肩を掴むと、息を吐く。

 

「それは、絶対にダメ」

「……」

「それをすると、私は私じゃなくなる。もう二度と、リタに顔向けできなくなる。……って、後者に関しては既にだけど。でも、例えそれでリタが悲しんでも、何も知らないより、絶対にいいと思うから」

「……そうか」

 

 月光の下での決意。

 彼女は幼馴染の死を乗り越えつつある。

 

 千司やアイリーンが相談に乗ったというのもあるが、時間が出来事を過去の物として受け止められるようになってきたのだ。

 

(いい具合だなぁ)

 

 千司は今後のことを想像に、口端を持ち上げた。

 

 それは背中のエリィには見えず、隣を歩くアイリーンだけが、横目に確認していた。

 

 

 §

 

 

 明日の朝一番に伝えに行く、というエリィと別れ、千司たちはそれぞれ与えられた部屋のベッドへ。リビングで雑魚寝でもよかったのだが、人数分寝具があるとのことでこの形となった。

 

 久方ぶりの枕に頭を預け、窓の外を眺めていると……コンコンと戸がノックされた。

 

 扉を開くと、そこには寝間着姿で片手に枕を抱えたエリィの姿。

 窓から差し込む蒼い月光に照らされ、彼女の青髪が艶やかに輝く。その表情は一目見て分かる程に上気し、千司を上目遣いに見つめている。

 

「どうした?」

「ね、眠れないから……一緒に寝てもいい?」

「……っと、それは」

「べ、別に、そういう意味じゃなくて。ただ、明日が不安で……でも、ナクラと一緒なら、安心する、から。……だからお願い。一緒に寝てくれるだけでいいから」

「わかった」

 

 半歩身を引くと、エリィはおずおずと言った様子で入室。

 千司の枕の隣に、持って来ていた枕を並べると、恐る恐るベッドに腰掛けた。

 

「緊張してるのか?」

「お、男の人と、こんなの……初めてだし」

「なら余計に寝れなくなるんじゃ——」

「い、いいから。こっち、はやく、隣……」

「わかったよ」

 

 短く返事をすると、千司はエリィの隣へ。

 寝転がると、ワンテンポ遅れてエリィも身体を横にした。

 

 ベッドは決して大きい訳ではない為、肩と肩が密着する。隣からは生唾を飲み込む音が聞こえ、ちらりと視線を向けるとエリィと目が合った。

 

「……っ!」

「その調子で寝れるのか?」

「だ、大丈夫、大丈夫、だから……気にしないで。何も、気にしちゃダメ」

 

 そう言って、エリィの震えた手が千司の手を握った。指先は恐ろしい程に冷たくなっており、明日を恐れているのは本当なのだろう。是非とも振りほどきたい気持ちになるが、それ以上に——。

 

(明日が楽しみだ)

 

 千司はエリィの不安を塗りつぶすように手を握り返して、目を閉じるのだった。

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